宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
要塞都市帝国最下層――。
ミルは、最下層へと急ぎ足で向かった。途中、何度かエレベーターを乗り換えながら、一気に目的の場所へと走った。途中、彼の姿を見た兵士たちは、立ち止まって敬礼を向けて来る。ミルは、それに適当に応えてゆっくりと歩き、姿が見えなくなれば、再び歩みを早めた。
そうして彼は、最下層に辿り着いた。しかし、最下層の研究施設では、いつもなら何か開発を行っている筈の科学奴隷たちの姿が見えない。彼は、物陰に潜んで様子を窺うも、やはり誰もいない。
不思議に思いながらも、並んだデスクの間を小走りに抜けて行った。
奥へ、奥へと。
そして、目的の扉の前に立つと、扉の横に設置された網膜スキャンの装置を覗き込んだ。自身のセキュリティカードをゼール中佐に預けていたが、それが無くとも、彼自身の生体認証で開く筈と踏んでいた。
しかし、装置からはエラー発生時の音が鳴り、反応しなかった。
彼は、一瞬青ざめた。彼がここに下りてくるまでの間に、この裏切りがばれて、セキュリティの設定を変更されたのだろうか。
彼は、胸の鼓動が高まるのを感じていたが、もう一度網膜スキャンの装置を覗き込んだ。
少し間があって、認証された際の音が鳴る。
すると、その扉はゆっくりと開き始めた。
ほっとした彼は、開いた扉の隙間に飛び込み、更に奥へと走り出した。
途中、橋のような長い通路を駆けた。通路の脇は、深淵が覗いており、その下は暗く、どこまでの深さがあるのかは相変わらず分からない。この下に、要塞都市帝国のコアとなる、人工太陽機関が収められているという。しかし、閉塞したコアからは何の音もせず、静寂に包まれている。その為、彼の足音だけがそこに鳴り響いていた。
そうして、彼はいくつかの扉を抜け、ようやく目的である、人質の拘禁室へと辿り着いた。
もう、あまり時間が無い。
そこに至るまでに、既に二十分近く費やしていた。流石に、彼が行方をくらました事に、誰かが気付いてもおかしくは無い。
息を切らした彼は、ドアの前で少し息を整えると、意を決してそれを開けた。
中に入った彼に対して、その場にいた全員が警戒して身構えていた。
「大帝!」
ゼール中佐は、構えた銃を下ろすと、入って来たミルに駆け寄った。
「よくぞご無事で。先程、激しく揺れましたが、彗星化は解除されたのでしょうか?」
ミルは、頷いてゼールの肩を叩いた。
「大丈夫だ。それは、間違いない。こっちは、準備は整ったんだな?」
「はい。イスカンダル人たちも、装置から解放されて、やっと身体が満足に動かせる様になったところです」
ミルは、部屋の中央で身構えた地球人の二人のその後ろに、スターシャたち三人が元気な姿で立っているのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。
ミルは、つかつかと斉藤と星名の前に近寄った。
斉藤は、険しい表情でミルを睨んでいる。
「て、てめえ……! 本当に味方なのか?」
ミルは、斉藤も星名も無視して、その向こうにいるスターシャの顔を真剣な表情で、じっと見つめた。
スターシャも、彼の顔を見つめている。
「ミルさん……」
ミルは、その場で膝を付くと、頭を垂れた。
「女王様。大変ご不便をお掛けしました。そして、数々のご無礼、本当に申し訳ございませんでした」
斉藤と星名は、怪訝な表情で、跪くミルの姿を眺めていたが、彼らも、後ろにいるスターシャの顔色をうかがった。そうしていると、スターシャがミルに歩み寄ろうとした為、二人は少し離れて彼女の前を空けた。
スターシャは、ミルへと優しく声を掛けた。
「頭を上げて、お立ちになって」
ミルは、そっと頭を上げると、スターシャが彼を見下ろしていた。
「あなたは、私たちを助けて下さるんですね?」
ミルは、ゆっくりと腰を上げると、胸に手を置いて彼女に少し頭を下げた。どうしても、真っ直ぐに彼女の瞳を見ることが出来なかったからだ。
「私は、名ばかりの大帝として祭り上げられ、何の権限も無く、この国のやっている恐ろしい侵略戦争を止める事が出来ませんでした。それについては、本当に申し訳無く思っております。この国の行った、これまでの数々の非道な行為が許されるとは思っておりませんが、せめて、あなた方を助け出すお手伝いをさせて頂ければと考えております。そうする事で、外で戦ってくれている、地球人やガミラス人、そしてガルマン人たちが、この国の野望を打ち砕いてくれるでしょう」
スターシャは、手を伸ばすと、そっと彼の手を取った。
「お顔を上げて下さい」
ミルは、スターシャに掛けられた言葉に、そっと上目遣いに彼女の顔を見た。その彼女の表情は、慈愛に満ちていた。
「あなたは、ガトランティスの過ちに気付いてそれを本気で正そうとしてらっしゃる。今は、それで十分です。ありがとう、ミルさん」
ミルは、その言葉に胸が熱くなるのを感じていた。
そして、サーシャもミルの近くへと近寄って来た。
ミルは、サーシャを見ると、言葉を失った。彼女は、初めて出会った時と同じ様に、美しく、優しい笑顔を浮かべていた。彼女は、スターシャが取った手に、自身の手を重ねた。
ミルは、サーシャの顔を見つめると、少しだけ顔を赤らめた。
「さ、サーシャさん。あなたにも、大変嫌な思いをさせてしまいました」
サーシャは、頭を振って彼に言った。
「わたくし、あなたが必ず助けてくれるって、信じていましたのよ?」
ユリーシャは、姉たちのミルとのやり取りを、ぽかんとして後ろで眺めていた。自分の預かり知らない所で、彼との間に何らかの交流があったらしい。そんな事を考えている間に、いつの間にやら、星名は、彼女のそばに下がっていた。そして、そっとユリーシャに耳打ちした。
「ユリーシャ。彼の事、信頼してもいいのだろうか?」
ユリーシャは、星名に顔を近付けると、小さな声で言った。
「お姉様たちは、彼が本当の事を言っているか、念の為に確認してる。大丈夫、信じていいと思う」
「そうか……そういえば、手のひらの接触で、相手の心を読める能力があるんだったね」
「……」
ユリーシャは、ふと彼の手を見つめた。
今、彼は何を思ってここに居てくれるのだろう? 彼は、私を大切に思って、ここまで来てくれたのだろうか?
その手に触れれば、ある程度、彼の感情を読み取る事が出来る。あとほんの少し、手を伸ばせば答えを知る事が出来る。先程装置から解放された時に、彼に握られた手から、自身に対する強い感情を感じていたが、その時は頭が朦朧としていて、今はよく思い出せなかった。
彼女は、地球人である百合亜に憑依し、身体を共有したあの時から、彼に対する特別な感情に囚われて来た。
ユリーシャは、小さく頭を振った。そんな事をして、彼の感情をズルして知った所で、いったい何になるんだろう? もう、思いを断ち切ろうと、そう思っていた筈なのに。
透子は、そっとミルとスターシャのそばに立ち、彼女も頭を下げた。
「スターシャ女王。私からも、改めてガトランティスが、ご迷惑をお掛けした事を謝罪します」
スターシャは、彼女がいったい誰か分からなかった。明らかに、地球人の女性だったが、見覚えが無かった。
透子は、そっと両の手を伸ばして、スターシャの前で手のひらを上に向けた。
スターシャは、それが心を読んで欲しいと彼女が思っているのだと悟った。そして、その手にそっと自身の手を重ねた。彼女の感情が、手のひらを通じて溢れ出して来る。
スターシャは、はっとして透子の顔を見つめた。
「あっ、あなたは……!」
透子も、スターシャの顔を真っ直ぐに見た。
「……この国は、長い間、悪意を持った異星人に支配されて来ました。私は、ようやくその真実を知る事が出来たのです。それと知らずに、多くのガトランティス人たちは、非道の限りを尽くして来ました。もうこんな事は、終わりにせねばなりません」
ミルは、訝しげな顔で、二人のやり取りを眺めていたが、それよりも、これ以上ここに留まるべきでは無いと判断した。
「皆さん、話は後で。追っ手が来てしまいますので、早くここを出ましょう。私たちに着いてきて下さい」
ミルは、ゼール中佐と簡単なやり取りをすると、自身の銃を抜いた。そして、皆を招き寄せると、拘禁室のドアから出る様に促した。
「このドアを出たら、右の通路を真っ直ぐに進んで下さい。私と、ゼール中佐が前を行きます」
斉藤は、部屋を出る時に、ミルに声を掛けた。
「じゃあ、俺はしんがりを務める。星名は、真ん中に居るんだな」
「助かる……。しかし、何処かで武器を調達しないとな」
「だな。だがそれまでは、俺は素手でも戦えるから安心しな」
屈強な大きな身体をした斉藤の姿を、ミルは改めて見て納得した。
「そのようだ。では、後ろは任せる」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。