宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「白色彗星帝国の逆襲」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」、「連邦の危機」、「ギャラクシー」の続編になります。


白色彗星帝国の逆襲131 暗黒星団帝国の真実Part2

 要塞都市帝国、脱出用宇宙船格納庫――。

 

「サーベラーさん……」

 古代とランハルトの間に、サーベラーは立ち、サーダとシーラを睨んだ。二人を見据えたまま、彼女は言った。

「久しぶりだな、古代」

「どうしてあなたがここに……?」

「話せば長くなる。今は、あの二人をどうにかせねば」

 スターシャに銃を突きつけるサーダに代わり、シーラが大きな声で笑い出した。

「ほほほ……! サーベラー丞相、お久しぶりね。何をしに戻られたのでしょう?」

 サーベラーは、シーラを一瞥した。

「少々、調べ物にな。それよりも、これ以上、我がガトランティスの同胞が、貴様らに良いように使われるのを見過ごせないな」

 シーラは、更に可笑しくて堪らないといった様子で、笑い転げた。

「……ああ、可笑しい。ガミラスとの戦争の時に、テレザートの呪いを受けた貴方に、何が出来ると言うの?」

 サーベラーも笑みを漏らした。

「その通り。妾が直接貴様らに手を出す事は出来ない。だが、妾は一人では無い。頼もしい地球とガミラスの友人たちがいる。それに真実に気が付いた我が同胞もな」

 ミルとゼール中佐は、サーベラーの姿を唖然とした様子で眺めていた。

「その頼もしい友人たちも、たった一人の人質を前に、誰も手出しが出来ぬようですが」

 サーダは、面白がってスターシャに押し付けた銃口を強く押し当てた。スターシャは、痛そうに顔をしかめた。

「お姉様!」

 サーシャとユリーシャは、同時に悲鳴のような叫び声を上げた。

 古代は、真剣な表情でサーダたちに尋ねた。

「いったい、君たちの望みはなんだ?」

 サーダとシーラは、その言葉に、笑いあった。

「私たちの望み、ですって?」

 ミルも、二人に言った。

「何故、母上にこの様な仕打ちをせねばならんのだ?」

 ミルは、息も絶え絶えのカミラの身体を抱いて、膝をついていた。

「なら、教えてあげましょう」

 シーラは、待っていたとばかりに、語り始めた。

「私たちは、暗黒星団帝国からやって来た……。自らの意志で。私たちは、あなた方のいう、科学奴隷などでは無い」

 シーラは、そのまま語り続けた。

 

 ――約二千年前。

 

 天の川銀河の中心部で、平和的な国家を築いていた白色星団連邦は、ある日何者かの侵略によって滅ぼされた。連邦諸国は徹底的に荒らされ、母星は敵の攻撃で、消滅させられた。

 我々は、流浪の民となり、その敵を恐れて銀河を彷徨った。しかし、執拗な敵の追撃は止まず、我々は、天の川銀河を捨て、遠い別の銀河へと旅立った。

 我々は、旅立った先で辿り着いた二重銀河の中心部、ブラックホールの縁にあった小さな星系の居住可能な惑星を発見し、そこに居を構えた。常に頭上に見えるブラックホールは、我々を敵が発見され難くすると考えてのことだ。

 しかし、数年が経過すると、我々の身体には異常が見つかる事になった。生殖機能が減退し、我々には子が生まれなくなった。次第に人口も減り、原因がブラックホールにあると気が付いた時にはもう遅かった。

 その時、我々は、自らの身体を機械に変え、とにかく生き残る事を選択した。それを突き動かしたのは、我々をそのような絶望に追いやった憎い敵に復讐する為だった。

 復讐に燃えた我々は、約千年もの長い年月をかけ、強大な軍事国家たるよう軍備を整えた。そうして、いつしか、空に見える漆黒の闇、ブラックホールに準えて、暗黒星団帝国と名乗るようになった。

 しかし、あの時、我々を滅ぼした敵が何者だったのか。その後の調査でもようとして知れなかった。

 こうして、あの時の敵を探し求め、軍を遠征してあちこちで戦ってはみたものの、発見することは無かった。しかし、我々は種の問題を抱えており、生き残った数少ない同胞の命を失う事が出来ない。その為、我々の思い通りに、我々の代わりに戦ってくれる、戦闘国家を作る事にした。

 今から約千年前、アンドロメダ銀河で、ある程度の繁栄をしていたガトランティス共和国は、自国防衛の為の強力な軍事力も兼ね備えていた。我々は、彼らの科学技術に注目し、我々の代わりに、この宇宙を暴れ回させる事を決めた。そうする事で、あの時、我々を滅ぼそうとした憎い敵を探し出そうとしたのだ。合わせて、我々のこの身体を元に戻す技術も探させることにした。

 我々は、ガトランティス共和国に攻撃を加え、彼らに命からがら逃げ出させる事に成功した。そうして、逃げ出した彼らを追撃し、密かに内部に忍び込んだ。そして、一人、また一人と捕まえては脳にチップを埋め込み、我々の思い通りに働かせて支配した。流浪の旅に出た彼らは、国を滅ぼした我々を憎み、そして戦いへと駆り立てられていた。やがて軍備を整え始め、我々を探してアンドロメダ銀河のあちこちで戦争を始めた。

 我々は、彼らを二重銀河に誘い込み、戦いを何度か行い、我々に勝利したという幻想を植え付けてから解放した。何時までも我々を敵として付き纏われるのを避ける為だ。我々は、その時に科学奴隷として入り込んだ。もともと、科学奴隷という制度は、我々が考案したものだったが、彼らは従順にそれを受け入れてくれた。

 その時に、偶然居合わせたのが、イスカンダルの遠征艦隊だ。強力な艦隊を保持していたイスカンダル人たちは、高度な科学技術を持っていた事を鑑み、我々は彼らの支配も目論んだ。しかし、当時のイスカンダル人たちはとても好戦的で、我々も取り扱いに困っていた。だから、一人だけ科学者を捕らえて改造し、我々の奴隷として戻してやった。いつの日か何かの役に立つかも知れないと考えて。その後は、彼らとはあまり事を構えなかった。

 その後、ガトランティスは、チップなど埋め込まずとも、彼ら自身が人々を教育し、我々が直接手を下さなくても、自ら戦闘民族たろうと変貌していった。

 ガトランティスは、あちこちの銀河で侵略戦争を挑み、自らの故郷を復活させる術が無いか、探し求めた。彼らは、戦えば戦う程に、新たな異星の科学技術を奪取し、更に強くなって行った。我々は、そうして得た科学技術を利用し、新たな兵器の開発を支援し、より強力な武器を発明して行った。

 しかし、我々の母星を消滅させたあの敵は何処にもいない。我々も、その頃には、我々の身体を取り戻す技術や、更には消滅した我々の母星を取り戻す技術が無いかと言う事に比重を置き始めた。

 そうして、近年になって、ズォーダー大帝の支配する時代となり、ガトランティスはマゼラン銀河に向かった。そこでは、当時のガトランティスよりも強大な国家、ガミラス帝国が支配しており、苦戦を強いられた。

 そこで、サーダと私は、小マゼラン銀河にこの要塞を築き、新兵器の開発に勤しんだ。そこでガミラスの科学者のアイデアを利用して発明したのが、白色彗星だ。

 その頃には、マゼラン銀河でイスカンダルの存在が明らかになり、コスモリバースシステムの存在を我々は知る事になった。しかし、そのシステムでは、既に消滅した我々の母星を復活させる事は難しい。だから我々は、コスモリバースシステムについては早い段階で興味を失った。

 しかし、約千年前に二重銀河で出会ったイスカンダルの艦隊で支配した科学者がどうなったのか、その後連絡が取れていなかった。コスモリバースシステムのようなものを発明した民族だ。もしかしたら、新たな発明に成功しているかも知れない。我々は、そう考えて、イスカンダル人の我々の仲間の科学者の行方を追うことにした。イスカンダル本星には、ここにいる三人の皇女たち以外の人物が存在しない。ならば、別の惑星へと移民した痕跡がないか、我々はイスカンダルの歴史を調べ、約千年前に起きた出来事を見つけ出した。約千年前にイスカンダル人に起こった、テレザートの呪いの事件。その時、イスカンダル本星から別れた一部の移民が、天の川銀河に渡った事が判明した。しからば、我々の仲間の科学者も、天の川銀河にいる可能性がある。我々は、更に調査を行う事にした。

 もうその頃には、ズォーダー大帝らは、ガミラス本星を目前に、テレザートの呪いにかかり、あの戦争に敗北した。その後、指導者を失ったガトランティスは混乱を極め、我々はこれを機会に、再び脳にチップを埋め込んで我々の言う通りに動くガトランティス人を徐々に増やして行った。更には我々の完全な支配下に置く為に、我々と同様な身体の改造も行った。そうして、政権の上層部や、彼らの直属の兵士たちの、完全な支配を行った。天の川銀河で、イスカンダルの科学者を探す旅に出る為に。

 

「――そうして生まれたのが、女帝ズォーダーこと、カミラや、ゲーザリー率いる新政権だ」

 ミルは、目を見開いてその話を聞いていた。

「そんなことの為に、母上をこのような身体にしたのか……? 二千年も、遠い昔の、お前たちの怨念の為に……?」

 シーラは、頷いた。

「カミラは、ズォーダーの実子を得た女。その事は、指導者を失ったガトランティスの意思を統一するのに、大いに役に立った。彼女が居なければ、今のこの時は無かっただろう。私たちは、これでもカミラには感謝している」

 ミルが抱くカミラは、その瞳から涙を流していた。正気を取り戻した彼女の胸に、彼らの手先として改造され、このような惨めな結末を迎えた事を悲しみ、そして息子であるミルに何もしてやれなかった事への後悔が去来していた。

「ごめ……ごめんね……ミル……」

 掠れた声で、カミラは先程からうわ言のように言っている。その口元は、血で汚れていた。

「母上、もう、良いのです。あなたは、何も悪くない……」

 それを見た古代も、ランハルトも、そしてサーベラーも、怒りと悲しみとに身体を震わせた。

 千年も二千年も前の復讐心が、多くの銀河や、そこに住む人々の営みを破壊しようと試みていたのだ。彼らの私怨に巻き込まれて、途轍もなく多くの人々が、不幸な一生を終えたのに違いない。

 こんな事が、あって良いのだろうか?

 

 シーラは、更に先を話した。

 

 約二千年ぶりに戻った天の川銀河は、我々の白色星団連邦崩壊後、ボラー連邦なる国家が誕生し、そこにイスカンダルとガミラスからの移民がガルマン帝国を築いた事がすぐに判明した。歴史を調べるにつれ、ファンタムという惑星に、イスカンダル人がかつていて、今は伝説となっていることも判明した。我々は、この宙域全体に残る伝説、マザー・シャルバートと、彼女の強大な力の謎について更に調査した。

 そして、我々は、惑星ファンタムを更に詳しく調査した。そして、それを遂に発見した。我々がイスカンダル人に紛れ込ませた奴隷の科学者は、我々にしか分からない通信手段で、あるメッセージを残していた。

 

「地下の祭壇に隠されていた青いカプセル。あれに、我が暗黒星団帝国にしか解析不可能な暗号文が仕込まれていた。そして、惑星ファンタムに、我々が探し求めていた物が隠されている事が詳細に記されていた。そこに至る道は、イスカンダル人の王族の認証が必要な事も……」

 古代は、惑星ファンタムで見つけた青い波動コアの事を言っていると気が付いた。

「も、もしや……?」

 シーラは得意げに笑った。

「反乱組織に所属していたイスガルマン人の科学者が現地にいただろう。彼は、脳にチップを埋め込んでおいたのだ。彼は、我々に支配されているとは気付かずに、定期的に、報告をしてくれていた」

 古代は、あらゆる場所に密かに入り込むことを、ことも無げにやってのける彼女を、困惑すると共に、酷く恐れを感じた。

「もはや、我々の母星を消滅させた敵の存在はどうしても見つからない。ならば、私たちの身体や、母星を取り戻す事を最終目標としようと、私とサーダは、そこで初めて今回の計画を立てた。ガトランティス。イスカンダル。惑星ファンタム。そして……。お前たち地球の艦隊の兵器、波動砲はその下準備に必要不可欠だった。だから、あなた方の太陽系で騒ぎを起こし、イスカンダル人を拉致し、皆がここに集まる様に仕向けた」

 古代は、その事に衝撃を受けた。

 地球艦隊がここに集まる事自体が、彼女たちの計画のうちだった……?

 斉藤や星名も、その事に、顔を見合わせていた。

「そいつは、どういうことだ!?」

「僕たちは、お前たちの手の上で踊らされていたって言いたいのか?」

 そして、ルカも怒りに震えていた。

「そんなことの為に……! 私たちの仲間たち……ガゼル提督たちは亡くなったっていうの!?」

 揚羽は、涙を溢れされた彼女の肩を抱いた。

「ゆっ……許せない……!」

 山本も、悲しみに顔を歪ませた。

「私たちは、お前たちが来なければ、ここへ来ることなんて無かった……。それは、篠原だってそうだった……。それなのに……」

 サーベラーも不快な表情で彼女たちを睨んでいた。

「私たちは、生まれながらにして、お前たちの望むように働かされていたと言うか。我々は、多くの人々を巻き込み、死に追いやった。ズォーダー大帝も、ゲーニッツも、ラーゼラーも……。そして、死んで行った多くの仲間たちも……」

 ユリーシャとサーシャは、そこに集まった地球人、ガミラス人、ガトランティス人たちの怒りが大きく膨れ上がって行くのを感じていた。それこそが、もしかしたら、彼らの計画の一部なのかも知れないのに。

「み、皆さん、落ち着いて! これは、あの二人の罠です!」

「ユリーシャの言う通りよ! 惑わされてはいけませんわ!」

 殺気立った周囲の雰囲気にも動ぜず、シーラは、銃を構えた。そして、間髪入れずに、ミルが抱く、カミラの頭を撃ち抜いた。

「な、何を……!」

 カミラは、ミルの腕の中で、絶命していた。

「は……母上……! 何としたことか……!」

 ミルは、カミラの亡骸を抱き締めて嗚咽した。

 シーラは、何事も無かったかの様に、今度はアナライザーAU−O5の頭部を撃ち抜いた。頭部を破壊されたアナライザーは、身体中のメーターのランプが消えて、沈黙した。

「アナライザーさん!」

 サーシャは、アナライザーのそばに近寄ろうとしたところを、ユリーシャに止められた。

「動いちゃ駄目、お姉様!」

 その時、シーラは、大いに笑った。

「……あなた方は、このイスカンダルの元女王がそんなに大切なの? じゃあ、次は、誰に死んで貰いましょうか?」

 スターシャは、苦悶の表情を浮かべて言った。

「皆さん、私の事はどうなっても構いません。この二人を倒し、すべてを終わらせて下さい……!」

 サーダは、後ろ手に押さえたスターシャの腕を締め上げた。

「余計な事を喋るな」

 古代も、ランハルトも、苦しそうにするスターシャの姿を見た。不用意に反撃しょうとすれば、すぐにスターシャの命は失われてしまうだろう。

 サーダとシーラの周囲を固めていたオートマタ兵たちも、今にも構えた銃を乱射しそうな雰囲気になっている。

 このままでは、集まった自分たちが撃たれるのも、時間の問題だった。

「く……っ!」

 自分の銃を振り上げようとした古代の腕を、ランハルトは押さえた。

「待て、古代!」

「しかし……!」

 ランハルトは、顎で指し示した。彼の示した先の、サーダとシーラの背後には、人影のような形のものが床で揺らいでいた。

 突然、そこから銃声がこだますると、サーダは、スターシャに向けていた銃を取り落した。その腕からは、鮮血とオイルが流れ落ちている。振り返ったサーダとシーラ、そしてオートマタ兵たちは、そこに上半身だけを床から現した人物の姿を確認していた。

 そして、その人物、デスラー総統は、素早く次にシーラに狙いをつけ、引き金を引いた。

 その銃撃で、シーラは胸の中央を撃ち抜かれた。彼女は、胸から血液とオイルをほとばしらせると、苦しそうに膝をついて、銃を取り落した。

 その時、スターシャは、よろけながらも、サーダの元から離れ、古代たちの方へ走ろうとした。それを見たミルは、母の亡骸を床に寝かせると、床を蹴ってスターシャに駆け寄った。

「こっちへ!」

 ミルがスターシャを確保したのを確認した古代は、手を上げて言った。

「みんな今だ! 撃て!」

 古代たちは、再び銃を構え、オートマタ兵たちに一斉に銃撃を加えた。突然始まった激しい銃撃戦の中、サーダは、撃たれたシーラを抱えると、脱出用宇宙船のハッチの内部へと駆け込んだ。周囲からの銃撃が襲うも、直ちにハッチが閉じて逃げられてしまった。

 その時、スターシャを庇いながら、サーダが落とした銃を構えたミルは、宇宙船のハッチに向け、撃ち続けた。しかし、強固な装甲を持つその宇宙船は、その程度では、びくともしないようだった。彼に代わってガミラス兵が無反動砲で攻撃するも、結果は同じで傷一つつかない。

「お怪我はありませんか!? スターシャ様!」

「私は、大丈夫です。ありがとう」

 そこに、ルカたちガミラス人たちも駆けつけ、スターシャの周りを囲んだ。

「誰も、女王様に近付けてはならん!」

 彼らは、オートマタ兵たちを撃ち続け、次々に倒して行く。

 ランハルトと星名、そして斉藤は、ユリーシャとサーシャの元へと駆け付け、彼女たちを囲んだ。

「一歩も奴らを近付けるな!」

 加藤や、山本ら航空隊のメンバーも、古代と共にオートマタ兵を打ち倒して行った。

 やがて、最後のオートマタ兵が倒れると、古代は腕を上げた。

「撃ち方止め!」

 古代の号令と共に、銃声が止むと、彼らは辺りにばらばらになったオートマタ兵がもう動かないか確認した。

 サーベラーのそばにいち早く駆け付けたゼール中佐や、彼の部下のネーラーたちは、彼女に言った。

「サーベラー丞相、お怪我は!?」

「大丈夫だ。お前たち、すまないな」

 サーベラーは、頭上の巨大な宇宙船が小さな唸り声を上げるのを聞いた。

「補助エンジンを始動したようだ。早くここを出ねばならんな」

 デスラーは、上半身から既に下半身を現し、全身が現れていた。彼の足元からは、今度はタランの頭だけが現れている。

「タラン。どうやら、君のお陰で間に合ったよ」

「総統……。次元潜航からこんな所に浮上するなど、狂気の沙汰です。僅かに座標がずれただけで、壁の中に突っ込んでいたかも知れないんですよ」

 デスラーは、タランに少し笑いかけると、ミルが守っているスターシャに手を上げた。

「スターシャ! 私だ! 今、デウスーラをここに浮上させている。長くはここには留まれない。すぐにここから脱出しよう!」

 スターシャは、デスラーに頷くと、ミルの手を取った。

「ミルさん、一緒にアベルトの船に行きましょう」

 ミルは、スターシャの安全と、サーシャの安全が確保された事にほっとしていた。

「スターシャ様。先に、安全な所に行ってください。私には、やらなければならない事が出来てしまいました」

 スターシャは、目を丸くして彼を見ている。ミルは、カミラの亡き骸をちらりと見つめた。

「母上は……本当に残念な事をしました。しかし、悲しんでばかりはいられません。ここには、まだ多くの同胞が多数留まっています。この宇宙船が動き出せば、要塞都市帝国は崩壊してしまいます。同胞をここから逃がすのは、私の責務です。私は、ガトランティスの大帝なのですから」

「ミルさん……」

 ミルは、真剣な表情で言った。

「まだ、私は死ぬ訳には行きません。ガトランティスの民を導かねばなりませんから。それこそが、母上が最後の良心を振り絞って私を大帝に据えた意味。私に、ガトランティスを守って欲しいと望んでいたのではないかと……そう、思うのです。さあ、行ってください! あなたは、ここにいる皆の希望なのですから!」

 スターシャは、後ろ髪をひかれながら、最後に言った。

「分かりました。決して、諦めてはなりません。あなたこそが、この国の最後の希望なのです。それを忘れないで」

 そう言い残して、スターシャは、デスラーの元へと走った。

 ミルは、次にサーシャの元に駆け付けた。

「大丈夫でしたか?」

 サーシャは、少し寂しそうに言った。

「アナライザーさんが、壊れてしまいました。とても、私たちの為にいろいろとやってくださっていたのに……」

 星名は、アナライザーの頭部を開くと、中の小さなボックスを抜き出した。

「サーシャ様、アナライザーの頭脳の主要な記憶は、この装置に記録されています。これさえあれば、彼は失われてはいません。私が、責任を持って持ち帰ります」

 サーシャは、ぱっと笑顔になった。

「本当ですの!?」

 サーシャは、突然星名に抱き付いた。それを見たユリーシャは、驚いて表情を失っている。星名は、優しく彼女を引き離すと言った。

「は……はい。ご心配には及びません。それよりも、デスラー総統の船に早く乗って下さい」

 サーシャは、ミルを振り返ると彼に必要以上に近寄った。ミルは、相変わらず顔を赤らめている。

「ミルさん、さっきお姉様に言っていた事ですが、ここに残るんですの?」

「……はい。私は、ガトランティスの皆を助けなければ」

 サーシャは、不満そうに言った。

「嫌ですわ。もう、会えなくなってしまいそうじゃありませんか。せっかく、仲良くなれそうでしたのに」

 ミルは、天真爛漫な彼女という人となりを、ようやく理解出来てきたような気がした。人懐っこい性格で、誰もが彼女を放っておけないと思わせてしまう。かく言う自分も、その一人だというだけだ。

 ミルは、そっと彼女に笑いかけると言った。

「いいえ。また、必ず会えます。私も、あなたともう一度お話するまでは、絶対に死ねません」

 サーシャは、不安げな顔をしている。

「なら、約束ですのよ?」

「ええ。約束です」

 サーシャは、笑顔を向けると、ユリーシャの手を取った。

「私たちも行きましょう」

 ユリーシャは、星名の事を見つめている。

「星名は?」

 星名は、彼女の瞳を見つめた。

「僕も、ミルを手伝うよ。君は、早く安全な所へ行って。これは、お願いだ」

 ユリーシャも、急に星名に抱きついた。

「なら……私も残る!」

 星名は、困り果てた表情になっていた。そして、二人の皇女に次々に抱き着かれた星名に、斉藤はひがんでいた。

「なんでえ、なんでえ、お前だけ! 俺だって頑張ったっていうのに!」

 星名は、そんな斉藤に苦笑いで応えた。

 ランハルトは、そっと彼女に近寄ると、彼女の肩を掴んで星名から引き離した。

「ユリーシャ様。そのような事を言って、彼を困らせてはなりません。彼を始め、どれだけ多くの人々があなた方を救おうと命を掛けたのか、どうか分かって頂きたい」

「離して、ランハルト……!」

 星名は、優しく笑いかけた。

「大使の言うとおりです。行かなければ。あなたは、イスカンダルの皇女で、ガミラス人にとっては、なくてはならない大切な存在なんです」

「わ、私は……! 星名、あなたの事が……!」

 星名は、皆の前だと言う事に、少し悩んだが、大きく息を吸い込むと、彼女にはっきりと言った。

「ユリーシャ。あの地球での誘拐事件の時から、僕の中ではあなたの存在がとても大きくなっていた。そして、貴方が愛おしくて堪らないと、いつしか、そう思うようになっていた。でも、貴方には、貴方しか出来ない役割がある筈です。僕にも、僕にしか出来ない事がある。だから、お願いです。早く行って下さい。そうでなければ、僕はやるべきことが出来なくなってしまう」

 ユリーシャの頭の中では、彼の言っている事がよく分かっていた。自分がすべき事を、自分にしか出来ない事を。それこそが今やるべきこと。

 彼の言葉を反芻したユリーシャは、涙を堪えて頷いた。

「ごめんなさい……。でも……でも! 死んじゃ、嫌だからね。例え、立場は違っても……これから行く道が、決して交わらないとしても……。もう、二度と会えないなんて、そんなこと、私耐えられないから!」

 星名は、頷くと銃を構えた。

「分かってる。そのつもりは無いよ。さあ、早く行って!」

 サーシャとランハルトは、ユリーシャの手を引くと、駆け出した。

「ユリーシャ様、さあ、早く!」

 ガミラス人の部隊は、一斉にデウスーラの方へと向かった。

 ルカは、一緒に向かいながら途中で立ち止まって揚羽に声を掛けた。

「アゲハ! あなたはどうするんだ?」

 揚羽は、困った顔をして、古代や加藤、それに山本の方をちらりと見た。三人は、これからどうするか話し合っているようだった。その古代と、彼は目があった。

「揚羽、沢村、他の皆も! 航空隊のメンバーは、全員デウスーラでここを直ちに脱出してくれ!」

 沢村も揚羽も、慌てて言った。

「い、いや、古代さんたちが残るなら、俺たちも残りますよ」

「そ、そうですよ!」

 加藤は、怒ったような顔をして言った。

「馬鹿野郎ども! もう任務は達成した。残るのは、俺たちだけで十分だ。早く行け!」

「し、しかし……!」

 古代は、揚羽の肩に手を置いて言った。

「頼む。早く脱出してくれ。僕らは、これから篠原捜索の為に滑走路に戻る。大勢でいる必要はないんだ」

 山本は、古代と加藤に頭を下げた。

「いえ……。私だけで十分です。古代さんも加藤さんも先に脱出して下さい」

 古代は、山本の肩に手を添えた。

「君一人を行かせる訳には行かない。篠原が撃墜されたのは、僕のせいでもあるんだ。僕にもやらせて欲しい」

「古代さん……」

 加藤も、山本の肩を叩いた。

「早いとこ行こうぜ。あいつ、寂しがってるだろうからな」

「隊長……」

 三人のやり取りを見つめていた沢村は、まだ反論しようとする航空隊のメンバーを制した。

「えーい、分かった、分かりましたよ。でも、手遅れになる前に、必ず脱出して下さいよ!」

 古代と加藤は頷いた。

「ったりめぇだろ! さっさと行きやがれ!」

 その怒号で、航空隊のメンバーは、一斉に古代たちに敬礼し、デウスーラへと向かった。立ち止まっていたルカも、揚羽と一緒に走っていった。

 そこに、星名と斉藤がやって来た。そして、ミルや、サーベラー、ゼール中佐らもそこに集まって来た。

 星名は、古代たちに言った。

「僕と斉藤隊長は、ガトランティスの皆さんに協力する為、暫くここに留まります」

 古代は、目を丸くしている。

「し、しかし。君たちも、今回の救出作戦の対象者なんだぞ」

 斉藤は、星名の背中を思い切り叩いた。星名は、そのせいで痛そうにしている。

「大丈夫だよ。俺たちならな!」

 古代は、困惑した表情で、斉藤と星名を眺めた。

「野暮なこと言うなよ! 俺たちこいつらに助けられたんだ。借りを返さなきゃな」

 ミルは、斉藤と星名の顔を交互に見つめた。

「それは有り難いが、いいのか?」

「心配すんな。俺たちは結構役に立つぜ? それに、さっきのガミ公に、無反動砲も譲り受けたから、こっから進む時に必要になるだろうよ」

 星名も古代に言った。

「古代さんたちは、外で待っている人たちに、ここで起こった事、聞いた事を早く知らせて下さい。今は、情報が重要な意味を持ちます」

 古代は、困って山本と加藤の顔を見つめた。加藤は、にやりと笑っている。

「空間騎兵隊の隊長に、情報部の士官だろ。多分、心配はいらねえよ」

 古代は、後ろ頭をかいた。

「まったく……。星名、岬さんが待っていることを忘れるなよ」

 星名は、頷いた。

「分かっています」

「二人ともいいか、決して無理せず、ミルさんたちと必ず脱出してくれ」

「あたぼうよ。よし、ミル! どうすんだこれから?」

 ミルは、自分を見つめるサーベラーの微笑を見て、不思議な気持ちになっていた。しかし、そんなことを考えている暇はなさそうだった。巨大な脱出用宇宙船のエンジン音は、次第に高まっており、早くしなければ、この宇宙船が要塞都市帝国を突き破って動き出してしまうだろう。

「……司令制御室に行こう。そこから、全軍に対して、私から停戦を呼び掛ける。そして、全国民に要塞都市帝国からの脱出命令を出す。それが終わったら、我々も脱出する」

 斉藤は、ゼール中佐の背中も思い切り叩いた。びっくりした彼は、咳き込んでいる。

「もうひと暴れ、やってやろうぜ。なあ、中佐!」

「あっ、ああ……」

 サーベラーは、古代に言った。

「もう行ってくれ。妾も、ミルたちを支援する。心配はいらない」

 古代は、大きく頷いた。

「分かりました。では、また後で会いましょう。あなたとは、あの後どうしていたのか是非お話ししたいので」

 サーベラーも頷いた。

「ああ、私もだ。また、後でな」

 

続く…




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。
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