宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
脱出用宇宙船内部――。
サーダは、息も絶え絶えのシーラの身体を抱き抱えて、宇宙船内部のコスモフォワードシステムの設置場所へと入っていた。
滑らかな流線型の形状の大きなコスモフォワードシステムが、その巨大な空間の中央に設置されている。周囲には、オートマタ兵たちが、忙しく何やら作業に没頭している。
サーダは、床にシーラを寝かせると彼女に話し掛けた。
「辛そうね、シーラ。もうすぐ、楽にしてあげられるから」
シーラは、瞳から涙を溢れさせていた。
「……は……い。少し……早かったけど……これで計画通りに……」
サーダは、二千年もの長い付き合いの彼女の最期に、寂しそうにしていた。
「ありがとう。あなたがいたことを、私は決して忘れない」
シーラは、苦しそうにしながらも、僅かに微笑していた。
「これで……私たちの故郷……取り戻せる……。悔いはない……」
サーダは、彼女の顔をそっと撫でた。
「大丈夫。私が、必ずやり遂げる。あなたの死は、決して無駄にはしない」
シーラの呼吸は、一層苦しそうになった。彼女の胸から流れ出る血液とオイルが床に広がっていた。
サーダは、顔を上げると、壁際に無数に並ぶ黒い箱を見つめた。五十センチメートル四方程のその黒い立方体の箱には、中に小さな光球が輝いている。そのような箱が、数え切れない程積み上げられていた。
「あなたの記憶、今すぐに保存してあげるから。あと少しだけ、待っていて」
要塞都市帝国、司令制御室――。
「ゲーザリー参謀長官! 最下層の脱出用宇宙船格納庫で、エネルギー反応が上昇しています。これは、あの宇宙船を動かそうとしているのではないかと」
ゲーザリーは、その報告に驚いていた。
「な、なんだと!? 女帝は? それにシーラはどうしたのだ!」
「連絡がつきません」
ゲーザリーは、青ざめた表情になっていた。
「な、何故だ……。まさか、私を置いて行こうというのか……?」
そうしている間にも、続けて報告が入った。
「内部で銃撃戦が起きています。最下層から、こちらに上がってくる者たちがいるようです」
スクリーンには、監視カメラの映像が映し出された。そこには、ミルや斉藤たちが暴れている様子が映っている。
「どうなっているか!? 隔壁を閉鎖して対応するのだ! ここへ上がらせてはいかん!」
その時、ゲーザリーは、自分も脱出用宇宙船に向かわねばと考えていた。エンジンを始動してから、まだそれほど時間は経っていない。あの宇宙船が動けるようになるまで、まだ暫くはかかる筈だった。
古代とミルたち一行は、元の科学奴隷の研究施設に走って戻ると、そこからそれぞれ司令制御室へのエレベーターと、艦船格納庫へのエレベーターへと別れ、先を急いだ。
その後斉藤は、彼らの移動を妨げようと閉鎖した隔壁を、無反動砲で破壊し、ミルたちを先導して行った。
そして、一方の古代たちも、途中で現れたオートマタ兵を撃ち倒しながら、艦船格納庫を目指して走った。
「どけどけ! どきやがれ!」
古代と加藤、そして山本は、銃を乱射しながら通路を駆けて抜けて行った。
多数のオートマタ兵を倒しながら、艦船格納庫までどうにか上がった古代たちは、辺りを見回した。多数の艦船に囲まれ、辺りは見通しが悪い。カラクルム級と思われる巨大な船体が、暗い影を落としている。
「滑走路は、多分あっちだ!」
古代の指す方向に、煙が上がっている。先程の銃撃戦で爆発したコスモタイガーがまだ燃えているらしい。
山本は、真っ先にそちらに向かって走り出した。古代たちは、周囲を警戒しながら、その後を追った。
「山本! 焦るな、ペースを皆に合わせるんだ!」
「くっ……。は、はい、すみません」
山本は、ラスコー級巡洋艦の影に隠れて、古代たちを待った。
古代と加藤は、山本に追い付くと、そこから滑走路と思われる方向を眺めた。
「おい、あれ」
加藤の指す先には、複数のイーターⅠが飛び立って行くのが見えた。それを目で追うと、上方に消えて行った。
「敵の機体について行けば、ここから出れそうですね」
「奴らも、この中では、空中戦をやる気は無いようだから、多分上手く行くだろう」
「しかし恐らく、戦闘機の発着口は、何らかの方法で、開閉を制御していると考えられる。さっき入った時と同じだ。タイミングを誤れば、出入口に激突してしまうだろう。また、危険な飛行になる」
加藤は、古代の方に毒づいた。
「んなもん、分かってるさ。でも、この三人の腕なら、問題ねえよ」
山本は、動く影に気が付くと、そちらに銃を撃った。古代たちは、それに遅れて気が付いて慌てていた。その先では、一体のオートマタ兵が頭を撃ち抜かれて動かなくなっていた。
「あまり長く同じ所に留まっていては危険です。早く進みましょう」
「助かった。山本の言うとおりだ。行こうぜ」
古代は、加藤と山本と視線を合わせると、頷き合って先へと進んだ。
その頃、ミルたちは、エレベーターを乗り換えて、司令制御室へと向かっていた。このエレベーターの扉が開くと、そこはもう司令制御室の中だ。
緊張した様子のミルは、銃を握った手が汗ばんでいた。握り直した銃が滑る。
「そんなに緊張するな。お前は、絶対にやれる。自分を信じるのだ」
サーベラーの言葉に、ミルは緊張感を少し和らげた。
「サーベラー丞相……。ありがとうございます」
サーベラーは、彼の瞳を覗き込んだ。
「私も、ここで死ぬつもりは無い。ガトランティスの母星に戻ったら、ここで見たことを、ズォーダー大帝に報告せねばならんからな。それに……。大帝には、妾に産ませたという、隠し子のことも、問い詰めねばならん」
そう言うと、サーベラーは微笑していた。
妾に産ませた隠し子という話で、自分のことをズォーダーがどう思うのか。カミラのことを、ズォーダーはいったいどう思っていたのか。ミルにも興味があった。そして、ズォーダー大帝がいた当時、サーベラーが彼の女だという噂もあったが、今の彼女の発言は、それが事実かも知れないとうかがわせた。
「おっしゃる通り、私は、必ずややり遂げます」
「その意気だ」
ゼール中佐や、ネーラー大尉らも、緊張感に包まれていた。斉藤は、そんな彼らに、大きな声で言った。
「お前ら、これから謀反を起こして、仲間を討とうってんだ。もっと気合を入れろ! お前ら騙されてたぞって、他の皆に伝えるんだろ。正しい事をしようとしてんだ。もっと堂々としてろよ。上手くいくものも、行かなくなっちまうぞ!」
ゼール中佐も、ネーラー大尉たちも、そしてミルも、その言葉をもっともだと思っていた。
「あなたの言う通りだ」
そう言うと、彼らは、エレベーターの中で銃を出口に向けて構えた。
「間もなく司令制御室に到着します! 大帝と、サーベラー丞相は、後ろに下っていて下さい」
斉藤は、にやりと笑って、彼らの後ろについて、無反動砲をエレベーターの出口に向けて構えた。
「悪いが、相手の出方次第じゃ、俺も派手にやらせてもらうぜ」
ミルは、星名と斉藤の後ろにサーベラーと共に下がると、銃を構えた。
「頼む。司令制御室の兵たちは、恐らくは、サーダたちに改造されている疑いが強い。それは、ゲーザリー参謀長官も例外ではない!」
その頃、古代たちは、ようやく滑走路に到着していた。滑走路脇のデスバテーターの影で様子を窺うと、今度は乗機する人影や、滑走路の作業員の姿も、十数名見られた。イーターⅠの機体が複数、作業員に誘導されて滑走路へと出ていこうとしている。
「今度は、オートマタ兵じゃなく、人間の兵士がいる。注意が必要だ」
山本は、冷静に周囲を確認した。
「あの戦闘機隊が全機出発した直後を襲いましょう。そして、直ちにコスモタイガーに乗機して、あの機体を追う。そんなところでどうですか?」
脇には、まだ壊れていなさそうなコスモタイガーが数機、滑走路からどかされていた。先程の銃撃戦で、機体は穴だらけになっている。
「ぼろっぼろだな、俺たちの機体は。満足に動けば良いが」
「敵の戦闘機を鹵獲してもいいが、操縦方法が分からない。やはりコスモタイガーで行くのがベストだろう」
そうしている間にも、イーターⅠのエンジン音が甲高く響き始めた。五機の機体が、滑走路上をゆっくりと移動している。
作業員は、機体の誘導を終えると、滑走路の端へと走って移動した。
イーターⅠは、フルパワーでエンジンを吹かすと、滑走路を滑るように走って行く。最後の五機目のイーターⅠが滑走路を走り出した所で、古代は、号令を出した。
「今だ!」
古代たちは、走り出した。作業員たちは、突然の異星人の来襲に慌てて、滑走路の端から逃げ出して行く。しかし、警備をしていた六名ほどの兵士らが残って、古代たちに銃撃を加えて来た。
「くそっ! もう戦っている場合じゃないってのに!」
応戦しながら、加藤がぼやく。
「もう間もなく、ミルが全軍に停戦命令を出す筈だ。彼らに致命傷を負わせずに、切り抜けるしかない!」
古代は、床に伏せて横に転がると、その兵士たちに向けて、確実に足に銃弾を命中させて行った。同じ様に、加藤と山本も次々に兵士を倒して行く。
古代は、立ち上がると、まっしぐらにコスモタイガーの機体に向かった。比較的、攻撃を受けていなさそうな機体を見つけると、山本に声を掛けた。
「山本! 君はこの機体を使え!」
山本は、古代の元に駆け付けると、その機体を眺めた。それは、ほとんど銃撃戦の被害を受けてなく、機体下部のパイロンにも、まだミサイルが全弾残っていた。
「これは揚羽の乗機……。古代さん、これなら、あなたが使った方が良いと思います」
古代は、山本の肩を軽く叩いた。
「これから、篠原を探さなきゃならないだろう? 君には、ある程度、状態のいい機体を使ってもらった方がいい」
山本は、久しぶりに、正面から古代の瞳を見つめた。もう、この数年は彼を避け、話もろくにしないようにして来た。それは、思いを拗らす自分を律する為だった。しかし、今は違う。篠原を見つけなければという強い思いが、古代に対するかつての想いを、忘れさせてくれていた。
山本は、にこりと微笑すると、古代に拳を向けた。
「分かりました。なら、遠慮なく」
古代もそれに応えて自分の拳を当てた。
「篠原のこと、必ず見つけてやろう」
「はい!」
山本は、本当に久しぶりに、古代と笑い合うことが出来ことが嬉しかった。
加藤は、自分のヘルメットを探して来ると、古代たちの元へとやって来た。
「ほら、急ごうぜ」
古代と山本は、加藤と共に、互いの検討を祈り、身体の一部を叩き合った。そして、それぞれ無事そうな機体を選ぶと、早速乗機してエンジンを掛けた。
それぞれのエンジン音が高まっていく。
その頃には、周囲にガトランティス兵らしき人影が近付いて来ていた。
「よし、すぐに出よう。各機、直ちに発進!」
滑走路に、山本の機体を先頭に、それぞれの機体が滑り込み出した。そして、一気に速度を上げると、次々に上昇して行った。ぐんぐん離れて行く滑走路には、敵兵が空に向けて銃を撃っているようだった。しかし、既に当たりそうも無い所まで上がっていた。
周囲には、外に飛び出そうと飛び回る多数のガトランティスの戦闘機隊が、上へ上へと飛んで行く。
山本は、先頭を任されて、各機に通信を送った。
「こちら山本。間もなく、重力が働かなくなる地点へ突入する。各機、機体のバランスに注意して下さい」
「分かった」
「了解!」
三機のコスモタイガーは、編隊を組んで上昇して行った。
「戦闘機発着口を発見! 突入を開始します!」
三機のコスモタイガーは、編隊を組んで、先頭の山本機を追った。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。