宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
要塞都市帝国、司令制御室――。
司令制御室へのエレベーターの扉が開くと、ゼール中佐とネーラーたちは一気に雪崩込んだ。
大きなその空間は、様々な端末が配置された座席が多数あり、大小のモニターに囲まれている。それらのモニターには、ガトランティス艦隊の捉えた映像が映っており、激しい戦闘がガルマン帝国とガミラス艦隊との間で行われていることがよく分かる。そして、小惑星下部で戦闘を続けるアンドロメダやヤマト、そしてミランガルの様子を上から捉えた映像もある。
中央に鎮座する大帝や女帝の座席には、当然誰も座っていない。しかし、ゲーザリーに用意された座席にも、誰も座っていない。
ミルは、サーベラーと星名、斉藤と共にエレベーターから出ると、中へと進んだ。
先に中に入ったゼール中佐は、ミルに報告した。
「大帝! もぬけの殻です。ここには、誰も居ません!」
星名は、ほっとして銃を下ろした。
「戦わなくて良いのなら、それに越したことはない」
斉藤も、無反動砲の砲身を下ろし、きょろきょろと見回した。
「なんでえ。がっかりだな」
サーベラーは、目を細めて辺りを見回した。
「これは……。ここに居た乗組員も、脱出用宇宙船格納庫へ向かった可能性が高いな。ミル。早くせねば、我々も逃げられなくなるぞ」
ミルは、真剣な表情で答えた。
「直ちに、全部隊に停戦命令を出します」
ゲーザリーと対峙することを恐れていたミルは、それをせずに済むことに、ほんの少し肩の荷が下りていた。
彼は、通信士の座席を見つけると、その端末を操作した。通信回線が繋がり、スクリーンには、ユーゼラー提督やナスカ提督の姿が映っていた。そして、それだけでは無く、ガルマン帝国を始めとした、各陣営にも通信回線は繋がっていた。スクリーンには、グスタフ中将とキーリング参謀長官や、ネレディアと土方の姿も映っている。
ミルは、中央の大帝の座の前に向い、彼らに自分の姿が見えるようにした。スクリーンに映る彼らは、ガトランティスの大帝が何を言い出すのか恐れているようにも見える。彼は、緊張感から少し俯いて息を吸い込んだ。
私の言うことを、皆聞いてくれるだろうか……?
そんな不安が、どうしても心の奥底によぎる。
名ばかりの大帝。
そんな自分が、ちゃんとやれるのか?
ミルは、出来る限り心の中の不安を打ち消そうと努力し、静かに話し出した。
「……我は、ガトランティスの大帝ズォーダーである。汝らに話がある」
スクリーンに映ったそれぞれは、ミルがいったい何を言い出すのか、疑問に思いながら話が始まるのを待っていた。
「ガトランティス軍、全部隊に命ずる。我々は、現時点をもって、戦闘行為を中止する」
ユーゼラーとナスカは、あ然とした表情でミルを見つめていた。
「大帝……。今なんと?」
「どういう意味なんだ?」
二人は、困惑しているようだった。それは、彼らだけでなく、他のガルマン帝国らの代表たちも同様だった。
ミルは、もう一度言った。
「ユーゼラー提督、そしてナスカ提督。戦闘行為を止めるのだ。もはや、我々に戦闘を続ける理由が無い」
呆然とするユーゼラーを他所に、ナスカはミルに問いただした。
「大帝、何故だ。そのような話を受け入れる訳には行かない。戦況は、我々の方が有利な状況だ。まさか、今になって怖気づいたと言う訳でもあるまい。そもそも、女帝や参謀長は何と言っているのか?」
ミルは、ナスカの方を慎重に見つめた。
「重大な問題が内部で起きている。科学奴隷のサーダ、及びシーラによる反乱が発生し、女帝は……」
ミルは、やむを得ずカミラの亡き骸を置いてきたことを少し後悔していた。
……母上。
私は、正しい事をしようとしているつもりです。
これで、良かったのでしょう?
「……女帝は、シーラに殺害され、既に死亡した。ゲーザリー参謀長に至っては、現在行方不明だ。恐らく、要塞都市帝国の脱出用宇宙船に向かったものと推測している。そのサーダとシーラは、脱出用宇宙船を始動し、ここを出ようとしている。彼女たちの企てで誘拐した人質も、既に解放した」
ユーゼラーとナスカは、とても考えられない話に、困惑していた。
「そ、そんな」
「ば、ばかばかしい。そんなことがあろうはずが……」
ミルは、更に付け加えた。
「我々は、二人の科学奴隷に騙されていたのだ。彼らは、密かに我々を支配し、思い通りに我々を動かしてきたことが判明した。この戦いもそうだ。彼らの企みに、我々はまんまと騙されてきたのだ。我々は、この戦いを終わりにしなければならない。何故なら、我々が戦うべき本当の敵は、彼女たちの祖国、暗黒星団帝国だからだ」
ナスカは、憤慨した様子で、まだ反論して来た。
「ふっ、ふざけるな! そんな話をどうして信じることが出来る! 人質を解放したお前の方こそ、ガトランティスを裏切っているのではないのか!?」
ミルは、古参の提督の発言に、がっかりとしていた。
どうすれば、信じてもらえようか?
確かに、急に信じられる話でないのは、彼自身にも分かっていたことだ。
その時、ミルの背後に立つ人物がいて、相手のスクリーンにもその姿が映っていた。
サーベラーは、妖艶な笑みを浮かべて、ナスカに向かって言った。
「大帝に向かってその物言い。随分と勇ましいことだ。久しぶりだな、ナスカ提督」
ナスカとユーゼラーは、サーベラーの出現に驚愕していた。
「ま、まさか……」
「サーベラー丞相……!?」
ナスカは、目を大きく見開いている。
「あなたは……! 亡くなった筈では……?」
サーベラーは、余裕の笑みで応えた。
「よもや、妾の顔を忘れた訳でもあるまい。この通り生きておる。それよりも、大帝の御前だぞ。彼の言うことに嘘は無い。私が保証しても、まだ不足か? ナスカ……」
ナスカは、かつてのサーベラーを思い出して、恐怖におののいた。
「め……滅相もない! 承知しました。直ちに停戦致します。おい、ユーゼラー、お前もだ!」
「しっ、しかし……。今は敵艦隊との交戦中。一方的に停戦すれば、我が方に甚大な被害が出てしまう」
サーベラーは、他の国々の代表者に、流し目を送った。
「大帝。これで、少しは話が出来るかと」
サーベラーは、ミルよりも少し下り、そこに留まった。
「……ありがとうございます。サーベラー丞相」
サーベラーは、微笑して彼を見守っている。ミルは、彼女に感謝しつつ、話を続けた。
「ガルマン帝国、並びにガミラス、地球連邦各国軍にお話がある。我々は、現在、内部に大きな問題が生じている。その為、既に人質も解放した。我軍に停戦命令を出すと同時に、貴官らも停戦に応じては頂けないか。我々は、これ以上戦闘を継続する気は無い」
グスタフとキーリングは、ガトランティス人よりも、更に困惑している。やむを得ず、キーリングは、ガルマン帝国を代表して、話し出した。
「何が何だか分からない。君たちは、我軍に甚大な損害を既に与えている。今更、停戦したいなどと、虫の良い話だとは思わないのかね?」
ミルは、もっともな話だと、答えに少し窮していた。しかし、説得を諦める訳には行かなかった。
「その通りだ。だからこそ、これから話し合いの場を持ちたいと思っている。これは、我々からのお願いだ。どうか、話を聞いて欲しい」
その時、土方も発言した。
「私は、地球艦隊総司令官の土方だ。人質を解放したという話だが、今はどうしている?」
ミルは、後ろにいた星名と斉藤を手招きした。
スクリーンに、二人の姿が映る。
星名は、土方に向けて敬礼した。斉藤も、それを見て遅れて敬礼した。
「情報部の星名です。イスカンダル人の人質、及び私たちは、ここにいるガトランティスの大帝と、古代さんたち、それにデスラー大使を始めとしたガミラスの部隊に救助され、行動を共にして来ました。先程、ガミラスのデスラー元総統の乗艦デウスーラが、イスカンダル人を救出して、既に要塞都市帝国を離れています」
土方は、二人の姿を確認してほっとしていた。
「イスカンダルの人質は、既にそこにはいないのだな? そして、二人も、拘束されている訳では無いのだな?」
「あってるぜ。俺たちは、自分の意志で、こいつらの手伝いを買って出て、今ここにいる」
「星名くん! 無事なんだね!?」
突然、スクリーンの向こうの土方の隣に、百合亜が映っていた。
星名は、にこりと笑って言った。
「大丈夫。もうすぐ、会えるから」
百合亜は、涙を溢れさせた。
「分かった……! 待ってるからね」
そう急いで話した百合亜は、土方に申し訳無さそうに謝っている。土方は、あまり気にしていないのか、笑みを浮かべている。
「分かった。……キーリング参謀長官、グスタフ中将、それにリッケ総司令。私は、ガトランティスの大帝である彼の言葉を信じることにした。貴官らも、ここは一旦休戦してはどうか。互いに、これ以上の人的被害を増やさぬ為にも」
そこでネレディアも発言した。
「イスカンダルの人質に、デスラー大使も既にそこを離れているのであれば、私も異論は無い」
キーリングは、グスタフと顔を見合わせた。グスタフは、疑問を感じながらも、キーリングに上申した。
「この戦いを終わりに出来るのであれば、私も話し合いに応じて良いと思います」
キーリングは、暫し考えた。
多くの犠牲を払ったとはいえ、戦況は余談を許さない状況が続いていた。ならば、話し合いに応じる事で、ガトランティスの責任を問うことも可能になる。これ以上、本星に住む国民の不安を募らせる必要も無い。
「……分かった。我々も、停戦に応じよう。君たちが、攻撃を止めたことが確認出来次第、我々も停戦命令を出す。君たちの艦隊を後退させてくれ」
ミルは、大きく頷いた。
「感謝する。……ユーゼラー提督、ナスカ提督。聞いた通りだ。直ちに艦隊を後退させ、攻撃を中止するのだ」
「承知しました」
「分かりました。全艦隊に発令! 後退して攻撃中止!」
ミルは、ほっとして、続きを話すことにした。
「先程話した通り、我々の内部で発生した反乱により、間もなく要塞都市帝国の脱出用宇宙船が出る。この宇宙船に乗る者たちは、我々の共通の敵と認識して欲しい。要塞都市帝国は、これによって間もなく崩壊するだろう。我々も、今から要塞都市帝国からの脱出をはかる。汝らも、直ちに要塞都市帝国から離れることを勧告する。以上だ」
ミルは、通信を終えると、すぐに次の命令を出そうとしていた。要塞都市帝国からの全国民の脱出である。ミルは、通信機を操作し、要塞内へのアナウンス用のマイクのスイッチをオンにした。
「ガトランティスの大帝が命ずる。科学奴隷による反乱発生に伴い、敵との停戦を決意した。そして、その反乱によって、要塞都市帝国の崩壊が迫っている。すべてのわが国の民は、非戦闘員か否かを問わず、直ちに最寄りの宇宙船を利用して、要塞都市帝国から離れて欲しい。これより、艦船格納庫の戦闘機、及び艦船ゲートを開放する。また、都市部に住む者に警告する。都市部のビル群の放出を、今から十分後に実行する。各自、ビルから出ないこと、並びに気密性の確保に十分注意することを勧告する。くれぐれも、停戦中であることに、留意して欲しい。要塞内の迎撃を担当しているすべての兵も、戦闘行為の中止を徹底して脱出をはかってくれ。以上だ」
一気に話し終えたミルは、通信を切断して大きく息を吐き出した。
その時彼は、ようやく、役目を終えたという気持ちで、満たされていた。しかし、サーダとシーラの問題は解決しておらず、まだすべてが終わってはいない。
ゼール中佐や、ネーラー大尉らは、端末にかじりつき、たった今ミルが命じた脱出の準備作業を実施している。
「大帝、都市部の脱出ポッド群の放出を十分後にセットしました」
「要塞内に避難勧告を発令し、艦船格納庫のゲート開放を実行しました」
ミルは、それぞれの報告に頷いた。
「皆、ありがとう。準備が整ったならば、我々もここから脱出しよう。艦船格納庫から、ゼール中佐の艦で出る」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。