宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
要塞都市帝国、艦船格納庫――。
「古代! どうやら、ミルの奴がやってくれたようだぜ」
古代たち三人のコスモタイガーは、要塞都市帝国内部に、警報と警告音が鳴り響くのを聞いていた。そして、複数の大きな開口部が開き始めていた。周囲に飛び回る多数のガトランティスの戦闘機は、その方向へと旋回し、イナゴの群れのように外へ外へと飛び出していく。
眼下を見れば、多くのガトランティスの艦船も徐々に飛び立ち始めていた。格納庫内に駐機していた千隻近い艦船が動き出し、内部は大混乱に陥りそうな気配があった。
「そうみたいだな。我々も、戦闘機発着口から出るのを止め、ガトランティスの機体に続いて、あの大きな開口部から出る方が安全だ。恐らく、艦船用のゲートだろう」
「古代さん、下の艦隊がゲートに殺到したら、出られなくなりそうです。急ぎましょう!」
山本の機体は、大きく宙返りすると、古代と加藤の機体を先導して、その方向へと突き進んだ。互いに敵だった筈の機体が、仲良くゲートに向かって行く。
加速した山本たちの機体は、その誰よりも速く飛行し、ゲートを目指した。
「もうすぐ……。もうすぐ迎えに行くから……!」
山本は、前方を飛ぶガトランティスの機体を避けながら、ゲートの外に見える宇宙空間を見つめた。星々の輝きが、僅かにそこに見えている。その何処かに、篠原が生きていると信じて。
要塞都市帝国、脱出用宇宙船格納庫――。
脱出用宇宙船格納庫に慌ただしく到着したゲーザリーと、司令制御室の兵士たちは、地響きのようなエンジン音を響かせるその宇宙船のハッチの前にいた。
数名の兵士たちが、ハッチを開けようと操作盤をいじっているが、何故か開かない。
ゲーザリーは、青ざめてその宇宙船を眺めていた。携帯通信機を取り出した彼は、必死に連絡を取ろうとしていた。
「サーダ、シーラ! ハッチを開けてくれ! 我々を置いて行くつもりか!?」
必死の呼び掛けに、やっと応答があった。
「ゲーザリー参謀長官?」
ゲーザリーは、サーダの声に、慌てて返答した。
「私はゲーザリーだ。大帝が反乱を起こしているのだぞ。直ちにここを脱出する必要がある。サーダ、どういうつもりだ。ハッチを開けるんだ」
通信機の向こうから、笑い声が漏れてくる。これまで笑ったところを見せて来なかった彼女の声は、ぞっとするような感覚を彼に与えていた。
「ゲーザリー、無様ね。まだ、分かっていないの?」
「き、貴様は、科学奴隷の分際で、誰に向かってそのようなことを……」
「奴隷……? 私が?」
「貴様は、ガトランティスが居なければ何も出来ぬ、ただの科学奴隷に過ぎん。我々がこの艦を運用せねば、たちまち撃沈されてしまうぞ! それに、女帝はどうした! そこにいるのか!?」
それには、サーダはすぐに答えず、沈黙の間があった。ゲーザリーは、通信機に、必死に耳を傾けていた。
「……死んだわ。私たちが殺した。お前も、もう必要無い」
それを聞いた途端に、ゲーザリーはみるみる表情が強張っていった。
「私は……」
ゲーザリーの記憶は、酷く混濁していた。サーダやシーラと共に、ガトランティスの侵略戦争の方針を決める会議の様子。彼女たちに捕まり、意思に反して身体を改造された時の記憶。時折思い出しては、苦しんだ時の記憶。そんな混乱した記憶が、彼の頭の中に渦巻いていた。
私は……いったい何を……?
何故、見捨てられねばならないのか。
記憶の中から、ある一つの不可思議な出来事が蘇ってくる。手術台に寝かされて、天井に設置された明かりが眩しい。そこにいた人影、サーダとシーラが自分を見下ろしている。
「……あなたは、これから私たちの奴隷として働いてもらう。間もなく、私たちの母なる星、そして健康な肉体、それらを一度に取り戻す方法が見つかる。それは、私たちの二千年に及ぶ長年の悲願。ガトランティスは、本来であれば、千年前に私たちに滅ぼされ、今は存在しない筈の民族。あなたには、私たちが必要だと思っている間は、私たちの為に奉仕してもらう。私たちに協力出来ることに、感謝するのね」
心の奥底で、絶望と悲しみの感情が僅かに残っていたが、自らの口から出る言葉は、その意思に反するものだった。
「感謝します。私は、あなた方の望みを叶える為に、どのようなことにも従います」
ゲーザリーは、立っている力を失い、その場に膝をついた。他の兵士たちも、ばたばたと倒れていく。
一方、脱出用宇宙船の艦橋に上がっていたサーダは、通信機からゲーザリーの応答が無くなったことを確認し、発進準備を進めることに集中した。
「エンジン出力上げ! 要塞都市帝国から出る前に、艦体防御システムを最大出力で稼働させる!」
同じく艦橋にいたオートマタ兵たちは、巨大な宇宙船を制御する為に、忙しく動いていた。
サーダは、ふと先程のシーラの最期を思い返していた。命の灯が消えかかったシーラの生きた証であるその記憶。黒い箱に彼女の灯火が移るのを確認したサーダは、その亡き骸をコスモフォワードシステムの制御室に残し、最後の戦いに挑もうとしていた。
サーダの二千年前の記憶。本来であれば、時の経過と共に喪われる筈のその記憶は、一部機械化した脳の記憶補助装置に格納され、まるで昨日の事のように脳内に再現することが可能だった。家族や友人を奪われたあの時。母星を破壊された憎き敵。悲しみと憎しみが鮮明に蘇り、彼女の心は震えていた。
その敵も、二千年の時の流れの間に、結局見つけられなかった。その憎しみの行き場を失った彼女は、シーラと共に、同じ苦しみを他の民族に味合わせることで晴らして来たのである。
何故自分たちだけが、このような絶望を背負わなければならないのか?
何故、他の民族は同じ目に合わずに、幸せを謳歌しているのか?
間違っていると何度も思い返すも、絶望と嫉妬心が、彼女たちの心を覆い、その悪意を突き動かしていた。
二重銀河の中心で待つ、今は暗黒星団帝国と名乗る同胞たちは、この銀河団から更に遠く、他の遠い銀河団に足を伸ばして、憎きあの敵を探す旅に出ているという。しかし、敵を発見したという報告はいまだかつて無い。
せめて母星を取り戻すことが出来れば、同胞たちの悲しみも少しは癒やされるであろう。
それを実現する鍵となる、コスモフォワードシステムの発明は、イスカンダルの科学奴隷が果たした最も大きな功績だった。そして、コスモフォワードシステムを触媒とし、あと僅かでその目的は達成される。
それでも、それは確実な方法とは言えない。不確定要素は多数残っている。今から、サーダは運命を引き寄せる為、最後の賭けに打って出ようとしていた。
アンドロメダ率いる最後の地球艦隊、そしてミランガルが率いるガミラス艦隊は、ゆっくりと警戒しつつ、要塞都市帝国の小惑星部の下から離れていた。側面の回転砲台は、ミルの停戦命令により完全に沈黙し、彼らに攻撃を加えることは無かった。
バーガーたちガミラス艦隊も、ガトランティスの停戦命令が実行されたことを確認し、ミランガルと合流しようと戦線を既に離れていた。
突然異次元から浮上したデウスーラⅢ世と、次元潜航艦は、ミランガルに接近して行った。
スターシャらイスカンダル姉妹は、デスラーやランハルトと共に、デウスーラの艦橋から、要塞都市帝国の様子を確かめていた。
「総統、女王。皆さんもご覧下さい。要塞都市帝国の都市に大きな動きがあります」
タランの呼び掛けで、一同は肉眼でその様子を眺めた。
要塞都市帝国の上部都市部は、まるで植物から胞子が離れて行くかのように、一つ一つのビルがそこを離れて行った。そうしているうちに、おびただしい数の光の小さな帯が、要塞都市帝国からふわふわと舞い、少しづつ離れて行く。虚空に煌めくその光は、幻想的でもあった。
「綺麗……」
サーシャのその一言は、そこに居た誰もが感じていたことだった。
アンドロメダに居た山南も、その圧巻の眺めに感心していた。
「長いこと宇宙で過ごして来たが、こんなの初めて見たな。殺伐とした戦場だってのになあ……」
要塞都市帝国の艦船格納庫では、司令制御室から移動したミルとサーベラーが、兵士たちを逃がそうと、艦船管制塔に上がり、全艦隊に向けてアナウンスをしていた。
「ガトランティス帝国軍へ告ぐ! 発進準備の出来た艦から、すぐに発進! 間もなく、この要塞都市帝国は崩壊する! 外へ出たら、出来るだけ離れ、ユーゼラー提督の艦隊と合流するように!」
サーベラーは、必死に兵士に呼びかけるミルの姿を見て、感慨深げにしていた。言われてみれば、ズォーダーに似ている所があるような気がしていた。
「ズォーダー大帝の実子という話。やはり本当なんでしょうね……」
ミルは、狭い管制塔のマイクを切ると、サーベラーを振り返った。
「何か……おっしゃいましたか?」
「いや。独り言だ」
ミルは、途中、自室に寄って持ち出した、戦艦大和の模型の入ったバッグを持ち上げた。あまり揺すると、壊れてしまうかも知れない。この品は、ギャラクシーに居た頃の思い出だけで無く、サーシャとの出会いの切っ掛けになった物でもある。ミルにとっては大切な品だった。
「サーベラー丞相。私たちも、もうゼール中佐の巡洋艦で脱出しましょう」
「そうだな。でも、その丞相というのは止めてもらえると有り難い。あくまでも、元、だ」
そう言うと、サーベラーは先に管制塔の指揮所から出て行った。
その頃古代たちは、要塞都市帝国の艦船ゲートから、外に飛び出すと、急ぎ侵入口となった戦闘機発着口の座標へと向かった。三機のコスモタイガーは、敵に囲まれることも無く、攻撃を受けることも無く、スムーズにその場所を探し当てた。
「この辺りじゃねえか?」
加藤の言う通り、破壊された戦闘機発着口が眼下に見えた。古代は、通信機をオンにして、加藤と山本に呼び掛けた。
「よし。周辺を念入りに探そう。航空隊の救難信号を受信するように通信機を調整してくれ」
「了解。機体のセンサーも生体反応を探知するように設定します」
山本は、翼を傾けると、戦闘機発着口を中心に低空で要塞都市帝国の小惑星部を飛行した。古代と加藤は、少し高い位置から離れた場所を捜索した。
古代は、小惑星部に焼け焦げたような跡を見つけ、その上空に飛んだ。明らかに、何かが衝突して爆発したような跡がある。
「……山本! 座標を送る。篠原の機体が衝突した跡かも知れない」
山本は、古代からの通信を受けて動悸が早くなった。
「向かいます……!」
加藤は、古代のすぐ横につけて、そこで旋回を始めた。加藤は、通信を、古代だけに聞こえるように調整すると、話し掛けた。
「……あれが機体の跡だとしたら、脱出してなければ、お陀仏だな」
「確かにコスモタイガーの機体みたいだ。ばらばらになっている」
古代は、暫く黙ってその痕跡を見つめた。古代を庇って篠原は敵戦闘機の銃撃を受けた。その時のことを、彼は思い出すと、複雑な気持ちになった。咄嗟の判断で、作戦を成功に導くために、隊長機を残そうとしたとも思える。しかし、そんな理由では無かったかも知れない。そもそも、山本が古代を庇おうと動いたことで、その彼女を死なせまいと篠原が動いた結果だと、いくら朴念仁の彼にでも、その可能性を想像することが出来た。
どちらの理由にせよ、彼の為に部下が死を選択しようとした事実は変わらない。彼の胸に、指揮官としての重責がのしかかっていた。
「篠原……。生きていてくれたらどんなにいいか」
「俺だって、奴に生きていて欲しいとは思うが、あんまりここに長く留まっている訳には行かねえぞ」
「分かってる。あの脱出用宇宙船が動き出せば、要塞都市帝国は崩壊してしまうだろう。それに巻き込まれたら、どうなるか予想も出来ない。これ以上、加藤や山本まで失う訳には行かない。何処かで諦めなきゃいけない……」
古代は、通信機を山本にも聞こえるように調整して、彼女に呼び掛けた。
「山本。残された時間はあと十分……いやあと五分程度かも知れない。要塞都市帝国が、いつ崩壊するか分からない。僕たちも、その兆しが見えたら、直ちに離れる必要がある。すまないが、それだけは認識しておいて欲しい」
「……はい。分かってます」
その時、小惑星部を低空で飛行していた山本は、エンジンを停止して、その痕跡の真上をゆっくりと移動していた。機体のスラスターを吹かして位置を調整し、コックピットの真上からばらばらになった機体を眺めていた。しかし、コックピットの中からでは、機体の状態がよく見えない。
「ちっ……!」
業を煮やした山本は、キャノピーを開けると、結局コックピットから離れて、小惑星部に降り立った。
実際にそこに降りてみると、軽く人工重力が働いているのか、普通に立つことが出来る。彼女は、急いでその機体の跡へと向かった。軽い重力の影響で、彼女の身体はゆっくりと飛び回るように動いた。
ばらばらになった機体は、辺り一面に散らばっており、焼け焦げて溶けていた。山本は、コックピットだった部分が何処かに落ちていないか必死に探した。
「篠原……! 何処にいるの……!?」
山本は、機体の破片の大きな物を探して、辺りを探して回った。
それに気付いた加藤は、驚いて古代に言った。
「おい、あいつ下に降りたみたいだぞ」
「山本……!」
古代と加藤は、彼女を心配して呼び掛けた。しかし、本人からの応答が無い。
「応答するんだ、山本!」
古代の呼び掛けに、それでも彼女は応えない。
その時山本は、コックピットと思われる部分を発見していた。息を飲んで、ばらばらの内部を探った。そうして、彼女は遂に発見した。
「こ……古代さん、加藤さん!」
「どうした、山本!」
山本は、コックピットの座席があった筈の場所を優しく撫でていた。その瞳からは、涙がこぼれている。
「座席がコックピットに見当たりません。篠原の奴、緊急脱出装置を使っていました! そうに違いありません!」
しかし、そう言ったのも束の間、山本の足元から、小刻みに地面となる小惑星部が揺れた。
「篠原……! 何処! 返事をして!」
古代と加藤は、要塞都市帝国から、多数のガトランティスの艦船が、先を争って飛び出して行くのを目撃した。小惑星部にあちこちから亀裂が入り出し、一刻の猶予もないのは明らかだった。
「山本! もう、間に合わない! 自分の機体に戻れ! ここを離れないと危険だ!」
「おい、お嬢! 限界だ、戻るんだ!」
山本は、二人の通信を切ると、周囲を見回して、自身の宇宙帽のヘルメットの中で叫んだ。
「篠原……!」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。