宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
そしてしばらくして――。
真田は、額の汗を拭って言った。
「よし、これで接続は完了した。想定通りなら、この船と、ムサシのニューラルネットワークが融合し、一つに定着するはずだ」
古代は、ほっとして言った。
「どうにか間に合いましたね」
「桐生くんに、コスモリバースシステムの状況を確認してみよう」
真田は、通信機を背負った技術科のメンバーを呼び寄せ、連絡をとった。
「……こちら桐生。真田さんどうぞ」
「こちら真田だ。ケーブルの接続は終わった。何か変化はあるかね?」
その後、しばらく応答がなく、通信機は静かになった。
「……うーん。真田さん、コスモリバースシステムはうんともすんともいわないですね。機能は完全に停止しています。稼働状況のモニタリングでは、ニューラルネットワークに、僅かに電流が流れている様子が見られます」
真田は、顎の下に手を置き、考え込んでいる。
「そうか。分かった。恐らく、超巨大戦艦と接続したことにより、微弱な電流が流れているのだろう。次元潜航艦にも連絡して、下のテレサの様子も聞いてみてくれ」
「分かりました」
通信を切った真田は、古代の方に向き直った。
「相互のシステムの融合が定着するまで、少し時間が、必要だろう。まだどうなるか分からない。ケーブルを切断されないように、もうしばらく、見張っている必要がある」
「分かりました。先ほど、ヤマトに応援を頼みました。伸ばしたケーブルの各所に、要員を配置しています」
真田は、ぼそっと言った。
「もし、テレサが想定通りに動かなかったら……」
古代は、そう言われて少し考え込んでいる。
「私にも分かりません。我々は、テレサ一人に、宇宙の運命を委ねるようなことを考えています。テレサにだって、きっと様々な思いがあるでしょうから……」
その時、戦術科の乗組員の一人が、突然撃たれて倒れていた。
古代が、身構えると、そこにはオートマタ兵を引き連れたサーダが立っていた。
古代たちは、驚いて、慌てて彼女に銃を向けた。
「待て!」
サーダは、持っていた銃をその場に捨てた。
「サーダ?」
サーダは、オートマタ兵に、撃つなと命じると、ゆっくりと古代に近付いて来た。
「古代。私は、お前と話してみようと思ってここへ来た。今更、銃を向け合う意味は無い。もう既に、我々の運命は決しているのだから」
古代は、戦術科の乗組員へ、銃を下げるように指示した。彼らは、撃たれた乗組員を引きずり、その手当を始めた。足にかすり傷を負っているだけらしい。古代は、ほっとして、自身もその場に腰を落とし、静かに銃を置いた。
「古代……!」
真田は、そんな古代に警告しようとした。
「大丈夫です、真田さん。彼女は、僕と話に来ただけですから」
サーダは、暗い笑みを浮かべて古代を見下ろしていた。
「何故だ。私を信じるとは、おかしな奴だ」
古代は、立ち上がると、彼女に正面から真っ直ぐにその瞳を見つめた。
「君こそ、我々を信じているから、銃を捨てたんだろう?」
サーダは、首を振った。
「違う。既に目的は達成した。私が死のうが、この船が落とされようが、事態を変えることは出来ない。だから、お前に銃を向ける意味がない。そんなことより、お前と最後に話してみたいと思ったまでだ」
古代は、サーダの言わんとしていることを悟った。
「そうか……。さっき、僕が言ったことを、君は気にしているんだね? 本当に、暗黒星団帝国の意思で、君がこんなことを、始めたのかどうか」
サーダは、素直に頷いた。
「そうだ。でも、お前は、苦し紛れに思いつきを言っただけだ。そうだろう?」
古代は、頭をかいた。
「参ったな……。確かに、その通りだ」
サーダは、つまらなそうに肩を落とした。
「そんなことだろうと、思っていたよ」
「でも……」
「…………」
サーダは、古代が何を言うのか期待した。
何を私は、期待しているのだろう?
「君が、僕らと同じ種から生まれた仲間だと言ったのは、これまで得てきた知識からも客観的な事実だし、本当にそう思っている」
仲間……。
こいつらは、下等な生き物に過ぎ無いと思っていた。
だが、いつから……?
サーダは、記憶を辿った。謎の敵に故郷を滅ぼされた時の記憶。今でも、鮮明に思い出すことが出来る。
悔しいと思っていた。
奴らに復讐したいと思っていた。
それがどうだ?
そんな奴らと、自分の何が違うのか。
「僕らの故郷、地球も、一度は滅びそうになったことがある。敵だったガミラスは、僕らの憎い敵だった。それなのに、僕らはガミラス人のことを知ってしまった」
古代は、サーダに更に訴えた。
「ガミラスの人たちは、僕らと何ら変わりのない、普通の人たちだった。お互いに刃を交わしたことで、僕らも彼らを傷つけ、同じように憎まれていた。それで分かったことがある。僕らのメンタリティは同じだったんだ。傷付けられれば、その相手に憎しみを持つし、優しくすれば、互いに笑顔になれる。憎しみ続けることに、何の意味がある? 僕らは、そんな辛い過去を乗り越え、理解し合い、和解することが出来たんだ。これは、同じメンタリティを持つ種族同士なら、普遍的なものだと僕は信じている。君たちもそうだ。誰かに傷つけられ、その相手を憎んでいる。でも、それと同時に、癒やされたいとも思っている。だからこそ、平和だった故郷を取り戻したいと思っている。そのことは、僕にだって気持ちは理解できる。ということは、僕らは、分かり合える筈なんだ」
サーダは、唇を噛んだ。
「お前は……。敵とも、分かり合えると、そう言うのか?」
古代は、頭を振った。
「それは、やってみなければ分からない。だけど、諦めずに、確かめてみる価値はあると僕は思う」
サーダは、悔しそうに顔を歪ませた。
「お前は、私と和解できると思っているのか!? ガトランティスや、ガルマン帝国と和解できる訳がないだろう! 彼らは、私たちを憎む。永遠にだ。私たちが、そうだったように、彼らは、これから故郷を奪われ、その憎しみを消すことなんてあり得ない!」
古代は、そんな彼女へ向けて微笑した。
「でも、君は気になった。僕と話してみたいと、そう思ってくれた。それが、もう答えなんじゃないのかい?」
サーダは、笑顔を向ける古代に衝撃を受けた。そして、足元をふらつかせて、後退った。
「……な、何故お前は笑える。私は、お前たちを破滅させようとしている憎き敵だ! そうだろう!? 私は、ここでお前たちに憎まれながら死ぬのだ。そうで無ければ、犠牲となった同胞たちや、シーラにも申し訳が立たない……!」
古代は、真剣な表情で、彼女に言った。
「それは違う。生きていれば、真実を追求したり、償いをしたり、その憎しみの連鎖から解き放たれることだって不可能じゃない。僕は、君がそうしたいなら、協力してもいい」
「綺麗事を言うな……!」
「……まだ間に合う。僕らは、今回の事態を止めようとしている。君も、協力してくれないか? 我々の行動を、見逃してくれるだけでいい」
サーダは、更に後退った。
「私に、近寄るな。私は知っているぞ。お前たちが、コスモリバースシステムを使おうとしていることを。私に、コアになれと思っているのだろう? そんなことを、私が承諾する筈がないと、お前も分かっているのだろう!?」
古代は、首を振った。
「そうじゃない。実は、僕は少し前にテレサと話したんだ。テレサは、今回のことを利用して、この宇宙を滅ぼそうとする何者かの意思が存在することを示してくれた。それが何なのか、彼女は教えてくれなかったけど……。その意思は、僕らのこの宇宙その物を、終わりにしたいと思っているらしい。彼女は、身を捨てて、その破滅から宇宙を救おうと考えてくれている」
「テレサが、コアになる……というのか?」
古代は頷いた。
「君も、テレサのことは知っているんだね?」
サーダは、今の話に考え込んだ。
今回のことを利用して、宇宙を滅ぼそうとする意思……?
それは、何なのだ?
それこそ、我々の敵、そのものではないのか?
その敵の存在を明らかにすることが、本来なら同胞が望んでいたこと。
そのことを、テレサに、確かめられれば……。
そうしたら、シーラは許してくれるだろうか?
サーダは、苦しそうな表情で立っていた。今にも、力尽きて倒れそうだった。
「もうすぐ、我々の運命は決する。これを止めるなど、奇跡を起こすようなものだ。テレサが本当にコアになるのか、見ものだな。そうしたら、私も、お前を信じよう。理解し合える時が来るとな。そして、お前の言う、真実の追求や、償いを考えてもいい」
古代は、大きく目を見開いた。
「ほっ、本当かい!?」
サーダは、耳を塞いだ。
「急に大きな声を出すな!」
古代は、苦笑いで答えた。
「ご、ごめん。つい、嬉しくて」
サーダは、古代を睨みつけた。
「テレサがコアになるというのが、実現したら、の話だ」
その時、技術科の乗員が背負っていた通信機のコール音が鳴った。
その音は、鳴り響いている。
「出ても、いいかな?」
古代は、サーダに尋ねた。
サーダは、顎を動かして、出てもいいと示した。
「ありがとう」
「私が、出る」
真田は、通信機の受信ボタンを押下した。空電音と共に、ノイズが聞こえてきた。
「……真田さん。こちら桐生」
「真田だ。どうした」
「テレサに、動きがあります」
「コスモリバースシステムは?」
「まだです。反応はありません。それより、テレサの姿が、消えてしまいました」
「何!?」
「次元潜航艦の方に確認しました。消えちゃったんです。すうーっと」
真田は、悔しそうにしていた。
「何てことだ。そうか……。テレサはその場を離れたのか……」
サーダは、真田の方を向いた古代の背に、笑いかけた。
「見たことか! テレサと話しただと? 笑わせるな。結局、あれは逃げ出した!」
サーダは、オートマタ兵に命じて銃を構えさせた。
「もう、こんな茶番は終わりにしよう」
その時、真田は、古代の顔を不思議そうな表情で眺めていた。
「古代?」
サーダも、その異変に気付いた。
「何だ、どうしたというんだ」
サーダは、つかつかと古代に近付くと、彼の肩を掴んで振り向かせた。
古代は、テレサの姿に変わっていた。
その瞬間――。
サーダの意識は飛んだ。
気がつけば、宇宙船の中にいた。
白色星団連邦は、謎の敵に襲撃され、サーダは母星を脱出する輸送船にいた。
その船内でも、謎の敵は襲って来ていた。
どこからともなく来た彼らは、友人だったシーラを襲い、彼女は瀕死の重傷を負っていた。
「シーラ!」
サーダは、彼女の腹部から流れる血を、手で抑えようとしていた。しかし、そんな自分の背後から、何者かが彼女の背を貫いた。鋭利な刃物が、自分の胸から突き出している様子を見た瞬間、彼女は口から血を吐いた。
サーダは、意識を失った。
気が付けば、手術台の上にいた。何者かが、彼女の身体に何かしていた。
「手術は、無事に成功した」
「次の被験者は?」
「今日は、人数が多い」
目がよく見えない……。
サーダは、周囲の様子を確認しようとした。隣のベッドには、シーラが寝かされていた。彼女は、裸にされ、首から下は、明らかに人工物で出来ている。
そうだ。
あの時、私たちはこうして機械の身体に変えられたのだ。どうして、今まで忘れていたのか……。
サーダは、思わず、叫び声を上げていた。
「ああああああ!!」
サーダは、真っ青な顔をして、床に座り込んで、叫び続けていた。
古代と真田は、唖然とした表情で、その様子を眺めていた。
ぜいぜいと息を切らしたサーダは、苦しそうな顔で、古代たちの方を見た。
「わ……私に……何をした……?」
「……僕は、何もしていない。いったい、急にどうしたんだ?」
「わ……私は、取り返しのつかないことをしてしまった……!」
その時、イスカンダル艦隊の司令船では、四人のイスカンダル人が祈りを捧げていた。
それを見守っていたランハルトは、艦橋の窓の外に、大きな像が薄っすらと現れるのを見た。
「……テレサ!」
ランハルトは、四人のイスカンダル人の身体が輝き始めるのを確認した。
「祈りが通じたのか……?」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。