宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
両手で顔を覆ったサーダは、泣き声を抑えようと嗚咽していた。
辛いことを思い出させてしまいましたね――。
サーダの脳裏に、話しかける声がした。
彼女は、その声に導かれて、顔から手を離した。
お前は、テレサ……?
ええ、私は、テレサ。
私は、ずっと、騙されていた。
偽物の記憶を植え付けられて。
どうして、こんな酷いことをされなきゃいけないんだ?
テレサは、黙っている。
教えてくれ……。私や、シーラが何をした? そんな目に合うような、悪いことをしたのか?
……彼なら、あなたのその行き場の無い怒りや、悲しみを、受け止めてくれるでしょう。
無理だ……。私がしてきたことは、神様だって許してくれない。
……。
どうして、何も話してくれない?
私にも、出来ることと出来ないことがあるのです。この世界に干渉し過ぎれば、無数の可能性世界が増殖してしまいます。それは、この宇宙の寿命を縮めることに繋がります。私は、既に干渉し過ぎています。そうしない為に、私は、この世界を去る必要があるのです。それが、まさに今なのです。
私も……。私も、連れて行ってくれ……!
いいえ。あなたには、まだやるべきことが、この世界に残っています。今はまだ、その時ではありません。
私のやるべきことなんて、もう無い。
もう、何もかも終わったのだ。
あなたは、真実を知った。
それでも、やることが無いと言い切れますか?
……!
同じ頃――。
ランハルトの声で、シャルバートやスターシャたち四人は、通常空間に、テレサが現れていることを知った。
四人の姿は輝きを増し、その輝きと共に、テレサもまた、金色に輝いていた。
皆さん、ありがとう。私の為に、祈ってくれて。
テレサの声が、四人の心の中で囁いていた。
あなた方の祈りが、私をこの地に繋がりを持たせ、留まらせてくれています。私は、今から旅立ちますが、あとのことは、皆さんにお任せします。
テレサ……!
シャルバートは、テレサに語りかけた。
彼女は、謝罪の言葉をかけなければならないと思っていた。しかし、その言葉を発するまでもなく、テレサはわかっていた。
……あなたの、その気持ち、分かっています。
あなたの子孫である、イスカンダルの皆さんは、長い年月贖罪に身を捧げ、この宇宙を救う努力をしてくれました。私は、それでもう満足しているのです。
皆さん、どうか、私のいたことを忘れないで。
私の代わりに、すべてのあまねく星々、その命の輝きを見守っていてください。
スターシャ、サーシャ、そしてユリーシャは、瞳を閉じたまま、微笑んでいた。
時を同じくして、ムサシにいた桐生美影は、突如として、コスモリバースシステムが、光り輝き始めるのを目撃した。
「う……動いた!」
彼女は、慌てて端末を操作して、モニターした。
通信機のスイッチを入れると、彼女は急いで真田へと連絡をとった。
「こちら桐生! 真田さん、応答して下さい!」
少し間があって、その真田からの応答があった。
「今度はどうした?」
「コスモリバースシステム、再稼働を確認しました! これなら、起動できます!」
「何!?」
真田は、古代に急いでそのことを伝えた。
「やったぞ、古代! コスモリバースシステムの起動準備が整った」
「本当に!?」
「直ちに、起動すべきだ」
古代は、うずくまって泣き続けているサーダの方を見た。
「すみません、少しだけ待って下さい」
古代は、サーダの肩に手を置き、優しく言った。
「サーダ……」
サーダは、顔も上げずに言った。
「……やってくれ。これを、今すぐ止めてくれ」
古代は、頷いた。
「分かった……ありがとう」
古代は、真田の方を向いて、合図した。真田は、通信機の向こうに、落ち着いた声で指示をした。
「桐生くん、直ちに、コスモリバースシステムを起動してくれ」
「……分かりました! 今から起動シーケンスを開始します!」
桐生は、チャンネルをオープンにして、この宙域の全艦隊へと通信を送った。
「全艦隊に告ぐ! 科学実験艦ムサシは、コスモリバースシステムを起動します。コスモリバースシステムから発せられる閃光を直視しないように注意してください。また、幻覚などの症状が出ることがあります。何かに掴まり、システムの起動に備えてください。十秒前からカウントダウンを開始します」
桐生のカウントダウンの音声は、通信回線を通じて、集まったすべての艦隊に伝わった。
「起動十秒前、九、八……」
それを聞いた人々、土方も、デスラーも、キーリングやミルも、固唾を飲んで、これから起こることを見守っていた。
古代は、サーダのそばに寄り添ったまま、通信機から流れるカウントダウンの音声を聞いていた。そのサーダも、祈るような姿勢でそれを聞いている。
「五、四、三、二、一……、コスモリバースシステム、起動!」
桐生は、端末を操作して、画面に表示された起動実行のボタンに触れた。
その瞬間、コスモリバースシステムは、金色の輝きを放ち始めた。
ムサシの周囲を、眩しく光が覆った。その光は、超巨大戦艦に伝搬し、全体が強く輝き始めた。
輝く光の輪は、やがて超巨大戦艦よりも、ずっと大きく広がった。
その光は、やがてその宙域全体を覆い、辺りは何も見えなくなって行った。
そして――。
……………
…………
……
古代の身体は、遠く離れた宇宙空間を漂っていた。
遠い未来で、銀河団一帯にまで広がった次元の綻びは、急速に閉じて行く様子が、手にとるように分かる。
そうか……。
因果の確定が覆され、元の状態へと戻ろうとしている。
そして、無数の可能性世界の分岐が、急速に消滅して行くのが、今の古代には、理解することが出来た。
ああ……。
これは、テレサの視点なんだ。
あらゆる過去や未来の出来事や、無数の分岐する枝葉までもが、一度に理解できる。
星々は、ものすごいスピードで、古代の間を通り抜けて行き、収束して行った。
「……古代さん」
囁くような声が、どこからともなく聞こえて来た。
「……その声は。テレサ、なのか? どこにいるんだい?」
「今は、どこにでも……。この宙域いっぱいに、私という存在が広がっています。コスモリバースシステムは、きっと、上手く働いてくれるでしょう」
「僕らは、また、君に頼ってしまった。今回は、君一人に、犠牲を押し付ける形にしてしまった。本当に、これで良かったのかい?」
テレサの温かい感情が、古代の胸に広がった。
「私の役目は、終わりました。あの千年前のあの日、イスカンダルの艦隊に私たちの星が滅ばされた時、本当はあの時に私という存在は、この世界から失われる筈でした。それが、ほんの少し、遅れただけです」
「また、会えるかな?」
テレサの姿は見えないのに、笑っている様子が、古代にも伝わった。
「そうですね。その可能性はあります。その時まで、しばらくの間、お別れです」
テレサは、少しの間、沈黙した。まだ、何か伝えようとしていることが、古代にも分かった。
「……どうか、これからも、あなたらしくいてください。それが、この宇宙の平和と繁栄の礎になるでしょう。この世界を、あなた方に託します」
その言葉を最後に、テレサの存在は、急に感じられなくなって行った。
「テレサ……! 待ってくれ、今回のことは、結局誰がやったことなんだ? 最後に、それを教えて欲しい……!」
テレサの存在は、更に遠く失われて行った。
「テレサ!」
……………
…………
……
古代守は、真田の研究室を訪れていた。
「古代くん、今日はどうしたの?」
古代は、ドアの所に寄りかかると、新見薫に言った。
「真田に本を返そうと思って」
古代は、鞄からその本を取り出した。
「何これ。らしくない本を読んでるのね」
古代は、苦笑いで応えた。
「酷いことを言うなぁ。実はさ、防衛軍で、別の惑星に移住するって案を検討しててね。どんなことを気にしなきゃならないのか、興味があってさ。そうしたら、これを真田が貸してくれたんだ」
新見は、ふうんと頷いていた。
「で、どうだったの?」
古代は、両手を広げた。
「俺には、ちんぷんかんぷんだった」
新見は、思わず吹き出して、笑い出した。
「そんなに笑うことないだろう?」
古代は、不満そうにしている。新見は、ごめんごめんと謝ると、真面目な顔で言った。
「……防衛軍では、居住可能な惑星の捜索と平行して、人類の居住条件を満たしていない惑星へ移住する計画もしているのね。火星で成功したテラフォーミングより、もっと効率のいい方法を研究している……ってとこかしら。私も、興味があるかも」
「そうなんだ。俺にも分かるように、教えてくれよ」
「じゃあ、食事でも奢ってくれない?」
古代は、頭をかいていた。
「高くつきそうだな。だったら、真田に教えてもらうよ」
「でも、今日は、先生は外出してていないから」
古代は、中を覗き込んだ。
「誰もいないのか。仕方がない。じゃあ、今からどう?」
「のった!」
新見は、鼻歌を歌いながら、帰り支度を始めた。
古代は、真田がいつも座っている席に、その本をそっと置いた。
タイトルに、「バイオスフィア 人工生態系の研究」とある。
……………
…………
……
古代は、はっと気が付いた。
古代の背後の宇宙の星々は、物凄い勢いで流れて行く。
「テレサ! 今のは、どういう意味なんだ!? 教えてくれ! テレサ!」
……………
…………
……
そして――。
コスモリバースシステムから広がった光が収まり、人々は、その間に見た様々な光景に戸惑いを隠せなかった。
ある者は、亡くなった筈の大切な家族と再会し、ある者は、信じられない程の未来の光景を目撃していた。
コスモリバースシステムが起こした奇跡は、人々に、再び生きる勇気を与えていた。
ムサシでは、桐生がコスモリバースシステムの状態を確認していた。機能を停止した装置は、完全に沈黙している。
桐生は、亡くなった父と再会する夢を見ていた。大切な想いを胸に、彼女の瞳は潤んでいた。
「逝っちゃったんだね……。ありがとう」
桐生は、胸の前で両手の指を重ね合わせ、祈りを捧げた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。