宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「白色彗星帝国の逆襲」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」、「連邦の危機」、「ギャラクシー」の続編になります。


白色彗星帝国の逆襲148 戦いの終わり

 コスモリバースシステムの起動から数日後――。

 

 ガルマン帝国艦隊は、次元の裂け目の発生した第三惑星から第四惑星の間の宙域の調査を行っていた。結論から言えば、次元の裂け目は、既に閉塞しており、危機が回避されたことが、正式に確認された。

 その間、ガルマン帝国本星では、超巨大戦艦による攻撃で発生した気象異常や洪水により、被害を受けた地域の復興活動を行おうとしていた。しかし、それらの地域では、洪水など無かったかのように、何の被害も確認出来なかった。直接砲撃を受けた地域では、街が破壊された場所もあったが、亡くなった筈の多くの人々の生存が確認されていた。もともと、攻撃された地域の多くの居住人口が少なく、被害は人々が思っていた程大きくないことが判明した。

 また、同じく砲撃を受けて巨大なクレーターが形成された筈の月面にも、何故かその痕跡が確認出来なかった。 

 キーリング参謀長官らは、最後の戦いの前にガルマン星系から退避させていたヒステンバーガー少将や、ウォーゲン准将らの艦隊を呼び戻し、これらの調査活動に当たらせていたが、誰もが皆、狐につままれたかのように感じていた。

 最も、人々を驚かせたのは、第三惑星と第四惑星の間の軌道に、新たな惑星が発見されたことである。調査の結果、無人ではあるものの、人が居住可能な環境の惑星であり、更なる詳しい調査が必要だった。キーリングらは、一通りの今回の戦いの後始末が済んだあと、本格的な調査団を派遣することを決めた。

 

 サーダはというと、コスモリバースシステムの起動が完了した直後、古代たちに逮捕され、超巨大戦艦内部で拘束されていた。しかし、彼女は第四惑星の再生の報を聞いた直後に、見張りを倒して脱走をはかった。彼女は、超巨大戦艦を捨て、小型の宇宙船で飛び出し、あっ言う間にワープして何処かへと消えて行った。

 結局、ガルマン星系の捜索はしたものの、追跡までは行わなかった。

 そして、その行方は、ようとして知れなかった。

 

 ムサシに戻った古代や真田は、新見や桐生と共に、コスモリバースシステムの状態について確認し、更にはガルマン星系一帯のガルマン帝国艦隊の調査報告を受けて、その分析を行っていた。

 真田と新見、そして桐生によれば、ガルマン帝国本星や月が受けた攻撃の多くが無かったことになっている原因は、やはりコスモリバースシステムを起動したことと、関連性が高いだろうと結論づけていた。

 そして、新たに現れた惑星の問題について、真田はサーダの故郷である、かつて存在していた第四惑星ではないかと仮設を立てていた。それが、コスモリバースシステムが起こした現象なのか、結論は出ていない。そもそも、本来であれば、消滅した惑星を再生する力は無いとされていたものだ。これについては、ガルマン帝国が許すなら、更なる継続調査が必要だろうと、彼らは考えていた。

 しかし、誰もが感じたことがある。それは、テレサという存在が、コスモリバースシステムを動かしたことで、何らかの奇跡を引き起こしたのではないか、ということだ。

 なお、サーダが逃げ出して残された超巨大戦艦の扱いについては、廃棄すべきとの意見で一致していたが、真田は、コスモフォワードシステムだけは、研究の為に借り受けたいと譲らなかった。もともと、シャルバートの所有物であった為、シャルバートがそれを許可したことで、ガルマン帝国側も、しぶしぶこれを認めた。地球人であれば、正しい使い方をしてくれるだろうと、各国が信頼してのことだった。

 桐生は、早速ヤマト型の三番艦として、シナノかキイの名を付けてコスモフォワードシステム用の船を建造することを主張したが、流石に誰も取り合っていない。

 

 その一方で、ガトランティス艦隊は、ガルマン帝国に協力し、宙域一帯のデブリの回収作業を行っていた。大規模な艦隊戦が行われたことにより、安全に船が航行するのに支障があることが判明し、ミルはその責任を取る為に、かなり面倒なその作業を買って出ていた。しかし、ガトランティスを信用して良いのか半信半疑のガルマン帝国艦隊とは、別々に作業をすることになっていた。

 生き残ったユーゼラー提督や、ナスカ提督らが率いる艦隊では、これに反発するもの、事情を理解して協力しようとするものと、結果的に民族を二分する事態が起きていたが、あまり大きな混乱には発展しなかった。

 そもそも、暗黒星団帝国にガトランティスが操られていたという事実について、サーベラーが介在して説明したことが功を奏したからだ。

 

 そして、イスカンダル人たちは、波動砲艦隊の扱いについて、どうするか議論していた。しかし、そのまま放置すれば、新たな戦乱を巻き起こしかねず、ガルマン星系の太陽に突入させて、処分させることに決めた。

 艦隊の自動運用を設定した彼女たちは、デウスーラへと戻り、艦隊が消滅するのを、デスラーと共に見送った。

 

 そして――。

 

 ガルマン星系には、多数の新たな艦隊が現れていた。それは、惑星ファンタムで待機していた五百隻はあるかというシャルバート教信者たちが中心となって作られた反乱軍の大艦隊で、戦後の対応に追われていたガルマン帝国は、為す術もなく、星系への侵入を許していた。

 デスラーは、そこでガルマン帝国に向けて、宣言をすることになる。デウスーラから、彼は、ガルマン帝国本星や、まだ宇宙で船に乗っていたキーリングらに通信を送っていた。

「ガルマン帝国の諸君。私は、元ガミラス帝国総統のデスラーである。ここに現れた反乱軍は、君たちと争うつもりは無い。しかし、我々は、我々が敬愛するイスカンダルの同胞を始めとした、多くの人々が、このガルマン帝国で圧政を受け、長年虐げられて来たことを知っている。そこで我々は、すべての人々の自由を掲げる、新たな国家建国を宣言する。その名も、イスガルマン・ガミラス帝国……!」

 キーリングとグスタフは、デスラーの宣言に、驚きを隠せなかった。

「イスガルマン……ガミラス帝国?」

 デスラーは、静かに頷いた。

「そう。我々は、君たちの領土に隣接した宙域で、新たな国家を作る。我々の国家に参加したいというものは、誰でも受け入れるだろう。そして、我々は、これよりボラー連邦にも赴き、同じく圧政を受けた人々の参加を募る。自由を求めるすべての人々を、我々は待っている。尚、ここにいる反乱軍は、私のこの案に賛同してくれた。これより、共に国家建国に尽力してくれるだろう」

 デスラーと一緒に通信に出ていたスターシャは、彼に続けて話をした。

「私は、元イスカンダルの女王、スターシャ。私は、デスラー総統と想いを一つにしています。イスガルマン人は、私たちイスカンダル人の大切な同胞です。私は、あなた方が、奴隷のように扱われている事実を知り、心を痛めてきました。そしてそれは、イスガルマン人に限らず、同じ思いをしている多くの人々も、私たちは受け入れたいと考えています。今こそ、私たちとともに、自由に生きる道を探しましょう。私は、すべてのあまねく星々の知的生命体が救われ、その人生が希望に満ち溢れることを、心から願っています」

 ガルマン帝国本星にいた人々のうち、純血のガルマン人以外の人々は、半信半疑でその話を聞いていた。

「私たちを、自由にしてくれるっていうの?」

「どうする?」

「馬鹿、帝国軍に聞かれたら、俺たちは終わりだぞ」

「あの女の人は、まるでマザー・シャルバートのようだわ」

「本当だ。似ている……」

「信じてもいいのかしら?」

 そんな人々の迷いの声は、キーリングも知っていた。しかし、今はどうすることも出来なかった。

 そして、艦上にいたグスタフは、二人の宣言を聞いて、青くなっていた。

「参謀長、まずいです。政府も軍も弱体化した今、このタイミングを狙っていたのです。これまでの政府の方針に従えば、このようなことを許すわけには行きません。我々の領土のあちこちで、反乱や移民が起こりかねません」

 キーリングは、デスラーとスターシャの話を受け、考え込んだ。

 確かに、グスタフの言う通りではあったものの、この圧政を強いてきたのは、総統ボルゾン率いる政府の役人たちである。もともと、そのような奴隷制に疑問を持っていたキーリングは、ボルゾンの考えには反対の立場だった。しかし、その総統ボルゾンは、もういない。政府機能が失われた今、それを決定出来る権限を持つのは、キーリング自身だ。

「グスタフ。これまでの政府の方針については、私にも思うところがある。今は、私が最高指導者だ。我々も、国民と共に話し合う必要があるだろう」

「参謀長……」

 キーリングは、にやりと笑ってデスラーとスターシャに言った。

「お二人とも、残念ながら、現在は、我々の政府はまともに機能していない。今優先すべきは、戦後の後始末なのでね。ですから、あなた方が、どうしようが、今は関心がない。しかし、あなた方には、ガトランティスの侵攻を止めてくれた恩がある。国民に、今の話をどう思うか、私も尋ねてみることにしましょう。あなた方とは、この戦後処理が終わったら、改めて話し合いの場を設けさせて頂きたい」

 デスラーは、頷いた。

「構わないよ。私は、君たちに恩を売る為に、戦った訳ではないのでね。では、その時にまた会おう」

 通信を切断したデスラーは、続けてガミラス正規軍と、地球艦隊へと連絡をとった。

「リッケ大佐、そして土方総司令。しばしの別れの挨拶をしておこうと思ってね。我々は、反乱軍と共に、銀河系の中心近くの中立地帯を挟んだ宙域に、新たな国家を築くだろう。既に、居住可能な惑星にも目をつけている。落ち着いたら、我々から連絡しよう」

 土方は、最初にそれに返事をした。

「あなた方の次元潜航艦隊が無ければ、この戦いは敗北していたでしょう。地球連邦を代表して、お礼を言わせてください」

 デスラーは、ふと笑った。

「なに、君たちの国とは、これで同じ銀河に住む隣人だ。何かあれば、今後も協力し合えれば、それでいいのではないかね?」

 土方は、デスラーに敬礼した。

「本国に戻ったら、貴国と新たな関係を築くよう話しておきましょう」

 デスラーは頷いた。

「待っているよ」

 ミランガルで通信を受けていたのは、ネレディアの他に、デウスーラから移乗したランハルトや、サーシャとユリーシャ、そしてシャルバートがいた。

 ランハルトは、彼らを代表して返答した。

「デスラー総統。私は、これから地球に帰還しますが、すぐに地球駐在大使の任を解かれることになるでしょう。本国に戻ったら、バレル大統領には、デスラー総統の新国家建国を報告すると共に、是非とも同盟を結ぶべきだと、進言しておきます」

 デスラーは、ふっと笑みを浮かべた。

「おやおや、気が早いね。まぁ、楽しみにしているよ」

 ユリーシャは、スターシャに話しかけた。

「スターシャ姉様……」

 スターシャは、優しく微笑している。

「サーシャ、ユリーシャ。私はアベルトと一緒に行きます。シャルバートと彼女の同胞たちのことを、お願いします。シャルバート。あなたは、本当に、イスガルマンの方々に、呼び掛けなくてもいいの?」

 シャルバートは、頭を振った。

「私が、シャルバート教の伝説のマザーだなんて、彼らが知ったらきっと幻滅するわ。このまま、皆は知らないままの方がいい。私は、皆をイスカンダルに連れ帰れれば、それでいいのよ。スターシャ、私の代わりに、あなたが皆のマザーになってあげて」

「そうね。荷が重いけど、やってみるわ」

 サーシャは、スターシャに語りかけた。

「結局、また離れ離れね、お姉様」

「落ち着いたら、連絡するわ。遊びに来てくれていいのよ?」

 サーシャは、頭を振った。

「ユリーシャは、これからもガミラスの方々と、マゼラン銀河の平和の為に、協力するって言うし……。私には、今は何もない。私だけが、今もイスカンダルの救済の任以外の道を見つけられていない。だから、私はこれからそれを見つけてみせますわ。そうしたら、その時こそ、会いに行きますわ。そうねぇ……。まずは、ガミラスで良い人を見つけてみるのもありかも知れないわね」

 そう言って、サーシャは、ランハルトの方ににじり寄った。

「な……何か?」

「ふふふ……別に?」

 サーシャは、ユリーシャに言った。

「そういえば、ユリーシャには、帰る前に話さなきゃいけない人がいるんじゃありません?」

 ユリーシャは、急に咳き込んだ。

「お、お姉様。それは……その」

「後悔しないように、ちゃんとお話しをされた方がいいと思いますわよ?」

 ランハルトは、黙ってそのやり取りを眺めていたが、結局口を出した。

「私が言うことではありませんが、その方がよろしいでしょうね。ユリーシャ様」

「ランハルトまで……」

「私もそう思うわ。頑張ってね、ユリーシャ」

 スターシャまでもがそう言い、ユリーシャは、顔を真っ赤にしていた。

「もう……皆で!」

 その後、しばらくして、デスラーのガミラス回遊艦隊と、反乱軍の艦隊は、一足先に、ガルマン星系を離れて行った。彼らは、これから新たな国家、イスガルマン・ガミラス帝国の建国に向けて、忙しく働くことになる。

 

 その後――。

 

 ある程度の後始末が終わり、各国の代表者がガルマン帝国の首都に招かれ、一夜限りの簡単な親睦会が開かれた。ガルマン帝国の酒と軽食が振る舞われ、人々は、ようやく一息ついていた。

 その席上、各国は正式に同盟を結ぶことに合意した。これから、それぞれ自国の政府に持ち帰り、正式な調印に向けて動き出すことになるだろう。

 ボラー連邦がその場にいなかったことで、これからも対立は続いて行く可能性があった。しかし、本星をガトランティスに滅ぼされたボラー連邦は、大きく弱体化しており、この同盟関係を見れば、容易には手出しが出来ないことは明白だった。

 ガトランティスについては、ガルマン帝国だけで無く、それぞれの国家が甚大な被害を受けており、容易には同盟関係など結べないと結論付けられた。しかし、サーベラーは、被害を受けた地域での復興支援を約束し、今後の関係改善に向けて尽力することを約束した。

 ミルは、そんなサーベラーの助言を受け、全員を連れてアンドロメダ銀河の故郷へと帰ることを決めた。

 

 ミルは、その場でサーシャの姿を認めた。彼は、勇気を振り絞って、彼女に話しかけに行った。

「サーシャさん」

 サーシャは、ガルマン帝国の軍人らしき人物と楽しそうに話していた。振り返ったサーシャは、ミルの姿を見ると、笑顔を振りまいた。

「ミルさん。良かったですわね。ガトランティスの皆さんと、故郷へ帰れることになったのでしょう?」

 ミルは、苦笑いをしていた。

「そうなんですが、果たして上手くやれるのか、心配も多いんです。私たちは、例のテレザートの洗礼を受けていませんから。ズォーダー大帝に、そんな私たちがご迷惑にならなければ良いのですが」

「でも、きっと、あなたがいれば大丈夫」

 サーシャは、彼の手を両手で握ると笑顔を向けた。ミルは、顔を赤らめてたじたじになっていた。

「あ、ありがとうございます。これで、あなたとはお別れとなりますので、最後にご挨拶が出来て、本当に良かった」

 その時、サーシャは、ふと思いついたことがあった。

「ユリーシャは、今まで通り、ガミラスの皆さんの為に働くって言ってるし。わたくし、ガトランティスの皆さんの為に働けることってないかしら?」

 ミルは、目を丸くしている。

「ええっ!?」

 サーシャは、うーんと考えている。

「確か、そのうち、こちらに戻るって言っていたかしら? ガルマン帝国の復興支援をするとか」

 ミルは、彼女の話は半分で聞かなければ、また勘違いをしてしまうと警戒していた。

「は、はい。サーベラー様との相談にはなりますが、今のところ、支援物資の提供や、労働力の提供などを考えています。それに、ガルマン帝国だけで無く、ボラー連邦側にも、同じことをしようと考えています。ボラー連邦側は、ガルマン帝国よりも、更に我々を受け入れてもらうのは難しいと思いますが」

 サーシャは、再び考え込んでいた。ミルは、彼女が何を言い出すか、興味を惹かれながら見守った。

「うん! そうしましたら、わたくし、そのお手伝いをやらせて頂きますわ。あなた方が、信頼されるように、出来ることをやらせて頂きますわ。戻られたら、知らせてくださいます?」

 ミルは、不思議なことばかり言う彼女に、やはりどうしても惹かれてしまっていた。

「ええ。それはありがたい。でも、いったい、どうやって連絡を取れば……」

「そこは問題ですわね。でも、何とかなるんじゃありませんこと?」

 にこにこと笑う、屈託の無い彼女につられて、ミルも自然と笑顔になっていた。

「そう……そうですね。その時は、またお会いましょう。今から、楽しみです」

 二人は、そうしてしばらく話していたが、彼女は、今度は地球人の姿を見つけると、手を降って声をかけていた。

「あら、あなた! 待って頂戴!」

 ミルは、苦笑いして去って行く彼女を見送った。

 その場にいたユーゼラーは、彼女が離れたのを見届けて、ミルに近寄った。

「大帝。やはり、我々は肩身が狭くて、居心地が悪いですよ」

「ユーゼラー提督。だが、これも仕事だよ。我々は、今後は、いろいろな民族と相互理解を深めていかねばならないのだから。それよりも、ナスカ提督はどうしているかな?」

 ユーゼラーは、手に持ったグラスを差し出して、ナスカのいる場所を示した。離れた所で、サーベラーと共に、ナスカがガルマン帝国のキーリングと話している様子が見える。

「サーベラー様は、次々にああやって、外交活動に励んでいます。なかなか、骨が折れますよ。皆、我々には心を開いてくれませんから」

 ミルは、ガトランティスの正装の裾を掴んで伸ばした。

「ならば、私もサーベラー様の所へ行ってこよう」

「申し訳ありませんが……。私は、今、適当な理由を付けて、抜け出して来た所なので……」

 ミルは、にこりと笑って言った。

「ならば、少し休んでから、もう一度来てくれ」

 そう言って、ミルは、サーベラーの元へと向かって行った。

 ユーゼラーは、ため息をついて、彼を見送った。

 

 サーシャは、ユリーシャの手を掴むと、彼女を引きずって進んでいた。

「ちょ、ちょっとお姉様! どこに行くつもり!?」

 ユリーシャは、その先に、星名の姿があるのを見つけた。急に腰が引けた彼女は、その場に座り込んで動かなくなった。

「止めて、お姉様。お願い!」

 しかし、結局その様子に、星名の方が気が付き、逆に近寄って来た。

「サーシャ様、ご機嫌いかがですか?」

 星名は、にこりと笑ってサーシャに話しかけた。

「まぁまぁかしら。それよりも、ユリーシャが、あなたと話があるみたいなの。妹を、頼みますわ」

 サーシャは、そう言うと、手を降って笑顔で立ち去って行った。

 星名は、困ったような顔で、その場にうずくまるユリーシャの姿を見つめた。

「ユリーシャ。顔を上げて」

 ユリーシャは、差し出された彼の手を見つめた。

 彼女は、ふらふらと、その手を思わず取っていた。

「ちゃんと、また会えたね。お互い、無事で本当に良かった」

 ユリーシャは、顔を赤らめて、ゆっくりと立ち上がった。

「あ、ありがとう、星名……」

 ユリーシャは、どうしても、目を合わせられなかった。

「星名……。あなたと話しがしたかったのは、本当、だから」

「僕もだよ」

 ユリーシャは、そう言われて、やっとのことで、目を合わせることが出来た。

 二人は、しばしの間、見つめ合った。

「あのね、私……」

 ユリーシャは、決意して言った。

「たぶん、これで最後だから……聞いて。あなたに会えて、私は本当に感謝しているの。こんな気持ちを知ったのは、あなたがいて、そして百合亜がいたから」

 星名は、黙ってそれを聞いていた。

「その気持ちは、本物だったと思う。でも、あなたには、あなたの帰る場所があって、私には、私のやるべきことがある」

 ユリーシャは、彼の手をそっと握った。

「聞いたの。あなたを助けようと、百合亜が命がけで戦っていたことを。あなたは、やっぱり百合亜を選ぶ筈。だから、この気持ちには、もうさよならしようと思うの。今まで、私のわがままで振り回して、ごめんなさい。そして、ありがとう、星名」

 星名は、優しく語りかけた。

「こちらこそ、ユリーシャ。君のことを、大切に思った気持ちは、僕も本物だよ。それは、偽りなく本当だった。だけど、君の言うとおり、百合亜は僕の為に命をかけてくれた。そんな彼女と再会して、二人で話をしたら、いろんな思い出が蘇ってきて……やっぱり、彼女を大切にしたいと思ったんだ。だから、僕も君への気持ちは、どこかにしまっておかなきゃいけない」

 ユリーシャは、少し寂しそうに、笑った。

「そっか。通じ合っていたのかな。同じことを考えていたんだね」

「そう、みたいだね」

 ユリーシャは、彼の手を取ったまま、下を向いた。

「あなたは、本当に優しい。あなたの気持ち、忘れないから。これからも、友達でいてくれる?」

「もちろんだよ、ユリーシャ」

 二人は、しばし見つめ合い、ユリーシャは、名残惜しそうにその手を離した。

「じゃあ、また。百合亜にもよろしくね」

「うん、伝えておくよ」

 ユリーシャは、踵を返すと、小走りに立ち去った。瞳からは、どうしても涙が溢れ出そうとしていた。

 星名のそばには、いつの間にか、百合亜が立っていた。

「星名くん。ユリーシャ、何の話だったの?」

 星名は、にこりと笑った。

「しばらく、またお別れだから、挨拶をしてくれたんだよ」

 百合亜は、彼の顔をじっと見つめた。

「ん? どうしたんだい? 何か、ついてる」

 百合亜は、首を振った。

「ううん。ごめんなさい。何でもない」

 百合亜は、知っていた。ユリーシャと星名の間で、何かただならぬ関係になりそうになっていたことを。

 だからと言って、それを問い詰めるのは何か違う。そうやって、束縛したり、わがままを言って、彼を困らせるのは、もう止めると決めた。たぶん。そうやっていたことで、彼の心は離れそうになっていたのだから。

 今彼は、私の方をちゃんと見てくれている。だから、私も彼を信じる。

「地球に帰ったら、今度は私も長期休暇を取れるから。星名くんは?」

「藤堂長官に報告書を提出したら、たぶん僕も休暇が取れると思う。一緒に、火星のマゼラン市に遊びに行ってみない?」

 百合亜は、目を潤ませた。

「ど、どうしたの!?」

 百合亜は、涙を拭った。

「ご、ごめん。本当にあなたが無事で良かった。一緒に遊びに行こうとか、何気ないことが、とても大切なことなんだなって、改めて気付いたの。そうしたら、涙が出てきちゃった」

 星名は、彼女が懸命に彼を救おうと動いたことを、いろんな人づてで聞いていた。それを思うと彼女の頭を自然と撫でていた。

「もう、大丈夫だから。君も、本当によく頑張ったね。ありがとう」

 百合亜は、嬉しそうに頷いた。

 

 ユリーシャは、近くのテーブルに並んでいた飲み物を取ると、壁際に寄りかかっていた。

 とうとう、彼と完全にお別れをしてしまったと、彼女はうつむいていた。そんな彼女の隣に、いつの間にかランハルトが立っていた。

「嫌なことを忘れる為に、お酒を飲まれるのは、悪いことではありません」

 ユリーシャは、口を尖らせて言った。

「放っておいてくれないかな?」

 ランハルトは、自分のグラスを傾けた。

「放っておけません」

 ユリーシャは、仏頂面のまま、自分のグラスの中身を一気に飲んだ。

 ランハルトは、彼女から空のグラスを受け取ると、すぐに別のグラスを持って戻って来た。ユリーシャは、受け取ったグラスに口をつけると、ため息をついた。

「あーもう。全然酔わないよ」

「そういえば、ユリーシャ様はアルコールに対する耐性が強かったのを思い出しました。同じ量を飲んでも、あなたはそこまで酔わないんでしたよね」

「そんなことないから。それよりも、あっちにいっていてよ」

 それでも、ランハルトは顔色一つ変えずにその場を動かない。

「私は、前に地球で一緒に飲んだ時のことを時々思い出します」

 ユリーシャは、黙ってグラスを傾けた。

「あんなに馬鹿騒ぎをしたのは、生まれて初めてでした」

 ユリーシャは、ようやく、彼の言うことに、興味を示した。

「それは、私も。そういえば、ランハルトは、雪のことはもう忘れたの?」

 ランハルトは、少し困ったような顔をしている。

「そんなことを、よく覚えておいでで……。ええ、きっぱりと。古代の奴と、随分と幸せなようですから。しつこくつきまとうのは、無粋というものでしょう。大切な人の幸せを願い、心のどこかに想いをしまっておくのが、一番良いんです」

 ユリーシャは、黙ってそれを聞いていた。

 そうか……。ランハルトも同じなんだ。

 ユリーシャは、ため息をついて、彼に話しかけた。

「私もね、そうしようとしてる。でも、上手く行くのかな? そんな気、全然しないよ?」

「それなら、新しい恋をすればよろしいかと。これから、叔父の作る国に、イスガルマン人が大勢集まって来るでしょう。イスカンダルの同胞たちとも、これからは出会う機会が増えるでしょうから。イスカンダルの王族を血を絶やさぬようにするには、それが一番良いんじゃないでしょうか?」

 ユリーシャは、頬を膨らませている。

「よく知らない人と、仲良くなるのは大変」

 ランハルトは、少し微笑んで彼女の方を見た。

「ならば……。一介の大使風情では、あなたと釣り合いませんが」

 ユリーシャは、ランハルトが言おうとしていることに気がついて、彼の真っ直ぐな瞳を見つめた。

「私が、将来、ガミラスを背負う立場になった時は、あなたに相応しい男になっているかも知れない」

 ユリーシャは、彼の言葉に思わず微笑んだ。

「ふうん。それって何年後のこと? 私、オバさんになっちゃうかもよ?」

「私は、それでも構いませんが……。なるべく早くそうなるよう、善処しましょう」

 ユリーシャは、にっこりと笑った。

「そう? なら、私も考えてみるよ。ランハルトは、タイプじゃないけど」

「知ってます」

 二人は、互いに笑いあった。

 

 古代は、ガルマン帝国の高官たちとの会談に疲れて、少し離れた所で休んでいた。ぼうっと周りを見ていると、ランハルトとユリーシャが、何やら仲睦まじげに話しているのが遠くに見えた。

 そんな古代の元に、雪は美雪を連れてやって来た。

「どうしたの? そんなところで一人で」

 古代は、眠そうにしていた。

「う、うん。ちょっと、疲れが出たかも」

 雪は、あくびをする古代の口を、手で塞いだ。

「ん、な、何?」

「しっ! 流石に、ここであくびはまずいよ」

 古代は、両手で自分の頬を叩いた。

「ごめん、ごめん。しっかりしないとな」

「パパ、しっかい!」

 美雪は、舌足らずな喋りで、古代を激励しているらしい。

「ああ、ありがとう。美雪の言う通りだ」

 古代は、美雪を抱き上げて、腕に抱いた。

 雪は、この数日、古代が時折考え込んで、寝不足になっているのを知っていた。何か、悩んでいるのは間違いない。しかし、自分から積極的には、話してくれそうもない。

 雪は、目を細めて聞いてみた。

「古代くん? 何か、私に隠し事あるでしょ?」

 古代は、ぴくっと反応していた。

「そ、そんなこと、ないさ」

「何か、それ嘘っぽいな」

 雪の目は、疑いに満ちている。

「まいったな……」

 古代は頭をかいている。

「……僕にも、よくわからないんだ。この間から、考えているんだけど」

 古代は、テレサと最後に交わしたやり取りのことを、雪に明かした。

「どう思う? 兄さんが言っていた言葉と同じだよ。僕には、ちんぷんかんぷんだった」

 雪も、うーんと考え込んでいる。

「……なんだろう。人工的な生態系……? それに、どういう意味があるのかな……?」

「それが分からないから、考えているんだよ」

 雪は、諦めたような顔をしていた。

「真田さんや、新見さんには話したの?」

 古代は、首を振った。

「いや、まだだ。テレサは、僕だけに話した。だから、僕が考えるべきかなと思って。もう少し考えても、らちがあかなければ、もちろん相談するつもりだよ」

「分かった……。なら、私も、考えてみるよ。それって、火星が正にそういう環境だったよね? 人工的に、環境を整える必要があって、それを人間の手で維持しなければ、すぐに生態系は壊れてしまう」

 古代は、頷いた。

「火星か。確かにそうだね……。そういえば昔、火星のテラフォーミングを始める時に、そんなことは上手くいく筈がないって批判を浴びたこともあったらしい。人間が、神のごとく振る舞うのは、驕りだって……」

 古代は、そこまで言ってはっとした。

「どうしたの?」

 古代は、しばらく考えていたが、結局頭を振った。

「馬鹿馬鹿しい。やっぱり、真田さんに相談した方がいいかな」

 

 それから――。

 

 ガトランティス艦隊は、一足先に、アンドロメダ銀河へと、旅立って行った。

 そしてバーガーらは、シャルバートと、サーシャをランベアに乗せると、まずは惑星ファンタムに向かい、シャルバートの同胞たちの入った黒い箱などを運び出した。その後、銀河系中央付近の亜空間ゲートに入り、マゼラン銀河へと帰国の途に就いたのだった。

 一方で地球艦隊は、ランハルトとユリーシャを乗せたミランガルと共に、同じく帰国の途に就いた。帰国後は、土方や古代には、様々な仕事が待っているだろう。そして、ランハルトは大使の任を解かれることになる。

 

 こうして、ガトランティスの侵攻で混乱した天の川銀河は、再び何事も無かったかのように、静寂を取り戻していた。

 しかし、これまでと違うのは、それぞれの民族が、新たな友好関係を築いたことである。

 いつの日か、テレサの望んだ平和な世界が訪れることを願い、人々は、これからも努力を続けていくことだろう。

 

続く…




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。
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