宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
太陽系から数十光年の宙域――。
ガトランティス艦隊、ラスコー級巡洋艦のシャトル格納庫に、空間騎兵隊の大型輸送機は駐機していた。輸送機の扉が、音もなく静かにそろそろと開くと、中から人影が現れ、周囲の様子をきょろきょろと探っていた。
先頭に立つ男は、背後のもう一名に合図して、二人は足早に輸送機を抜け出すと、機体の陰へと隠れた。狭いシャトル格納庫は、隠れる場所もなかった。
「良かった。どうやら誰もいない。ユリーシャたちを探しに行きましょう」
星名は、機体の陰から出ようとしたが、斉藤に引き止められた。星名が斉藤の方を振り返ると、彼は顎で天井の方を指し示した。そこには、監視カメラと思しき物が設置されていた。
「機体の陰から壁伝いに体を低くして移動しようぜ」
二人は、機体の陰からでると、静かに四つん這いになって移動を始めた。すると、先を進んでいた星名が、急に立ち止まった為、斉藤は彼の尻に顔を埋めることになった。
「おい……!」
星名が、無言で指差した先を見ると、壁に人が一人通れる程度の蓋があった。それを理解した斉藤は、無言で頷いた。星名は、音を立てないように蓋を探った。そして、ロックが外れると、彼は静かに両手で蓋を取り外した。
「メンテナンス用の通路でしょう。少し狭いですが、ここを進んだ方がいい」
星名は、小さな声で、説明すると、そのまま振り返りもせずにその狭い通路に体を入れた。
「蓋を元通りにして進んで下さい」
「お、おい、ちょっと待てよ……」
星名がどんどん中に進んで行ってしまった為、斉藤は仕方なく後ろ向きに方向転換し、足の方から後退しながら通路へと入った。そして、床に置いてあった蓋を掴むと、元通りに中から蓋を閉じた。
不自然な格好で通路を進むことになった斉藤は、ぶつぶつと何やら文句を言っている。星名は、少しだけ背後を気にしていたが、表情を引き締めて、前へ前へと進んで行った。
しばらく進むと、通路の広いところに出た。とはいえ、立ち上がることが出来る程度で、相変わらず通路は狭い。斉藤は、そこまで来て、やっと立ち上がって前方を向くことが出来た。
「ふー。どうなることかと思ったぜ」
斉藤が一息ついている間にも、星名はどんどん前に進んで行った。
「おい、そんなに慌てんな。さっきみたいに監視カメラとかに捉えられたら終わりだぞ」
斉藤は、急いで星名に追いつくと、彼の襟首を掴んで立ち止まらせた。
「てめえ、止まれ! ちっとは落ち着きやがれ!」
斉藤は、小声で星名を怒鳴りつけた。そして、無理矢理振り向かせた彼の表情は、暗く悲壮感に満ちていた。
「お前……」
その表情を見た斉藤は、思わず手を離していた。
「……あなたに、さっき言われた通り、こうなってしまったのは、僕の責任です。何としても、ユリーシャたちを連れて、ここを無事に脱出します。このままでは、地球から、どんどん離れた場所に行ってしまうかもしれない。そうなれば、たとえ地球の艦隊が追って来てくれていたとしても、見つけられなくなってしまいます。だから、急がなければ……!」
斉藤は、小さくため息をつくと、いきなり星名の頬を平手打ちした。その勢いで倒れそうになる彼の襟首を両手で掴むと、そのまま首を締め上げた。
「なっ、なにを……!」
「聞け!」
斉藤は、星名に顔を近づけると、押し殺した低い声で言った。
「聞くんだ。そんな調子じゃあ、また同じ失敗をするぞ。とにかく、落ち着いて、冷静になるんだ。そうしたら、手を離してやるよ」
斉藤は、両手で掴んだ襟元を交差させて更に締め上げた。
「くぅ……! わ、わかった、離せ!」
それを聞いた斉藤は、急に手を離した。
ふらふらと床に座り込んだ星名は、苦しそうに咳き込んでいた。斉藤は、腕を組んで彼を上から見下ろした。
「新兵じゃあるまいし、何をそんなに焦ってんだ。どうかしてるぞ、お前」
ぜいぜいと肩で息をしていた星名は、苦しそうな声で言った。
「い……イスカンダル人は、……地球の恩人。……僕たち地球人は、どんなことがあっても、彼女たちをお守りする必要がある……」
斉藤は、口から大きく息を吐き出した。
「それは、俺だってわかっているさ。それにしたって、俺たちは軍人として行動している。俺たちが今やろうとしているのは、要人救出のミッションだ。一層、冷静にことを運ばなきゃ、成功するもんも成功させられねぇ。今のお前の様子じゃあ、まるで家族か恋人でもさらわれたみてぇじゃねぇか」
星名は、そう言われてはっと目を見開いた。
僕は、何をやっているんだ……。彼の言う通りじゃないか……。
脳裏に浮かんだのは、数年前に、ユリーシャの警護をしていた時のことだった。警護を撒いて勝手に地球の街を出歩いた彼女を見つけ出したあの時……。
彼女は、潤んだ瞳で彼を見て、こう言った。
少しだけ、ぎゅっとして欲しいかも――。
星名は、目を固く閉じて、その記憶を無理矢理、心の片隅に追いやった。
百合亜との付き合いも長くなり、近頃は結婚の話題も時折するようになっていた。しかし、時々彼女の我儘に振り回され、手を焼かされることもあった。そんな時、思わずその時の記憶を思い出してしまうことがあった。
僕は、どうかしてる……。
聖なるイスカンダル人に対して、このような感情を持つなんて、馬鹿げている……。
星名は、大きく息を吸うと、立ち上がってほこりを叩いた。そして、斉藤を睨んでから言った。
「すまない。お陰で目が冷めたよ。慎重に行こう」
斉藤は、にやりと笑って言った。
「おうよ。慌てず、急いで、慎重に、な!」
星名も、同じ様ににやりと笑い返した。
その後、二人は歩く速度を緩めて、辺りを慎重に見極めながら、通路を進んで行った。
その頃、ユリーシャとサーシャ、そして桂木透子は、同じ艦内の拘禁室に捕らえられていた。
「ねえ、そこのあなた。この船は、どこに向かっているの? 良かったら、教えてくださらない?」
サーシャは、拘禁室のドアの監視窓から、外にいる監視役のガトランティス兵に声をかけていた。相手の兵士は、困惑しつつも、無視を決め込んでいる。
そんなサーシャの様子を眺めていた透子は、自分のベッドに腰掛けて、くすりと笑っていた。
「無駄よ。サーシャさん。きっと、私たちと喋ったら、彼は罰を受けるのよ。だから、決して話してくれないわ」
サーシャは、がっかりした様子で振り返った。
「つまらないわね。わたくし、この狭い部屋にいるのに飽きてしまったのよ」
透子は、足を組んで膝に肘を立てて、手のひらに顎を乗せていた。
「あなたって面白いわね」
サーシャは、頭の後ろに両腕を組んで伸びをした。
「あなたこそ、何で罰を受けるとか分かるの?」
「……さあね。何となく、よ」
そんなやり取りも耳に入らないのか、ユリーシャは、自分のベッドの上で、膝を抱えて座り、ぼんやりとしていた。彼女の脳裏には、星名と同じ様に、あの時の記憶が蘇っていた。
今度も、彼は私を迎えに来てくれるのかな……?
そうなったら、嬉しい、と思う反面、そんなに都合よく助けてもらえるとも思えなかった。それに、ガトランティスに連れて行かれて何をされるのかも恐ろしかった。こうして、傷つけられずに連れられているということは、すぐに殺されるようなことは無さそうだ。しかし、何か目的があるのも確かなことだろう。
ユリーシャは、ため息をついて祈った。
きっと、助けに来てくれる――。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。