宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
「タラン司令、本艦の真下に、浮上する物体の磁気反応を探知! 敵、次元潜航艦と思われます! あと三十秒で接触してしまいます」
タランは、冷静に応じた。
「やはり、ケーブルの先に居たか。センサーの探知圏内で、攻撃可能な距離をとりたまえ」
デウスーラは、ゆっくりとその場を離れ、少し回頭して、攻撃可能な位置につこうとしていた。そのすぐ後に、敵艦が浮上していく。
敵も、こちらの反応を探知しているはずだが、なぜ、無防備に姿をさらしているのか……?
タランは、これまでのことから推測した。
敵の次元潜航艦は試作艦で、次元航行可能なエンジンがまだ開発中なのではないか? エンジンのみを通常空間に配置して、次元タンクの試験を行っている最中かも知れない……。
タランは、ガミラスでも、同様の試験段階にあった時のことを思い返していた。
だとすれば、先程ゲールの報告にあった通常空間にあった円筒形の物体とは、エンジンかも知れない。
タランは、試してみることにした。
「敵艦は、恐らく航行不能になって浮上しているものと推測される。これより、それを確かめる。威嚇射撃用意!」
「了解、主砲発射用意!」
既に、敵艦の全貌が、艦首カメラで捉えられて、スクリーンに映し出されている。まったく抵抗する様子は無い。
「攻撃開始!」
デウスーラの主砲四門の陽電子砲が、一斉に火を吹いた。陽電子砲の光跡が、敵艦の周囲に伸びていった。しかし、それでも敵艦はそのまま浮上していく。
「攻撃止め! 周囲を警戒! 敵魚雷の反応はどうか!?」
「ありません!」
タランは、確信した。敵の次元潜航艦は、一隻しかいない。
「分かった。全艦、機関始動!」
次元潜航艦隊は、一斉に停止していたエンジンを始動した。
「周囲を警戒!」
科学士官は、センサーの表示に注目して、しばらく反応を確かめていた。
「反応ありません!」
タランは、推測が正しかったことに満足して頷いた。
「脅威は去った。あの艦は、もう無視して構わない。これより、デスラー総統救出作戦を再開する。潜望鏡深度につけたまえ」
タランは、少し浮上した所で、艦橋の天井から伸びている潜望鏡に手を伸ばした。そして、顔をくっつけて通常空間の様子を確かめた。
そこには、先程と同じ様に、デスラーの乗るガミラス艦と、それを囲むガトランティスの艦艇五隻が、変わらず同じ位置にあるのが確認出来た。
更に、潜望鏡を回して、先程スターシャが発見した、ボラー連邦艦隊の様子も確認した。しかし、まだ、離れた所に留まっている。敵の次元潜航艦が浮上すれば、異常に気がついて駆けつけて来る可能性がある。
タランは、潜望鏡を元に戻すと、全艦に発令した。
「今が好機だ。作戦を開始する。全艦、魚雷発射用意! 目標、敵、ガトランティス艦隊!」
ゲールの乗る一番艦も艦隊に戻ってきて、各艦は、一斉に魚雷の発射用意をした。
「二番艦、三番艦、四番艦、攻撃準備完了!」
「一番艦、準備完了!」
「本艦も、準備完了しました!」
タランは、スターシャの様子を確認した。彼女は、かなり疲労がましたような表情をしている。
「大丈夫です、ヴェルテ。始めてください」
タランは、無言で頷いた。
「攻撃開始と同時に、本艦は浮上する。攻撃が成功次第直ぐに、本艦は牽引ビームでデスラー総統の乗艦を異次元空間に引き込む。始めたまえ!」
「了解! 全艦、攻撃開始!」
次元潜航艦隊とデウスーラは、一斉に魚雷を放った。
計二十本の魚雷が、異次元空間を走って行き、次々に通常空間に飛び出した。
五隻のガトランティス艦隊では、レーダーで魚雷が航走してくるのを、早速捉えていた。
「敵魚雷接近! 各艦に四本づつ、三十秒で接触します!」
「何だと!? 回避しろ!」
ガトランティス艦隊は、慌てて回避行動を開始した。
しかし、魚雷の距離が近く、回避するのは不可能だった。
魚雷は、次々にガトランティスの艦艇に命中し、各艦の艦首、艦尾、艦中央で、それぞれ爆発した。
艦の中央から真っ二つになって大爆発を起こす艦、大きな損傷を受けて大破炎上する艦で、辺りは突然火の海になった。辛うじて、艦体の爆発を逃れた艦も、一瞬で航行不能になっていた。
炎上するガトランティス艦艇の一隻では、慌てて通信を行っていた。
「至急、本隊のユーゼラー様に連絡! 敵艦隊からの攻撃を受け、支援が必要だと報告しろ!」
デスラーは、周囲のガトランティス艦が爆発炎上する様子をガミラス艦から眺めていた。同じくガミラス艦にいた兵士たちは、口々に言った。
「味方だ!」
「助けが来たぞ!」
デスラーは、安堵したように笑みを浮かべていた。
「どうやら、助けが来てくれたようだね……」
その最中、炎上するガトランティス艦艇の間から、デウスーラがゆっくりと浮上して来ていた。炎上する艦艇に照らされ、その獰猛な姿を晒していた。
「デスラー総統の乗艦、右舷に健在を確認! 牽引ビームの発射用意!」
スターシャは、焦りと喜びが混じった顔で、艦橋の窓から見えるデスラーの乗艦を見つめていた。
「は、早く! 急いで下さい!」
タランは、冷静に指示した。
「牽引ビーム発射。確保したら直ちに急速潜航!」
デウスーラから、牽引ビームが発射されるが、上手く接続が出来ない。タランは、努めて冷静に対処した。
「もう少し接近して、もう一度、牽引ビームを発射したまえ! 急げ!」
その頃、ボラー連邦の艦隊でも、その様子を確認していた。
「ガトランティスの小隊が、攻撃を受けています!」
試作機動要塞ゼスパーゼでは、艦長のアンドロホフが報告を受けていた。
「ミハイルの報告にあったという敵の潜宙艦か?」
「恐らく」
「試作潜宙艦のミハイルから、たった今連絡がありました。敵と交戦して、航行不能に陥っているとのことです。異次元空間内で、五隻の敵の潜宙艦を確認しているそうです」
「一隻、大型艦を発見! ガミラス艦を曳航して、異次元空間に潜ろうとしているようです」
アンドロホフは、にやりと笑った。
「ガトランティスが捕虜にしたという、ガミラス人を救出しに来たのだな。我々の本星までやって来るとは、また大胆なことだ。この機動要塞ゼスパーゼの試験にちょうどいい。ブラックホール砲発射用意! 奴らを逃がすな!」
ゼスパーゼの艦内は、慌ただしく準備を始めた。
「ブラックホール砲発射用意!」
機動要塞ゼスパーゼは、球体が複数接続された、全体的に丸みを帯びた形状をしている。そのそれぞれの球体に刻まれた溝の光が急速に回転し始めた。
「陽子シンクロトロンブースター正常稼働、陽子ビーム加速中。三十秒で最高速度に達します」
「ビーム発射管開きます」
球状の艦体の側面から、左右それぞれ一門づつの発射装置の穴が開口した。
「発射十秒前! 九、八、七、六……」
ゼスパーゼの艦内は、小刻みに揺れていた。
「三、二、一!」
アンドロホフは、それを受けて命じた。
「ブラックホール砲、発射!」
ゼスパーゼの二門のビーム発射管から、眩い光の帯が射出された。
「高エネルギー反応! 敵の大型艦から、陽子ビームが本艦に向かって来ます!」
デウスーラでは、その報告を受けたタランは、急いで指示を発した。
「牽引ビームの発射中断! 回避行動!」
デウスーラは、牽引ビームを引っ込めると、左舷方向に回頭して、全速でその場を離れた。
ゼスパーゼから発射された二本のビームは、デウスーラが先程までいた場所に到達し、ちょうどデスラーの乗るガミラス艦とデウスーラの中間の座標に命中した。二本のビームは、そこで交差すると、眩い光が辺りを照らした。
デウスーラの科学士官は、その光が収まった座標に、新たな発見をしていた。
「タラン司令! 先程のビームが照射された座標に空間の歪みが発生しています! これは……! マイクロブラックホールが生成されています!」
デウスーラは、突然発生したマイクロブラックホールの重力に捕まり、そちらに引き込まれようとしていた。
タランは、一瞬だけ驚いていたが、すぐに指示を発した。
「全速力で脱出する! デスラー総統のガミラス駆逐艦はどうなっているか!?」
「同じく、マイクロブラックホールに引き込まれています!」
「牽引ビームで捕まえろ!」
再び、デウスーラから、牽引ビームが射出され、今度は接続に成功した。
「よし! 全速で退避! 緊急潜航!」
デウスーラは、エンジンを全開にして、その場を離れ始めた。牽引ビームに引かれたガミラス艦は、その後方に引かれている。
「だめです! あのブラックホールの影響で、次元タンクへの次元注入が出来ません!」
「何!?」
「司令! 先程の陽子ビームの次弾、来ます!」
タランは、流石に冷静さを保てなくなっていた。
「転舵! 回避しろ!」
デウスーラは、全速力を出しつつ、右舷方向に回頭し、飛来する陽子ビームから逃れようとした。
「新たなマイクロブラックホールが発生! 今度はそちらに引き込まれます!」
「全速で回避! マイクロブラックホールの影響から離れるんだ。そうしたら、直ちに潜航!」
その時、レーダー手が、最悪の事態を報告した。
「タラン司令! ボラー連邦の艦隊十隻が、こちらへ接近しています。間もなく、射程圏内に入ります」
タランは、少し青ざめていた。
「このままでは……!」
タランは、思い出したように、艦橋の中央に設置されていた、デスラー砲の発射装置に目線を向けた。銃座のような形状をした発射装置は、デスラーの要望を反映して作られたものだ。敵の大型艦を撃破しなければ、この窮地からの脱出は出来ないだろう。それには、デスラー砲を使うしか無い。
スターシャが何か言い出すかも知れなかったが、この状況を打開する為にも、あれを使うべきだ。
そうしている間にも、陽子ビームの次弾がやって来て、次第に逃げ場が無くなろうとしていた。
タランは、デスラー砲の銃座に向かいながら指示をした。
「デスラー砲を使う!」
しかし、そのタランの前に立ちはだかったのは、スターシャその人だった。タランは、困り果てた表情で言った。
「女王……。このままでは、我々は全滅です。デスラー砲を使わせて下さい!」
スターシャは、悲しげに首を振った。
「……今までの私ならば、ここで死ぬのなら、それが運命だと言っていたことでしょう。私たちイスカンダル人は、遠い昔の祖先の起こした罪の贖罪の為に、今まで生かされていたと、考えていたからです……。しかし……」
スターシャは、デスラー砲の銃座に手を触れて言った。
「そのような生き方は、もう終わりにしたのです。私は、自分の為に生きると決めた。愛する人を救う為に、波動砲を使う事も、私は否定しません!」
スターシャは、デスラー砲の銃座につくと、側面の安全装置を解除するレバーを引いた。
「……デスラー砲、発射用意……!」
スターシャは、鋭い目つきで、デスラー砲の照準を、敵の要塞に向けた。
タランは、呆気にとられてスターシャを見つめた。
「スターシャ女王……」
「早く、発射用意を! 出来れば、アベルトにも伝えて下さい。私が、皆を守るって」
タランは、呆けた表情をしていたが、口元を引き締めて言った。
「承知しました……! 各員、デスラー砲、発射用意!」
「デスラー砲、エネルギー充填開始します!」
デウスーラでは、デスラー砲の発射準備が始まり、艦内にゲシュタム機関の唸りが響いていた。
タランは、通信士に命じて、ガミラス駆逐艦へと連絡をとった。相手は、エンジンが動かず、非常用電源で艦内の生命維持をしている状況だった。
「タラン……。助けに来てくれると、思っていたよ」
デスラーは、少し疲れた表情ではあったが、元気そうではあった。
「少々、苦労していますが。それよりも、総統。実は……」
タランは、スターシャが同行していることや、彼女がデスラー砲を使おうとしていることなどを、手短に伝えた。
「な、何だと……? そのようなことを、スターシャにさせてはならん!」
デスラーは、慌てた様子で、タランに抗議した。しかし、タランは、諦めたような顔をしていた。
「総統。これは、彼女の強い意志です。あなたを救いたいと、一心にそうお思いなのだと思います。私は、それを止めることは出来ません」
その間にも、ボラー連邦艦隊の射程圏内に入っており、砲撃が始まっていた。デウスーラには、次々に敵の砲撃が命中して、艦体に損害が広がっていた。
激しく揺れる艦内の様子が、スクリーン越しにデスラーへも伝わっていた。
「タラン、そちらは、大丈夫なのか!?」
タランは、頷くと、デスラーの返事を待たずに通信を切った。
「デスラー総統の駆逐艦を守れ! 艦を前に出すんだ!」
デウスーラのデスラー砲の砲口には、限界まで達したエネルギーの光が煌めいている。
「デスラー砲、発射用意完了しました。いつでも撃てます!」
スターシャは、照準に映る敵の機動要塞の姿を捉えたまま、それを睨み続けている。
「ありがとう……ヴェルテ」
スターシャは、震える手で、デスラー砲の引き金に指をかけた。
アベルト……。
私が、皆を……。いいえ、あなたを救います……!
「……デスラー砲、発射!」
スターシャは、その引き金を引いた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。