宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
人質輸送中のガトランティス艦――。
ユリーシャたちは、再び拘禁室に戻されていた。人質を盾に取る作戦を、透子の助言で中止した為である。
「地球とガミラスの人たちがこの船を取り囲んでいるみたいね。わたくしたち、ここを出られるのかしら?」
サーシャは、ユリーシャのベッドに腰掛けて独り言のように呟いた。横にいるユリーシャは、膝を抱えて暗い表情をしている。
「どうかな……。そうなれば良いけど」
桂木透子は、ドアの近くに立って、黙って一人外の様子をのぞき窓からうかがっている。
サーシャは、小さな声でユリーシャに話しかけた。
「ユリーシャ。桂木さんだけど……。何だか、この船の艦長さんに気に入られたみたいですわね」
ユリーシャは、顔を上げてちらとサーシャを見て、それから透子の方を見つめた。
「……そうだった?」
「そうよ。それに、艦橋に行くときだって、どこにエレベーターがあるか、まるで知っているみたいに、先に歩いていったでしょう? これって、どうしてかしらね?」
ユリーシャは、言われてみればそうだとは思ったが、さほど気にもとめていなかった。逆に、姉がよく見ているなとぼんやりと思うだけだった。
その時、ベッドの下の床から、かすかに音がしていた。
サーシャは、不思議そうな顔をすると、腰を曲げてベッドの下の様子を確かめた。頭を逆さまにしたサーシャの長い髪が、床に落ちて広がっている。
ベッドの下の床の小さなハッチが開き、中から人の手が現れた。さすがにサーシャは驚いて、無言で横にいたユリーシャの足を叩いた。
同じ様にユリーシャは、ベッドの下を確認すると、人の頭が見えているのを目撃した。声にならない声を出して、イスカンダルの姉妹は、手で互いの体を叩いた。
そこに顔を出していたのは、斉藤だった。彼は、ドライバーのような工具を片手に持ち、得意げに笑っていた。そして、すぐに人差し指を伸ばした手を口の前に出していたが、イスカンダルの二人にも、それが静かにするように、という合図だというのが伝わった。斉藤は、小声で二人に話しかけた。
「よう、嬢ちゃんたち。元気そうだな」
二人は、頭を逆さまにしたまま、こくこくと頷いた。
しかし、斉藤の体の大きさでは、小さなハッチは通れそうもなかった。
「ちっ……俺じゃあ駄目みたいだ。ちょっと待ってくれ」
斉藤は、ハッチの穴の中に頭を引っ込めた。そして、少しして、次に顔を出したのは、星名だった。
「皆さん、大丈夫ですか?」
目を大きく見開いたユリーシャは、驚きのあまり、大きな声が出そうになった。
「ほ……!」
慌てたサーシャが、ユリーシャの口元を手で覆って、口を塞いだ。
「静かに」
サーシャに小さな声で警告されたユリーシャは、自分で自分の口元を押さえると瞳に涙を溢れさせた。そして、今度は、小さな声で言った。
「星名……。助けに来てくれると、思ってた……」
星名も、大いにほっとして安堵した表情になっていた。それまでずっと険しい顔をしていたことは、斉藤しか知らないことだ。内心の喜びを悟られぬよう、彼は冷静に話をした。
「ユリーシャ。本当に無事で良かった。それから、サーシャ様も」
サーシャは、その言い方に、少し違和感を感じて、星名とユリーシャの顔を、交互に眺めた。だが、今は、そのような詮索をしている場合ではなく、その違和感を口にすることはなかった。
桂木透子は、二人のイスカンダル人の様子がおかしいのに気づいて、後ろを振り返った。そして、星名がそこに現れたのを、そっと遠くから見つめて、笑みを浮かべていた。
「このハッチは、小さ過ぎて、僕でも通れそうもありませんね。でも、きっと皆さんなら、痩せてらっしゃるので、恐らく通れるでしょう」
「じゃあ、誰から行きましょうか」
サーシャは、ユリーシャと透子の方を見回した。
しかし、星名は首を振った。
「待って下さい。乗ってきた空間騎兵隊の大型輸送機を使って脱出するつもりですが、いまのままでは無理です。宇宙へ出た途端に、撃ち落とされるのが関の山でしょう。どうにか、地球艦隊に連絡をつけて、救出作戦を中と外から実行する必要があります」
「星名。今、この船の周りは、地球とガミラスの艦隊が取り囲んでいるって知ってる?」
「ほ、本当に? あいにく、外の様子は分かっていなかった。そうだとすると、今がチャンスかも知れないね」
明らかに、自分とユリーシャとで、態度が違うのに気がついたサーシャは、二人がある程度親密な関係にあるのを悟った。
「ふぅん……」
思わず漏らした声に、ユリーシャは反応した。
「サーシャ姉様? どうかした?」
「いいえ。別に?」
星名は、首を引っ込めると、下に戻って何やら斉藤と議論している。そして、しばらくして、再び星名は顔を出した。
「それでは、どこかで通信設備を拝借して、外と連絡をつけてみます。もうしばらく、辛抱して下さい」
ユリーシャは、嬉しそうに頷いた。
「分かった! でも、気をつけてね?」
星名は、無言で頷くと、再び穴の中に戻り、ハッチの蓋を元通りに戻した。そして、拘禁室の近くから、遠ざかって行く気配がした。
「何だか、助かっちゃいそうねぇ?」
「そうだね、お姉様!」
二人は、嬉しそうに笑っていた。そして、離れたドアの所にいた透子を手招きして、その事実を伝えようとした。しかし、透子はそれでもドア付近から動かずに、彼らの様子を眺めていた。
「……」
宇宙基地ギャラクシー――。
古代は、雪と共に、ギャラクシーの司令官の執務室にいた。
デスラーが救出されたことと、逆にスターシャがガトランティスに捕まってしまったことを、藤堂らに報告するためだ。
古代の執務室のデスクの上の端末の小さなスクリーンには、藤堂や芹沢、そして土方が会議室に集まっている様子が映っている。
藤堂は、沈痛な表情で古代の報告を聞いていた。
「古代。それは、大変残念な話だ。ガトランティスの本隊に連れて行かれたとは……。救出は非常に困難だな」
古代も、同じ様に少し暗い表情をしていた。
「そうですね。ユリーシャと、サーシャもまだ解放されていません。明らかに、ガトランティスのこの行動は、イスカンダル人を危険視してのものでしょう」
土方は、古代に尋ねた。
「古代、北米第七艦隊のスコーク宙将からの報告はどうだ?」
「はい。無事に交渉のテーブルに付き、ボラー連邦には、我々の要求を伝えたそうです。ガミラスと地球連邦軍が、ガルマン帝国に味方するかも知れないと脅しをかけて、人質の解放とガトランティスとの同盟を破棄するように伝えたようです。現在は、会談は一時中断しています。恐らく、ボラー連邦側は、指導者のベムラーゼ首相に問い合わせて方針を確認しているものと推測されます」
藤堂は少し驚いていた。
「そんな策をとっていたとは……。ライアン外務長官も、かなり無理をしたようだ」
芹沢もそれには意見を話した。
「それはまずいですな。下手をすれば、ボラー連邦との戦争に巻き込まれかねない」
土方は、黙ってそのやり取りを見守っている。
「分かった。地球連邦政府にも、情報は共有しておく。それから、こちらからも、伝えねばならない情報がある」
「何でしょう?」
藤堂は、困ったような表情をしている。
「……ふむ。実はな、あれから移民船団の乗員を一人一人チェックしていたのだが、乗っているはずの移民団のうち、ガミラス人が三人ほど足りないことが分かった」
古代と雪は、驚いて顔を見合わせた。
「どういうことです?」
藤堂は、不安げな様子を隠さなかった。
「火星での騒ぎで行方不明になったのかと捜索していたんだが……。輸送船の船倉から、三人のガミラス人が、殺害された状態で見つかった」
「何ですって!?」
藤堂は頷いた。
「その三人だが、身元を確認した所、移民団のメンバーでないことが判明した。恐らく、ギャラクシーに居を構えているガミラス人の兵士か民間人だろう。移民団のメンバーが、そちらの基地の誰かと入れ替わっている可能性が高い」
今度は、古代は本当に驚いていた。
「もしかしたら、彼らはガトランティス兵かも知れん。そして、これまでのことから推測するならば、目的は残るイスカンダル人の確保ではないかいう疑いがある」
古代は、雪の方を目を見開いて見た。雪も、古代が言いたいことを理解すると、頷いてすぐに部屋から出ていった。
「分かりました。基地内の警戒を厳にさせます」
藤堂は頷いた。
「頼む。だが、この推測が当たっていないことを祈りたい」
土方は、そこで立ち上がった。
「土方、どこへ行くんだ」
芹沢は、土方の憮然とした表情に驚いていた。
「藤堂長官、芹沢長官。不穏な動きがあります。いつでも、増援を出せるよう、私たちも準備を始めます。距離も遠いことですし、何か起こってからでは、遅いですから」
土方は、そう言い残すと、すたすたと会議室から出ていった。
藤堂は、腕組みしている。
「土方くんの心配も分からんでもない。どうも何かがおかしいというのは、私も思っていることだ。通信はこれで終わりにしよう。そちらも、気をつけてくれ」
古代は、小さく敬礼した。
「はっ!」
その頃雪は、足早に保育室へと向かっていた。保育室が、ガトランティス兵に襲われるようなことになれば、本当にまずい。
雪は、走り出しそうになる気持ちを抑えて、周囲に怪しまれない程度に急いで行った。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。