宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
雪は、急ぎ足でギャラクシー内の保育室に足を踏み入れた。血相を変えて中を確認する彼女だったが、そこに小さなサーシャが、真田の膝の上にいるのを確認した。
「よ、良かった……」
雪は、ほっとして、大きく息を吐き出した。その様子に、中にいた真琴が近寄って来た。
「雪さん、そんなに焦って一体どうしたの?」
雪は、真琴の顔を見て安堵するも、あまり騒ぎを大きくすべきではないと考えて、誤魔化すことにした。
「う、ううん。ちょっと美雪の顔を見に来ただけだよ」
「ママ〜!」
ちょうどその美雪は、雪の足元にぶつかる様に抱きついて来た。彼女は、腰を落とすと、美雪を抱き上げた。
「美雪、良い子にしてた?」
「う!」
美雪は、満面の笑みで大きく頷いた。まだ、あまり言葉は喋れなかったが、少しづつ会話らしきものが出来る様になっていた。
不思議そうな顔をしている真琴に気がついた雪は、苦笑いで返した。そして、小さな声で最近の様子を尋ねた。
「ねえ、真琴さん。つかぬ事を聞くんだけど……。最近、ここにサーシャちゃんを探している人って、来なかった?」
真琴は、首をひねって顔をしかめている。
「はて……。そんな人いたかなぁ?」
「居なければ、別に気にしないで」
真琴は、詮索しようと悪巧みでも始めそうな表情で、雪の顔をまじまじと見た。
「ははーん。そうするってえと……不審者でも出たっていう情報があるんですかい? だんな?」
雪は、たじたじになって、しどろもどろに返事をした。
「ま、まあ、そんな所なんだけど……」
真琴は、思い当たることが無いか、考え込み始めた。
「うーん……。探している人は居ないけど……。でも、最近一ヶ月ぐらい前から保育室の前でよく見かけるガミラス人ならいるよ」
雪は、その話は見過ごせないと思って、すぐさま聞いた。
「それって、どんな人!?」
「えーと……。若いガミラス人で、男二人に女が一人だったかな? 別に、普通に雑談してるだけだったよ」
怪しい……。
雪は、暫し思案した。そうしながら、真田と小さなサーシャの様子を何とはなしに眺めた。以前と同じ様に、真田はサーシャに本を読み聞かせている。どうやら、父親ぶりが板に付いて来たようだ。サーシャも、すっかり真田のことがお気に入りのようだった。
「ああ、あれ?」
真琴は、雪の視線に気がついて説明した。
「最近は、真田さんと新見さん、交代でつきっきりでそばにいるよ。本当は、自室に入れておきたいみたいだけど、部屋に閉じ込めておくのは、さすがに可愛そうだからって、ここで遊ばせてるみたい」
黒髪に染めたサーシャの姿は、地球人の血が入っていることもあり、イスカンダル人かどうかはすぐには分かりそうも無い。
「真琴さん、ちょっと心配だから、気にかけていてくれる?」
「もちろん!」
「じゃあ、私はこれで」
雪は、美雪を下ろすと、真琴に挨拶して去ろうとした。
「ママ?」
美雪は、不満そうにしている。
「ごめんね、ママ、お仕事があるの」
「ぶー」
「ごめん、ごめん」
雪は、そう言って手を振って保育室を出ていった。
真琴は、雪を見送った後、真田とサーシャの様子を眺めて、少しの間考え込んでいた。
人質輸送中のガトランティス艦――。
星名と斉藤は、艦内の通信設備を探して、外へと連絡を取ろうとしていた。そして、乗員の居住区画に、小型の通信設備が設置されている部屋を発見していた。メンテナンス用通路から、艦内の通路に出た二人は、素早くその部屋に潜り込んだ。
「ヤマトでも、居住区画の近くにあったから、もしかしたらと思っていたんだけど、当たって良かった」
星名は、通信機を操作しながら斉藤に言った。斉藤はというと、出入口付近に立ち、外の気配を気にかけていた。
「早いとこ頼むぜ。誰も来ないうちにな」
「わかってる。……でも、少し時間がかかると思う」
星名は、通信機のガトランティス語に悪戦苦闘していた。ディスプレイのパネルや、操作盤のボタンに書かれた文字に、何が書かれているのか、意味がわからないのだ。それでも、いろいろいじっているうちに、何となくだが分かり始めた。
「そうか……。ここを押してから、このパネルを操作して……と」
星名は、ようやく通信機を起動したので、そばにあったヘッドセットを頭につけた。そして、慎重に周波数を変更して地球連邦軍の周波数帯を探った。
「おい、まだかよ」
「もう少し……」
星名は、冷や汗をかきながら、操作を続けていた。
その頃、桂木透子は、拘禁室の外にいるガトランティス兵に声をかけていた。
「そこのあなた、ちょっといいかしら? 大事なお話があるの」
ユリーシャとサーシャは、そんな透子の様子に驚いていた。
「桂木さん、いったいどうしたのかしら?」
サーシャは、透子の方を見ながら首をかしげていた。ユリーシャも、同じ様に首をかしげている。
拘禁室のドアの外にいた兵士は、露骨に嫌な顔をして、無視している。
「知ってるわ。捕虜と勝手に話をすると、厳罰を受けるんですよね。でも、私の話を聞いた方がいいわ。艦長さんに、すぐに伝えた方がいい重要なお話しがあるの」
その兵士は、話が気になったのか、ちらっと一瞬透子の方を見た。それを確認した透子は、満足げに笑みを浮かべてた。
「この船には、地球人が潜入しています。たぶん、ここからそう遠くない通信設備を使おうとしているはずよ。急いで探した方がいいわ」
その兵士は、半信半疑ではあったが、透子から目を離さずに、ゆっくりと身につけていた通信機に手を触れた。
それが聞こえたサーシャは、自分の耳を疑っていた。
「あらっ? ……あれって、どういうことなのかしら?」
サーシャは、まだ首をひねっている。だが、ユリーシャは、真っ青になっていた。
「桂木さん……!」
ユリーシャは、ベッドを飛び起きて、透子のもとに駆け寄った。
「どうして、そんなことを!」
透子は、すまなそうな表情で言った。
「ごめんなさい。私、こんな所で死にたくないの。脱走なんて、上手くいくはずがないわ」
ユリーシャは、あまりの発言に呆気にとられていた。
唯一の望みが、たった今、断たれようとしている。そして、ユリーシャが青くなっているのは、それだけではなかった。
星名が……星名が危ない……!
ガルマン帝国大使館――。
参謀長官キーリングは、大使の執務室から、別室に控えていたライアンやランハルトのもとにやって来た。
「たった今、ボラー連邦のゴルサコフ参謀長官と話をした。我々の要求を受け入れる方向で、本星のベムラーゼ首相と話したそうだ」
ライアンとランハルトは、ほっと安堵していた。
「それは良かった! キーリング参謀長官、ご協力に感謝します」
ライアンは、キーリングに握手を求めた。
「我々としても、ガトランティスとの同盟の破棄だけで無く、休戦協定について、もう一度話し合うことが出来る。私の方こそ君たちに感謝したい」
ランハルトも立ち上がって、同じ様にキーリングと握手した。
「我々としては、本当に安心していいのは、人質が解放されてからだが、まずは私からも礼を言わせて欲しい」
その時、ランハルトは、後ろに控えていた秘書のケールの顔を見た。彼の表情は不安げだった。ケールは、近い将来に起こるであろうことについて、何となく察知する能力がある。彼をランハルトが秘書にしたのは、それが公務に役立つからだ。そのケールが、あのような表情をして訴えているということは、何か良くないことが起こる予感がしているからである。
ランハルトは、ケールに向かって頷くと、キーリングに尋ねた。
「先方は、何か受け入れるに当たって条件などは出していないのか?」
キーリングは、頷いた。
「一つだけある。ガトランティスと話し合う時間が欲しいということだ。君たちの時間であともう三日ほど」
ランハルトは、少し思案した。
時間稼ぎ……?
「キーリング参謀長官。その三日の間に、何か貴国で重要な動きを予定していないか?」
キーリングは、内心考えていたことがあった。彼は、ランハルトの顔を眺めながら、頭を整理した。
確かに、前線にいるグスタフ中将からは、今にもスカラゲック海峡星団での戦闘を行うと聞いている。この戦いは、ガルマン帝国軍の劣勢をひっくり返し、今後の戦いを有利に進められるかどうか、重要なものとなるだろう。
「確かに、無いわけでは無いが、我が国の機密事項で、内容を話すことは出来ない」
キーリングは、ランハルトと互いの心の内を探り合った。ライアンは、二人の間に割り込んで話をした。
「デスラー大使。我々には、祖国のそれぞれの立場があります。仕方ありません。ここは、一旦待ちましょう」
ランハルトは、まだキーリングの顔を見つめていたが、ようやく視線を外した。
「ライアン長官の仰る通りだ。しかし、互いに警戒するに越したことは無い」
「いかにも」
「無論だ」
三人は、心の内の不安を隠しながら、その後、その場を取り繕った。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。