宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「白色彗星帝国の逆襲」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」、「連邦の危機」、「ギャラクシー」の続編になります。


白色彗星帝国の逆襲54 モノローグ

 ミルは、長い時間、地下深く、暗い道を歩き続けている。

 

 どこまでも、どこまでも、続く道。

 

 地の底で、あてもなく。

 

 自分は、どこから来て、どこへ行くのだろう――。

 

 ガトランティスという軍事政権下、ほとんどの帝国の人々は、良い暮らしをしようとすれば、政府の方針に従って、軍に入り、多くの星々を滅ぼし、奴隷にし、非道の限りを尽くしている。それが当たり前の生活だったのだ。

 ミルは、物心ついてしばらくしてから、父親というものが不在の家庭が一般的では無いと知った。母は、女手一つでミルを育てていて、様々な職業についていた。ある時は、ガトランティスの要塞の中にある軍事工場の工員として、ある時は、レストランの店員として、またある時は、夜の街で仕事をしていたこともあったようだ。

 幼い時から貧乏暮らしは、当たり前のことだった。働き詰めの母親は、いつも家におらず、寂しくもあった。それでも、家に帰った時は、母は深い愛情を彼に注いでいた。そうして、いつしか、母親思いの優しい息子として、成長していた。

 軍人になろうと決めたのも、母親にこれ以上苦労をさせたくないという思いから決めたことだった。ガトランティスの軍の制服に身を包んだ彼を、母は涙して喜んでいた。ただ、それでも、非道の限りを尽くすガトランティス軍人として、優しい息子が働けるのかも不安に思っていたようだ。

 幾度かの惑星制圧ミッションにおいて活躍したミルは、順調に昇進し、異例の速さで士官にまでなっていた。そうやって、ガトランティス軍人としての生き方に慣れようと努力していた所だった。

 

 しかし、デスラー総統をガミラスとの戦争の道具にするミッションにおいて、彼は失敗した。デスラー総統が、ガミラスへの復讐など考えていなかったことに、気が付かなかったからだ。デスラーは、居場所の無くなった故郷から、ただ去りたかっただけだったのだ。

 

 デスラーに捕まり、自分の人生を長い間考えていた。せいぜい、捕虜として労働に従事させられるぐらいしか、することも無く、時間はたっぷりとあったのだ。

 軍人となってから、命令とはいえ、大勢の人を殺してきた自らの生き方が正しかったのかどうか、自問自答を繰り返した。そうやって、仲間から遠く離れて一人でいると、戦いに戦いの連続の当時の生き方が、随分と現実離れしていた。それに、ガトランティスの軍の仲間たちは、ミッションを成功させ、功績を上げるのに夢中で、本当に友と呼べるような仲間などいなかったことに気づいた。互いの足を引っ張り合い、騙し合うことも多く、気を許す暇などほとんど無かったことを思い出す。

 捕虜として過ごした時間は、そのような騙し合いも無く、只々労働に明け暮れるだけであり、誰かを陥れたり、殺したりすることも無い。そうしているうちに、軍人になってから、母親のことを考えることも無かったが、無性に子供の頃に受けた、母の優しさを思い出すこともあった。

 そんな時、スターシャが私の姿を認め、捕虜収容所から出すようにデスラーに言ってくれたのだ。

 それから、ガミラス軍人たちと一緒に、農園や、基地設備のメンテナンスなどの労働に従事しているうちに、ガミラス人たちの友情にも触れるようになった。そこで、ミルは初めて、仲間とか、友情とか、そのようなものを得ることが出来たのだ。それに、スターシャから受けた女神の慈悲の心に触れ、誰かに感謝することも覚えた。

 そうして、こんな穏やかな暮らしを続けられるのなら、このほうが幸せなのではないかと考えを改めるようになったのだ。

 

 一方で、あの戦争はどうなったのか、ズォーダー大帝たちはどうなったのかなど、故郷がどうなったのかも強く気になっていた。特に、母親がどうなったか、どうしているかは、彼にとって心残りでもあった。

 戻れるものなら、一度戻って、いろいろなことを確かめたいと思っていたのもまた、本当の気持ちだった。

 

 だが、本当に戻って見れば、故郷の様子は随分様変わりしていた。

 優しかった母親が、何故か女帝を名乗って、軍の作戦を指揮していたり、そして、ズォーダー大帝の息子だと発覚し、自身が大帝の立場に祭り上げられたりと、驚くことが次々に起こった。

 そして、多くの人々を死に追いやるガトランティス軍のやり方は、別の平和的な生き方があるのを知った彼にとって、大いに苦痛を強いるものだった。

 しかし、別人のように冷酷非道なことをやってのける母親に怒りを感じてはいたが、見捨てることも出来なかった。子供の頃に触れた母の優しさ。このような変化をしなければ生きられなかった理由があるようにも思えた。だが、今は彼女の本心を引き出すことは出来そうも無かった。

 

 この地獄のような国から、やはり自分は出るべきなのだ。しかし、どうやって……?

 ガトランティスは、この銀河に住む者の命や文明を、これからたくさん奪って行くだろう。それを止められるのも、ガトランティスの大帝となった、自分しかいないだろう……。

 

 そんなふうに考え事をしているうちに、長く暗い道は、終点を迎えていた。目の前の扉を開け、中に入ると、眩しい光に包まれた。

 

 そこには、静かに眠るイスカンダル人たちがいた。

 スターシャ、ユリーシャ、そしてサーシャの三姉妹。椅子に座ったまま、彼女たちは眠っている。

 ミルは、サーシャの前に跪き、彼女に頭を下げた。

 ここに、彼女たちを捕らえたのも、イスカンダル人は、ガトランティスにとって危険な存在だからという理由らしい。

 ミルは、頭を上げて、彼女の顔を眺めた。美しい彼女の顔は穏やかで、苦しんでいないのが救いだった。

 

 正直で、心の綺麗なミルさん……。

 

 サーシャは、あの時、そう自分のことを表現してくれた。

 

 違う……。

 私は、嘘つきで、汚れた心の持ち主だ。

 ガトランティス人は、この宇宙の生命にとって、悪でしか無い。

 

 そうね……。

 

 ミルは、はっとしてサーシャの顔をよく見た。しかし、彼女は意識を失っている。

 とうとう、幻聴が聞こえて来るようになってしまったか……。

 ミルは、自らの心の闇を嗤った。

 

 声は続いた。

 

 あなたは、やってしまったのね……。とうとう、あなたは恐ろしいことに手を染めた。ボラー連邦の人々を絶滅させてしまった。

 

 ……あれは、違う。私がやったんじゃない……!

 

 いいえ。あなたは大帝。止めることができたはず。本当は、あなたも、血に飢えたガトランティス人。そうでなければ、あんな酷いことは出来ないと思います。

 

 違う……! 違うんだ!

 

 ……何が違うと言うのか。

 今言われた通り、確かに自分なら、出来ることがあったはずだ。

 

 だが、それをしなかった。

 ただ、母親を糾弾し、泣き叫んでいただけだ。

 

 ミルは、長いこと、そこで考えを巡らせた。いつの間にか、声は聞こえなくなっていた。

 

 ガトランティスを止めることは、容易では無いだろう。上手く立ち回らなければ、おそらく、自身も大帝の座を追われ、それこそ何も出来なくなってしまうだろう。

 

 ミルは、そっとその部屋を出た。

 ふと、すぐ近くの別の部屋に、二人の地球人が囚われているのを思い出した。

 中を覗くと、二人の男たちは、自分に何か言っていた。剥き出しの敵意が、自身に向けられているのを、彼は黙って見つめた。

 

続く…




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。

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