宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
銀河系中央部、ギャラクシー跡地――。
ゴルバによって破壊された宇宙基地ギャラクシーは、その無残な残骸が僅かに漂っていた。
デスラーの乗艦、デウスーラ三世は、引き連れたゲールらの乗る次元潜航艦隊で、周囲を捜索させていた。しかし、もはやそこで生活していた者たちの痕跡すら、見出すことが出来ず、徹底的に破壊された事実を確認するに留まっていた。
デウスーラの艦橋で、デスラーは、足を組んで気怠げに、外の様子を映したスクリーンを眺めていた。彼は、眉根を寄せて、僅かに不快感を顕にしている。
横に立つヴェルテ・タランは、とても残念そうな表情を浮かべている。
「酷いものですね……。古代の報告によれば、ガトランティス艦隊の猛攻に耐えたものの、最後は、非戦闘員を脱出させるのが、精一杯だったそうです」
タランの言葉に、デスラーは答えずに、ただ黙って頷いた。
「……彼らは、サーシャを狙って来たようですが、彼女は無事に脱出し、今は古代と一緒にいるそうです」
デスラーは、僅かに口元を緩めた。
「唯一のいい情報だね……。では、あの子を、迎えに行かねばならないね」
「そうですね。カーゼット大佐と合流次第、ここから移動しましょう」
その時、デスラーとタランの目の前に、立体映像の人物が浮かび上がった。
「デスラー総統、ご報告致します」
手揉みをするその小男、ゲールは、悔しそうな表情で、デスラーに語りかけた。
「基地の残骸から、何か回収できないかと捜索していましたが、残念ながら何もありません。基地を守れなかった古代は、必ずや私めが粛清してご覧に入れます!」
デスラーは、目を落としてため息をついて首を振った。
「その必要は無い。捜索は終わりにしよう」
「しかし……」
デスラーは、不愉快な顔色を隠さずに言った。
「下がり給え」
「ははっ!」
立体映像が消えると、タランは少し気落ちした様子で、デスラーに話しかけた。
「……ところで、女王の救出の件ですが、まだ良い案は浮かんでいません。本当に申し訳ありません」
それには、デスラーは、顔の前で手の指を重ねて、真剣な表情になってしばらく黙っていた。
デスラーは、ガトランティスと戦って勝利する自信はあった。しかし、それもスターシャを救出出来なければ、何の意味もない。そのスターシャを救出するには、ガトランティスの大要塞に乗り込む必要があった。古代たちからもたらされた情報によれば、大要塞は白色彗星化しており、更に近づくのが困難になってしまっている。
スターシャ……。
私のこよなく愛する人……。
彼女と過ごしたギャラクシーでの共同生活において、デスラーは、ようやく心の平穏を取り戻していた。地球人との間でもうけたと言う、サーシャのことも、デスラーは愛しいと思うようになっていた。
ガミラス帝国とマゼラン銀河を治める為に、戦っていたあの頃は、既に遠い過去のことだった。
そんなデスラーの目には、スクリーンに何かぼんやりと何かが浮かび上がるのが映っていた。訝しげにそれを見つめたデスラーは、静かに横にいたタランに尋ねた。
「……? タラン。何だね、あれは?」
タランは、同じようにスクリーンを見て、艦の前に何か影が浮かんでいるのを確認した。
「科学士官は、直ちにセンサーで前方の事象を確認したまえ!」
科学士官は、自席のセンサーを操作して、前方の物が何かを探った。
「前方に目視出来る影のような物体ですが、センサーによれば、電気を帯びた塊のように映っています。あ……消えました。今度は、艦の後方に反応があります」
タランは、少し考えていたが、何か思いつくと、すぐにデスラーに言った。
「総統、よろしければ、少し調査してみたいのですが」
「構わんよ」
タランは、少し大きな声を出して、艦橋の乗員に指示をした。
「センサーの反応の方向へ、艦を向かわせてくれ!」
少しして、デウスーラは、エンジンを始動すると、ゆっくりと回頭して、その影のような物の方へと向かって行った。ゲールら次元潜航艦隊も、その後を追う。
「レーダーの反応は?」
「磁気反応のようなものを、長距離レーダーで捉えています」
タランは、航海士に指示をした。
「レーダーの反応に向けて、発進!」
「了解です。機関最大船速!」
タランは、レーダーの表示を確かめると、レーダー手に確認した。
「確か、あちらの方向は、亜空間ゲートがある座標ではないかね?」
「はい。その通りです」
デスラーは、不思議そうにタランに尋ねた。
「タラン、何か、そんなに気になることがあるのかね?」
タランは、デスラーの方を振り向いて説明した。
「以前、真田に聞いた事象とよく似ています。同じ事象だとすれば……。少々、確かめてみなければなりません」
「ふむ?」
デウスーラと次元潜航艦隊は、全速力で移動した。しばらく進むと、彼らの目前に、亜空間ゲートが近づいて来た。
「亜空間ゲートに接近中。このまま進むと、ゲート内に突入します!」
その時、ゲートの正面に、薄ぼんやりとした像が形作られた。それはまるで、祈りを捧げる女性の姿をしていた。
「やはり……!」
頷くタランの横に、デスラーも立ち上がって、艦橋の窓の外の像を肉眼で捉えていた。
「あれは……。確か」
タランは、デスラーに言った。
「はい。あれは、前にガミラス星付近で目撃したテレサだと思われます。我々を、呼んでいるようです」
呆気にとられるデスラーを置いて、タランは、更に航海士に指示をした。
「像に向けて前進!」
「了解。このまま前進し、亜空間ゲートに進入します」
デウスーラと次元潜航艦隊は、亜空間ゲートの内部へと、進んで行った。
「タラン司令! 中に進入した途端、像の反応が消えました」
タランは、自信を持って躊躇なく言った。
「問題ない。居場所は分かっている。そのまま真っ直ぐ進みたまえ」
それから数時間が経過――。
「間もなく、亜空間内部の次元断層が存在する座標に到達するはずだ。確認してくれ」
タランの指示で、科学士官は、センサーで周囲の様子を探った。
「司令、ありました。二時の方向に次元断層があります」
タランは頷くと、デスラーの方を向いた。
「以前、あの次元断層の内部で、テレサと方舟が確認されています。今も、そこに存在しているかは分かりませんが、確認させてください。次元断層に入ったら、テレサを探してみます」
デスラーは、特に顔色ひとつ変えずに言った。
「構わないよ。すべて君に任せる」
タランは、軽く会釈すると、再び艦内に指示をした。
「これより、テレサ捜索の為、次元断層の内部に突入する! 機関半速、内部に進入したら、異次元航行に移行する。ゲシュヴァール機関始動準備!」
艦橋の士官たちは、慌ただしく準備を始めた。
「機関半速、次元断層に進入します!」
「ゲール少将の次元潜航艦隊も、後から続きます」
「間もなく、次元断層内部に完全に進入します」
「ゲシュタム機関停止、続いてゲシュヴァール機関始動!」
デウスーラと次元潜航艦隊は、不思議な青緑色の輝きに包まれた海の中のような異空間を進んで行った。
「センサーの表示に注意したまえ」
タランは、科学士官の座席に移動すると、直接その表示を確かめた。
「反応ありません」
次元断層内部の異空間には、以前発生していた異次元との裂け目の反応も無い。そして、以前ここに留まっていた方舟らしき船体も、もう認められない。
「分かった。速度を落としてもう少し、奥まで入る。航海士!」
「了解。機関、出力三分の一!」
そうして、しばらく進むと、センサーが何か捉えているのを科学士官は発見していた。
「センサーに捉えました!」
タランは、即座に次の指示を出した。
「センサーで捕捉した方向へ転舵!」
回頭するデウスーラの目前に、遂にはっきりとその像が見えて来ていた。
くっきりと巨大な像は、その空間に現れた。その姿は、はっきりと明確に、祈る女性の像を形作っていた。
艦内の乗員が騒然とする中、デスラーは、艦橋の窓に近づき、肉眼でその姿を確かめた。同じく、窓のそばにやって来たタランは、デスラーの隣に並んだ。
「総統……。あれはテレサです。テレサに間違いありません」
「どうやらそのようだね。しかし……。我々に、いったい何の用があると言うのだろう?」
怪訝な表情をしたデスラーとタランは、しばらくの間、その像を見つめていた。
虚空を漂う巨大な女性の像は、彼らに語りかける訳でも無く、ただそこにいた。
……
ふと、デスラーが気がつくと、辺りの様子は、暗い夜の海辺の海岸のような場所に変化していた。
「ここは……?」
呆然と立ち尽くすデスラーのそばで、寄せては返す波の音だけが聞こえている。
デスラーは、波打ち際へと、足を一歩進めると、柔らかな地面に、足を取られそうになった。足元を見ると、真っ白な美しい白い砂が広がっていた。彼は、ゆっくりと腰を落とし、手のひらに砂を掴んだ。握りしめた手の中の、砂はひんやりと冷たく、乾いた感触があった。手を広げると、持ち上げた砂が、指のすき間からさらさらとこぼれ落ちて行く。
デスラーは、そのまましゃがみ込んだまま、しばらくその体勢で海を見つめた。ここは何処だろう、などと考えるのを止め、寄せてくる小さな波をぼんやりと眺めた。
そういえば、ガミラスを捨ててから、何年が経っただろうか。
前に海を見たのは、いったい何年前だっただろうか……?
デスラーの心は、静かな海と同じように、穏やかになっていた。
そうしてしばらくすると、彼のすぐ隣に人の気配があった。そこには、いつの間にか、スターシャが立っていた。彼女は、デスラーに微笑みかけている。
デスラーは、驚いた表情を浮かべて、小さく口を開いた。
「スターシャ……?」
スターシャは、デスラーのすぐ隣にしゃがむと、静かに砂に手を触れて、指でなぞっている。
デスラーは、苦笑して自らを嗤った。どうやら、白昼夢か、幻覚のようなものを見せられているらしいと、気がついたからだ。それとも、スターシャを思うあまり、気がふれてしまったのだろうか、と彼は瞳を閉じて暗く笑っていた。
「アベルト……。あなたの名前は、アベルト、ですね?」
デスラーが隣を見ると、そこにいたのはスターシャではなかった。髪の長い、美しい少女がそこにいた。
デスラーは、頭を振って少女に答えた。
「……いかにも。私の名は、アベルトだよ。君は……。テレサだね?」
少女は、小さく頷いた。
「ここはいったい、何処なんだね?」
テレサは、砂を弄りながら答えた。
「……ここは、時空の狭間。この宇宙には、そのような時空と、別の宇宙を繋ぐ次元の狭間となる特異点のような場所がいくつかあります。ここも、そのような場所の一つなのです。私の本来の居場所は、テレザート星のあったマゼラン銀河にありますが、このような特異点であれば、私は容易に時空を超えて移動することが出来ます」
デスラーは、少女の言っている言葉から、それがどう言うことなのかイメージしてみたが、あまり上手くいったとは思えなかった。
「……何故、私をここに?」
テレサは、視線をデスラーに向けると、静かに話し始めた。
「この宇宙には、再びガトランティスの脅威が迫って来ています。彼らを放っておけば、この宇宙のあらゆる生命、文明が滅びの道を歩むことになるでしょう。誰かが立ち上がって、彼らを止めなければなりません」
デスラーは、息を吐き出すと、彼女の瞳を覗き込んだ。
「それは知っている。しかし、スターシャがガトランティスに捕らえられている以上、話は簡単なことでは無い」
「スターシャ……。あのイスカンダル人は、あなたにとって、とても大切な人なんですね?」
デスラーは、少しためらっていたが、結局頷いた。
「君が、もう一度手伝ってくれるなら、ことは早く片付くのだがね」
テレサは、それには首を振った。
「私は、皆さんの平和を願う心に応えて、ほんの少しのお手伝いをすることしか出来ません。あの時は、戦いでは解決出来ないことがあると、気がついた人たちがいたからこそ、僅かな後押しが出来たのです。今度は、あの時のようには行きません」
デスラーは、不思議そうに首をひねった。
「……どう言うことだね?」
テレサは、遠くを見るように、瞳を海の方へ向けた。
「私は、時空を超え、あらゆる過去や未来の出来事、そしてその可能性世界を知ることが出来ます。でも、今のあなた方が、その可能性のどれを選択するのか、私には分かりません。私が、不必要に干渉することで、新たな可能性世界が生まれてしまい、この宇宙にどのような悪影響を及ぼすか、私でも分からないのです」
デスラーは、テレサの言っていることを理解しようと努めた。壮大な宇宙の秘密の一端に触れようとしているのは何となく分かったが、そのことと、あの時のようにはいかないと言う理由が、よく分からなかった。
「それで? 私にどうしろと言うのかね? 君のような存在に比べれば、私はちっぽけな人間の一人に過ぎないのだが」
テレサは、少し微笑んだ。
「私も、元はあなたと同じ普通の人間でした。ただ、今は命の形があなた方と異なっているだけです。どうか、皆さんと協力して、この宇宙を救ってください。あなた方には、その可能性を選ぶ権利があります。その方法を探してください」
デスラーは、分かったような分からないような、複雑な気持ちになっていた。
「それだけを伝える為に、私をここに呼び寄せたのかね?」
「いいえ……」
テレサは、瞳を閉じて、祈りを捧げるような姿勢をとった。
「あなたに、あのイスカンダル人が思いを伝えたいようだったので。今なら、そのお手伝いが出来ます」
すると、彼女の身体が光り始めて、周囲は何も見えなくなった。
そして、光が収まると、さっきまでテレサがいた場所に、今度は別の人物が現れていた。
デスラーは、驚きと共に、彼女の姿を確認した。
「スターシャ……?」
テレサだった少女は、再び、優しく微笑むスターシャに入れ替わっていた。
「……アベルト。良かった。無事だったのね?」
デスラーは、震える手で、彼女の顔に手を伸ばした。
彼女の頬に触れた手は、確かに暖かかった。そのデスラーの手に、スターシャは自分の手を重ねた。
「私なら大丈夫。あの要塞の中で、眠らされているだけ。夢の中で、あなたの無事を、祈り続けていました」
デスラーは、真剣な表情で、彼女に訴えた。
「私は、必ず君を救い出す。もう少し、待っていて欲しい」
スターシャは、首を振った。
「短い間だったけど、あなたと昔のような関係を取り戻すことが出来た。私は、それに満足しているのです。例え、このまま命を落としたとしても、もう、心残りはありません」
「スターシャ……」
二人は、暫し互いの瞳を見つめ合った。
「アベルト……。ガトランティスは、私たちイスカンダル人を、滅ぼそうとしています。次は、ガルマン帝国に住む、私たちの同胞である、イスガルマン人たちを狙っているでしょう。私は、あなたたちと一緒に、彼らを解放し、平和に暮らす権利を取り戻そうとして来ました。しかし、このままでは、その願いも果たすことが出来なくなってしまうでしょう。どうか、私たちの同胞を救ってください。それが、私の最後の願いです」
デスラーは、表情を歪めて、泣きそうになるのを耐えていた。
「……でも、心残りがまったく無いといえば、嘘になるかしら。私の妹たちが、巻き添えになってしまうのは、とても残念だし……。妹のサーシャとも、仲違いしたままなのも、私にとっては、辛かったわ……。でも、二人なら、きっと分かってくれると信じています」
スターシャは、瞳から涙を溢れさせた。
「それから、娘のサーシャのこと、どうかお願いします。ママは、ずっとあなたのことを愛していると伝えて。そして、アベルト……。あなたのことも……」
デスラーは、彼女を両腕で抱きしめようと、腕を伸ばした。
「スターシャ……!」
デスラーは、そこではっと気がついた。
そこは、デウスーラの艦橋の中だった。
冷や汗をかく彼を、心配そうにタランが見つめている。
「総統……。いったい、どうされましたか?」
デスラーは、頬を伝う汗を拭った。
「……テレサに会った……と思う」
「は?」
タランは、ますます心配そうな顔をしている。
「タラン。間違いない。私はテレサに会った。私の頭の中でだがね。どうか信じて欲しい」
タランは、そこまで彼が言うのならと、その言葉に信じることにした。
「申し訳ありませんでした。総統のお話を信じます。……それで、テレサは、何と?」
デスラーは、にやりと笑うと彼に言った。
「この私に、宇宙を救って欲しいそうだ。ガトランティスを止めねば、宇宙の生命と文明が滅びるとね。それに……。スターシャにも会わせてくれた」
タランは、目を丸くしている。
「本当だよ。スターシャは、自分のことよりも、同胞を救うことを私に頼んで来た。そして、娘のサーシャのことも頼まれた」
タランは、寂しそうな表情のデスラーの横顔を見つめた。
「如何なさいますか? 総統」
デスラーは、マントを広げると歩き始めた。
「私は、スターシャのことも、彼女の望みであるイスカンダルの同胞たちのことも、何も諦めたりはしない。まだ方法は分からないが、スターシャを必ず救い出し、ガトランティスを叩きのめす。直ちにフラーケンに連絡を取りたまえ。恐らく、彼の情報が必要になるだろう。フラーケンと合流したら、まずは娘のサーシャを迎えに行こう。今後の作戦は、その間に検討する」
タランは、艦橋から出ていくデスラーの後ろ姿に向かって、敬礼をした。
「ガーレ、デスラー!」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。