宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
ウルタリア星系第三惑星エトス――。
ウルタリア星系は、ガルマン帝国本星から約五十光年程のごく近い座標に位置していた。惑星エトスは、帝国でも囚人惑星としてよく知られた場所であり、帝国に歯向かい、逮捕された者たちの最後の居場所でもあった。
ガルマン帝国建国時には、最初に併合された星でもある。その時から、エトス政府は、ガルマン帝国政府や政府軍の中核に位置づけられ、強力な艦隊を保持していた。当然、本国の危機には、最初に駆けつける役割を持つ。
帝国でも、特に公共事業が盛んに行われ、多くの都市があり、そして多くのエトス国民とガルマン帝国内の様々な星々の移民が居住している。経済的に恵まれた地であると同時に、帝国に逆らった罪人の受け入れもしており、多民族、そして多種多様な役割を負った場所だった。
対して帝国本星に居住するほとんどの国民は、純粋なガルマン人で占められ、一部奴隷として居住するイスガルマン人を除けば、移民は受け入れていない。そんな帝国本星の代わりに、惑星エトスは多くの異星人を受け入れていた。そして、その中には、多くのイスガルマン人も含まれていた。
ムサシと、戦闘空母ミランガルが率いるガミラス護衛艦隊は、惑星アマールのイリヤ次官の勧めで、惑星エトスを訪れていた。
流石に、ガルマン帝国本星に近い場所と言うこともあり、同盟国であることはよく知られていたようで、彼らは攻撃を受けることもなく、無事に惑星エトスに到着していた。
ムサシとミランガルは、惑星軌道上にガミラス艦隊を残して、エトスの首都近くの海に着水していた。港に付けた二隻の艦からは、代表者であるイリヤと、古代やランハルトらを中心に、その護衛と共に惑星の代表者への面会を求めた。
一行は、周囲の未来的な都市の様子とはかけ離れた、およそ政府のものとは思えない、神殿のような建築物の前にいた。
古代は、その荘厳な建物を見上げて、畏怖の念を抱いていた。
「これはまるで、かつて地球にあったギリシャ神殿のようですね……」
古代に同行を頼まれた真田は、あごに手を当てて考え込んでいた。
「この感じだと、数百年……。いや、もしかしたら千年以上は経過しているかも知れない。私の専門外だが、恐らく、歴史的にも価値がある建物に違いない」
ランハルトも、同じように感嘆を漏らしていた。
「これは、確かに価値のありそうな建築物だ。ガミラスにもこのような建物はあるが、これほど美しいものは無い」
ランハルトの秘書ケールは、静かに遠い目をして建物を見上げていた。それに気が付いたランハルトは、彼に声をかけた。
「そうか。お前はガルマン帝国出身だったな。この建物のことを知っているのか?」
「大使。僕は以前、この惑星の住人でした。そして、僕はこの星から逃げ出したんです。この建物のことも、よく知っています。ここは、シャルバート教教会です」
ランハルトは、目を丸くして驚いていた。
「早くそれを言え。逮捕されたらどうするんだ。お前は、すぐに船に戻れ!」
ケールは、目を閉じて首を振った。
「大丈夫です。今回は、特に嫌な予感もしませんし、多分、僕なんかに気づく人はいませんよ。心配してくれて、ありがとうございます」
ケールは、にっこりと笑顔をランハルトに向けた。
「な、何を言っている。俺は、別に心配などしていない。ここで揉め事を起こして、目的が達せられなくなれば、迷惑だからだ」
ケールは、にこにこと笑っている。
「大使、分かりました。そう言うことにしておきます」
一行の先頭に立っていたイリヤは、二人のやり取りを見て微笑んでいた。
「皆さん。この建物が建てられたのは、約千年ほど前だと言われています。惑星エトスに古代からあった宗教と、約千年ほど前に始まったと言うシャルバート教とが混じり合い、一つになりました。ガルマン帝国唯一の公認されたシャルバート教の教会があるのがこの場所です。そして、教会の大司教こそ、この惑星エトス政府の代表者です」
古代は、そのことについて質問した。
「不思議に思っていたのですが、どうして、シャルバート教の教会が、こんなに堂々と立っているんです? ガルマン帝国は、シャルバート教を弾圧し、発見次第教会を取り潰していると聞いていますが」
イリヤは、大きく頷いてから、声をひそめて説明した。
「当然の疑問ですね。ここは、ガルマン帝国本星にも近く、政府の意思を強く反映出来る場所なのです。ある意味、信者の拠り所をあえてここだけで公認することで、非道な弾圧をしていると言う批判をかわそうとしているのだと思います。そして、危険な思想を持つ信者は逮捕、拘留し、そうでない信者は、ここで帝国政府の監視下に置いている……と言うのが、一般的な見方です。帝国政府は、信者の弾圧などしていない、という立場ですけれども。でも、皆さん。こんな話、大きな声ではしてはいけません。そこかしこに、帝国軍の監視の目があります」
古代は、辺りを見回すと、一定の距離をおいて、ガルマン帝国軍と思われる兵士が立ってこちらを見ているのを確認して少し身構えた。
ランハルトは、ため息をついてこぼした。
「反政府勢力に加担させないようにする為のガス抜きと言うことか。まったく、軍事独裁政権というやつは……」
「ガミラスも、ちょっと前まで、そうでしたけどね」
ケールの言葉に、ランハルトは更にため息をつくことになった。
一行に護衛でついてきた山本と揚羽、そしてルカと数名のガミラス兵は、油断なく辺りを見回している。山本は、鋭い眼光で周りを睨みながら、揚羽に小さな声で囁いた。
「油断しないで。いつ、何があっても動けるように気を抜かないで」
揚羽は、ごくりと生つばを飲み込んだ。
「わ、分かっています」
山本は、ルカにも声をかけた。
「ルカ、あんたもね」
ルカは、その場で長い髪を束ねた。
「玲。問題ない」
イリヤは、背後から近づく人物を振り返り、軽く一礼した。
「私は、中立地帯のアマール政府代表のイリヤと申します。地球連邦とガミラスの代表者の面会をお願いした者です」
相手の女性は、宗教色の強い黒い衣服を身に着けている。イリヤと同じように一礼をした。
「ようこそ。大司教は、中でお待ちです。私の後に着いてきてください」
イリヤは、一行を振り返り、そっと言った。
「では皆さん、参りましょうか」
そうして、一行は教会の中へと導かれて行った。
そして、一行は、内部の廊下をゆっくりと歩いて進んだ。長い廊下は、美しい装飾が施された大きなガラス窓が囲み、外から入った光が照らしている。厳かな雰囲気に、古代は少し緊張していた。
廊下の奥の扉を開けると、そこはまさに教会だった。部屋の奥の中央に演台があり、それを囲むように信者が座る座席と思われる長椅子がいくつも設置されている。壁に質素な装飾が施されていたが、この場所に相応しいものだった。廊下で見たのと同じようなガラスから、外部の光が取り込まれている。そして、天井には、天使とともに、女神が浮かぶ大きな絵画が描かれている。
真田とランハルトは、興味深そうにその絵画を眺めていた。
中央の演台には、シャルバート教の黒い僧衣を身に着けた、白髪で髭を蓄えた一人の中年男性が待っていた。強い意思を秘めた瞳を持つその人物は、一行を見て微笑んでいた。
「お待ちしていました。どうぞ、こちらへ。前にお進みください」
一行は、戸惑いながら長椅子の間を抜けて、ゴルイと名乗る男の前に向かった。
演台の男は、軽く会釈した。
「ようこそ。私は、エトス政府代表のゴルイと言います。皆さん、お見知りおきを」
一行は、ゴルイに勧められ、教会の長椅子に座った。ゴルイも、演台の裏にあった椅子を一脚持ち出すと、彼らの近くへ運ぼうとした。先程、一行を案内してきた女性が、その椅子を運ぼうと手を差し伸べるも、ゴルイはそれをそっと遮って自分で運んだ。
椅子を置いたゴルイは、静かに腰を落ち着けた。
「失礼。それでは、お話しをお伺いしましょうか」
古代は、そこでここを訪れた理由を説明をした。
「私は、地球連邦防衛軍の古代と申します。突然の訪問に快く受け入れて頂いたことに感謝しています。今回、イリヤ次官にご紹介頂き、訪問させて頂きました。まずは、今、この銀河系に訪れている危機についてお話しさせてください」
ゴルイは、古代の瞳を覗き込んだ。
「ふむ。その件は知っています。帝国は、ボラー連邦だけでは無く、あなた方とも同盟を結んで、そのガトランティスの脅威に対応していると。帝国の中央政府からは、何も心配することは無いと聞いていますが……。わざわざ、いらっしゃってお話ししようとしているのは、そうではないからですね?」
古代は、頷いた。それと同時に、相手が思慮深い人物だと言うことを知った。
「ガトランティスは、千年ほど前から宇宙をさすらい、様々な星間国家を滅亡させてきたそうです。数年前にも、マゼラン銀河にやって来たガトランティスは、こちらのデスラー大使の母国、ガミラスにも侵攻しました。この戦いで、当時のガミラス帝国は、危うく滅亡の危機に瀕したのです。彼らは、そのようにして、多くの星々を滅ぼし、そこで奪取した科学技術と、科学奴隷と呼ばれる科学者の拉致を続け、強力な軍事力と科学力を有しています。今回も、更に強力になった白色彗星と呼ばれる兵器や、ゴルバと呼ばれる機動要塞などを使っています。先日、ボラー連邦本星は、これらの兵器の前に、為す術もなく、あっという間に滅亡してしまったそうです」
ゴルイは、大きく頷いた。
「だいたいのことは、帝国政府からも聞いています。確かに、強大な力を持つ勢力なのだと思いますが、だからこそ、皆で手を取り合って、立ち向かおうとしているのですよね?」
古代は、そこで彼が知らないであろうと言う情報を話すことにした。
「そうです。我々は、白色彗星をも打ち砕く、強力な兵器を持っています。それがあれば、簡単には彼らに負けることはありません。ですが、私たちは、ガトランティスに人質を取られていて、ただ戦えば勝てると言う状況にもありません。それに、まだ敵の戦力がどれほどあるのかも分かっていません。我々の戦力は限られており、やはりガルマン帝国やボラー連邦の戦力が無ければ、この戦いは容易ではありません。強固な協力体制が無ければ、勝つことは出来ないかも知れません。こんな時に、ガルマン帝国でも、ボラー連邦でも、反政府勢力が活気づいているとの情報があります。実際に、我々もそういった勢力の一つに襲撃を受け、危うく各国政府の代表者を失う所でした」
ゴルイは、髭に手を触れて考え込んでいる。
「内戦が起きようとしているとおっしゃりたいのですか?」
古代は、残念そうな表情になった。
「はい。その疑いがあります。先日、惑星アマールで襲撃を仕掛けて来たのは、残念ながら、シャルバート教の過激派組織だと聞いています」
ゴルイは、それを聞いて複雑な表情を浮かべた。
「……過激派組織など、シャルバート教にはありません。シャルバート教は、人々に慰みと希望を与える為に存在している平和な宗教団体です。誰が、そのようなことを?」
これには、古代も困惑していた。しかし、古代は、ゴルイが周囲の様子を気にしていることに気がついた。彼らの周りには、少し離れてはいたが、話が聞こえる程度の位置に、ガルマン帝国軍の兵士が何名か立っている。
古代は、この状況では、彼が何も話すことが出来ないのを悟った。
イリヤは、古代に代わって口を開いた。
「我が国の政府です。過激派組織は、そう名乗って襲撃してきたと聞いています」
ゴルイは、急に顔色が変わり、頭を振った。
「私に、そのような組織の所在を尋ねに来たと言うことでしたら、どうぞお引取りを。ここは、囚人惑星でもあります。そういったお話しならば、囚人にでもお尋ねください」
ランハルトは、それを聞いて抗議した。
「待て! まだ話は終わっていないぞ!」
ゴルイは、ランハルトを無視して立ち上がった。そして、古代に近づいて、彼に立つように促した。当惑した古代は、仕方なく立ち上がった。
しかし、古代はゴルイがじっと彼の瞳を見つめているのに気がついた。その瞳は、何か訴えかけるように、少し悲しげなようにも見えた。
そして、彼は小さな声で古代に耳打ちした。
「ここは監視が厳しい。それに、残念ながら私は本当に何も知らない。ザンダルと言う者を探しなさい。彼なら、何か知っているでしょう」
そう言うと、ゴルイはすっと身を引き、大きな声で、一行を連れてきた女性に言った。
「お引取りだ。彼らをお連れしなさい」
古代は、かすかに会釈すると、戸惑う一行の背を押して、その場を足早に去って行った。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。