宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
惑星エトス、カストラーゼ刑務所上空――。
カストラーゼ刑務所は、惑星エトスの首都からおよそ百キロ以上離れた海岸線沿いにあった。夕闇が迫る海岸は、波音も静かに、刑務所が立つ岸壁に波が打ち寄せている。
ミランガルから発艦した、ガミラスの小型兵員輸送機は、ステルスモードで、エンジン音を低くする静音状態を保って静かに海岸線を飛行していた。その輸送機のスライドドアを開けて、山本とルカは、頭に装着した暗視カメラのついたゴーグルで、上空から刑務所を観察していた。
「ルカ、あれが見える? あの刑務所の中央にある尖塔だけど、ちょうど監視塔のある建物から死角になってる。あそこに降下して、中に侵入しよう」
ルカは、山本の指し示す方向を確認してから、ゴーグルのカメラを上に跳ね上げた。ルカの瞳は、生き生きと山本を見つめた。
「それで行こう。あそこに降下するなら、パラシュートと小型のジェットパックを使うのが良さそう。玲、やったことある?」
山本は、拳から親指を突き出して言った。
「大丈夫。地球連邦軍でも似たような装備の訓練をしている。揚羽! お前も、パラシュート降下訓練は経験しているよな?」
輸送機の前の座席にいた揚羽は、装着したハーネスを握りしめて、少し自信なさげに返事をした。
「は、はい。訓練は受けています!」
山本は、その様子に少し心配になっていた。
「ねぇ、大丈夫?」
「大丈夫です! それよりも、古代さんから、潜入するなんて駄目だって、山本さん、釘さされてましたよね!? 本当にこんなことしていいんですか?」
山本は、目を細めて彼を見つめた。
「古代さん? それがどうしたの!? 確かに、私たちは、ムサシの護衛で同行して来たけど、古代さんよりも、もっと偉いガミラス大使閣下のご命令だよ!? どう考えても、こっちの方が優先でしょ!? それに、ルカが出るって言うのに、私たちが行かないなんて、仲間としてどうなの!?」
揚羽は、困り果てた様子で呟いた。
「そっ、それは……そうですけど……」
「えー!? 何? 聞こえないよ!」
ルカも後ろの揚羽を振り返って言った。
「アゲハ。上司の命令違反で気が進まないなら、残ってもいいんだぞ」
ルカにそこまで言われて、揚羽は破れかぶれな気持ちになっていた。
「い、行くよ! 君が行くなら、俺も行くってば!」
山本は、ルカの顔を覗き込んで大きく笑い声を上げた。そして、後席の人物にも声をかけた。
「ところで、後ろのお二人さん! 本当に一緒に行くの!? パラシュート降下なんて出来るの!?」
後席にいたランハルトは、薄く笑って言った。
「俺は問題ない! ケールなら、俺が抱えて行くから心配するな」
ランハルトの横の座席にいたケールは、笑顔で答えた。
「僕は、大使が一緒なら大丈夫です! それに、今は嫌な予感もしていませんし!」
そのランハルト自身も、リッケ大佐から行くのを止められていたにもかかかわらず、偵察任務に出ようとしていた機体に無理やり乗り込んで、飛び出してきていた。今頃は、偵察機が戻って来ないと騒ぎになっている頃だろう。
「刑務所に潜入して、ザンダルとか言う奴に会いに行くと言うのは、俺が言い出したことだ。古代は、正規の手続きを踏もうとまどろっこしいことを始めようとしていたが、そんな時間は俺たちには無い。そう、俺が判断したんだ。俺が行かなくてどうする!」
山本は、やれやれと言わんばかりに、多少呆れていた。
「あんたたちの護衛は、私たちに任せて! じゃあ、完全に日が落ちたら、出よう。皆、パラシュートとジェットパックを用意して!」
そうして、三十分も経過すると、完全に日が落ちて、周囲は真っ暗な闇に包まれた。
カストラーゼ刑務所は、脱走者が出ないか監視の為、複数の投光器の光が動いている。山本の予想通り、上空から潜入してくるとは思っていないらしい。
ルカは、先頭に立って、輸送機のスライドドアを開いた。そして、後ろを振り返って合図すると、最初に飛び出して行った。続いて、ケールを胸の前に抱きかかえて、一緒にハーネスを固定したランハルトは、すぐさま機体から飛び降りた。
その後から顔を出した揚羽は、若干の躊躇をしていた。
「訓練で何回か飛んだけど……あんまり得意じゃななかったんだよな……」
そんなことをつぶやいていると、背後から山本に蹴飛ばされて、揚羽は頭から落ちて行った。
彼の叫び声がかすかに機体の下の方から聞こえていた。
「ここまで来て、まったく……!」
山本は、最後にコックピットにいるパイロットに向かって言った。
「ねぇ! 二時間後に、海岸線の決めた座標に向かうから。もしも、私たちが戻って来なければ、ミランガルに報告して! じゃあ、行ってくる!」
そう言い残すと、山本も機外の暗闇に消えて行った。
無理やりここまで飛行するように言われたパイロットは、後でリッケ大佐から何と言われるか、背筋が凍るような感覚を覚えていた。そう考えている間にも、通信機にミランガルからの連絡があることを示すランプが灯っている。パイロットは、少しためらってからランプを消すと、約束の待ち合わせ場所へと機体を傾けた。
パラシュートを器用に操作して、ルカは刑務所の尖塔脇にあった建物の屋上に、静かに着地した。すぐさま、パラシュートを抱えて畳む。そうしている間に、続いてランハルトの姿が見えた。彼は、ケールを抱えている為、パラシュートの制御は難しいと思われたが、そつなく尖塔脇の屋上に着地した。
「大使! お見事です!」
ケールは、ランハルトとハーネスで繋がったまま、嬉しそうに手を叩いている。
「おい、遊びに来たんじゃない。静かにしていろ!」
ランハルトは、ケールと身体を繋ぎ止めているハーネスのバックルを外して、急いでパラシュートを畳み始めた。その間、ルカは背中に背負って来た小銃を構えて、屋上への出入口を油断なく確認していた。
続いて、揚羽のパラシュートが降下して来た。彼は、屋上に着地すると、そのまま床を転がって、パラシュートに身体を巻きつけてしまった。揚羽が、パラシュートを身体から外そうともがいているうちに、最後の山本が降下して来た。屋上では、揚羽のパラシュートがまだ大きく広がっていて、安全に着地出来る状態ではなかった。
「ちっ、揚羽の奴……!」
山本は、ナイフを取り出すと、空中でパラシュートのロープを一部切り離した。そして、ジェットパックをほんの少し吹かし、屋上の隅の方へと着地点をずらすと、着地と同時に頭から転がって衝撃を抑えた。彼女は、すぐに立ち上がると、風に飛ばされそうな自身のパラシュートを掴んで、自分の方へと引き寄せた。
「揚羽! 何やってんの!?」
揚羽は、それでもパラシュートから抜け出そうともがき続けていた。
「すっ、すいません。着地に失敗してしまって……」
山本は、揚羽よりも先にパラシュートを片付け終わると、背中に背負った小銃を取り出して構えた。そして、尖塔の隙間から地上に設置された監視塔の様子を観察した。彼女の暗視ゴーグルに映る監視塔や警備員の様子は、特に変わったところは無い。
山本は、ほっと胸を撫で下ろすと、まだ絡まったパラシュートの片付けで格闘している揚羽を睨みつけた。そして、彼に走り寄ると、ナイフを取り出して彼の胸ぐらを掴んだ。
揚羽はその剣幕に、殺される……! と思って目を強く閉じて身構えたが、一向にその気配は無く、恐る恐る目を開けると、山本は彼のパラシュートのロープをナイフで切り離していた。
揚羽は、大きく息を吐き出して安心していると、山本がぼそっと言った。
「さっさと、自分でやらないと、手元が狂うかもしれないぞ……」
その目が笑っていなかったので、揚羽は途端に震え上がった。
ルカが警戒している屋上の出入口に、ランハルトとケールは移動した。
「ケール、どうだ?」
ランハルトは、ケールに聞いていた。ケールは、ガルマン人とイスガルマン人のハーフで、近い未来に起こることが、良いことか、悪いことか、何となく感じ取る能力がある。その能力を期待して、ランハルトは彼を連れて来たのだ。
「大使、大丈夫です。悪いことが起こる感じは、今もありません」
ケールは、そうにこやかに答えた。
「分かった。助かる」
ランハルトは頷くと、後ろにいる山本と揚羽に声をかけた。
「二人とも、まだか!?」
その時ちょうど、パラシュートの片付けが終わっていた。山本と揚羽も、急いで出入口の方へと駆け出した。
「デスラー大使。すまない、今終わった」
「す、すみません。ご迷惑をおかけして……」
ランハルトは、首を振った。
「今はいい。気にするな。では……」
ランハルトは、ルカに頷くと、彼女も頷き返した。一行は、出入口の両脇に隠れると、一斉に小銃を出入口の方へ向けた。
それを確認して、ルカは出入口の脇に付いていた開閉スイッチを操作した。出入口のドアがスライドし、彼らは中の様子を確認した。中は、明かりが無く真っ暗だったが、ルカは暗視ゴーグルで中を確かめた。
屋上へ続く階段が下まで伸びており、人影や人の気配は無かった。
「クリアだ。行こう」
最初にルカが出入口から中に素早く入り、階段を音を立てずに降りていった。続いて、揚羽が山本に促されて中に入り、ランハルトとケールが後に続いた。そして、最後に山本が背後を確かめつつ中に入り、出入口のドアを閉じた。
建物の内部に無事侵入した一行は、階段の踊り場でこの後の行動を確認した。
ケールは、自身の携帯端末を取り出すと、建物の構造図を皆に示した。
「エトス政府のシステムに侵入して入手したこの刑務所の図面です。ゴルイ大司教が言っていたザンダルと言う人物は、彼の元々の部下で、エトス政府軍の高官でした。しかし、クーデターを企てていたことが発覚し逮捕され、裁判で有罪判決を受けています。エトスの国内でも、国民に人気のあった人物らしく、特別待遇を受けているようです。そして彼は、この刑務所の最上階に囚われています。しかし、残念ながら、この建物は、三つの塔に分かれていて、彼は、西側の塔にいます。我々は、まずは、三階下……つまり、ここが七階なので、四階まで降り、塔と塔を繋ぐ通路を通って西側の塔に移動します。そして、最上階へ上がり、彼を探します。この写真が、彼の顔です。皆さん、お忘れなく」
皆は、改めて確認の為、ザンダルの写真を眺めた。
ランハルトは、頃合いだと判断して皆の顔を確認して言った。
「よし。皆、行くぞ」
彼らは、階段を下り、三階下の階層を目指して静かに進んで行った。
一行は四階に到着すると、先頭のルカがその階層の通路の様子を伺った。通路は、緩やかな円形をしており、その通路の壁に一定の間隔でドアが設けられている。そこには、囚人を入れた独房が並んでいるようだった。
円形の通路の中央は、吹き抜けになっており、それは最下層まで続いていた。ルカたちがいる場所とは反対側に、真っ直ぐ続く通路が見える。恐らく、先程ケールの話にあった西側の塔に続く通路であろう。
すると、刑務官と思われる人物が、その西側の塔からゆっくりと歩いて来るのが見えた。ルカは、背後の仲間たちに手で合図して伏せるように伝えた。
揚羽は、ルカと並んで階段の影に立つと、刑務官の様子を確かめた。
「アゲハ。あの刑務官が通り過ぎたら、背後から襲って倒す。そうしたら、一気に西側の通路に向かおう」
揚羽は、ルカの自信満々の顔を不安げに眺めた。
彼女は、ガミラス人として、任務を遂行しようと一生懸命なだけなのだ。しかし、この惑星での違法行為をこれ以上重ねる必要はない筈だ。
怪訝な表情になったルカは、彼に尋ねた。
「……どうしたんだ? あいつなら、十分私でも倒せるぞ」
「ルカ。それは心配してないけど……。そんなことをする必要は無いんじゃ無いかな。今回は極秘任務だし、誰にも気付かれず、誰も傷付けずに、終えた方が良いと思うんだ」
ルカは、なるほどと思ったのか、感心したように大きく頷いた。
「そうか、分かった。アゲハの言う通りにする」
そうしている間にも、刑務官は円形の通路を歩み続け、段々と近づいて来た。すると、西側の塔へ続く通路の向こうから、もう一人刑務官が近づいて来るのが見えた、
ルカとアゲハは、後ずさると、後方のランハルトたちと山本に手を振り、今いる階段から動かないように合図した。
「アゲハ。危なかった。あのまま、彼を襲っていたら、もう一人に見つかっていたかも知れない」
「そうだね……。でも、警備がこの間隔でずっとと言うことは無いと思う。少し待機して、様子を見よう」
「うん。そうだな。慌てない方が良いな」
素直なルカに、少し揚羽は拍子抜けした。先程のパラシュート降下のミスで、格好悪い所を見せたと思っていたが、彼女はあまり気にしていないらしい。それが、喜ぶべきことなのかどうか、揚羽は判断に迷った。
そうして、五分ぐらい待っている間に、刑務官の巡回は来なくなっていた。円形の通路にも、西側の塔への通路にも、人影は見えない。
揚羽は、ルカと顔を見合わせて頷き合うと、後方のランハルトや山本に合図した。
一行は、ルカを先頭に再び進み始めた。円形の通路を身を屈めて足早に進む。ルカは、先頭で柱の陰に隠れると、周りを見回して安全を確認し、更に先へと進んで行く。
西側の塔へ向かう通路の端で、ルカは再び陰に隠れると、後ろの揚羽やランハルトたちに言った。
「ここからは、私と揚羽が先に行く。向こうに着いて、安全を確認したら合図する。デスラー大使たちは、それを確認してから進んでくれ」
ランハルトは、素直に頷く。
「分かった。お前たち、気をつけろよ」
「もちろんです」
ランハルトの後ろを守る山本は、不安そうな顔で揚羽をちらっと見た。
信用されていないな……
揚羽は、気を引き締めて、信用を取り戻さなければと思っていた。
その時、ルカは揚羽の肩を叩いた。揚羽が振り返ると彼女は言った。
「アゲハ、一気に走り抜けよう。用意は良いか?」
「大丈夫。行こう、ルカ」
ルカと揚羽は、腰を屈めて立ち上がると、タイミングを合わせて、小走りに進んで行った。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。