宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
およそ、十二時間後――。
資源惑星と工場惑星の制圧に成功した反乱軍は、工場惑星の艦船建造ドックに集まっていた。
工場での艦船建造に従事していた労働者たちと、奴隷として資源採掘をさせられていたイスガルマン人を始めとした囚人たちは、思い思いに自由を喜び合っていた。
反乱軍のリーダー、グワジルドもその中の一人として、幹部たちと嬉しそうに肩を叩き合っていた。
「このドックで建造されていた四十三隻のガルマン帝国艦隊の駆逐艦とミサイル巡洋艦、それに戦艦まである。これがみんな、俺たちの物だ!」
「これだけあれば、少しは作戦行動らしきものが出来るってもんだ。本当にみんなよくやってくれたよ」
「他の工場惑星でも、同じような作戦が実行される筈だ。そうすれば、数百隻の艦隊が手に入るぞ!」
フラーケンに連れられてきたヒネルも、グワジルドに連れられて、その輪に混じっていた。
「ヒネル、ボラー連邦のシャルバート教の組織の方はどうなっているんだ?」
ヒネルは、喜びを爆発させる彼らに、作戦が失敗したことを話し辛そうにしていた。事情を聞いていたグワジルドは、彼を庇って言った。
「今はそのことはいいだろう。なあ、ヒネルたちにも、船を与えてやるからな。好きな艦を持っていけよ。何なら、戦艦を一隻分けてやってもいい」
ヒネルは、手を振って遠慮した。
「それは、有り難い……。でも、俺の仲間は人数が少ない。良かったら、小型の駆逐艦を一隻分けてもらえると助かるよ」
グワジルドは、ヒネルの背を思い切り叩いた。
「遠慮するな! なら、巡洋艦を一隻やろう。決まりだ。いいよな? みんな」
大きな笑い声が響く。
同じく工場惑星のドックに降り立ったデスラーとタラン、そしてフラーケンとゲールは、遠巻きに彼らの様子を眺めていた。
フラーケンは、独り言を呟くようにそっと言った。
「羨ましい。彼らは、明るい未来を信じて、それを疑ってもいないようだ」
ゲールは、少し不機嫌そうに話した。
「そうか? たった数十隻の艦隊で喜んでおるようだが、あれではとてもガルマン帝国はおろか、ガトランティスを相手にすることも出来んではないか」
フラーケンは、真面目な表情で、ゲールの方を見た。
「……誰だって、負けると分かっていても、僅かな可能性にかけて、命をかけて戦わねばならん時がある。あんただって、ここまでに至る間に、一度や二度、そういう事はあっただろう?」
ゲールは、フラーケンに体を寄せると、憎々しげに彼に拳を振り上げた。
「ああ! 確かにあったな。お前に殺されかかった恨みを、わしは忘れた訳ではないからな!」
フラーケンは、一歩後ろに下がると、ゲールの振り上げた拳をするりとかわして、背の低い彼の頭を腕を伸ばして抑えた。
「おっと。殴られちゃ敵いませんな。少将殿」
ゲールは、頭を抑えられたまま、手を振り回すが、フラーケンには届きそうも無かった。
「このっ、このっ、ええい、忌々しい奴め! もういい!」
ゲールは、仕方なくフラーケンから離れて、悔しそうに顔を歪めていた。
そんなゲールの胸に、ふと、あの時のことが蘇っていた。
ヤマトの待ち伏せで亜空間ゲートに入ったデスラーたちを待つ間に、フラーケンに襲われ、更にその後、ガトランティスにも襲われたあの時。
残る艦は、小破した駆逐艦がたったの三隻。帰るべき故郷を自ら捨てたゲールは、デスラーに忠誠を誓い、命をかけてガトランティスに立ち向かおうとしたのだった。
どう考えても、負けると分かっていた。助かりそうも無いと分かっていても、やるしかなかったのだ。
フラーケンの言っていることにも、確かに一理あった。しかし、よく考えてみれば、そんな貧相な艦隊になったのは、まさしく目の前のフラーケンにやられたからだった。
結局、ゲールのはらわたは煮えくり返っただけだった。
「総統」
タランは、デスラーの方を向いて話しかけた。
「なんだね?」
「フラーケンたちが調査した最新の情報によれば、ガトランティスの本隊は、連合艦隊の守りを突破して、ガルマン帝国領内に侵攻したようです。現在、ガルマン帝国艦隊は、その多くが本星防衛のため、艦隊を本星付近に集結させているようです。彼らシャルバート教を信仰する反乱組織は、あちこちで分散して反乱を蜂起しようとしているようですが、ガルマン帝国艦隊が混乱しているこの隙こそ、確かに彼らの作戦を成功させるチャンスでしょう。しかし、ゲール少将の言った通り、束の間の喜びに終わる可能性が高い。ガルマン帝国や、ガトランティスが本気になって彼らに向かって来たら、ひとたまりもなく全滅すると思います。古代は、反乱を思い留まらせ、彼らを安全な場所に逃がそうと、働きかけを行おうとしています。私も、イスカンダル人の末裔を救おうとするのであれば、その方が良いのでは無いかと思っています。どうでしょう? 今から、彼らを説得してみては如何ですか?」
デスラーは、黙ったまま、和気あいあいと、戦果を喜び合う反乱軍の人々を見つめていた。
「総統?」
タランの問い掛けに、デスラーは暫し思案していた。
あんな風に、喜びを爆発させる彼らに、そんな説得が通じるだろうか?
彼らのこれまで受けてきた仕打ちこそ、自らがマゼラン銀河を平定しようとやって来たことと同じだった。
彼らが歓喜する理由に、デスラーはいくつものことが頭をよぎった。政権末期の頃は、親衛隊を任せていたギムレーが、反抗的な支配下惑星の扱いをデスラーに相談しに来ても、何も聞かずに彼にすべてを任せていた。その結果、一つの惑星のすべての生命が死に絶えたことも、幾度と無くあった。その頃のデスラーの心は乾ききっており、報告を聞いても、何ら心が動くことも無かったのである。
それがどうだ――。
今では、後悔しか無かった。
スターシャとの穏やかな暮らしの中で、自分を取り戻したデスラーは、いつしか当時のことで後悔に苛まれていた。
純血主義に囚われたガミラス人たちに虐げられた人々を救いたいと、そんな志を持っていた時もあったのだ。囚人となったジレル人のセレステラたちを助けたのも、そんな想いがあったからこそだった。
しかし、本意では無かったとは言え、そういった人々を、最後は結局は苦しめることになってしまった。
その罪滅ぼしには決してなり得はしないが、それでもこの数年間、スターシャと共に、ガルマン帝国で虐げられたイスガルマン人を始めとした人々を、どうにか解放出来ないかと、模索し続けて来た。
そして、この銀河で圧政を受けているすべての人々に救いの手を差し伸べようと。そう、スターシャと二人で夢を語り合って来たのだった。
そして、その機会は確かに今、訪れていた。
デスラーは、自らの想いを確かめて、一つの決意を固めていた。
「ふ……ふっふっふっふ……」
「そ、総統?」
タランは、突然笑い出したデスラーの様子に、酷く困惑していた。
デスラーは、笑うのを止め、怪訝な表情で自分を見つめるタランと目を合わせた。
「タラン。私は、古代たちとは違って、彼らを安全なところへ逃がすとか、そんなことには興味が無いのだよ。自由や、平穏な暮らしを手に入れたければ、自らの力で勝ち取らねばならない。私は、そう思う。だがしかし……少々、心許ないのは君の言うとおりだ。少し、彼らと話してみよう」
デスラーは、そう言うとマントを翻して、ゆっくりと反乱軍の人々の元へと歩き出した。タランやフラーケンとゲールは、慌ててその後を追って付いて行った。
グワジルドは、自分たちの元へと歩み寄るデスラーたちの姿を認めた。そして、人垣に呼びかけ、道をあけさせるように言った。デスラーは、グワジルドの前に近寄り、目の前に立ち止まった。
「あなたが、先程我々の窮地を救ってくれた、ガミラスのデスラー総統ですね?」
「いかにも……。君たちは、強敵にも怯まず、勇敢に戦い抜いた。その心意気に、少々感銘を受けてね。ほんの少し、お手伝いをさせてもらったまでだ」
意外にも謙遜した物言いのデスラーに、グワジルドは恐縮してしまっていた。
「……本当に助かりました。みんなを代表して、お礼を言わせてください。私は、この星系で蜂起した反乱軍のリーダーを務めるグワジルドと言います」
デスラーも、自らの部下を紹介した。
「私は、以前、マゼラン銀河を支配するガミラス帝国の指導者だった。しかし、今はその国を捨て、流浪の旅の途中だ。ここにいる彼らは、そんな私に忠誠を誓い、こんな遠い銀河まで付いてきてくれた。私にとっては、本当の友と呼べる大切な仲間だよ」
突然のデスラーの言葉に、タランは、驚きを隠せなかった。
「そ、総統……」
ゲールはと言えば、感動して早くも泣き出している。
「も、勿体無いお言葉で……!」
軍服の袖で涙を拭うゲールを見て、フラーケンは、目を閉じて微笑している。
グワジルドは、デスラーがそんな凄い人物だったと知り、警戒しようとしていた。しかし、部下を友と呼ぶデスラーと、彼に心酔する彼らの様子を見るにつけ、グワジルド自身も、デスラーと言う人物に不思議な魅力を感じて、興味を持った。
「グワジルドくん、と言ったね……。どうだろう? 良ければ、私たちも行動を共にしてもいいかね? 少しは君らの助けになると思うのだが」
突然の申し出に、グワジルドは心底驚いていた。
「そっ、それは、本当ですか!? あなた方と一緒なら、本当に心強い!」
デスラーは、余裕の笑みで応えた。そして、タランたちの方をちらりと見た。
「諸君らも、それで構わんかね?」
タランは、にこやかに頷いた。ゲールは、小刻みに頭を上下に振って、同意の意思を示している。
「……なら、決まりだ。今から、我々も君らの仲間だ」
その後、反乱軍の人々の前で、決起を促す熱い演説を打ったグワジルドは、最後にデスラーを呼び寄せた。
壇上に上がったデスラーは、集まった三百人はいるかと言う人々を前に、万雷の拍手を受けていた。
人々の表情は、期待に満ちており、デスラー自身も、心が高揚するのを感じていた。以前、ガミラス帝国の総統に就任したばかりのあの頃を、デスラーは懐かしく思い返していた。
デスラーは、手を上げて、人々に静かにするように促した。やがて、静まり返った人々を前に、デスラーは決意を固めて力強く話し始めた。
「諸君! 私は、かつてマゼラン銀河を股にかけて、その全土を支配するガミラス帝国の指導者だった。しかし、私は故あって、国を追われた身だ。今では、一介の只の軍人の一人に過ぎず、流浪の旅の途中だ。君らが圧政に苦しむガルマン帝国と言う国家は、我々ガミラス人の移民が作った国家だと言う。私は、そのガルマン人と同じ民族として、その過ちを正したいと考えて、今ここにいる。そして、イスガルマン人も、同様に、私たちが崇拝するイスカンダル人の移民だと言う。私は、イスガルマン人が、ガルマン人の奴隷として扱われていると言う事実を知り、強い憤りを感じて来た。そのようなことは、断固として、受け入れる訳にはいかない! 諸君らの許しがあれば、君たち全員の自由を勝ち取る戦いに協力させて欲しい。そして、それはガルマン帝国の国内だけに留まらず、ボラー連邦に住む人々、そして更には、この銀河に住む、すべての人々の自由の為に。私は、生涯をかけて、この身を捧げるつもりだ。諸君! どうか、一緒に戦わせて欲しい。諸君らが長い年月夢見て来た自由は、もう、すぐそこにある!」
デスラーの演説を聞いた人々は、まるで地鳴りのような歓声を上げた。人々は、ある者は拳を上げ、絶叫していた。また、ある者は、感動の涙に打ち震えている。
タランたちは、目を丸くして、その演説を聞いていた。そして、ゲールは、再び涙を流して感動していた。
「……まるで、あの頃のガミラスに帰って来たようだ」
タランの言葉に、フラーケンも相槌を打った。
「確かに……。だが、懐かしい。今でも、総統のカリスマ性は、健在だった」
「それで? これから君たちは、どうするつもりなのかね?」
その頃、演説を終え、集まった人々のほとんどは、艦隊を動かす為の準備に散っていた。
尋ねられたグワジルドは、素直に頷いた。
「少しお待ちを」
グワジルドは、仲間に声をかけて、携帯端末を取り寄せた。そして、端末を操作して、宇宙図を表示した。そして星図に指を指さして説明した。
「他の仲間にも連絡して、反乱に成功したら、奪った艦船をここに集結させようと考えています。ここで、集めた戦力を再編成して、ゲリラ戦術でガルマン帝国軍に占領されている星系の解放作戦を始めます」
デスラーは、星図を覗き込んだ。
「ここは?」
「惑星ファンタム。ファンタムと言う名の惑星です。シャルバート教で言い伝えられている伝承によれば、ガルマン人とイスガルマン人の移民が初めて住み、最初の都市を築いたのはこの地だったと言われています。現在は、遠い昔に打ち捨てられたような廃墟しかありませんが、隠れて密かに集結するには持って来いの場所です。ここには今も、シャルバート教の我々の仲間がいる筈です」
デスラーは、最初の移民の地と聞いて、それに興味を持った。
「ふむ……。ガルマン帝国の本星は、そのファンタム星から、かなり遠くにあるようだが、ガルマン人とイスガルマン人は、なぜこの星を捨ててしまったのかね?」
「シャルバート教の伝承によれば、この地で、ガルマン人とイスガルマン人は、最初の仲違いとなる争いを起こしたようです。しかし、不戦の誓いを立てていたイスガルマン人は、無抵抗を貫き、大勢の人々がガルマン人に殺されたようです。もしかしたら、その時の争いで、環境が激変して、人が住めなくなってしまったのかも知れません。そして、その時から、イスガルマン人は、ガルマン人から奴隷のように扱われるようになったと言われています」
デスラーは、その話に釈然としなかった。
約千年前、イスカンダル人は、マゼラン銀河に大帝国を築いていた。波動砲の力がその背景にあったからだ。しかし、例のテレザート星制圧作戦でテレザート人に精神攻撃を受け、それまで恐怖で人々を支配していたイスカンダル人は、まるで人が変わってしまったようになったと言う。
そんな時に、なぜ彼らは本星であるガミラスとイスカンダルを捨てて、マゼラン銀河を離れたのか。その理由は伝わっておらず、謎のままだった。
そして、この銀河にやって来たものの、両者は何かの理由で争って、今のような主従関係が出来上がってしまったらしい。
デスラーの思案する表情から、グワジルドは、少し補足することにした。
「マザー・シャルバートが持っていると言う、強大な力の源が、もしかしたらその地にあるのでは無いかと考えられています。両者の争いは、そのことが原因だったのかも知れません。先程、我々の仲間がそこにいると言いましたが、そうやって、今だに調査を行っているのです。もし、そんなものが、そこに眠っているのなら、私たちの自由への戦いは、もっと容易になるでしょう。しかし、あくまで言い伝えは言い伝えでしかありません。残念ながら、そんなものが見つかる可能性はほとんど無いと、私は思っていますけどね」
そうしているうちに、デスラーは、ある可能性に気がついた。
イスカンダルの波動砲艦隊が、その惑星ファンタムのどこかにある……?
マザー・シャルバートの力の源とは、イスカンダルがかつて帝国時代に保有していた波動砲艦隊のことを指すとしたら、一連の伝承にも概ね納得が行くと言うものだ。
しかし、デスラーは、更にもう少し考えてみることにした。
例えば、スターシャを始めとした時の女王が、あまねく星々の救済、と称して使っていたコスモリバースシステム。ガミラスの科学力をもってしても、想像を絶するようなイスカンダルの科学力だが、科学者がいなくなった現在のイスカンダルでは、スターシャたち自身も、そのような技術を、新たに作り出すことは出来ないだろう。そして、天の川銀河に移民する時に、それらの艦隊や技術を、すべて運び込んでいた可能性がある。
デスラーはその時、スターシャ救出に繋がるイスカンダルの技術が何か無いかと、僅かな希望を胸に抱いた。
「グワジルドくん。ならば早速、一緒にそこへ行こう」
彼は、大きく頷いた。
「ええ。行きましょう。我々の戦いは、まさに今、始まったばかりなのですから」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。