宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
そう――。
立って、あのカプセルに触れてみなさい。
サーシャは、心の中に聞こえてくる声に導かれて、ふらふらと立ち上がった。そして、おぼつかない足を、ゆっくりと動かし、声が言うカプセル――青い波動コア――へと近付いて行った。
それに気が付いた新見は、彼女にそっと声を掛けた。
「……澪ちゃん? どうしたの?」
サーシャには、彼女の声は、遠くに聞こえるかすかな囁きにしか聞こえなかった。
さあ――。
カプセルに触れなさい。
……あなたは、イスカンダルの人なの……?
そう。ずっと、ずうっと、昔、イスカンダルの女王を名乗っていた。
声の主、シャルバート・イスカンダルは、サーシャを突き動かした。
そして彼女は、小さな祭壇の上にぽつんと置かれていた、波動コアに手を伸ばした。
ねえ……、これに触れると、どうなるの?
私の力のすべてを、あなたにあげられる――。
そうして、サーシャは、震える手で、波動コアに触れた。
その瞬間、波動コアを中心に、眩しい光が辺りを覆った。サーシャは、思わず目を閉じた。
「な、何だ!?」
「何が起こっている!?」
周囲の人々の叫び声が、サーシャの耳にも届いていた。
「な、何だ、あれは!」
そして、サーシャは、そっと目を開けた。辺りを見回すと、古代や真田たちを含む、すべての人々が、祭壇の壁の方を見上げている。サーシャも、祭壇の後ろの彫刻が施された壁を見上げた。
そこには、光に包まれた、一人の女性の姿があった。どこか、スターシャにも似たその人物は、光の中に輝くように浮かび上がっていた。
「あなたは……シャルバート……さん?」
そのサーシャの呟きを聞いた、研究者たちは、驚きと共に恐れの声を口にしていた。
「まっ、まさか……」
「マザーなのか?」
「そうだ、確かに、マザーの像に似ている……」
「いや、古文書に残されていた絵画のマザーとそっくりじゃないか!」
「マザー・シャルバート様が、降臨されたのだ!」
人々は、恐れおののき、そしてその場に座り込むと頭を垂れて祈りを捧げた。
古代や、真田と新見は、呆然として、その場に立ち尽くしていた。祭壇の前にいるサーシャも、そのままシャルバートの姿を見つめていた。
そして、その浮かび上がった人物は、遂に言葉を発した。
「私は、イスカンダルのシャルバート……。イスカンダルの王の血を引く者よ。私は、あなたが来るのを、長い間待っていました」
サーシャは、首を傾げている。
「私を? ずっと?」
シャルバートは、頷いた。
「ええ。イスカンダルの王の血を引く者が、いつの日かここへ現れると信じて。長い、本当に長い間、待っていたのです……」
シャルバートは、片腕を伸ばすと、サーシャに言った。
「あちらです……。行ってみなさい」
サーシャが、その腕の指す方を振り返ると、浮かび上がっていたシャルバートの姿は、光が収まると共に、さらさらと消えていった。
サーシャは、何か自分でも分からない衝動に駆られ、突然走り出した。
「澪ちゃん!」
「澪!」
「サーシャ!」
古代たちの声は、彼女には聞こえていなかった。走り出したサーシャの姿は、ドーム型の建物を出ると、暗闇に包まれた地下都市の中に消えて行った。
「まずい! アナライザー! 追いかけるぞ!」
古代は、先陣を切って、駆け出した。アナライザーは、急いで強化外骨格の装備に飛び乗ると、モーター音を響かせて、勢いよく走り出した。そして、あっという間に、古代を追い越して行く。
「我々も行こう!」
「ええ!」
真田と新見も、その後を追って走り出した。
シャルバート教の信者である研究者たちは、今起きたことに呆然としたまま、そこから動けずにいた。
「サーシャ!」
「澪ちゃん! どこにいるの!?」
先頭を走っていたアナライザーは、立ち止まってライトで周囲を照らし見回している。
追いついた古代たちは、アナライザーに尋ねた。
「くそ、見失った。アナライザー、サーシャの反応を探れるか!?」
アナライザーは、頭部を色とりどりに光らせた。
「十時ノ方向に、生体反応がアリマス」
「案内してくれ! 真田さん、新見さん、ここはばらばらで行動するのは危険です。固まって移動しましょう!」
「分かった。急ごう!」
サーシャは、一人地下都市のとある小さな建物の中にいた。その建物だけは、何故か明かりが灯っていた。
そして、小部屋の中に設置された大きな円形の装置があり、手前に設置された端末には、サーシャに触れて欲しいと言わんばかりに、パイロットランプが点滅していた。
彼女は、そっとその端末に触れた。
その瞬間、円形の装置が唸りを上げて、その円の中は、水面のように波立った。
サーシャは、吸い込まれるように、円形の装置の前に近寄った。そして、水面のようなその表面に手を伸ばすと、中に引き込まれて行った。円形の装置は、どこか別の空間に繋がっており、サーシャの姿は完全に消えてしまった。
「反応ガ消エマシタ!」
アナライザーは、立ち止まると古代たちに言った。古代たちは、一瞬、それを聞いて青くなっていた。
古代は、急いで冷静さを取り戻すと、アナライザーに言った。
「分かった。最後に反応があった座標へ案内してくれ」
「分カリマシタ」
アナライザーは、その方向へと、再び歩き始めた。
新見は、青ざめて立ち尽くしている。
「澪ちゃん……!」
真田は、そんな彼女の肩を抱いた。
「とにかく、急ごう。最後まで、諦めてはいけない」
「は、はい。すみません、先生……。取り乱してしまって……」
真田は、優しく彼女に言った。
「私も、同じように心配しているよ。何と言っても、今は、私たちの子どもなんだからね」
新見は、小さく頷くと、再び真田と一緒に足を早めた。
しばらくアナライザーに着いていくと、そこには、明かりの漏れた小さな建物が見えて来た。
「アナライザー、あそこか?」
「ハイ。ソウデス」
古代は、一目散に駆け出して行った。真田と新見も、息を切らして後に続いて行った。
建物に入ると小部屋のドアが開いているのが見えた。小部屋に駆け込んだ古代は、大きな円形の装置が中央に設置されているのを確認していた。後から、真田たちが駆け込んでくる。
「真田さん、新見さん! 見てください!」
ぜいぜいと息を切らした真田と新見は、息を整える間もなく、装置へと近寄った。
「何だろう? これは」
真田は、水面のように波打つ表面に顔を近づけた。そして、持っていたペンで、そこに触れてみた。それは、ペンが触れた先から、まるで水面に落ちた波紋のように波打った。
真田は、少し下がって確認を続けた。円形の水面のような、部分は次第に小さくなって行くのが見て取れた。
「古代。時間が無いので、推測しか出来ない。これは、恐らく何らかの転移装置だ。これを門として、どこか別の空間に繋がっているのだろう。サーシャは、ここを通って、どこか遠くへ転移したものと思われる。しかし、この転移門は、間もなく消えてしまうようだ」
そう話している間にも、水面のような部分が、更に小さくなって行くのが分かる。
「……なるほど。サーシャを追うには、これを通るのが近道と言う訳ですね。……僕は、行きます」
古代は、真田の言う転移門へと身体を寄せた。
「これは、推測に過ぎない。もしも、間違っていたら、何が起こるか分からないぞ?」
「でも、今、行かなければ、後悔するかも知れません。僕は、行きます」
古代は、真田たちの心配を他所に、水面に手を伸ばした。身体がその水面から断ち切られるように、異空間へと繋がっているのが分かる。
古代は、最後に真田と目を合わすと、頷き合ってから、中へと身体を入れて行った。
真田と新見も、古代の後から、その中へと入って行った、
しばらくすると、水面のような部分は完全に消滅してしまった。
残されたアナライザーは、無言のまま、来た道を引き返して行った。
その頃、地上の山本は、輸送機から降ろした機材の中から選んだ、掘削用のドリルを動かそうとしていた。ケールが話す、何者かの存在を感じると言うその場所を、掘り返してみる為だ。
しかし、端末に装備されたセンサーでは、地中には岩盤があるだけで、掘り返すことなど、出来そうもなかった。それでも、ケールを心配するランハルトの真剣な表情を見るにつけ、試してみてあげようと、彼女は思っていた。
「こういう人だったなんて、ね」
傍若無人、慇懃無礼の言葉がこれ程似合う人物は、彼女は他に知らなかった。しかし、そのような言葉の影で、本当は真摯に母星の未来を案じ、仲間の為に懸命になれる優しい男だった。そんな彼を、彼女も信じてみようと思うようになっていた。
「始めるよ! 皆、危ないから下がっていて」
ランハルトは、ケールに肩を貸して、言うとおりにその場を離れて行った。そして、揚羽とルカも、それに従う。
山本は、大きく息を吸い込むと、掘削用ドリルの電源スイッチを入れようとした。
その時だった。
突然、砂が勢いよく山本の近くに集まり始めた。山本は、口に砂が入らないように慌ててドリルを持っていない方の手で口元を覆った。
砂は、どんどん集まって行く。山本は、後ずさってその場を離れて行った。
「な、何? いったい、何が起こっているの!?」
集まった砂は、ニメートル四方の四角い形状に固まり始めた。そして、突然大きな風が吹き荒れ、砂が吹き飛ばされると、そこには、それまでは存在しなかった入り口のような物が出現していた。
「え……?」
山本は、突如目の前に現れた明らかに金属で出来た人工物の扉に、呆然としていた。そして、離れた所にいたランハルトたちも、驚きつつ近寄って来た。
「入り口……のようだな」
ランハルトの言葉に、ルカは、慌てて自身の端末を取り出して確認した。
「センサーには、何の反応もありません。まるで、何も存在していないように見えます。この入り口の地下も、相変わらず岩盤が広がっていると検知されています。入れるようには、思えません」
揚羽は、突然現れた入り口と思われる四角い物体の壁に手を触れた。
「ルカ。でも、こうやって触ると確かにここにある。センサーの表示を欺くような仕組みが隠されているのかもしれない」
そうしていると、彼らのすぐそばで、再び砂が集まって行った。今度は一メートル位の、砂の柱の様な物が現れると、先程と同じ様に、風が砂を吹き飛ばした。
驚く彼らの前に現れたのは、小さな女の子だった。
「サーシャ様!?」
「サーシャちゃん……?」
サーシャは、まるで、ランハルトたちの姿が目に入っていないように、まっすぐに先程現れた入り口の前に進んだ。そして、その入り口に手をそっと触れると、音も無く扉が開いた。
内部には、階段が奥深く地下へと続いていた。
ルカは、先程と同じ様に、端末を操作して確かめた。
「そんな……。センサーには、何も映っていないのに……」
そう言っている間にも、サーシャは、すたすたと入り口を通り、階段を降りて行った。
彼らが躊躇している間に、再び砂が付近に集まっていた。今度は、複数の砂の柱が出来ると、そこから、突然古代たちが現れた。
「ここは……?」
呆然とする古代や、真田と新見の前に、ランハルトたちが走り寄った。
「古代!」
「古代さん!?」
古代は、転移に成功したのを悟った。
「すまないが、説明している時間は無い。ここへ、サーシャは来なかったか!?」
山本は、咄嗟に頷くことしか反応出来なかった。
ランハルトは、慌てて古代に言った。
「つい先程、お前たちと同じ様にそこに現れると、この中に入って行った」
古代は、そこにあった入り口を凝視した。
「行こう! 急がないと、この扉はすぐに閉じてしまうかもしれない!」
古代は、そう言うと走り出し、入り口の内部の階段へと駆け込んで行った。
呆気にとられたランハルトたちを尻目に、真田と新見も駆け込んで行く。
何が何だか訳がわからないとなっていた彼らも、そこでようやく我に返った。
「俺たちも、行こう。古代を捕まえて、何があったのか聞かねばならん」
ランハルトは、そこでケールのことを気にかけた。
「ケール。お前も行けるか?」
足元はふらついているものの、気丈に彼も歩き出した。
「……行きましょう。ここには、何かあるはずです」
山本は、再びため息をつくと、頭をかいた。
「まったく……。古代さんといい、あなたといい。無鉄砲にも程がある」
そう言いながら、彼女は、先頭に立って入り口に足を踏み入れた。
「じゃあ、みんな。行くよ!」
一行は、彼女の後について、続々と内部へと入って行った。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。