宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
ほんの七、八段ぐらいだろうか。サーシャが降りた階段は短く、既に階下の廊下に到着していた。サーシャは、凄く深かった気がして、不思議に思って後ろを振り返ってみた。
彼女が振り返ると、降りてきた階段は、恐ろしい程の高さがあり、入って来たはずの入り口は、遥か遠い上方に見える。後から入って来る人影らしきものが、その遠くにかすかに見えていた。
サーシャは、そこで急に我に返った。
「私……何で、こんなところまで来ちゃったんだろう?」
サーシャは身震いすると、そこで動けなくなった。
そうだった。
シャルバート・イスカンダルと言う女の人が、私をここまで誘って来た。
サーシャは、廊下と思われた暗闇に、明かりが灯るのを見た。明かりは、天井に設けられたもので、照らされた廊下には、沢山の書棚のようなものが並んでいる。
棚の端には、イスカンダルの文字で、数字が書いてあるプレートがつけられている。
確認してみると、目の前の棚には、「1200―1300」と書かれている。隣の棚には、その続きの番号が書いてあった。そのような棚は、そこに数え切れない程あった。
何の数字だろうと、サーシャは首を傾げた。
サーシャは、棚の一つを覗いてみた。
五十センチメートル四方の黒い箱が隙間なく並んでいる。箱の中は、光る球が浮かんでいた。どうやら、その光の球を納める為の箱らしい。サーシャは、棚の間を歩いて、一つ一つ確認して行った。
当初、棚は、どこまでも続いているかと考えていたが、奥の方に一際明るい場所があり、棚はそこで終わっているようだった。
サーシャは、恐る恐る、その明かりを目指して棚の間を歩き続けた。
すると、その明かりの下には、テーブルと椅子が並んでいた。そして、その向こうの壁際には、大きなロッカーのようなものが並んでいる。椅子やテーブルの装飾は、アンティークのテーブルとして、イスカンダルにもあった物のデザインに似ている。
そのテーブルの一つに、先程現れたシャルバートと名乗る女性が、椅子に座り、頬杖をついて気怠げに佇んでいた。
「……来てくれたのね?」
サーシャは、彼女の姿をじろじろと見てしまっていた。先程現れたのは、立体映像のようなものだったが、今度は、本当に実在しているように見える。
彼女は、サーシャに同じテーブルの椅子に座るように手を伸ばして促した。仕方なく、サーシャは、彼女の向かい側に座ることになった。
彼女は、確かに、イスカンダルの歴史上の人物で見たことがあるような、古き良き王族の衣装に身を包んでいる。それも、かつて帝国を築いていたと言う時代の物だ。サーシャの拙い知識でも、それはすぐに分かった。
「シャルバート……さん? で良かったよね?」
彼女は、頬杖をついていた手を降ろし、両肘を付いて身を乗り出した。
「あなたのお名前を聞いてもいいかしら?」
サーシャは、困ったような表情で、答えていいものか少しだけ迷った。
「……サーシャ、だよ」
「サーシャ?」
シャルバートは、何かを思い出すように、遠くを見るような目をしている。
「ふぅん。あれから随分時間が経ったと言うのに、王族の子供に付ける名は、今でも同じ様な名をつけているのね。シャラート、ミシャーラ、メリーシャ……。懐かしいわ。でも、よく名前のバリエーションが尽きなかったものね。ある意味、感心しちゃうわ」
サーシャは、不満そうな顔で、彼女を睨んだ。
「あら怖い。何で、そんな顔をしているのかしら?」
サーシャは椅子から立ち上がると、精一杯の背伸びをした。
「そんなこと、どうでもいい! ここはどこで、あなたは、何者で、いったい何をやっているの!? 私をこんな所まで呼んだのは何故!? 聞きたいことは、たくさんある! 答えて!」
シャルバートは、視線をずらすと、サーシャの背後の方を見て微笑んだ。
サーシャも、後ろを振り返ると、古代たちがそこに集まっていた。
「オジサマ!」
息を切らして先頭にいた古代は、彼女に駆け寄るとすぐに抱き寄せた。
「サーシャ。無事で良かった」
真田と新見も、すぐに駆け寄ると、古代からサーシャを受け取った。
「大丈夫だったかい?」
真田と新見に抱きついたサーシャは、笑顔で言った。
「うん、大丈夫。ここで、お話をしてただけだよ」
古代は、ほっとしたのも束の間、問題の人物を睨んで大きな声で叫んだ。
「あなたは……何者だ! 何が目的だ!」
古代の剣幕に押され、シャルバートは、乗り出していた身体を起こして、手を胸に当てた。
「おお怖い。まだ何もしてないわ。私は、その子に用があっただけ」
その頃には、ランハルトたちもその場に到着していた。山本やランハルトも、ぜいぜいと息を切らせている。
ランハルトは、前に進み出ると、いつものように詰問口調で言った。
「貴様……! 古代から聞いた。イスカンダルの王女を誘拐するとは、いい度胸だ。どういうことか、今すぐに説明しろ!」
シャルバートは、ゆっくりと立ち上がると、集まった一行を見回した。
「……困ったわね。本当は、あなた方は、ここには入ってはいけない、招かざる客……。でも、サーシャを守ろうとしている所を見ると、信じてもいいのかしらね?」
「いいから、俺の質問に答えろ!」
シャルバートは、ランハルトに目線を向けた。
「あなたは……ああ、ガミラス人ね? そちらにいる、あとの二人も。その他の人たちは、ガミラスの属国の方たちかしら?」
古代は、今にも飛びかかりそうなランハルトを手で制すると、彼女に言った。
「我々は、地球人です。ガミラスとは、対等な友好関係を結んでいます。決して、属国などではありません」
シャルバートは、心底驚いているようだった。
「そう……。時代は、変わったところもあると言うことね……。良いでしょう。サーシャにも話しをする所でした」
シャルバートは、歩き出すと、彼らから少しだけ離れた所で振り返った。
「……わたしの名は、イスカンダルのシャルバート。かつて、イスカンダル帝国の女王を名乗っていました」
古代も、ランハルトも困惑していた。千年前のイスカンダルの女王が、何故生きているのか。それとも、これは彼女の妄言なのか。
「私は、本物のシャルバート・イスカンダルではあるものの、この身体は、本物ではありません。私の肉体は、遠い昔に朽ち果てて、もうこの世には存在しません。この身体は、イメージライフ。当時の私の姿を再現した物です」
真田と新見は、彼女の言っていることが本当だと仮定して、その言葉の意味を考えていた。機械の体なのか、それとももっと違う技術なのか。しかし、見れば見るほど、彼女の肉体は、とても機械の体のようには見えなかった。
「後ろの棚を見なさい」
古代たちは、振り返って棚を眺めた。彼らも、ここへ来る途中、いったい何だろうと疑問に思っていたのだ。
「あの箱の中身は、かつてのイスカンダルの民たちです。あのようにして、保存しているのです。私自身や、私の家族も、あの中の箱に入っています」
真田は、はっと気が付いた。
「まさか……。あれは、あの時イスカンダルで見た、魂を保存する容器、なのか……?」
古代は、驚愕していた。
箱は、何千、いや、何万もあった。
その一つ一つに、イスカンダル人が眠っていると言うのか……?
棚に向かった古代は、箱を一つ一つ確かめた。それぞれの箱の中には、光の球が浮かんでおり、まるで生きているように明滅している。
真田や、新見も同じ様に箱の観察を行った。
「先生……! これって……。コスモリバースシステムのコアに似ていませんか?」
新見は、震える声で言った。真田は、真剣な表情で、頷いた。
「ああ。似ている……」
ランハルトは、箱を確かめることなく、シャルバートに迫った。
「貴様の言っていることが本当だとしよう。いったい、何の為にこんなことをしている?」
シャルバートは、事も無げに言った。
「私自身を含め、民を生き残らせる為よ。それ以上でもそれ以下でもないわ。イスカンダル帝国で軍人だった者、科学者だった者、商人だった者。いろいろだわ。大勢いる。皆、マゼラン銀河を捨てる私についてきてくれた者たちだった。そんな民たちを、私は見捨てることが出来なかった」
棚から戻ってつかつかと歩いて来た古代は、ランハルトの横に並んだ。
「どういうことなのか、順を追って、ちゃんと説明してもらえませんか? 皆、理解が追い付いていないと思うので」
古代とランハルトの間から、サーシャも顔を出した。
「私にも、ちゃんと説明して」
護衛の山本と揚羽、そしてルカもシャルバートの周りに集まり、彼女が話すことを聞こうとしていた。精神的な疲労でふらふらしていたケールも、今は少し元気そうだった。その精神的な重圧をかけていた本人が現れたことで、心が解放されたようである。
シャルバートは、少し笑うと、片手を大きく広げた。
「仕方ありませんね。では、お話ししましょう……」
「ど、どうします? 大帝。彼らの後を付けてきたら、こんな所に……」
ゼール中佐は、書棚の影に潜んでいた。その横には、ミルと、桂木透子も隠れていた。他に、彼らの護衛として連れて来た機械人形の兵士が二体いた。
「まさか、こんな所でこのような話が聞けるとは思わなかったな……。このまま、気付かれぬよう、我々も話を聞いてみよう」
透子は、ミルとゼール中佐に小さな声で言った。
「これは、思わぬ収穫かも知れない。あなた方が探すイスガルマン人だけで無く、イスカンダルの秘密にも迫れるかも知れないわ。大手柄ね、中佐……」
ゼール中佐は、笑顔を向ける透子に、困ったような顔をしている。
その話が聞こえていたのか、そうでないのか、定かでは無かったが、ミルは、表情一つ変えずに、聞き耳を立てていた。
アナライザーは、地下都市から抜け出すと、古代たちがどこに移動したかようやく探し当て、台地の真ん中にいた。後を追ってきた、シャルバート教の研究者たちも一緒だった。
アナライザーは、周囲を見回すも、そこには何も存在しなかった。先程まで出現していた入り口も、今は痕跡すら無かった。
「本当に、彼らは、ここへ来たのか?」
シャンディスは、アナライザーに話しかけた。
「ハイ……。仕方アリマセン……。ココデ、待ッテいマショウカ……」
アナライザーは、途方に暮れたように、その場に佇んで動かなくなった。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。