宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「白色彗星帝国の逆襲」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」、「連邦の危機」、「ギャラクシー」の続編になります。


白色彗星帝国の逆襲79 イスカンダル帝国の凋落Part1

 約千年前――そこからお話ししましょう……。

 

 シャルバートは、イスカンダルが辿った数奇な運命を語りだした。

 

 マゼラン銀河の支配をほぼ完了していたイスカンダル帝国は、残すはテレザート星系の攻略を残すのみだった。

 時のイスカンダルの女王、シャラートは何度となくテレザート星系攻略作戦を展開していたが、その都度、失敗に終わっていた。テレザート星系第三惑星テレザート3に近付いたイスカンダルの艦隊は、乗組員が精神攻撃を受け、悪夢に悩ませられることになり、毎回戦意を喪失してしまうのだ。当初は、討伐失敗の責を負わせ、指揮官を見せしめに処刑していたシャラートだったが、何度も続くようになると、流石に人材の枯渇を心配せねばならなかった。

 テレザートを攻めあぐねて、イスカンダル艦隊の戦力を持て余していたシャラートは、目先を変える為、代わりにマゼラン銀河の外へとその魔手を伸ばそうとしていた。

 天の川銀河の調査は、かなり前に終わっており、銀河の約半分を支配するボラー連邦という文明の存在は既に女王シャラートの耳にも入っていた。しかし、わざわざ他の銀河まで遠征するのに、およそイスカンダルが支配するのに相応しい文明だとは思えなかった。恐らく、イスカンダル帝国軍が本気で侵略すれば、一ヶ月もかからず、ボラー連邦を滅亡させるか、支配するかが完了してしまうだろう。そんな勢力を屈伏させても、その欲望を満たすには不十分だったのである。

 そんな時、女王シャラートは、自身の娘、皇女シャルバートに、銀河を超えた別の文明の探索任務を与えた。その目的は、イスカンダルが征服するに値する文明が、何処かに存在しないか探すことだ。この任務には、およそ五年の期間が設けられ、シャルバートは、意気揚々と、与えられた三万隻の艦隊を率いて出発して行った。そして、その行き先は、まずはアンドロメダ銀河を目標としていた。

 

 それからおよそ四年の年月が流れた。

 遠い銀河に向かったシャルバートと連絡がつくはずも無く、女王にとっては退屈な日々が続いていた。

 マゼラン銀河の侵略に協力させていた双子星で最初に侵略したガミラスは、イスカンダルの技術の一部を与えたことにより、強力な艦隊を保持していた。波動砲の技術供与こそ禁じていたが、彼らはその範囲で開発に勤しみ、いつしか強力な軍を保有するようになっていた。マゼラン銀河の反乱などの芽は、主にガミラス軍に討伐を任せていた。

 こうなると、強力な波動砲艦隊を保持していたイスカンダル帝国軍も、その力を持て余していた。帝国軍は、憂さ晴らしにマゼラン銀河の星々を勝手に滅ぼすような部隊も現れるようになり、軍の統率に問題が出るようになっていた。

 そうして、業を煮やしたシャラート女王は、遂に、自ら出陣するテレザート討伐作戦を立案した。これをもってマゼラン銀河の完全な支配を完了し、近いうちに帰国するであろうシャルバートが持ち帰った情報を元に、新たな銀河へと打って出るのだ。そうすることで、戦いに飢えた帝国軍の不満を発散させる。そして、自身の名を、恐怖をもって、この宇宙に轟かすのだ――。

 

 シャラート女王は、約五千隻の主力の波動砲艦隊を率いて、テレザート星系に侵攻した。もはや、精神攻撃を受けることを最初から前提とし、テレザート3の目標座標に到達した時点で、艦隊のシステムが自動的に攻撃を開始するように設定して。

 テレザート3の女王テレサから、警告をする通信が入っていたが、シャラートは無視するように指示した。

 そして、遂にその瞬間は来た。

 テレザート3は、約五千隻の波動砲艦隊の波動砲の一斉砲撃の前に、徹底的に破壊されることになった。

 それは、すでに崩壊、分解した惑星テレザート3に対しても、手を緩めることなく徹底的に波動砲が撃ち込まれた。

 しかし、惑星が崩壊したはずのテレザート3から、テレザート人が放つ精神攻撃が止むことは無かった。

 イスカンダルの艦隊の乗組員は、既に戦意を喪失していたが、自動攻撃にセットされた艦の兵器システムは、その影響が無くなるまで、攻撃を続けることになっていた。

 そうしている間に、テレザートのあった場所では、ある現象が起こり始めていた。次元の裂け目が発生したのである。

 次元の裂け目は、波動砲の攻撃を続けることで、更に大きく広がり、次第に周囲の空間は歪み始めていた。

 その時、女王シャラート自身も、テレザート人の精神攻撃によって、悪夢や激しい吐き気に襲われていた。しかし、その異変に気付いた彼女は、苦しみながらも艦の窓の外を見た。そこには、大きな宇宙の穴とも言うべき、地獄への入り口が発生していた。

「まさか……! このままでは、宇宙が裂けてしまう……!」

 シャラートは、波動砲の自動攻撃システムを停止させるしかないと判断した。しかし、乗組員は、自身と同じ様に、苦しんでおり、艦橋の床に皆転がっているような状態だった。シャラートは、自ら攻撃システムの制御盤のある座席に身体を引きずって移動した。旗艦であるこの艦から指令を発すれば、全艦隊のシステムは停止するはずだ。

「だが、何故……。もう、星の形すら保っていないと言うのに……」

 女王シャラートは、何度も床に転がりながらも、必死に制御盤にどうにか辿り着いた。

 その時、シャラートは艦の外を確認すると、信じられない光景が見えた。

 テレザート3のあった場所に発生した宇宙の裂け目の前に、巨大な少女の姿をした、祈りを捧げる像が現れていた。

「あ、あれは……! 女王テレサ……!」

 テレサは、シャラートに視線を向けた。その瞬間、シャラートの体内に、まるで彼女が入って来るような感覚があった。

「わ、私の中に……! 無礼だぞ、テレサ! 出て行け!」

 しかし、シャラートの心は、徐々に精神が侵食されていった。テレサの崇高で清廉な思考を、シャラートは懸命に拒絶しようとした。

「……わ、私は、イスカンダルの女王だぞ……! 宇宙の支配者になる者だ! そんな、軟弱な思想は不要だ……! わたしから……出て……行け……」

 シャラートは、次第に抵抗が出来なくなっていた。彼女の心は、急速に平穏を感じていく。

「……」

 苦しんでいたシャラートは、すっかり冷静さを取り戻していた。そして、艦橋で苦しんで倒れていた乗組員たちも、憑き物が取れたように、穏やかな表情になって、立ち上がった。

 シャラートは、目の前の自動攻撃システムの制御盤を操作し、停止させた。そして、同じ様に冷静さを取り戻した通信士に対して言った。

「自動攻撃システムを停止させた。全艦隊に、攻撃中止命令を出してくれぬか?」

「女王様、承知しました。直ちに攻撃中止を連絡します」

 シャラートは、艦橋の窓の外を見つめた。

「波動砲は、使い方を誤れば、宇宙を引き裂いてしまうのだな……。このような兵器は、二度と使ってはならなぬ」

 艦に乗っていた科学士官は、シャラートの隣にやって来ると、目の前の事象に対する恐れを口にした。

「女王様。あれをこのままにしてはおけません。あれが広がり続ければ、異次元との接点が生まれ、こちらの世界にどのような影響があるか……」

 シャラートは、彼に言った。

「お前の言うとおりだ。あれを元通りにする方法を、調べられるか?」

「そうですね……。しかし、恐らく、時間がかかります」

 シャラートは、次元の裂け目によって発生した巨大な穴をじっと見つめていた。すると、再び、そこにテレサが現れた。最初は薄っすらと、次第にはっきりと、巨大な少女の像は、そこに実在するかのように浮かび上がった。

「イスカンダルの女王、シャラート……。この裂け目は、私が閉じておきます。あなたは、ここを立ち去りなさい」

 シャラートは、膝をついて頭を垂れた。艦橋にいた乗組員も、同じ様に膝をついた。

「……テレサ。私は、あなた方に何ということを……。謝って済むことでは無いのは承知しています」

 テレサは、慈悲の女神のように、そこで微笑している。

「……もう、起きてしまったことは戻すことは出来ません。そして、これまであなた方が犯して来た様々な暴力の数々……。あなた方は、その贖罪を胸に、これからどのように生きて行くべきか、生涯をかけて考えるのです。罪を償い、どうすれば、贖罪となるのか、道を見つけるのです。それが、この宇宙を生きる、すべての人々の為でもあります。さあ、お行きなさい」

 別人のように、人が変わってしまったシャラートは、一筋の涙を流していた。

「はい。これから一生をかけて。いいえ、子々孫々、永遠に私たちが殺めてしまった人々に、何が出来るか考え続けます」

 そう言ったシャラートに、テレサは、笑顔を向けた。シャラートは、涙を拭うと乗組員に言った。

「……皆の者。故郷へ帰るのだ。そして、すべての民と共に、永遠の贖罪を誓おう」

「はっ。全艦隊、帰投させます!」

 その指示を受け、イスカンダルの艦隊は反転した。

 しかし、その反転した先に、突然とてつもなく大きな船のようなものが現れた。船の中央には、一つの惑星を従えており、その大きさが信じられない程大きいことが分かった。

 その船は、イスカンダルの艦隊の真上を通過して、テレザート3の存在していた場所に接近した。そして、徐々に次元の裂け目が修復されて行く。

「女王様……。あれは、噂に伝え聞く、方舟では無いでしょうか。これまでの目撃情報と、姿形が酷似しています」

 シャラートは、後方のスクリーンに映る方舟を、じっと見つめた。

「そのようだな……。あれはあのような裂け目を修復する技術を持っているのかも知れぬ……。方舟とテレサに任せて、私たちは帰るのだ。今は、私たちが成すべきことをする時だ」

 イスカンダルの艦隊は、テレザート星系を抜け出すと、ワープで去って行った。

 

「シャラート様! 何を仰っているのですか!?」

 イスカンダルに戻ったシャラートや、テレザート討伐軍の高官たちは、宮殿に集まった軍の高官らに囲まれていた。

「皆の者。私は、テレザート攻略作戦で悟った。これまで、私たちがやって来た行為が、重大な誤りだったことに。これから私は、マゼラン銀河中に展開している我が軍の全艦隊、及び、ガミラスの全艦隊の帰還を命じる。そして、すべてのイスカンダル人と、隣国のガミラス人に、今後のイスカンダルの方針を伝える」

 女王を元首とした軍事独裁政権だったイスカンダルで、その指揮権を持つシャラートの発言は、イスカンダルに留まっていた多くの政権中枢の者たちを動揺させた。彼女だけで無く、作戦に同行した参謀長官や、作戦の実行を指揮した将軍までもが、女王の発言の肩を持っている。

「諸君、女王のお考えどおりにしようではないか。私も、これまでの行いを恥じている」

「そ、そんなことをすれば、マゼラン銀河中で反乱が起きますぞ……!」

 しかし、当初は、真っ向から対立する意見を述べていた者たちも、女王たちと一緒にいるうちに、次第に自分自身にも変化が起こっていた。

「む……!? どう言うことです? 何者かが、私の中に……!」

「私にも……」

「何だ、この感覚は……!?」

 女王も、この現象には戸惑っていた。当然、大きな方針転換をしようとしているので、意見が対立することは予想していた。場合によっては、自身の生命の危機すら覚悟していた。にも関わらず。

「……どう言うことだ?」

 女王の参謀は、集まった者たちが苦しみ始め、その突然の変化をしばらく観察していた。

「……女王。どうやら、我々がテレザートで受けた洗礼は、他の者たちにも伝搬するのでは無いでしょうか? あれから、私は人の心の声が聞こえることがあって、それに戸惑っていました。これは、テレザート人が持っていたと言う、一種の精神感応力が、自分にも備わったのかも知れません。もしかしたら、テレザート人のように、他者に心を伝える力の影響では無いでしょうか?」

 シャラート自身も、そのことは感じていたので、なるほどと納得することになった。

「それは、好都合かも知れぬな。ならば、民衆の前で、演説すれば、私の意思や、覚悟が素早く伝わると言うもの」

「暴動が起きるかも知れません。そうなれば……」

 シャラートは、笑って答えた。

「イスカンダルのすべての民での永遠の贖罪は叶わぬかも知れぬが、私個人の贖罪がそこで終わるだけだ。手配してもらえるか?」

 

 その後、しばらくしてマゼラン銀河中から艦隊が戻ると、女王シャラートは、帝国民の前に出て演説を行った。

 それは、これまでマゼラン銀河で行ってきた、数々の蛮行や、非道な侵略行為を恥、二度とそのようなことをしない、と誓うものだった。そして、波動砲と言う忌むべき兵器の封印と、廃棄を宣言するのだった。

 当然、テレザートで何があったか詳しく知らない帝国の人々は反発し、女王を引きずり下ろそうとする運動が始まろうとした。それでも、女王は無抵抗を貫くと決め、どんなことが自分の身に起きても、その運命を受け入れようとしていた。

 しかし、それも長くは続かなかった。イスカンダルの人々は、テレザートの洗礼を受けた者たちの近くに居るうちに、次第に同様の洗礼を受けていった。

 そうして、女王たちと同じ様に贖罪の気持ちを共有するようになると、それは、加速度的に伝搬していった。そして、時間が経てば経つほど、その影響はイスカンダル全土、帰還させた艦隊全体にも広がって行った。

 こうして、シャラートは、直ちに波動砲艦隊の破棄を決め、自爆させるなどの処置で数万隻の艦隊を消滅させて行った。

 

 一方、困惑したのは、一緒にマゼラン銀河の侵略を行っていたガミラスである。

 イスカンダルが方針転換し、マゼラン銀河の支配を止めたことは、銀河中が知る所になった。各地で巻き起こった反乱の嵐は、ますます広がって、強まって行った。更には、これまでイスカンダル帝国の圧政を受け、搾取されて来た恨みを晴らすべく、一部の勢力は、サレザー星系へと雪崩を打って襲い掛かって行った。不戦の誓いを立てたイスカンダルは、無抵抗主義を宣言し、滅びゆくのも仕方無しと、これらの敵を受け入れようとしていた。

 二重惑星であり、これまでイスカンダル帝国と共に戦ってきたガミラスは、それらの敵から本星を防衛する為に、懸命に戦った。しかし、女王シャラートの命令で銀河中の艦隊を本星に帰還させていたガミラスは、迫りくる敵を蹴散らし、難なく防衛に成功するのであった。

 一時の混乱が落ち着くと、ガミラスでは突然の心変わりをしたイスカンダルをどうするか議論になった。それまで、ガミラスは、イスカンダルからある程度の地位は与えられていたものの、イスカンダルの属国として搾取されていたのは、そのような反乱を起こした国々と同じだったからだ。イスカンダルを占領しようという機運も、次第に高まっていった。

 それからしばらくして、ガミラスはイスカンダルに軍を派遣して、実際に占領するのだった。イスカンダルは、まったく抵抗せず、あっさりとガミラスを受け入れた。

 しかし、乗り込ませた軍人が、イスカンダル人と同じ様に、軒並み心変わりを起こしたことを知るのに、時間はかからなかった。

 この事態を知ったガミラス政府は、向こう数百年はイスカンダルへの立ち入りを禁止した。それは、一種の疫病の様なものと捉え、影響が収まるまで、不可侵の惑星として取り扱う事になったのである。

 

 一方その間、イスカンダルの科学者たちは、自らが受けた心の変化や、精神感応力、そしてテレザート星が滅びたにもかかわらず存在したテレサについて、大いに興味を抱いていた。そして、精神と物質世界との繋がりについて研究を行っていた。もともと、優れた科学力を持っていたイスカンダルの科学者にとって、その繋がりの秘密は、想像以上早く、解明することが出来ていた。

 すなわち、人の記憶と言うものは、脳という人の体の器官により、様々な経験が記録されて作られる。脳に蓄積される情報を記録する過程で、脳に電気信号が送られ、それが波動となって空間を漂う。その波動は、高次元の世界に伝搬して滞留し、記憶情報は、半永久的に存在し続ける。これは、脳の働きだけで無く、人体そのものや、波動を起こすすべての事象が対象だった。例えば動物や昆虫、植物、それに、海が起こす波や、吹き荒れる風、そう言った波動となりうるすべてが対象である。

 そうしたあらゆる物質世界の波動の記憶は、それが存在した場所に紐付く高次元の世界に伝搬すると滞留し続ける。

 イスカンダルの科学者たちは、この事実に気が付くと、これを応用し、記憶の波動を元にした情報を、物質世界に留める方法を考え出した。それが、記憶を容器に格納する仕組みだった。

 

 女性シャラートは、テレサの言った贖罪とは何か。何をすべきなのか悩んでいた。これまで行った蛮行は、どんなに悔い改めたとしても、とても許されることでは無い。しからば、どうやって生きて行くべきなのか?

 そんなシャラートの元へ、科学者たちからの革命的な新発見と、技術についての報告が上がっていた。

 シャラートは、それならば、既に亡くなった生命の記憶を呼び戻して、これまでイスカンダルが奪ってきた命を復活させる事は出来ないか、更に科学者たちに調べさせることにした。

 科学者たちは、シャラートの難題を受けて、更に研究を続けた。しかし、滅びてしまった肉体だけを復活させるなど、到底出来そうも無かった。しかし、高次元に存在する死者の記憶にアクセスする事なら、波動エンジンで使われる余剰次元にアクセスする技術を応用すれば出来そうだと研究は続けられた。

 その結果、特定の死者の記憶だけを選別してアクセスすることは不可能だったが、選別せずに惑星全体の記憶としてであれば、アクセスすることが可能であることが分かった。後は、その記憶を元に、惑星全体で、その記憶の情報の再現が出来れば、いわゆる女王の言う復活に近いことが出来る筈である。

 科学者たちは、この無理難題に挑み、遂にその方法を見つけ出した。

 

 コスモリバースシステムの発明がシャラートに報告されると、彼女は雷に打たれたような衝撃が走っていた。

「これこそ……。私たちが、進むべき道に違いない。皆の者、本当に良くやってくれた……!」

 

 女王シャラートは、そこで誓った。

 

 あまねく星々、その救済こそが、イスカンダルの進む道……。

 

 イスカンダルは、自らが犯した罪の贖罪の為に、生涯を捧げる。そして、世代を超えて永遠に償い続けよう。

 しかし、私はともかく、何の罪も負っていない者たちもいる。本当にこれで良いのかどうかは分からない。それこそ、神が判断すべきことであろう……。

 

 そんな時、第一皇女シャルバートは、ようやくマゼラン銀河に戻っていた。途中、反乱軍に襲われたりしたことで、マゼラン銀河に異変が起きたことを知ることになる。

 イスカンダルに戻ったシャルバートは、アンドロメダ銀河や、その他の銀河も探索して、様々な情報を持ち帰っていた。彼女は、そのような報告を、女王シャラートに喜んでもらえると思っていた。

 しかし、まるで別人のようになってしまった女王と会話して、彼女も異変を知ることになった。

「シャルバート。これからイスカンダルは、生まれ変わる。お前も、同じ罪を背負っている。私と共に、これまでの罪を償うのだ」

 艦隊から通信で女王に繋いだシャルバートは、母親の言っている事が理解できなかった。

「何を仰っているのですか、母上。テレザート攻略はどうなったのですか?」

「テレザートは……私たちの攻撃によって、消滅してしまった。そこで、私たちは、大罪人である事に気が付かされたのだ」

 シャルバートは、母親の様子がおかしい事を不審に思い、艦隊をイスカンダルに降ろさず、部下を何名か派遣する事にした。

 その部下たちは、しばらくして戻って来たが、送り出した五名のうち三名は戻らなかった。

「シャルバート様。どうやら、イスカンダルは、テレザートで受けた洗礼により、ある種の疫病の様な精神疾患に襲われているようです。女王様はもちろん、すべての人々が、同じ病に冒されています。仲間の三名も、それにやられて、艦隊には戻らないと言うので、仕方なく、置いてきました」

 シャルバートは、あまりのことに、なかなか理解が追いつかなかった。

「その精神疾患とはどう言う状態なの?」

「はい。これまでのマゼラン銀河の我々の戦いは、多くの犠牲者を出した大罪だと仰っていました。その罪を、生涯をかけて償い続けると……」

 シャルバートは、身震いした。テレザートで何があったのか。恐らく、そこで受けた何らかの精神攻撃が原因なのは明白だった。

「……あなたは大丈夫なの?」

「はい、私と、もう一名は、そのような異常を来たす前に、脱出して来ました」

「分かったわ。イスカンダルのデータベースにアクセスし、出来るだけ情報を集めて。本当に、どうしようもなければ、ここに長く留まる訳には行かない」

 

 シャルバートは、テレザートで何があったのか。その後、イスカンダルで何が行われたのか。そう言った様々な情報を収集した結果、イスカンダル星から遠く離れるしかないと判断した。

 しかし、マゼラン銀河中で、イスカンダルに対する抗議行動や、反乱が巻き起こっている事を考慮すると、マゼラン銀河を捨てるしかなかった。

 シャルバートは、そこで、一緒に脱出する者を募った。アンドロメダ銀河などに一緒に行った、約三万隻の艦隊の乗組員のほとんどは、これに賛同してくれた。

 シャルバートは、念の為、ガミラスでも行動を共にするものがいないか確認した。すると、一部は、まだイスカンダルに付き従いたいと思っている勢力が残っている事を知った。シャルバートは、それらのガミラス軍部隊を懐柔し、マゼラン銀河から脱出した。

 これにより、約三千隻からなるガミラス艦隊を引き連れ、総数約三万三千隻の大艦隊で流浪の旅に出たのである。

「皆、聞きなさい。私は、これから、シャラートに代わって、新しいイスカンダルの女王になります。そして、私と共に、新天地で新たなイスカンダル帝国を築きましょう!」

 シャルバートの演説で、艦隊は歓喜に包まれていた。

 

 その後、何処へ向かうべきか悩んでいたシャルバートは、大した戦力が無いと以前分析済だった、天の川銀河にする事に決定した。そこで、一旦安住の地を見つけ、戦力を改めて再建し、いつの日か、再びマゼラン銀河に戻る。

 そう、シャルバートは決意していた。

 

 こうして、数ヶ月かけて、天の川銀河に到着したシャルバートの艦隊は、早速ボラー連邦とぶつかることになる。

 しかし、事前の分析の通り、当時のボラー連邦はイスカンダルの敵では無かった。あっという間に彼らを蹴散らして、とある惑星に居住を決めた。

 それが、惑星ファンタムだった。

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。

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