宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
…………。
……。
そこまで、自身の過去を一気に話したシャルバートは、虚ろな目をして、虚空を見つめていた。
古代たちは、シャルバートの体験した数奇な運命に驚かされ、心のざわめきを覚えていた。
「私の話は、だいたいこれでお終い……。その後は、ここで時々起きて、外の様子を探っていただけ。絶望していた私だったけど、時は残酷ね。次第に、そんな感情も忘却の彼方へと置いてきてしまった……。今は、ただただ、虚しいだけよ」
シャルバートは、改めてサーシャに近寄った。小さなサーシャは、身をこわばらせて、古代や真田の背後に隠れた。
「私が怖いの? そうね。私は幽霊のようなものだものね」
古代は、サーシャの前に出ると、シャルバートに詰め寄った。
「あまりサーシャに近付かないでくれませんか。あなたを信じるのは、今はまだ難しい」
シャルバートは、少しがっかりしている。
「あら、残念……」
彼女は、少し離れると、そこにいる人々を見回した。
「……ガミラス人は、それからガルマン帝国と言う大きな国を作ったことは私も知っています。その国がある限り、私たちは、永遠に狙われている。だから、民を目覚めさせるべきじゃないと、そのまま長い年月、ここで過ごすことにしました。そうすれば、いつの日か、イスカンダルから使者が訪れて、私たちを救済してくれるのでは無いかと期待してね」
シャルバートは、ランハルトの方を見た。
「ガミラスの人……。あなたは、これですべてを知った。どうするの? 私を殺し、イスカンダルのすべてを奪うつもり? でもね、あなたたちに、イスカンダルの技術を黙って渡すつもりはないわ。そうする位なら、今すぐに、ここのすべてを消し去るわ」
ランハルトは、困惑した表情をして固まっていたが、そこで我に返った。
「待て。俺たちは、現代のマゼラン銀河のガミラス星から来た。だから、お前の言うガルマン人では無い。それに、俺たちが、イスカンダル人を傷つけたりすることは無い。それは、この俺が保証する。今は、ガミラス人は、イスカンダル人を気高く、高貴なものとして扱っているのだ」
シャルバートは、不思議そうな顔で、ランハルトを眺めた。
「ふうん。そうなの? あれから、お母様は、そんな国を作ってくれたのね……」
シャルバートは、改めて真田と新見の背後に隠れるサーシャを目を向けた。
「サーシャ。あなたにお願いがあるの。ここにいる、すべての民を、イスカンダルに……故郷へ連れ帰ってもらえないかしら? 約束してくれるなら、私の持っているもの、全部あなたにあげるわ。もう、私には、何もいらないから……」
サーシャは、困ったような顔をしていた。そんなことを言われても、どうして良いか、小さな彼女には判断が出来なかったからだ。しかし、シャルバートが様々な想いを抱えて、そこに居るのは、何となくさっきの独白で分かってはいた。
「でも、ママに聞いてみないと……」
シャルバートは、それに興味を示した。
「ママ……。今の、イスカンダルの女王のことね? 何と言う名なの? 今は、イスカンダルにいるの?」
サーシャは、母親のことを思い出すと、寂しそうに言った。
「ママの名前は……スターシャ。今は、ガトランティスに捕まっているの」
シャルバートは、それを聞いて記憶を辿るように、天井を見上げた。
「ガトランティス……。何処かで聞いた名前ね……?」
彼女は、はっとして目を見開いた。
「アンドロメダ銀河のガトランティス帝国ね? それが、今はこの銀河系にいるの?」
それには、古代とランハルトは、顔を見合わせた。
「昔のガトランティスを、あなたは知っているんですか?」
シャルバートは頷いた。
「ええ。さっき話した通り、私はアンドロメダ銀河の探査に行ったから」
古代は、彼女とサーシャの顔を交互に見ながら、少し考えていた。
「……あなたの、イスカンダル人たちを、イスカンダル星に連れ帰って欲しいという要望ですが、前向きに検討して、何らかの協力は出来ると思います。しかし、いずれにせよ、スターシャ女王たちと話をしなければなりません。スターシャ女王とその妹たちが、現在ガトランティスに捕まっているので、その救出作戦を我々は検討しています。良かったら、何かの参考になるかも知れないので、ガトランティスについてご存知のことを、教えてもらえませんか?」
シャルバートは、古代の真剣な表情と、サーシャの様子を見て、何を話すか考えた。
「いいわ。お伝えしましょう。私が、アンドロメダ銀河の探査に向かうと、そこは既に荒廃した多くの星々が待っていました。生存者を見つけて確認したところ、皆、ガトランティス帝国に滅ぼされた民族だったと判明しました。銀河中のかなりの地域がそのような状況になっていて、ガトランティス帝国と言うのが何者か、興味を持ちました。私は、当時のイスカンダルが新たに侵略すべき場所を探していたので、ガトランティス帝国の所在を探して、宇宙を更に旅しました。そこで、アンドロメダ銀河に比較的近い、二重銀河で、彼らが侵略を行っているのを突き止めました。ガトランティスは、その相手と激しい戦いを繰り広げていました。見たところ、一進一退を繰り返し、長い戦いになるのが見て取れました。ガトランティスが戦っていたのは、暗黒星団帝国と名乗る国家でした」
それを、密かに聞いていたミルは、眉根を寄せた。
「暗黒星団帝国……? 何処かで聞いた名だな。確か……」
ゼール中佐は、ミルに囁いた。
「あれですよ。科学奴隷のサーダやシーラの出身国です。数百年前に、我々が滅ぼしたと言う」
二人の話には入らず、透子も、シャルバートの話を興味深そうに聞いていた。そして、彼らと共にいた機械人形の兵士も、静かにシャルバートの様子を伺っていた。
「……暗黒星団帝国は、巨大な戦艦や要塞を繰り出し、ガトランティスは、かなりの苦戦を強いられていました。我々も、彼らに発見され、何度か戦いに巻き込まれました。そこで、我々が知ったのは、暗黒星団帝国の人々は、生殖能力が無く、皆、長命のサイボーグたちだったことです。頭部以外は、すべて機械の身体なのです。中でも、私が驚いたのは、彼らは敵の艦を拿捕すると、乗組員の脳を弄って改造し、無理やり意志を奪っていきました。我々もそれをやられてしまい、本人も、改造されたことに気付かず、今まで通りに振る舞うので、私も気付くのが遅れ、多くの艦がいつの間にか占拠されていました。しばらくして、何とか改造されていることを見抜く方法を見つけましたが、私はやむを得ず、これらの艦を味方に沈めさせました。放っておけば、改造される人間が、どんどん増えていってしまう為です。その辺りで、十分だろうと判断して、我々はイスカンダルへ帰還しました。面白い種族がいて、我々が侵略するに相応しい敵が居た、とお母様に報告する為に。しかし、それは、叶わなかったけれども」
透子は、目を見開いていた。そして、ミルと目が合うと、彼に静かに言った。
「大帝……。今の話、面白いわね。サーダやシーラも、そんなことが出来るのかしら? だとすると、彼女たちは、何故大人しくしているのかしらね……?」
ミルは、訝しげな顔で、透子を見返した。
「何が言いたいのか? ガトランティスで、既に改造された者が、紛れ込んでいると……?」
透子は、黙って彼の目を見つめた。
ミルは、はっとして、自分の考えに驚いていた。
「まさか……!?」
「……私が知っているのは、こんな所ね。あんまりお役に立てていないかも知れないけれど」
古代は、少し残念そうに、頭を振った。
「いいえ、一応参考にはなりました。ありがとうございます。それでは……」
古代は、もう一度サーシャの顔を見た。
「もう一つの、サーシャに持っているものをすべてあげる、とおっしゃっていましたが、それは、どう言うことでしょうか?」
シャルバートは、手を広げて言った。
「簡単なことよ。例えば、イスカンダルの波動砲艦隊五百隻と、コスモフォワードシステム、そんなものがいくつかあるわ。それは、イスカンダルの王族の子であるサーシャが受け取るのが相応しい。それを、もう一度、争いに使うのか、それとも破棄するのか、サーシャが決めればいい。私には、もう必要無いから。何なら、あなたのママを助けるのに使ってもいいのよ?」
サーシャは、怯えて新見の後ろに隠れた。
真田は、先程の話で、コスモフォワードシステムと呼ばれていたものに興味を持っていた。
「シャルバートさん。失礼ですが、その、コスモフォワードシステムと言うのは、今何処に?」
シャルバートは、隅の扉を指した。
「それなら、そこの冷凍保存室にあるわ。あなた、科学者ね? 分かるわ、その目。私たちの科学者と同じ目をしてるから」
真田は、苦笑して、新見と目を合わせた。
「……私は、民たちを救い、残されたイスカンダルの過去の遺産が手放せれば、もうそれでいい。思い残すことは無いわ。今更、故郷に戻っても、私には生きる意味もないから」
そう寂しそうに言うシャルバートに、一行は、かける言葉も無かった。運命に翻弄された彼女が、大切な人を失っても、民の行く末を案じ、ここまで生き長らえて来たことに、感銘を受けていた。
古代は、それでも、声をかけずにいられなかった。
「シャルバートさん。あなたは、ご存知なんですか? このガルマン帝国やボラー連邦で、あなたを女神として崇めて信仰する人々が大勢いることを。彼らの為にも、まだやれることがあるんじゃありませんか?」
シャルバートは、静かに頷いた。
「知っているわ。皆、私なんかを信じて、馬鹿みたいだと思っていた。中でも、私が守れなかったせいで、ガミラス人の奴隷になったイスカンダル人たちの子孫がたくさんいるんでしょう? 私のことは、いい加減、忘れるように伝えてくれないかしら? もう、私、疲れてしまったの……」
「しかし……」
「もう、放っておいて!」
突然、きつい口調で、シャルバートは叫んだ。
「もう、いいでしょう? 私は、もう十分にやれることをやったわ。私のことは、そっとしておいて……お願い」
その時、黙って話を聞いていたケールは、マザー・シャルバートの正体に驚くと共に、落胆していた。しかし、彼女の数奇な運命を知り、複雑な気持ちになっていたのも確かだった。人々の救いの象徴であった彼女の人生を知り、それ以上彼女を責めることが出来る者など、いないかも知れない。
そんなことを、考えていると、彼はふと、近く起こるであろう嫌な予感を感じ取っていた。
「……大使、何か嫌な予感がします」
「何?」
「大帝……!」
ミルは、ゼール中佐が止めるのを聞かず、立ち上がって、古代たちの元へと近寄った。
「伏せて!」
山本と揚羽は、急いで短銃でミルに狙いをつけた。ルカは、ランハルトの前に立ち塞がり、彼を守ろうとしている。真田と新見は、サーシャを抱き寄せて、棚の列の影に隠れた。
ミルは、両手を上げて、彼らに近寄った。
「あら、また部外者が入ってしまったみたいね。困ったわね……」
半ば投げやりな態度のシャルバートを守るべく、古代も、短銃を構えて、彼女の前に立った。
「君は……!?」
古代は、その人物が、ギャラクシーで脱走したミル本人であるのに気付き、驚きを隠せなかった。
「君は、ギャラクシーの古代司令だな……? 久しぶりだな」
手を上げたまま、ミルはじわりじわりと一行に近付いた。ミルの背後から、ゼール中佐と、機械人形兵が飛び出し、彼らもミルを守ろうと銃を取って取り囲んだ。
「みんな、銃をおろしたまえ。私は、彼らに話があるだけだ」
「何を言っているんですか、危険です!」
「いいから、私の言うことを聞け!」
ミルは、手を伸ばして、ゼールの持つ銃を、無理やり降ろさせた。
「お前たちもだ。下がれ!」
二体の機械人形兵は、素直に銃を降ろした。
そして、ミルは、手を上げて、更に近寄った。
ランハルトは、ルカを押し退けて前に出ていった。
「大使!」
「俺に構うな! 貴様、ガトランティスだな!? こんな所で、何をやっている! 俺たちの後をつけたんだな!?」
「その通り。君たちに、話したいことがあったからだ」
「大帝! お止めください!」
ゼール中佐は、まだミルを押し留めるのを諦めていなかった。
「大帝……だと?」
ミルは、大きく頷いた。
「そうだ。今の大帝ズォーダーは、この私だ」
ミルは、更に近付いた。
「それ以上、こちらに近寄れば撃つ!」
山本は、彼の眉間に狙いをつけると、大きな声で言った。
「待て、皆! 相手は銃を降ろしている! 我々も、銃を降ろして、話を聞こう!」
「でも……!」
「山本! これは、命令だ!」
山本は、渋々ゆっくりと銃を降ろした。揚羽も、それに従って、銃を降ろした。
古代自身も銃を降ろし、ミルに近寄った。
「大帝という立場のあなたが、我々に、何の話があると言うんですか?」
ミルは、真剣な表情をした古代の目を見つめた。
この男なら、信じてもいいのだろうか?
まだ、彼の中でも迷いがあった。
その時、まだ隠れていた透子も、姿を現した。
「大帝……。その人たちなら、信じても大丈夫よ」
ランハルトと山本は、その人物が、火星の市長だった桂木透子本人だと気付き、驚いていた。
「貴様は……!」
「地球連邦を裏切ったあんたか!? 何のつもりだ!」
透子は、手を上げて、ミルの横まで進んだ。
「そんなに怖い顔しないで。新米の大帝に、少し助言してあげているだけよ。古代さんは、前に、地球を救ったことがある英雄よ。信じても良いと思うわ」
古代は、彼女のことは知らなかったので、ミルから視線を外さなかった。彼は、明らかに、透子の助言を聞いて、少し安堵しているのが目についた。
「聞いてくれ。私は、スターシャ女王たちを助け出したいのだ。その協力を、君たちにお願いしたい」
古代は、相手の言っていることが一瞬理解出来ず、彼の瞳の奥を覗いた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。