宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
白色彗星帝国の逆襲84 開戦前夜
ガルマン星系第三惑星、ガルマン帝国本星付近――。
「……従って、後願の憂いを断つ為にも、君たちがそこでガトランティス帝国の野望を打ち砕くことを期待する。更には、この作戦が成功すれば、ガルマン帝国も、ボラー連邦も、我々地球連邦の強力な軍事力を無視する事は出来ないだろう。これは、今後の戦後を睨んだ地球連邦の銀河系進出にも大きな影響を与える。人質の救出は、最優先で試みるべき所ではあるが、それが不可能だと君が判断した場合、優先度は下げて構わない。最優先すべきは、地球連邦に、ガトランティスの脅威が迫ることが決して無い様にそこで全てを終わらせることだ。ガトランティス帝国撃滅の為、ここで改めて、ヒジカタ提督に、作戦の全権と、波動砲の使用を含めたあらゆる権限を与える。ここに、地球連邦政府を代表して、君たちの作戦の成功を祈る。神の御加護があらんことを」
航宙母艦シナノの土方の執務室の小さな端末のスクリーンに映る大統領ダグラスと、防衛長官ウィルソン、そして地球に帰還した外務長官ライアンの姿があった。映像がそこで終わった為、三人は動かなくなった。
「……以上が、地球までの回線が開通している中立地帯から届いた、地球連邦政府からの最後の映像通信です。残念ながら、ここまで通信衛星の敷設が終っていない為、リアルタイムで会話する事は出来ません」
岬百合亜は、胸に抱えていた書類を執務室のテーブルに置くと、土方の前にある端末の操作をしようとした。しかし、その手が震えているのを、土方は見逃さなかった。
「人質の救出の件だが……」
土方は、そう声を掛けて椅子から立ち上がると、百合亜の前に立った。
百合亜は手を止めて、背の高い土方を上目遣いに見つめた。その瞳は、明らかに恐れている。土方が、ガトランティスの人質である星名の事を見捨てる事を。
土方は、彼女の肩にそっと自分の手を乗せた。
「……最善を尽くすと約束しよう。しかし、我々地球連邦防衛軍はもちろん、ガルマン帝国の罪の無い多くの国民の命が失われる事もまた、私は望んではいない。君には申し訳無いが、これまで、人質救出の方法について、我々が見出だせていないのもまた事実だ。俺は、君が一番望まないであろう選択する可能性を否定しない。だが、ぎりぎりまで、最善を尽くし、救出の望みを捨てるつもりは無い。どうか、それだけは信じて欲しい」
百合亜は、少し涙ぐみながら小さく頷いた。
「……はい。分かってます。星名くんも、自分のせいで、沢山の人が亡くなる様な事は、望んでいないと思います。だから……!」
百合亜は、耐え切れずに大粒の涙が溢れていた。
「すっ、すいません。私……!」
顔を手で覆って嗚咽を漏らす百合亜の姿を見て、土方は沈痛な面持ちで、彼女の肩を優しく叩いた。
百合亜は、顔を上げて頷くと、無理に笑顔を作って、一枚の文書を、土方に手渡した。
「も、もう一つ、極東管区の藤堂長官から送られて来た文書があります」
土方は、百合亜を気に掛けながら、その文面に目を通した。
……
日本では、多くの国民が戦地へ赴いた諸君らの事を案じている。そして、そちらからもたらされる新たな情報を受け取るたびに、一喜一憂する毎日を送っている。
残念な事に、相変わらず戦争に反対する勢力もおり、平和に暮らす国民の安全を守る、諸君らの活動を非難する者もいて、世間は賑やかである。だが、そんな言論や活動も許される、それこそが、我々が命懸けで手に入れた、自由で平和な世界であり、多くの国民が望んだ世界なのである。その平和を、我々は何と言われようと守り抜く為に戦っている。
そして、これからは、地球連邦のみならず、この銀河に暮らす、全ての人々の自由と平和をもたらすのが、政府や我々防衛軍の務めである。どうか、その事を胸に、任務を全うして貰いたい。
日本政府、及び我々防衛省として、地球連邦の一員として、諸君らが無事、任務を遂行して帰還することを期待している。
願わくば、一人の欠員も無く、帰還することを希望する。それは、指揮官たる貴下の重責となるやも知れぬが、それでも、そう願わずにいられない。
諸君らの、健闘と無事を、切に願う。
極東管区防衛省行政長官 藤堂平九郎
極東管区防衛省軍務長官 芹沢虎徹
……
土方は、その文書を力強く掴んで目を閉じた。
恐らくは、多くの兵を失うであろう事が、土方には分かっていた。藤堂と芹沢も、そのことは分かっているのだろう。土方は、その重責を案じる長官らの気持ちに感謝すると共に、何としても作戦を成功させねばと、決意を新たにした。
「地球からの通信は、以上かね?」
「はい。以上です」
土方は、頷くと百合亜に優しく言った。
「ありがとう。下がっていい」
百合亜は、小さくお辞儀をすると、何か言いたげに躊躇いながら、執務室を出て行った。
土方は、自席に腰を下ろすと、大きく息を吐き出した。
……白色彗星からの人質の救出は、シナノの優秀な科学士官たちに検討させているが、より良い結論は出ていない。北野が、その案の一つを試したが、上手く行かない事も既に分かっている。しかも、波動砲を封じるブラックホールを生成する兵器の存在まで、明らかとなっている。
真田を、防衛省に引き戻せなかったのは、失敗だったかも知れんな……。
土方は、百合亜が置いて行ったコーヒーの入ったカップを取って、一口すすった。しかし、既にコーヒーは、冷めて生温くなっていた。顔をしかめた土方は、カップを置いて腕を組んだ。
……我々は、ガトランティスに本当に勝てるのだろうか――?
百合亜は、執務室を出た後、シナノ艦内の廊下をとぼとぼと歩いていた。
航空隊の一員と思われる荒くれ男たちの一団が、百合亜を眺めて、からかいながら何人も通り過ぎて行く。空母たるこの艦のそんな日常に慣れていた筈だったが、今日はそんな連中の相手をする気にもなれなかった。
そうしていると、広い宇宙に、たった一人放り出されてしまったような、そんな気持ちになってしまう。
星名くん……。
あなたがいなくなってしまったら、私……。
百合亜は、通路の途中にあったトイレに駆け込むと、そこで一人泣きじゃくった。
しばらくして、土方は、シナノの作戦指揮所に主要な指揮官クラスのメンバーを集めた。
既に、多国籍軍としてボラー連邦領内での作戦を行っていた艦隊は、ガルマン星系に集結していた。
そこに集まったのは、地球連邦からは、山南以下、北野、島、大村、井上の五名だった。そして、ガミラス艦隊から、バーガーとその部下メルキ、ザグレス、他数名が参加していた。
土方は、百合亜を連れて作戦指揮所に現れると、各員に敬礼した。
「諸君、ご苦労。バーガー大佐たちも、来てくれて助かる」
バーガーは、にやりと笑い返した。
「まあな。あんたのお手並み、拝見させてもらうぜ」
土方は、苦笑してそれに応えた。
思えば、彼に初めて会ったのは、ガミラス星で発生したクーデターにより、拘禁されていた時だった。彼は、上官からの命令で、ヤマトを接収し、ガミラス人だけで運用することに失敗し、土方に助けを求めに来たのである。
まだ若かった彼は、上官に怯える一人の兵士に過ぎなかった。それが、このような自信たっぷりの態度でいる所を見るにつけ、ガミラスがあれから大きく変わり、時間も多く過ぎた事を物語っていた。
「……早速だが、艦隊の再再編を行う。地球艦隊は、君たちをそれぞれ指揮官として、二十隻程度の小隊を形成する。北野と島、二人には、陽動作戦部隊として行動して貰う。私と残りの小隊は、ガルマン帝国本星月軌道の外側で待機し、最終防衛ラインを形成する」
北野と島は、互いの顔を見合わせた。北野は、恐る恐る土方に尋ねた。
「陽動作戦……と、言いますと?」
土方は、大きく頷いた。
「ガトランティスが、どのような攻め方をしてくるのかはまだ分からないが、俺は、まずは艦隊戦を挑んで来るだろうと睨んでいる。これは、前のガミラス・ガトランティス戦争での奴らの攻め方を参考にしている。そこで、奴らの艦隊が正面から我々の艦隊と戦う前に、密かに奇襲攻撃を仕掛けて混乱を誘って貰いたい」
島は、眉根を寄せて考えていた。
「そうすると、イセの航空戦力を使いますね?」
土方は、それにも頷いた。
「察しが良くて助かる。そうだ。航空隊を密かに接近させ、戦力を多少でも削るのと、分断を図ってもらいたい」
島と北野は、なるほどともう一度顔を見合わせた。
「バーガー大佐。ガミラス艦隊には、我々の小隊の防衛を担って貰いたい。我々の小隊に合わせて、艦隊を再編して貰えないかね? 但し、北野と島の陽動作戦部隊には、多くの艦を割く必要は無い。隠密行動をするのに、多くの艦は不要だ。要は、そこに多数の艦隊が潜んでいると奴らに思わせればいい」
バーガーは、片手を広げて言った。
「いいぜ。だが、ガルマン帝国とボラー連邦の連中との連携はどうすんだ?」
土方は、眉間にしわを寄せた。
「彼らとの連携は情報交換のみの最小限とする。そして、ボラー連邦艦隊は、この作戦に参加しない」
バーガーは、驚いて目を大きく開いていた。
「な、何だそりゃ。ボラー連邦の連中は、まさかガルマン帝国本星なんて、守りたくねえってか!?」
土方は、バーガーをじろりと睨んた。その土方の眼光に、バーガーは少し怯んでいた。
「……君の言う通りだ。だが、事はそれだけでは無い。ボラー連邦領内は、ガトランティスが荒らし回った事により、本格的に反乱軍が動き出したようだ。その対応で、それどころでは無くなっているのが実情のようだ」
バーガーは、マゼラン銀河での、かつての混乱を思い起こし、納得した様子だった。
「なるほど。そいつは、俺たちが苦労した時よりも、さぞかし大変だろうな。奴らは、本星を落とされて、まともな指揮系統を維持するのすら困難だろうぜ」
「そうだ。彼らに期待するのは止めよう。それに、ガルマン帝国とボラー連邦には、共同作戦を展開するのは無理だという事が、山南や、北野からの報告でも既に判明している。俺は寧ろ、好都合だと考えている」
山南は、両手を頭の後ろに回して言った。
「あー。その方がいいと思いますね。その方が、艦隊の連携は上手く行くでしょう。大体あいつら、仲悪過ぎなんですよ」
「らしいな」
「ま、俺たちとも、そんなに上手くやれる様にも思えませんからね。ま、土方さんが言う、最低限の情報連携だけにするってのは、俺も賛成です。俺たちは、オトナですしね。何とかなるでしょう」
土方は、山南を眼光も鋭く睨みつけた。
「へ? な、何です?」
「俺の事は、宙将、もしくは総司令と呼べと、お前は何度言ったら分かるんだ?」
山南は、苦笑いして小さく頭を下げた。
土方は、咳払いして、改めて話を続けた。
「では、作戦行動についての詳細を、これから議論する。ガトランティスの本隊は、あと五日以内にこちらに到達すると予想されている。あまり時間は無い。皆、よろしく頼む」
「はい!」
「はっ!」
彼らは、その日遅くまでそれぞれの艦隊をどう動かすか、ガトランティスの動きの予想されるパターンに応じて検討を行った。
その日、遅い時間にヤマトに戻った北野は、最初に第一艦橋を訪れた。そこは、最低限の交代要員を残して、数名が待機している状況だった。太田や、徳川太助、桐生美影や新米も交代でいなかった。そして、ただ一人、古くからの見知った彼女がそこにいた。
レーダー手として待機していた西条未来は、彼の姿を認めて小さく手を振っていた。
「お疲れ様。どうだった?」
北野は、腕を自分の肩に回して、首を捻りながら揉んだ。
「ああ、疲れたよ。俺たちは、かなり危険な役割だ。明日、皆に周知して、訓練を開始するつもりだよ」
西条は、一瞬不安気な表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻した。
「そう。大変だったね。それじゃ、明日に備えて早く休んだ方がいいよ?」
北野は、苦笑いして、彼女に頷いた。
「そうするよ。西条さんも、確かもうすぐ交代だよね。君も、早く休みなよ?」
北野は、そう言って艦長室に上がろうと、第一艦橋を去ろうとした。しかし、最後に不安気な顔を見せた彼女の事が、ふと心配になった。
レーダー手の座席に、急ぎ足で戻った北野は、彼女の座席の横に立って、何を話すべきか迷っていた。
「どうしたの?」
不思議そうに、彼を見つめる彼女の顔は、不安を押し殺しているように見える。
北野は、イスカンダルへの旅に出掛けた時からの長い付き合いの彼女との、これまでのことをふと思い出していた。まだ、古代の交代要員でしか無かった頃から、彼女はずっと自分の事を気にかけてくれていた。それは、今でもずっと、何ら変わらずにいてくれる。そして、自身の不安を隠してまで、彼を心配する彼女の献身に、軽口を叩きながらも、密かに感謝し続けていたのだ。
しかし、今度の戦いは、あのイスカンダルへの旅の時以上に危険だった。いつ、彼女を失うか、または、いつ自分が死んでしまうかも分からなかった。
それなのに、自分がこんなに彼女を大切に思っていることを、このまま、伝えずにいるべきなのだろうか?
彼は、それを口にしようと試みたが、それは出来なかった。彼女が同じ様に思ってくれているか、確信がどうしても持てなかったからだ。
北野は、自身の意気地無さを自嘲しつつ、口を開いた。
「西条さん」
「うん?」
彼女は、普段と変わらない優しい笑顔を向けてくれている。
「俺さ……。西条さんに、伝えたい事があるんだよね」
彼女は、次第に笑顔を消して、真剣な表情で彼を見つめた。
「……後で、必ず伝えるからその時は、笑わないで聞いてくれる?」
彼女は、黙って彼を見つめ続けた。長い沈黙が、二人の間に続く。
先に口を開いたのは、西条の方だった。
「笑わない。いつでも。待ってるから」
彼女は、そこでいつもの様に笑った。
「ありがとう」
北野は、そう言って、再び艦長室へと足を向けた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。