宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
ガルマン星系付近――。
静かにワープアウトする、ガミラス艦隊の小隊が現れた。
ネレディアが率いる空母ミランガルと、その小隊は、ガルマン帝国本星に向けて通常空間を航行していた。
古代は、ミランガルの艦橋に、ネレディアとランハルトと共に、窓の外のガルマン星系を見つめていた。
ランハルトは、古代の顔をちらりと見て、また視線を戻した。
「ムサシに、雪を置いてきてしまったが、本当に、お前は心配じゃ無いのか?」
古代は、特に表情も変えずに、前を見据えたままでいる。
「彼女は、元ヤマトの戦士ですから。心配いりません。それに、戦場に娘の美雪を連れてくる訳には行きませんから」
古代は、わざわざ雪の心配をするランハルトに対して、どういうつもりか訝しがり、内心不快に感じていた。しかし、そうは言ったものの、不安が全く無いと言えば、それは嘘になる。
ムサシには、ギャラクシーの消滅後、地球に戻らなかった真琴や翼といった数名の一般市民や、科学技術省に所属する者が乗っており、古代は、この機会に地球に帰還して欲しい思っていた。
しかし、真田は、コスモフォワードシステムを奪われた事で責任を感じており、惑星ファンタムに残ってもう一度シャルバートと話すと言っていた。合わせて、波動砲艦隊の所在についても確認して、廃棄する方法を検討しておくと言う。その為に、惑星ファンタムに残ると言うのだ。
これには、サーシャや雪も賛同し、今やれる事を、それぞれの立場でやるべきだと言って、心配する古代の話は聞いてもらえなかった。
古代は、やむを得ずムサシと別れて、戦場に向かう事となった。ミルから聞いた、白色大彗星に対する攻撃方法を土方に伝えるには、通信が可能な宙域に、早く移動する必要があったからだ。
デスラー総統は、反乱軍として蜂起したイスガルマン人を始めとしたガルマン帝国臣民の事を見捨てる事は出来ないと言い、彼らの集結予定宙域である惑星ファンタムで暫く待機し、ガトランティスとの決戦が終わるまで、そこを動かぬように説得すると言う。そして、説得が終わったら、自身も戦場に向かうと約束してくれた。
デスラー総統には、スターシャの救出だけで無く、彼女が望んだイスカンダルの同胞を守る事も、大切な事であったのだ。
そして、デスラー総統は、サーシャを守る為、ムサシの護衛をする艦隊を残す事も約束してくれた事で、古代は、ネレディアの艦で、先に出発することにしたのである。
古代は、デスラー総統に熱狂する反乱軍の人々の姿を見ていると、まるでガミラスの総統だった頃の事を想起してしまう程だった。彼のカリスマ性は、未だ健在だった。
奇しくも、本来古代がやろうとしていたイスガルマン人たちに警告をして、彼らを逃がそうと言う目的は、デスラー総統が果たしてくれたのだ。
ネレディアは、通信回線を開き、土方の空母シナノへと連絡をとった。
「こちら、ガミラス軍地球駐在大使護衛艦隊代行のリッケ大佐である。我々は、これよりガトランティス帝国との決戦に参加する為、ガルマン星系へと進入する」
ミランガルの艦橋のスクリーンには、シナノにいる土方の姿が映っていた。土方は、こめかみに手を上げ、敬礼の姿勢をとっている。その横には、百合亜の姿も映っていた。
「こちら、地球連邦防衛軍、銀河中央方面遠征軍の土方だ。貴官らを歓迎する」
ネレディアとランハルトは、ガミラス式敬礼でそれに応えた。
土方は、少しだけ、眉根を寄せランハルトに向かって言った。
「デスラー大使。ここは、これから非常に危険な宙域になる。貴方のような立場の人間が、居てはならない場所だ。私からは、退避するように勧告せざるを得ない」
ランハルトは、頭を振った。
「お言葉に感謝する。しかし、我々にも、様々な思いがある。第一に、ガミラス人として、イスカンダルの女王と皇女たちの救出は、我々こそがやるべき事なのだ。それだけでは無い。我々は、ガゼル提督を始めとした、尊敬すべき友人をガトランティスのせいで失った。これは、彼らの弔い合戦でもある。この決意は、指揮官のリッケ大佐とも共有しており、ここで、私が引き下がる訳には行かない」
土方とランハルトは、互いの視線を絡ませ、暫し、相手の決心を窺った。
小さく息を吐き出した土方は、目を閉じて軽く頭を左右に動かした。
「承知した。貴方の覚悟は分かった。ならば、作戦行動について、貴官らとも話し合う必要がある。こちらに着いたら、私の艦に来て頂いても宜しいか?」
「もちろんだ」
そして、土方は古代の方を向いた。
「古代。少し遅かったな。計画は立案済みで、複数の小隊それぞれに指揮官を決め、訓練を行っている状況だ。お前は、一旦は俺の艦に居てもらう事にする」
古代は、神妙に頷くと、島や北野が、それぞれ小隊の司令官として、艦隊指揮をとっている事を土方から知らされた。今は、自身の指揮する艦を持たない古代には、当然の事とは言え、若干複雑な想いに駆られたのは確かだった。
「分かりました。……ところで、土方総司令。我々は、すぐにお知らせしたい、重要な情報を持っています」
土方は、冷静さを保った瞳で、古代を睨んた。
「言ってみろ」
古代は頷くと、惑星ファンタムで起こったいくつかの事件や事実について、ポイントを絞って土方に説明した。
「……ガトランティスの大帝が、寝返って我々に協力する気があるだと?」
古代は、大きく頷いた。
「はい。ここに居る、全員でその事実を直接本人から聞きました。特殊な方法でしたが、それが彼の本心であることも確認済みです。彼は、ギャラクシーで、デスラー総統の捕虜として過ごす間に得た、スターシャ女王に対する恩義から決意したようです」
土方は、厳しい表情になって、古代から聞いた話を思案していた。
「彼は、真上と真下……。そう、言っていたんだな?」
「はい。この情報は、私は信じても良いと思います。それに、今の所掴んだ、唯一の人質の救出策です」
土方は、腕を組んで考え込んでいる。古代は、真剣な表情で、土方の判断を待った。
土方の横に居る百合亜も、固唾を呑んで、その様子を見守っている。
「……お前と一緒に、真田が来ていないのが少し残念だが、話は分かった。お前がこっちに来て、より詳細を説明しろ。いいな?」
「はい! そちらに着き次第、大使とリッケ大佐と共に伺います!」
古代は、嬉しそうに返事をした。
土方は、百合亜の方をちらりと見て、小さく頷いた。彼女は、少し涙ぐんで、微笑していた。
通信回線が切れた後、ネレディアは、ランハルトと視線を合わせた。
「……大使。いよいよ、奴らに、本当の意味で断罪する時が来たようです」
「ああ。徹底的に後悔させてやろう」
その頃――。
ガルマン帝国本星では、総統ボルゾンが帝国臣民に向けた演説を行っていた。
総統府の巨大な建築物の前の広場には、大勢の民衆が集まって、ボルゾンの演説に声を上げていた。
「……ガトランティス帝国に我がガルマン帝国は、決して屈することは無い。必ずや、我々の強大な艦隊が、奴らの悪意を粉々に粉砕するだろう!」
壇上のボルゾンがそう言うと、集まった民衆は大きな歓声を上げた。そして、何処からとも無く、ガーレ、ボルゾンの掛け声が始まった。ボルゾンは、その太った巨体を揺らして、歓声に応えて手を振った。
ひとしきり歓呼に応えた後、ボルゾンは側近の女たちに手を引かれて、ゆっくりと壇上を後にして行った。
総統府に戻ったボルゾンは、ゆっくりと執務室へと向かった。女たちは、まだ彼を支えている。それは、太り過ぎた身体を支えきれず、そうしなければ満足に歩くことも出来ないからだ。
彼は、最も信頼する側近の一人に顔を寄せると、耳元で囁いた。彼女は、ボルゾンの最もお気に入りの一人だった。
「……いつでも、ガルマン星から脱出出来るように準備しておけ」
その側近の女は、怪訝な表情で頷いた。
「承知しましたが……」
ボルゾンは、言いたい事を察して、もう一度囁いた。
「各方面からの報告を聞く限り、ガトランティスを確実に止めらるとは言えん。だが、心配するな。我々、政権の中枢が生きている限り、ガルマン帝国は決して滅びん。お前も荷物をまとめておくがいい。そして、東部方面軍のガイデルに、その準備しておくように連絡をとれ」
その側近の女は、青ざめて返事をした。
「しょ、承知しました……。キーリング参謀長官には何とお伝えしますか?」
ボルゾンは薄く笑った。
「キーリングには、この星を死守するよう厳命している。どうすれば良いかは、奴が一番知っている。そして、そうしなければ、どうなるかも、だ」
そのキーリング参謀長官は、かなり前に、中立地帯からガルマン帝国本星に戻っていた。彼は、北部方面軍旗艦、大型空母バーニアスの作戦指揮所に居た。
そこでは、キーリングを始め、北部方面軍司令長官グスタフ中将と、ヘルマイヤー少佐、そして元第一艦隊指揮官ウォーゲン准将ら、北部方面軍の艦隊指揮官たちが集まっていた。
キーリングは、いつもの冷静な仮面を崩し、仲間たちの様子に安堵しているようだった。
「……少し前まで、皆と顔を合わせる機会が失われるかも知れないと考えていた時期もある。私も、シャルバート教を信じていたなら、どんなに心が救われただろうか、などと、考えていたよ」
集まった面々は、神妙に話すキーリングに、黙って注目している。
「特に、ウォーゲン准将。君が無事だった事は、大変な朗報だ。よくぞ、スカラゲック海峡星団の超新星爆発で生き残ってくれた」
ウォーゲン准将は、直立不動のまま、彼の話を聞いていた。
「とんでもありません。私は、ダリウス1の爆発で発生した重力震に巻き込まれ、何隻か一緒に逃げた艦を失いました。それに、逃げ遅れた二万四千隻の艦隊を失った責任は重い。ですから、私はてっきり帰国したら、総統に粛清されるのでは、と考えていました」
彼の直属の上官であるグスタフ中将は、軽く笑っていた。
「この状況では、総統も余裕は無い。何にせよ、ガルマン帝国建国以来、初の本星侵攻なのだから。君を粛清させる訳にはいかない」
そんな談笑をしているところへ、数名の将校や士官たちが現れた。グスタフ中将ら北部方面軍とは軍服の色も異なっている。
「君たちも来たか。ようこそ、本星へ」
キーリングは、早速、後からやって来た男たちに声を掛けた。
先頭に居た男は、軍帽を脱いで、ゆっくりと歩みを進めた。彼は、西部方面軍司令長官のヒステンバーガー少将だった。
「だいぶ前に着いていましたよ。ガルマン帝国最強の北部方面軍が、助けを求めていると聞きましたので、我々も、少々本星で情報収集をさせて頂いていました」
キーリングは、集まった面々を眺めて感慨深くしていた。
「君たちの加勢により、こちらは、総数約四万隻の艦隊を確保出来た。これまでのガトランティス艦隊の目撃情報から、敵艦隊は恐らく三万から五万隻の間、と言った所だろう。これに、ガミラスと地球連邦の加勢により、数の上では互角の戦いが出来ると予想される」
グスタフ中将は、渋い表情で言った。
「東部方面軍のガイデル少将も来ていますよね? 彼らは、千隻程度の艦隊を本星に集結させているようです。こちらの、作戦行動に協力させないのですか?」
それには、ヒステンバーガー少将は、にやりと笑っていた。
「総統は、本星の政府専用護衛艦隊として、徴用したいそうですから、仕方ありませんね。あてにするのは止めましょう。まぁ、最初から逃げ出したボラー連邦の連中よりは役に立つと言うものです」
集まってた面々は、それにはどっと笑っていた。
キーリングは、真剣な表情を崩さず、彼らに言った。
「そう言うな。東部方面軍には、各地で蜂起したシャルバート教信者の過激派組織の対応を行ってもらうことになっている。この決戦だけを我々はやっている訳では無い。ボラー連邦も、同じ理由で艦隊を派遣して来なくなったのだ」
ヘルマイヤー少佐は、恐る恐る尋ねた。
「ところで、ガミラスと地球連邦は、本当に本気で、我々と一緒にガトランティスと戦ってくれるのでしょうか? 折角、波動砲という武器で、白色彗星に対抗出来ると言っても、彼らは人質を取られているそうじゃありませんか」
キーリングは、重々しく頷いた。
「地球連邦の土方提督とは、先程その件で情報交換した。どうやら、対抗策を得られたらしい。だが、その対抗策が、間違い無く成功するかは分からない。最悪の場合、人質を見捨てる判断もあり得ると言う事を、先程改めて確認した」
ヘルマイヤー少佐は、頭を捻っていた。
「しかし、地球連邦は、波動砲を出来るだけ使わない方針だ、と言うのは本当なんですか? 私は、あの兵器の分析を行いましたが、多くの艦には、拡散波動砲と言う、大量破壊モードを搭載しているようです。あれを使えば、何万の艦隊が襲って来ようが、ほんの一握りの数で、対抗できる筈です」
事情を把握していなかったヒステンバーガー少将は、驚きを持って、その話を受け止めた。
「な、何だそれは? 白色彗星に対抗可能な兵器だと聞いてはいたが、そんな事も出来るのかね?」
ヘルマイヤー少佐は、大きく頷いた。
それを見たヒステンバーガー少将は、呆気にとられていた。
「……驚いたな。ならば、それを我軍に接収出来れば、簡単に敵を制圧出来るではありませんか?」
キーリングは、黙ってそれを聞いていた。
「……分かっている。彼らにも、そういう方針をとっている理由があると聞いている。それに、我々が今ここで、仲間割れをしている場合では無い。ガトランティスは、もう間もなくここへやって来る。全てが終わってから、そのような事は考えればいい」
「そんな事を言っていて、彼らがいざと言う時に、人質の命惜しさに兵器の使用を躊躇えば、我々の本星は落とされてしまいます」
「駄目だ。今、余計な事をして、彼らにここを去られでもしたら、我々の本星は終わりだ。余計な事を考えてはならん」
ヒステンバーガーは、渋々それに同意せざるを得なかった。
しかし……。
それを奪取することで、銀河を支配する事すら可能になるかも知れない。
そこに集まった誰もが、そんな思いに囚われていた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。