宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「白色彗星帝国の逆襲」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」、「連邦の危機」、「ギャラクシー」の続編になります。


白色彗星帝国の逆襲93 砲雷撃戦開始

 地球艦隊旗艦、航宙母艦シナノ――。

 

 古代は、作戦指揮所に待機する土方に報告した。

「土方総司令。島隊、北野隊の陽動作戦が成功したと報告がありました」

 土方は、正面のレーダーチャートを見つめたまま、低い声で応じた。

「うむ」

 古代は、土方の横に並ぶと、同じ様にレーダーチャートを眺めた。

「この作戦により、予定通り、ガトランティス艦隊の分断に成功しました。現在、ガルマン帝国前衛艦隊は、ガトランティス前衛艦隊との砲撃戦を開始しています」

 土方は、レーダーチャートに映るいくつかの大きな光点を睨んだ。

「敵の機動要塞が数隻混じっているようだな。ガルマン帝国前衛艦隊も、これには苦戦するだろう」

「島隊、北野隊は、先程星系外縁を離れてガルマン帝国前衛艦隊の支援に向かっています。例え、ゴルバを出して来ても、ヤマトの波動砲がこれに対抗します」

 土方は、古代の顔を見た。土方の表情は、極めて冷静だった。

「このまま、予定通りならな。だが、我々の作戦通り事が進むかまだ分からん。想定外の事態への対応が、我々の勝敗を決める。この全周レーダーチャートで、敵の不穏な動きを見逃すな」

「はっ!」

 古代は、大きく目を見開いて、レーダーチャートを見つめた。

 

 ガルマン帝国前衛艦隊は、激しい砲撃戦を始めていた。相対するそれぞれ一万隻近い艦船による砲撃戦により、多数の青や緑に色付けされた陽電子砲の光跡や、ミサイルの航跡が、暗い宇宙空間に眩く走っていた。

 ガトランティスも、ガルマン帝国も双方の艦隊が次々に被弾し、大破、航行不能になった。そして、大きな爆発の光が宇宙空間を照らし、甚大な被害が徐々に双方に広がって行った。

「敵の駆逐艦、既に百隻以上が大破、または撃沈しました!」

「こちらの艦隊の駆逐艦八十隻も、大破、または撃沈されています。被害、拡大中です!」

 ガルマン帝国前衛艦隊を率いる北部方面軍のゲッパート大佐は、艦隊の後方に控えた空母の作戦指揮所で戦況を睨んでいた。

「何とかしのげ。前を守る敵の駆逐艦を突破してからが、本当の勝負だ。敵の機動要塞の動きはどうか?」

「動きはありません。四隻の敵機動要塞を捉えていますが、敵艦隊の後方に控えたまま、動きません」

 ゲッパート大佐は、頷くと更に話した。

「敵機動要塞には、プロトンミサイル特務艦で対抗する。いつでも撃てる様に待機させておけ。陽動作戦に向かった地球とガミラスの艦隊はどうした?」

「たった今、小ワープで、付近に戻って来ました。後、十五分程でこちらに合流するものと思われます」

 ゲッパート大佐は、ほっとした様に息を吐き出した。

「うむ。彼らが来れば、敵の機動要塞も迂闊に動けんだろう」

 

 ガトランティス前衛艦隊の第一から第五艦隊を指揮するゼルビー中佐は、次々に指示を送っていた。

「後方に居る駆逐艦を前に出せ! まだカラクルム級や、メダルーサ級戦艦の艦艇は温存する! 粘って後続の艦隊が追い付いてからが勝負だ!」

「ゼルビー司令! 新手の小隊が、付近にワープアウトしました。地球とガミラスの混成艦隊の様です」

「何? スクリーンに出せ」

 彼は、スクリーンに映ったレーダーチャートを眺めた。

「駆逐艦二十五、空母三、戦艦一。この戦艦は、ヤマッテと思われます!」

 ゼルビー中佐は、ヤマトの存在を確認して思案した。

「ヤマッテは、あの大砲を搭載している艦だったな? あれを使われてしまうと、戦況が大きく変わる。奴らがガルマン帝国艦隊に合流する前に叩いてしまおう。カラクルム級数隻からなる小隊を、至急そちらに回せ! 出し惜しみはするな!」

 この命令で、後方に居たカラクルム級五隻がゆっくりと戦列を離れ始めた。そしてそれに帯同する駆逐艦五十隻とラスコー級巡洋艦十隻、そしてナスカ級空母三隻の艦艇が移動し始めた。

 

 イセでは、島が戦況の報告を受けていた。

「艦長、ガトランティスとガルマン帝国前衛艦隊は、我々の前方で砲雷撃戦の真っ最中です! 双方、既に百隻以上の艦艇が被害を受けています。ほぼ、互角の戦いの様です!」

 イセの艦橋の窓からも、遠くに輝く無数の光の線や、爆発の光が肉眼でも見えていた。

「あの真ん中に行ったらひとたまりも無いな。俺たちは、予定通り、ガルマン帝国前衛艦隊の後方につける。全速前進!」

 島の号令で、彼らの艦隊は高速で移動を始めた。

 しかし、その移動方向に向けて、ガトランティス艦隊から離れて接近する小隊が居ることは、彼らもすぐに探知していた。

「ガトランティス艦隊の一部が、前衛艦隊を離れてこちらに接近中です! 敵、カラクルム級戦艦が五隻含まれています!」

「何だと!?」

 島は、驚いて、スクリーンにレーダーチャートを投影させた。

「敵艦隊、駆逐艦五十、巡洋艦十、戦艦五、空母三を確認しました。このままだと、およそ五分で我々の移動する方角の正面で相対します!」

 島は、苦渋の表情を浮かべている。

「くそう。俺たちを、先に叩いてしまおうって魂胆か」

 島は、レーダーチャートに映る味方の艦艇の姿を確認した。

 この大艦隊同士の戦闘で、取るに足らない戦力の筈の島隊と北野隊をわざわざ襲うと言う事は、ヤマトの波動砲を恐れての動きに違い無かった。

 レーダー手の望月は、島の方を振り返って叫んだ。

「艦長、敵空母から、艦載機が発艦しています!」

 島は、一瞬だけ複雑な表情になった。

 本来であれば、島隊、北野隊は、ガルマン帝国艦隊の後方に回って支援のみを予定していた。もし、ガルマン帝国前衛艦隊が敗走する事態になった場合は、後退して、後衛艦隊の支援に回っている大村、井上隊と合流する予定である。もとより、陽動作戦でガルマン帝国艦隊が有利に戦える様に支援することのみが、彼らの役割で、航空戦力を中心とした小隊としているのも、その為である。ここで逃げる事も出来たが、それではガルマン帝国艦隊の支援をするという約束を、早くもここで反故にする事になってしまう。

 もはや島には躊躇している時間は無かった。彼は、通信マイクを掴むと、全艦隊に命じた。

「本艦、及び、ヤマトとガミラス空母は、直ちに航空隊を全機発艦! 続いて、全艦に通達! 全砲門開け! 砲雷撃戦用意!」

 この命令は、同じくヤマトにも伝わった。

 北野は、各員に指示した。

「土門、砲雷撃戦用意! 続いて、航空隊を全機発艦させてくれ!」

 土門は、北野を振り返って合図をしてきた。

「了解しました!」

 北野は、他の乗員にも、それぞれ指示をした。

「西条さん、レーダー監視を厳に。それから、シンマイ、波動防壁展開用意!」

「はいっ」

「了解です!」

 北野は、それぞれが動き出すのを確認して、急いで頭の中で考えた。

 敵は、カラクルム級戦艦を出して来た。普通に戦ったのでは、艦載機の攻撃に翻弄されている間に、射程の長いあの戦艦の主砲にやられてしまうだろう。

「市川さん、至急島さんたちとの通信回線を開いてくれ」

「承知しました!」

 大スクリーンには、島とガミラス艦隊の指揮官が映っていた。

「島さん、敵の戦艦の対応には、出来るだけ距離を詰める必要があります。ここは、ヤマトが波動防壁を展開して前進し、囮になります。その間に、他の艦で敵艦隊を攻撃してはどうでしょう?」

 島は、少し渋い表情になった。確かに、今のこの小隊には、ヤマトとイセにしか波動防壁が装備されていない。

「俺は、敵がわざわざこっちに向かって来たのは、波動砲を積んでいるヤマトを沈める為だと思うぞ?」

 北野は、頷いた。

「ええ、分かっています。だからこそ、です。真正面から戦えば、我々は、射程の長いあの戦艦の餌食になります。恐らく、ヤマトが前に出れば、集中砲火を浴びる事になるでしょう。その隙に、敵艦隊を航空隊と艦砲射撃で沈めて下さい」

 島は、口をへの字に曲げて考えていたが、それ程悩んでいる暇は明らかに無かった。

「艦長! 敵、戦艦の射程圏内まであと一分!」

 それを聞いた島は、やむを得ず直ぐに決断した。

「分かった。直ちにヤマトは単艦で全速前進し、敵艦隊に砲撃戦を仕掛けてくれ。だが北野、波動防壁の稼動限界に注意しろ。そうなる前に、必ず後退するんだ」

 北野は、心配する島に、真剣な表情で頷いた。

「分かってます。乗組員を、そんな危険に晒すつもりはありません」

 そうして、通信が切れた後、北野は、第一艦橋の乗組員に命じた。

「聞いた通りだ。太田、直ちにエンジン全開で、全速前進! シンマイ、波動防壁を三十秒後に展開開始!」

「承知しました! 波動防壁、展開三十秒前!」

「了解です! 徳川、エンジン全開!」

「了解。波動エンジン、出力最大」

 北野は、徳川太助の準備が出来たのを確認して言った。

「よし、ヤマト発進!」

「了解、ヤマト、発進します」

 波動エンジン噴射口が大きく輝くと、ヤマトは急速発進して、その場を離れて行った。先行する駆逐艦たちを追い抜き、一気に前に出た。

 既に発艦していた篠原たち航空隊は、ヤマトに従って一緒に飛んで行く。イセとガミラス艦隊から発艦した航空隊も、それを追って行った。

 ヤマトの行く手には、既に多数の敵のデスバテーターやイーターⅠによる航空戦力が編隊を組んで接近中だった。

 土門は、篠原に通信して注意を促した。

「篠原さん、ヤマトは間もなく敵艦隊の集中砲火を浴びます。直ぐに離れて飛行して下さい。波動防壁展開中のヤマトの防衛をする必要はありません」

 コスモタイガーのコックピットにいた篠原は、既に僚機に指示して、操縦桿を傾けてヤマトから離れ始めていた。

「了解、戦術長殿! 俺たちは、敵機が後方の艦隊に近付かないようにそっちの相手に集中する」

 そうしている間にも、とうとう敵艦隊からの砲撃が始まった。

 真っ直ぐ突進するヤマトは、カラクルム級の衝撃砲の一撃をまともに食らっていた。その影響で、艦内はがたがたと揺れが襲っていた。

「て、敵の攻撃が始まりました! しかし、波動防壁は正常に稼働中。艦体の損傷ありません!」

 新米の報告に、北野は頷いた。

「よし、このまま、ヤマトは全速で突っ込むぞ! 土門!」

「はい! 射程内に捉え次第、攻撃を開始します!」

「頼むぞ!」

「前部主砲、副砲、自動追尾設定完了」

「敵艦隊、射程内に入りました!」

 土門は、各部署に命じた。

「砲撃開始!」

 ヤマトの第一、第二主砲塔と副砲が、次々に火を吹いた。発射された青白いショックカノンの光跡は、螺旋を描きながら真っ直ぐに敵艦隊を目指して飛んで行った。

 そして、前衛に居たガトランティスの駆逐艦に命中すると、一撃で艦体を真っ二つに引き裂いた。同じ様に、その後ろに居た艦にも命中すると、その艦は大爆発を起こして、残骸を周囲に散らした。

 土門は、連続砲撃を指示し、自席のパネルで戦果を確認した。

「艦長、行けます! 敵駆逐艦を既に四隻撃破!」

 しかし、その時ヤマトの艦体は激しく揺れた。

「うわっ!」

「きゃあ!」

 新米と、西条がその揺れで自席から投げ出されていた。

「西条さん!」

 北野は、艦長席の肘掛けに捕まって、その揺れに耐えていたが、投げ出された彼女に思わず声を掛けてしまっていた。

 彼女は、揺れが収まった隙に、急いで立ち上がると、自席に戻った。

「北野くん、私の事は大丈夫……! 本艦は、敵カラクルム級戦艦からの集中砲撃を受けています! 艦載機多数にも取り囲まれています!」

 北野は、気丈に報告する彼女の姿を確認して、怪我をしてなさそうな事にほっとしていた。

 そうしている間にも、新米は、自席にしがみついて何とか戻っていた。

「艦長、波動防壁、急速に劣化が始まっています……! 敵の砲撃の影響だと思います。このままでは、あまり長い時間は持ちません!」

「分かった。どのぐらい保つ?」

「少し待って下さい」

 ヤマトの砲塔は、その間も砲撃を続けていた。その艦橋の目の前を、ヤマトの航空隊と敵戦闘機が撃ち合いながら、高速で何機も通り過ぎて行った。

「……このペースでは、恐らく十分も保ちません」

「分かった。西条さん、後続の味方の艦隊の位置は?」

「間もなく、ガミラス駆逐艦が敵艦隊の射程内に到達します」

 北野は、決意して新たな指示を出した。

「よし、波動防壁が続く限り、このままここで敵を引きつける。土門! 敵戦艦だけを狙え! 前衛の敵駆逐艦は、無視していい! 後続の俺たちの艦隊が叩いてくれる筈だ!」

「了解……! 新たな目標を設定します」

 ヤマトの二つの主砲塔は、敵のカラクルム級戦艦を捉える為、ゆっくりと回転した。そして、六門の砲門がそれぞれ敵を捕捉して自動追尾を開始した。

「自動追尾設定完了! 撃て!」

 ヤマトの主砲は、再び火を吹いた。

 青白い螺旋の光の帯は、真っ直ぐにカラクルム級戦艦に向かって行く。それは、一隻の艦体の前部に命中すると、その部分を抉り取った。続いて、もう一つの光の帯は艦体中央の側面を削る様に命中し、舷側に大爆発が起こった。攻撃が命中したその艦は、バランスを崩して隊列を離れて行く。

「命中! 敵艦は大破し、戦列を離れて行きます!」

 土門は、嬉しそうに後ろを振り返って言った。

「よし、そのまま砲撃を続けてくれ!」

 更に、西条から新たな報告があった。

「艦長! 後続の味方の艦隊が砲撃を開始しました!」

 先陣を切ったガミラス駆逐艦からの陽電子砲による攻撃が、ヤマトの周囲を通り過ぎて行く。

 その砲撃は、敵の駆逐艦に続々と命中し、敵艦は爆発を起こして次々に戦列を離れて行った。

 その間にも、ヤマトの主砲は、次のカラクルム級戦艦を大破させて、航行不能にして行った。

「艦長! もう、波動防壁が保ちません!」

 新米からの報告を受け、北野は土門に確認した。

「土門、敵の戦艦はどうか!?」

「あと一隻です!」

 北野は、にやりと笑った。

「よし、そいつに攻撃を加え次第、ヤマトは後退しよう。太田、用意してくれ」

「了解、艦長!」

 土門は、最後の一隻に狙いをつけた。

「撃て!」

 ヤマトの第一、第二主砲がまた火を吹いた。

「今だ、ヤマト後進!」

「ヤマト、後進します!」

 ヤマトは、前部魚雷発射管からロケットを噴射して、じりじりとその場を後退して行った。

 ヤマトが最後に発射した主砲弾は、カラクルム級戦艦の艦橋下部に命中し、艦橋が吹き飛んでいた。

 土門は、結果を確認して、北野に報告した。

「最後の戦艦を大破させました!」

 北野は、嬉しそうに言った。

「土門! 良くやってくれた!」

 しかし、新米がそこに割り込んで来た。

「波動防壁、たった今、消失しました!」

 その瞬間、ヤマトの周囲に集まっていた敵の艦載機が、多数迫っていた。しかし、篠原たちのコスモタイガーが飛来し、次々に撃墜して行く。

 そうしていると、今度は後方から、ガミラス駆逐艦がヤマトを追い越して、前方に高速駆動で敵艦隊に向かって行った。更に、ヤマトの横にはイセが並んだ。

 島からの通信が、ヤマトの大スクリーンに映る。

「北野! 良くやった。後は、俺たちに任せて後退してくれ!」

「島さん、では、後は頼みます!」

「任せてくれ!」

 通信が切れると、イセの主砲が火を吹き、敵の空母に命中していた。

 北野は、ほっとして仲間の戦いを見つめた。

 

続く…




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。

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