宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
ガルマン星系から数光年離れた白色大彗星――。
「……我が方の前衛艦隊は、ガルマン帝国の前衛艦隊と依然交戦中。双方、約四千隻程度の艦艇が失われたようです」
要塞都市帝国の司令制御室で、ゲーザリー参謀長官からこの報告を聞いたミルは、眉を釣り上げた。
「それでは、双方かなりの損害ではないか」
ゲーザリーは、特に気にする素振りを見せずに言った。
「確かに。しかし、艦船の建造は、占領地でまた生産すれば良い事で、特に影響はありません。それに、我が軍は、艦艇こそ多数保有していますが、そのほとんどがオートマタ兵が運用しています。人的な被害はそれ程でもありません。寧ろ、大きな被害を受けているのは、ガルマン帝国軍の方です」
ミルは、目を細めて、大スクリーンに表示された戦闘宙域のレーダーチャートを見つめた。刻々と、敵味方の光点が消えて行く。それも、かなりの速さで。
ミルは、それを確認すると、様々な思いが頭の中で渦巻いていた。
……あの一つ一つの光点が失われる度に、ガルマン帝国兵として徴用された多くのイスガルマン人の命が消えて行っているのだろう。
いや……、スターシャ女王は、例えガルマン人であっても、ガトランティス人であっても、人命が軽んじられ、失われて行く、このような事態をきっと望まないだろう。
それもこれも、我々がこの宇宙の生命に対する暴力を続けている事が原因なのだ。
いったい、何の為に?
その昔、故郷を戦争で失ったガトランティスは、母星を復活させるテクノロジーを求めて旅立ったという。しかし、いつしか、破壊と略奪そのものが、ガトランティスの目的に変化した。
今回の戦いにおいても、既にイスカンダルの古代のテクノロジーを盗み出す事も成功し、これ以上、ここで暴れる理由など本来なら無い筈だった。しかし、ゲーザリーもカミラも、知ってか知らずか、その話題をする事は無かった。自身も、地球人と交わしたガトランティスに対する裏切りを追求される事を恐れて、それを確認する事は出来ないままだった。
今は、イスカンダル人の末裔たる、我々にとって危険なイスガルマン人を滅ぼす事が、この戦いの大義名分になっている。
その事と、ゼール中佐からもたらされた、科学奴隷のサーダやシーラの故郷、暗黒星団帝国についての情報は、いったいどう結びつくのか?
その情報によれば、ガトランティスは、故郷を脱出して、流浪の旅を始めた直後に、暗黒星団帝国に支配されていたという。
目の前で話すゲーザリーや、向こうで作戦の進行状況にご満悦な様子のカミラ。この二人の様子は、確かに以前からおかしいと、ミルも観察を続けて来た。だがしかし、司令制御室で働く兵士たち、そして、自分自身……。これら全てが、暗黒星団帝国の支配下にあるというのは、到底受け入れられない妄想の様なものだと、最初は考えたものだった。
しかし、千年もの長きに渡って、このような暴力的な行為を当たり前の様に受け入れてきたガトランティスの民は、よくよく考えてみれば非常識な存在であった。
何故なら、宇宙に住む、多くの人々が、故郷や、愛する人々を大切にする行為は、生命としての営みを続けていく上で、ごく当たり前の事だったからだ。そうしなければ、子孫を残し、命をつないで行くという、この宇宙で定められた役割を、自ら放棄する事になってしまう。
その事実に気が付いたのも、デスラーの捕虜となり、ガミラス人やイスカンダル人たちの営みに触れたからだ。
そう考えると、自身は、何らかの理由で、暗黒星団帝国に仕掛けられた洗脳から目覚め、やっと自分の国のやっている事が異常だと、冷静に考えられる様になったのだと思われる。
そうであれば、ガトランティスの民もまた、彼らの被害者だという事だ。
ミルの頭の中は、いくら考えてもまとまらなかった。何が正しく、何が間違っているのか、あまりにも情報が不足していた。彼の背後に立って待機しているシーラを捕まえて尋問すれば、この謎は解けるのだろうか?
ミルは、シーラの方をちらりと見た。彼女も、ずっと観察していたからなのか、直ぐに視線を合わせて来る。
「大帝。何か?」
ミルは、それには答えず再びゲーザリーの方を見た。
「……このような、消耗戦は無意味ではないか? 何故、この白色大彗星を、最初にガルマン帝国に向かわせないのだ? そうすれば、直ぐに決着がつくだろうに」
ゲーザリーは、頭を振った。
「そんな事をすれば、せっかくここに集まったガルマン帝国軍は、その多くが逃げ出してしまうでしょう。この作戦は、この消耗戦に意味があるのです。彼らに、自分たちは勝てるかも知れないと思わせ、懸命に母星を守らせようと仕向ける必要があります。そうする事によって、逃げ出せない状況を作り出します。それからですよ。この白色大彗星を動かすのは。ですので、現在、微速前進でゆっくりとガルマン星系に向かっています」
ミルは、ゲーザリーの言葉に動揺した。
そうだった。
我々の今の目的は、イスガルマン人に根絶やしにする事だ。その為に、邪魔なガルマン帝国の主力艦隊をここで全滅させようとしているのだ。彼らが立ち向かって来れば来る程、多くのガルマン帝国の戦力を奪う事が出来るということだ。
そうして、その後は、生き残ったイスガルマン人を探し、この国中を荒らし回るのだ。
ああ、何という恐ろしい所業なのか……!
そんなミルを尻目に、ゲーザリーは考え始めた。
「しかし……。こちらの艦隊の損耗も思ったより激しいですね。仕掛けるなら、もう始めた方がいいでしょう。ボラー連邦を滅ぼす為に放っていた四基の通常の白色彗星は、こちらに戻して我々の後方で待機させています。直ちに戦線に投入しましょう。恐らくは、地球艦隊が対抗する事になるでしょうが、それも計算尽くです」
カミラは、ゲーザリーの合図に気が付くと、嬉しそうに司令制御室の中央のテーブルへと移動した。そして、通信回線を開くと、全艦隊へと通達を行った。
「こちらは、女帝ズォーダーである! 勇敢なるガトランティスの兵士たちに告ぐ! これより、白色彗星をガルマン星系に侵攻させる事を決定した。しかし、白色彗星は、地球艦隊の波動砲で狙い撃ちにされるだろう。諸君らの艦隊戦力でこれを妨害し、敵戦力の更なる損耗を誘うのだ。白色彗星の侵攻に備えよ!」
そう宣言すると、白色大彗星の周囲に、後方から、巨大な球状の鋼鉄の塊が移動してきた。要塞都市帝国よりは、ずっと小さいながらも、対ガミラス戦争で初めて戦線に投入したものと、ほぼ同じサイズ、同じ機能のものだ。
それら四つの鋼鉄の球体は、突然プラズマの稲光が走った。丸い形状の周囲は激しくプラズマの光が覆って行き、やがて、あっという間に真っ白い輝きに包まれた。その間、たった三十秒程。その四つの鋼鉄の塊は、白色彗星へと姿を変え、静かに白色大彗星の周囲に並んだ。
「発進!」
カミラのその命令で、白色彗星は、司令制御室からの遠隔操作により、ゆっくりと、そして次第に速度を上げながら、ガルマン星系へと飛び去って行った。
その頃、ガルマン星系外縁の外側で、前衛艦隊の星系侵入を見守っていたユーゼラー提督は、部下から後方に現れた白色彗星一基が、こちらに接近していると報告を受けた。
「どうやら参謀長官は、待ちきれなかったようだな」
ユーゼラー提督は、全艦隊への通信回線を開かせると、指示を出した。
「諸君! 女帝の命令通り、白色彗星が戦線に投入された。直ちに、白色彗星の道を開けるのだ! 我々後衛艦隊は、白色彗星の後に続く!」
ユーゼラー提督率いるガトランティス後衛艦隊は、直ちに道を開ける為、上下左右へと移動し、白色彗星が通り過ぎる為の道を作った。
白色彗星は、その真ん中を静かに速度を上げ、長い尾を引いてガルマン星系へと侵入して行った。白色彗星の前に立ちはだかるカイパーベルト天体は、白色彗星の超重力に引かれ、吸い込まれるように集まって行く。そして、その重力に潰されると粉々になって塵と消えて行った。
白色彗星が通り過ぎた後、ガトランティス後衛艦隊は、再び隊列を整えると、その後に続いた。それまで邪魔になっていた小惑星帯の障害は、白色彗星により取り除かれていた。
その頃、ガルマン帝国とガトランティスそれぞれの前衛艦隊は、いまだ激しい砲撃戦が続いていた。残るゴルバ一隻の猛攻の前に、ガルマン帝国前衛艦隊は、その数を大幅に減らしていた。しかし、対抗する彼らの砲撃の前に、ゴルバは徐々にその動きを封じられて行った。
双方の前衛艦隊は、その数更に五千隻を失い、なおも戦いは続いていた。
丁度その頃、島はスクリーン越しに、土方に後退を進言していた。分割したスクリーンには、ガミラス艦隊の指揮官と、ヤマト艦長の北野も映っていた。北野も、心配そうな顔をしている。
「土方総司令。我々の主たる任務は、陽動です。既に、その作戦は成功し、これ以上ここに留まっても、ほとんど出来る事はありません。後方の大村隊、井上隊と合流して、体勢を立て直させてください」
スクリーンの向こうの土方は、黙って腕を組んで目を伏せている。土方の横に居る古代と百合亜は、複雑な表情で土方の様子を見守っていた。
土方は、目を開けると、鋭い眼光で島のことを見た。
「それは出来ない相談だ。持ち場を離れると言うことが、何を意味するのか、お前は分かっていて言っているのだろうな?」
土方の眼光に怯みながらも、島は艦隊のみんなの事を思い、食い下がった。
「あれだけの激しい艦隊戦は、私自身も含めて、我々はかつて経験したことが無いはずです。対して、我々の小隊は、あまりにも数が少な過ぎます!」
そこで古代は、思わず話に割って入ってしまった。
「土方さん。島の言う通りです。あの宙域は、既に五千隻のガルマン帝国の艦艇が沈められています。物量がものを言うあの宙域に、島隊、北野隊が留まるのは、危険だと思います」
北野も、これに加わった。
「土方総司令! 私も同感です。後退させて下さい!」
しかし、再び土方は目を閉じてしまった。
「土方総司令!」
「土方さん!」
「お願いします!」
そこで、土方は、目をくわっと大きく開くと、大きな声で一喝した。
「……この、馬鹿者ども!!」
土方の横にいた古代は勿論、通信越しとはいえ、その剣幕は、島や北野にも伝わった。彼らは、思わず身体が硬直していた。
「貴様ら、何を勘違いしている!? 俺の命令は、ガルマン帝国艦隊の後方で待機だ。誰が、前線に行って戦えと言った? 俺はそんな命令は出していない。それとも、後方で待機する事すら、怖気づいたと言うのか!? 答えろ! 島!」
勢いに押された島は、途切れ途切れに話した。
「し、しかし……す、既に危険な状態ではないかと……」
土方は、声のトーンを落として言った。
「島。お前が、危険だと判断したら、直ちに後方に下がって構わん。ブリーフィングでも確認した筈だ。だが、その任に着きもしないで下がるのはあり得ない。お前と、北野がそんな調子なら、艦隊司令の役割は、ガミラス軍の指揮官と代わってもらおうか?」
そこまで言われた島は、やむを得ず決断した。
「……分かりました。ガルマン帝国前衛艦隊の後方につけます」
土方は、大きく頷いた。
「それでいい。お前たちは、危険を察知したら後退しても構わん。その時は、俺に確認する必要は無い。だが、忘れるな。お前たちの後ろにあるのは、ガルマン帝国本星だけでは無い。お前たちの後ろには、俺たちの地球がある。地球連邦の未来がこの戦いにはかかっている。その事を、決して忘れるな」
島と北野は、真剣な表情で頷いた。
「分かりました」
「承知しました」
通信回線が切れた後、土方は、古代の方を向いた。
「まったく、お前までなんてざまだ。俺に、敵前逃亡とか、軍法会議とか、そんな言葉を使わせようとするんじゃない。これは戦争なんだ。甘い考えは、今のうちに捨てておけ!」
古代は、そんな土方の言葉にそれでも懸命に反発した。
「し、しかし。島の言う事は間違っているとは思えません。我々は、ここで敗北したとしても、まだ地球を守らねばなりません。ここで死ぬ訳には行かないんです。そうなったら、誰が明日の地球を守るんですか? 土方さん、僕は、貴方にそれを尋ねたい!」
土方は、古代の顔をまじまじと眺めた。古代は、真っ直ぐに土方の目を見つめている。両者は、そうやって互いの視線を合わせたまま、心の内を探った。
結局、先に視線を反らしたのは、土方の方だった。
「まったく……お前、まるで沖田の様な事を言う」
古代は、そう言われて、やっと表情をやわらかくした。
「そ、そうでしたか?」
土方は、一瞬だけ、ばつが悪そうな顔になった。
「その事はいい。よく聞け、古代」
「は、はい」
土方の表情は、再び険しいものに変わった。
「今回の戦いだが、本来なら、お前や島たちの言う通り、ここで命を掛けてまで戦うべきでは無い。しかしだな。俺たちが今やろうとしているのは、ここでガトランティスを倒す事で、決して地球に危機が訪れない様にする事だ。いつか必ず訪れるだろう、未来の危機の芽を摘むのが最大の目的だ。さっきも言った通り、俺たちが守っているのは、ガルマン帝国だけでは無い。その後ろにある、地球の未来を守っているのだ。それを決して忘れてはならん!」
「はっ、はい!」
土方は、そこでようやく表情を緩めた。
「それにだな……。俺の役目は、それだけでは無い。ガトランティスをここで協力して倒そうとしたという事実は、ガルマン帝国と我々地球連邦との間に、かけがえのない絆の様なものを生み出す筈だ。両国の間にある、決して相容れない決定的なイデオロギーの違いを超えるもの。お前にも分かる筈だ。ガミラスと俺たちの関係が一番近いかも知れん。ガルマン帝国と地球とが、これから手をつないで歩んで行けるかどうか、そんな国同士の未来も俺には託されている。もしかしたら、今後起こるだろう俺たちの危機に、ガルマン帝国は助けに来てくれるかも知れない。今のガミラスの様にな」
古代は、土方がそんな事まで考えている事に、少し驚いていた。
「これは、勿論俺だけの考えではない。地球連邦政府からの要請なんだよ。俺たちは、ただ戦えば良いと言う訳じゃない。だが、全員の命も可能な限り守りたい。その狭間で、俺は、策を見つけて戦わねばならんのだ」
古代は、それを聞いてようやく気が付いた。土方が、この戦闘行為だけで無く、政治的な使命まで負っていることに。
「地球連邦という組織は、そんな無茶を俺に押し付けた。俺は、出来る限り、その目的を達成しつつ、皆を出来得る限り、無事に連れ帰ってやりたい。本当にそう思っている。それでも、皆の命の保証をしてやる事は出来ない。それが、俺の役割なんだ」
古代は、指揮官としての重責を打ち明けた土方の姿に、改めて尊敬の念を抱いた。しかし、そんなやり取りは、新たな報告で中断された。
「ガルマン星系外縁に、白色彗星と思われる反応が一基! 現在交戦中の、ガルマン帝国前衛艦隊の真正面に向かっています! 大きさからいって、白色大彗星ではありません。通常サイズの白色彗星です!」
土方と古代は、顔を見合わせた。
「どうやら、結果的に島たちを後退させる判断をしなくて良かったと言う事だ。古代、直ちにヤマトに波動砲の使用許可を出せ」
古代は、直立不動になって敬礼した。
「はっ! 直ちに連絡を入れます!」
土方は、慌ただしく百合亜と共に連絡を急ぐ古代の姿を確認してから、全周レーダーチャートを眺めた。
そこで一番大きな一つの光点が、白色彗星を表していた。
「ガトランティスめ……!」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。