宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
ガルマン星系第四惑星軌道付近――。
「敵、ガトランティス艦隊、前衛艦隊と後衛艦隊が合流し、総数約三万五千隻、星系外縁から接近中! 我々の前衛艦隊を壊滅させた二基目の白色彗星は、その後方から速度を落として接近しています。後、三十分程で、こちらにやって来ます」
後衛艦隊の艦隊司令官、ウォーゲン准将は、新たに旗艦として与えられた大型空母バーレウスに座乗していた。後衛艦隊は、約一万の艦隊を保持していたが、敵に対して圧倒的に数で不足していた。
また、壊滅的な被害を受けたゲッパート大佐率いる前衛艦隊は、残存艦艇は千隻以下まで減らしており、その多くは傷付いて修理を必要としていた。その為、ウォーゲン准将は、部隊を後衛艦隊に合流させるより、本星の月軌道付近の最終防衛ラインまで下がらせる事にした。
そして先程から、ウォーゲン准将は、参謀長官キーリングと艦隊総司令グスタフとの作戦会議を開いて、対策を検討していた。
「グスタフ総司令、ここは、我々の正念場でもありますが、正面から受けて立っても、このままでは勝利するのは不可能だと私は考えます」
グスタフ中将は、キーリング参謀長官と並んで映像スクリーンに映っていた。
「君に、策はあるかね?」
ウォーゲン准将は、頭を振った。
「いいえ。例えば、最終防衛ラインまで、我々も下がり、そちらの艦隊二万と合流し、少しでも数の不利を無くす事が考えられます。それでも、敵と我々の間には、約五千隻の艦艇数の差が存在しており、前衛艦隊の被った損耗を考慮すれば、我々の艦隊も相当な被害が出るでしょう。地球艦隊とガミラス艦隊の数を加えても、この差はあまり縮まりません。普通に考えれば、ガトランティスに勝つのは困難です」
ウォーゲンの顔色を見て、グスタフも考え込んでいた。
「ふむ……。確かに君の言う通りだ。こちらも、前衛艦隊があそこ迄やられてしまうのは想定外だった。後衛艦隊を、最終防衛ラインまで下げる方が良さそうだな」
そんなやり取りを横目に、キーリング参謀長官は、腕組みして目を閉じていた。グスタフ中将とウォーゲン准将は、キーリングが決断するのを待った。
「……いや。戦線を下げても、それではあまり変わらんだろう。前衛艦隊の戦闘の結果を見れば分かるように、地球艦隊を白色彗星専用の攻撃部隊として温存すれば、また同じ事が起きてしまう。私から、地球艦隊を前面に立たせる事が出来ないか、交渉してみよう」
ウォーゲン准将とグスタフ中将は、目をぱちぱちとさせて、キーリングの顔を見た。
「地球艦隊の土方総司令は、その提案を受け入れるでしょうか? 我々のガルマン帝星を守る為に、自国民の命を危険に晒す事になります」
「話してみなければ分からんだろう。彼らだって、ここで我々ガルマン帝国が崩壊する事になれば、いつ、地球にガトランティスが攻めてこないとも限らない。それは、土方総司令もよく分かっている筈だ」
キーリングは、早速土方へと回線を繋ぐように兵士に指示をした。
しばらくすると、スクリーンは分割して、土方の姿が映し出された。
「土方です。キーリング参謀長官、緊急の用件とは何でしょう?」
土方は、厳しい表情でキーリングを見つめている。土方自身も、古代からヤマトとイセを喪ったらしいという報告を受け、更に後退した島隊、北野隊の残存艦からの報告を受けたばかりだった。
「土方総司令。敵艦隊の動きはそちらでも把握している状況だと思う。このままでは、我々はガトランティスに勝てない。非常に厳しい状況だ」
土方は、大きく頷いた。
「ガトランティスが、ここまで正面から力押しで来ることは、可能性として想定していた事ではありますが、我々はそうで無い可能性を鑑みて、艦隊配置を分散していました。それが仇になり、結局数の勝負に持ち込まれてしまいましたな。ガトランティスは、全艦隊を真正面から戦線に投入しているからには、我々も艦隊を集結させて対抗すべきでしょう」
キーリング参謀長官は、相手が同じ結論に達している事に安堵した。
「その通り。しかし、それでも戦力差は大きい。そこで、あなたに提案がある」
土方は、眼光を鋭くして、キーリングを睨んだ。
「何でしょう?」
キーリングは、真剣な表情で訴えた。
「地球艦隊の波動砲を、敵艦隊に向けて使用してもらえないだろうか?」
土方は、大きく目を見開いた。
とうとう、この要請が来たか……。
土方は、相手の目を睨みつけた。
「……キーリング参謀長官には、以前ご説明した通り、我々地球艦隊は、波動砲という強力な兵器の力を軽々しく使用してはならない、という地球連邦法で定められた制約があります。これは、波動エンジンを技術供与してくれたイスカンダルと結んだ条約が元になっております。その為、我々は本当に波動砲で無ければ排除出来ない物から、自国民の生命を守る場合に限って、その使用を認めています。主に白色彗星に対して使用しているのは、あれが、波動砲でしか撃破するのが困難だからです」
キーリングは、頭を振った。
「それは勿論、把握している。しかし、前衛艦隊の戦果を確認した今、我々は、正面から立ち向かっても、消耗戦になるのが目に見えている。前衛艦隊の指揮官、ゲッパート大佐からの報告では、ガトランティスは、まるで命など惜しくないかのように、艦隊を突撃させて来たという。数の上で不利な今、同じ戦法を取られれば、また同じ事が起こるだろう。そうなる前に、敵艦隊の数を大幅に減らし、戦いを有利に運べる様にしたい。それには、君たちの波動砲を使用する事が、事態を打開する事に繋がる。私は、そう考えて、あなたに依頼している。引き受けてはくれないだろうか?」
キーリングの表情は、真剣そのものだった。ガルマン帝国艦隊としても、これ以上は母星を守る事が困難だとよくよく考えてのものだろう。
土方は、目を閉じて熟考した。
キーリングや、グスタフ、そしてウォーゲンらは、固唾を呑んで土方の反応を見守った。
土方は、その時、ヤマトやイセがどうなったかを考えていた。
報告通りなら、白色彗星に飲み込まれて消滅してしまったと考えるのが妥当だろう。これ以上、そのような被害を出さない様にするには、キーリングの提案通り、波動砲で敵を排除し、安全な状態で白色彗星を撃破するのが望ましい。
この判断は、自国民の危機が迫ったひっ迫した状況では、地球連邦法を犯す事にはならない筈だ。
しかし、ヤマトとイセには、その判断をせず、前衛艦隊の後方に待機するように指示したのは、自分自身だった。彼らにも、同じ判断をしていれば、今のような事態にはなっていなかったかも知れない……。
この事は、自身の罪として、一生十字架を背負って行かねばならないだろう。
内惑星戦争でも、ガミラスとの戦争でも、部下の命を散らして来た。そのような罪を、今までも、これからも背負って行かねばならない……。
土方は、胸の痛みを感じながら目を開けた。
三人のガルマン人たちは、土方の答えを待ってくれている。
土方は、大きく息を吸い込むと、力強く言った。
「承知しました。前衛艦隊の大村隊、井上隊に、拡散波動砲による敵艦隊の排除を命じます。しかし、無益な殺生を我々は望んではいない。敵艦隊を排除し、第一に、白色彗星の撃破を最大の目標と設定します。あなた方の艦隊には、引き続き、我々の艦隊の防衛をお願いしたい」
キーリングは、ほっとして返事をした。
「勿論だ。土方総司令、ガルマン帝国艦隊の長として、あなた方地球艦隊に感謝したい」
キーリングが敬礼すると、グスタフとウォーゲンも、同じ様に敬礼した。
土方は、その姿が、ガミラスと同じ敬礼の形だった事に気付くと、口角を上げた。そして、こめかみに手を上げて、同じく敬礼を返した。
大村隊の艦隊旗艦は、量産される前の、最初に建造された主力戦艦だった。主力戦艦ナガトに乗る艦長大村耕作は、艦長席で、スクリーンに映る土方からの新たな命令を受けていた。スクリーンには、井上も映っていた。
「……作戦は以上だ。何か質問は?」
大村は、土方に向けて頭を振った。
「ありません。それでは、我々大村隊、井上隊は、主力戦艦の拡散波動砲を使用して、敵艦隊を排除し、敵、白色彗星の撃破に臨みます」
土方は、小さく頷いた。
「頼むぞ、大村、井上」
「分かっています。お任せを」
大村は、同じくスクリーンに映っている井上に言った。
「井上、そちらの隊の主力戦艦との共同作戦となる。双方合わせて十隻の主力戦艦一隻づつの縦列マルチ隊形で行こう。一隻が拡散波動砲を発砲した後、三分間隔を空けて次の一隻が撃つ。撃ち終わった艦は、もう一度波動砲の発射準備を進めておき、次の順番を待つ。これで、三分間隔で撃ち打ち続ける事が出来るだろう」
井上もそこで頷いた。
「分かった。艦隊防衛は、イージスシステムと、ガルマン帝国後衛艦隊の守備って事だな」
「そういう事だ。後退してきた島隊、北野隊の乗組員からの報告では、ガルマン帝国艦隊は、信頼に値すると言う事だ」
土方は、初めて建造された主力戦艦ナガトとムツを任せた二人を信頼し、そこで通信を切ることにした。
「二人とも、拡散波動砲による敵艦隊との戦闘は、これが人類初となる。もしも、これまで訓練で想定した作戦通りに行かないとお前たちが判断したら、直ちに後退しろ。決して命を無駄にしてはならん」
土方は、敬礼して通信を切断しようとした。しかし、その瞬間、大村は寂しそうな表情になった。
「……ヤマトとイセの事は、残念でした」
土方は、少しだけ表情に苦痛を浮かべたが、すぐに消した。
「ああ。俺も、同じ気持ちだ。通信終わり」
そのまま、通信は切れた。
大村は、通信マイクを掴むと、全艦隊に司令を出した。
「全艦に告ぐ。これより、ガルマン帝国艦隊との共同作戦で、敵艦隊へ拡散波動砲による攻撃を仕掛ける。まずは、ガルマン帝国後衛艦隊の中央へ移動する。全艦隊、微速前進!」
大村隊と井上隊は、波動エンジンを咆哮させると、ゆっくりと前進を開始した。
そうして、準備が進む中、遂にガトランティス艦隊が接近して来た。もう間もなく、交戦可能なラインを越える。ガルマン帝国後衛艦隊指揮官のウォーゲン准将は、レーダーチャートの表示をスクリーンで睨みながらのその瞬間を待った。
そして、ラインを越えた瞬間、彼は全艦隊に指示した。
「全艦、砲撃始め!」
一万隻からなるガルマン帝国後衛艦隊の前方に展開した多数の駆逐艦は、舷側を向けて一斉に陽電子砲による砲撃を開始した。ガトランティス艦隊も、時を同じくして、砲撃を開始し、双方の色とりどりの光線が飛び交った。
そして、双方の駆逐艦が次々に被弾し、陽電子砲の光線は、艦体を抉って行った。双方の艦艇が爆発して、辺りは明るく照らされる。
「怯むな! 撃ちまくれ! このまま、ガトランティスを引き付けるんだ。充分に引き付けた所で、地球艦隊に攻撃を開始してもらう。それまで、持ちこたえろ!」
「艦長! 始まりました! 我々の艦隊も既に射程圏内に入っています!」
大村は、落ち着いて指示した。
「俺たちの出番はまだだ。イージスシステムのリンク確認を怠るな。主力戦艦各艦は、拡散波動砲の発射用意!」
イージスシステムが捉えた敵のミサイルを探知し、地球艦隊とガミラス艦隊の駆逐艦から、迎撃ミサイルが発射される。それは、弧を描いて敵のミサイルを捉えて爆発した。敵の陽電子砲の攻撃は、艦隊の付近を次々に通り過ぎていく。
そんな中、ナガトとムツを含む十隻の主力戦艦は、それぞれ波動砲の発射準備を始めた。
ウォーゲン准将は、レーダーチャートを眺めて戦況を確認していた。敵の艦隊の多くが、砲撃に対抗しようと更に接近している。
「そろそろだな」
ウォーゲンは、通信士に命じた。
「地球艦隊に作戦開始を通達!」
「了解、地球艦隊に告ぐ。作戦を開始して欲しい。繰り返す……」
大村の乗るナガトは、回頭して艦首をガトランティスの方へ向けた。艦首波動砲口は、発射準備の整った波動砲のエネルギーがみなぎっているのが見えた。
そして、波動砲の射線を確保する為、前方にいるガルマン帝国の艦艇がゆっくりと移動して行く。
「全艦、ナガトに続き、縦列マルチ隊形の位置に付け!」
主力戦艦は、縦一列に並び、それぞれが波動砲の発射準備を終えていた。
大村は、前方を睨んで指示を発しようとした。
前方では、被弾して爆発するガルマン帝国の駆逐艦の姿が幾つも見えた。
大きく息を吸い込んで、大村は言った。
「よし、まずは、ナガトから拡散波動砲を撃つ。直ちに発射体制に移行」
「了解、ターゲットスコープオープン。電影クロスゲージ、明度二十。敵艦隊多数を、ターゲットスコープに捉えました。拡散モード切り替えを確認。総員、対ショック、対閃光防御。カウントダウンを開始します!」
ナガトの艦橋の乗組員は、耐閃光鏡を装着した。
波動砲の発射まであとわずか。大村は、緊張感に包まれたまま、小さな声で独り言を言った。
「地球をなめるなよ……。俺たちは、決してお前たちには屈しない」
大村のその祈りは、艦内に大きく響く波動砲のエネルギーの高まる音にかき消されていた。
「五、四、三、二、一……拡散波動砲、発射!」
ナガトの波動砲口は、大きく煌めいた。
そして、次の瞬間、艦内に轟音を響かせて波動砲を発射した時の衝撃が襲った。
発射された波動砲のエネルギーの束は、ガルマン帝国艦隊の脇を抜け、真っ直ぐにガトランティス艦隊に向かって突き進んだ。
そして、艦隊の鼻先で、突然傘が開いたかの様に、無数の小さな光の束へと広がった。それは、ガトランティス艦隊の真ん中で次々に多数の艦艇を貫いた。一瞬で三百隻余りの艦艇が、大爆発を起こした。拡散した波動砲のエネルギーがかすめた艦艇は、大破して戦列を離れて行った。
大村は、前方で輝く多数の艦艇が起こした光を艦橋の窓の外に肉眼で目撃した。
あの光の一つ一つに、何十人か、何百人かの人間が乗っていたのに違いない。ならば、もしかしたら、一瞬で何千人かの命を奪った事になるのだ。
そう思うと、大村の手は震えた。
その手をもう片方の手で押さえると、大村は言った。
「俺たちは、後退して、次の艦の場所を空ける。直ちに後退し、もう一度波動砲の発射準備に入れ!」
艦橋の乗組員も、少し動きが遅い。大村が今感じている感覚を、彼らも強く覚えてしまっているのだ。
大村は、歯を食いしばって皆に言い聞かせなければならなかった。
「この恐れの感情を忘れるな。それがある限り、俺たちは、決して悪魔になる事は無い。決して、忘れるな……!」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。