私の過去の話。 一生忘れられない唯一の名前。

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土塊の私

人間に心なんてない。 社会性を保つための幻想でしかない。

私はそう考える。 そもそも、感情何てものは生物には不必要なのである。 生物の本懐は自分自身が生きることではなく、その種が繁栄することである。

なのに何故、私は泣くのだろう。

特に何でもない今日。 ふとベランダでタバコを吹かしていたらある友人を思い出した。

小学生の頃。 趣味が合い、ほぼ毎日その友人の家を訪ねて遊んでいた。

彼は、スポーツが優秀でもなく、成績も振るわなかった。 ゲームは好きだが、所詮は小学生。 好きで止まっていた。

中学に上がり、私はスポーツ系の部活動に入部した。 その部活動はきびしく、ほぼ毎日活動があり、必然的に私が中学生の頃つるむ友人は部活の面々が多かった。

その頃から、同じ学校であるはずの彼を見ることは少なくなっていた。 気が付かなかったのだ。

偶然の再会をした時には、彼は変わり果てていた。癌だ。 投薬により、髪は抜け落ち、元から貧弱であった体はさらにやせ細り、車椅子が無ければ移動ができない体だった。

その時、私は彼を見て見ぬふりをした。

今でも理由は分からない。 今更故人に取り繕うような真似はしない。 ただ、とてつもなく恐ろしかったことだけを覚えている。

彼の闘病生活も虚しく。 彼は帰らぬ人となった。

私は泣かなかった。 ただ、ぼんやりと現実を受け止めた。 当時中学二年生。 死が分からぬほどの歳ではなかった。 車椅子が無いと移動ができない程の友人の姿を見て、その最後を予想できないはずが無い。

それ故か。 クラスメイトからの電話で彼の死を聞いた時も。 それを母に告げて母が私を抱きしめて慰めてくれた時も。 私の心には何も無かった。

翌日の、学校全体でも黙祷でも。 私は泣かなかった。

全国を巡ればよくある話だろう。 友人が唐突に無くなった話など。 しかし、あの時の私と彼の関係は、もう友人ですら無かった。

それから七年近くがたった今。

ふと彼のことを思い出し、泣いた。 ようやく私と彼は友人に戻れたのだ。

高校のクラスメイトや、いつもつるんでいた部活の面々の名前や顔。 特徴などほとんど覚えている人はいない。

しかし、彼の事だけは今でも鮮明に思い出せる。

彼の親のアパートの空き部屋で毎日遊んだ。 彼と私の思い出のカードは今でも忘れない。

彼と顔を付き合わせながらした初代DS。 当時流行ったパソコンのフラッシュゲーム。

彼の間延びしながら話す癖。 運動神経は最悪のくせにいつも机で卓球をした。

昔から友人が少なく一人の友人と濃い関係を結ぶ私の友人関係の中で、最も忘れられないだろう。

そして、最後に。 私は人でなしだ。 この世の全てに客観的に感動しなければならない。 君の死も。 全てを創作の糧としよう。

どうか恨んでくれ。 呪ってくれ。 もう一度。 私の前に現れてくれ。



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