普通のことができない俺が、異世界ではチート並みになんでも出来る無双者!?   作:HAL

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【2日目、街に向かうがそこには…】

 

 

 

夢見ることなく朝を迎えた。俺は起き上がり背を伸ばした。なんだかスッキリ眠れたし、スッキリ起きれた。これもクロの抱き枕があったおかげかもしれない。特別な存在がいるだけでポカポカするからだ。

 

クロは、……まだ寝てるな。起こすのも悪いし朝食の用意をしよう

 

音を立てないようにソッと起きて、『アイテム』からまた火を使わない食材を取り出した。

 

とは言っても昨日食べたパンのヤツだけど…

 

俺としてはもう少し何か手を加えたい。しかし、火や電気で使うことが多いので充実してから考えることにした。やれることと言えば、昨日とはちょっと違うジャムで塗る。それをクッキーのチョコとプレーンのように斜めに塗るという。

 

これもまた物によって相性がいいんだよな♪

 

俺のは昨日のブルーベリージャムと今日はマーマレードを組み合わせた。クロには昨日のイチゴジャムと今日はブルーベリージャムを組み合わせる。美味しいって言ってもらえるかはわからないが、これも焼くと美味い味が出る。食べさせれないのが歯がゆい。

 

まあ、今日は支度したら街に向かってみよう。ここにずっと居ても不便なだけだからな…

 

とりあえずクロが起きてくるまで、朝食の用意を済ませ『地図』を見る。『地図』と頭の中で指示すると、ババンッと目の前に表示された。非常に近い。

 

もう少し見やすくしてくれ…

 

そう思うと少し見やすい位置にススッと動いた。神様の悪戯に違いないと思いつつ、ここから近い街を探した。ここからだとずっと木々が生い茂ってて見えないので、範囲を広げてみた。

 

この辺りには街がないけど、村はあるみたいだな

 

漫画みたいにはいかないようだ。漫画なら少し歩くと街が見える。この世界は現実そのもので、そう簡単には思うように進まない。

 

しょうがない、街に行くための経由で村に寄ってそこから近い街を紹介してもらおう

 

という計画を立てた所で、クロが起きてきた。寝起きなのか、目がしょぼしょぼしてて可愛い。欠伸をしながら俺の横にちょこんと座った。

 

尊き…

 

俺はクロの目の前に、用意した飯を置いた。クロのお腹が鳴ったの合図に、クロはパンを掴んでパクッと食べた。目を見開きはむはむ食べ始めた。いい食いっぷりだなと思いつつ俺も、手を合わせて。

 

「いただきます」

 

と言った。クロはそれを聞いてハッとしたのか、パンを置いて。

 

「いたらきましゅ」

 

口の中にパンが入っていたので、呂律が回らず噛んだような言い方で挨拶してまた再開。俺も言ってからパクッと食べて、美味しく頂いた。しばらくしてデザートも食べた所で、今後の方針をクロと相談した。

 

「クロ」

 

「何?ハルさん」

 

「これから街に向かおうと思うんだけど」

 

「街?」

 

「あぁ。でもこの辺りに街が見当たらないから、近くに村があるんだ。だからそこを経由して街に向かおうと思う。そこで、その村に行くのはいいんだが俺の体格と言葉遣いが一致しないから少し偽装しようと思うんだけど、どうかと思ってな?」

 

「街に行くのはいい提案だと思う。でもなんで偽装?ハルさんはそのままでもいいと思うよ?」

 

まあ、そうなんだけどな

 

俺のこだわりによるものがあるからだが、そこは伏せて話を進める。

 

「生きてきた現世の俺なら、違和感なくこのままでもいいって思ってた。だがここに来て童顔でお前と同じくらいなのに、声が低くて一人称が俺って違和感しかしねぇから、見合ったもんが一番変に思われなくて済む。その方がギャップ好きな奴により、偏見に持つ人間の方が多い所なら共通な声の方が楽だろ?まあ、慣れないタメ口をしてもらってるからこれにも慣れろとは言わないが、その方が助かる」

 

クロはうーんと言いながら考えた。それでもやっぱり違和感が残るようで、首をかしげていた。俺はクロの言葉を待った。

 

「考えすぎってことはないかな??そこまで考えなくても気にする人はいないと思うよ??まず1回、村に行った時にやってみてそのままでやってみて、違和感を感じられた時にやったらスムーズじゃないかな?」

 

確かにクロの意見も理解出来る。俺の焦りもあったかもしれない。1度そのやり方をしてから考えてもいいかもしれない。『偽装』は何もその時にする必要はないわけで、俺はクロの言葉に賛成した。

 

「なら、とりあえず村に向かってみよう。地図を見てみたが名前が載ってないところだったから、聞かなきゃわからないが言って見ればわかる」

 

「うん、じゃあ準備しよう!」

 

とりあえずこのままの服装だと、色々と変に思われるのでクロと同じように服装を変えようと思った。『装備』と言うと、多分服装やらも変えれる画面だと思うが見る限りコスプレにしか見えない。とりあえず、無難にクロと同じように村人っぽい服装をした。職業系は後ででも変えられると思って、旅人のようにマントを付けた。そこにあの魔除けランプを装備する。クロにもマントを付けてあげて、旅人に見えるようにした。いかにもって感じでなんだかワクワクする。

 

一応、これで安心して村にも行けるし街にも行ける。準備万端だな!

 

『地図』を見ながら村がある方に足を進ませた。俺たちの印は緑色の丸。村は資格で白、ここら辺にモンスターは生息してないみたいだが、モンスターは赤らしい。しかし、その赤色の丸はレベル的には多分上級なんじゃないかと思う。俺の予想はだが。

 

その辺も聞かないとわからんよなぁ…

 

しばらく地図上の道案内を見ながら歩いていると、馬車が1台止まっていた。しかし何やら大騒ぎをしているみたいだった。俺達はとりあえず茂みの中に隠れながら、ゆっくり近づいた。回り道するように。

 

「………!!」

 

「………!?」

 

まだ遠いのかもう少し近くに行くとクロに止められた。これくらいの近くならクロの耳に届くみたいだ。俺の耳にはまだ会話すら聞こえないが。やいのやいの騒いでるような感じのだけはわかるくらい微小。

 

「なんだか、揉めてるみたい…。それに盗賊っぽい人達が村人を襲ってるみたいだよ?」

 

「ここからだと狙うにはもう少し近づかないと難しいか…。何か『アイテム』にあるかな??」

 

『アイテム』を一通り見て、めぼしいものを発見した。『投擲』に使えそうな物だ。これは忍者かアサシンなんかが持つスキル。それを使うことにした。

 

これは多分、待ちでないと無さそうなヤツだけど1本使ってみるか

 

俺はダーツでやるあの矢を使って、デカブツを狙い定めて思いっきり投げた。すると思いのほか早くてのを貫いた。俺はとりあえずそこにいる何人かをダーツの矢で倒していき、クロと近くまで行った。グロテスクな状態だったので、クロの目を隠しながら馬車の人に近づいた。するとビクビク震えてる村人は俺を見て、助けて欲しいのか服を掴まれた。

 

「と、とりあえずここから離れましょう?何があるかわかりませんし、ね?」

 

初対面なのでとりあえず敬語で話した。すると馬車の村人は俺達を乗せて、見渡しのいい所まで走ってくれた。話すことが出来ないのは多分、目の前で死んだ盗賊を見てしまったからかもしれない。

 

まあ、そりゃあそうだよな…

 

俺でも現実世界で見たら卒倒する。異世界だからこんなことは慣れなきゃいけないことだから大丈夫だが、クロにはアレは見せられないほどだった。俺は加減をしてない自覚があるので、自業自得である。

 

ああいう盗賊に宝とか持ってそうだけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない

 

今ここを離れたらこの村人が倒れそうだったから。しばらくして林を抜けるとだだっ広い所に来た。やっと村人も落ち着いたのか話し出した。

 

「……オラは、この近くの村に住む住民だ。さっきの人らに色々持っていかれそうになったり、殴られそうになった所を助けられただよ…。中には貴重なモンまであって、それは絶対に取られたくなかっただよ。ありがてぇ、おめえさんら」

 

スゲーなまってる…。わからない言い方はしてないから、会話になるけど…

 

とりあえずクロの目から手を離し、クロが慣れるまで話を聞くことにした。村から街へ行くための行き方や、盗賊に何を取られそうだったのか等、教えて貰った。村人の言葉はこうだった。

 

『街っていうか、王国には通行証が必要で持ってない者は入れないので、近くの村に通行証を作ってもらう必要がある』

 

それから。

 

『盗賊に盗られそうになったのは、貴重な世界で1つしかないアイテム収納バックや、鉱石、本、食材等が荷台に入れていた』

 

との事だった。俺が試しにそのアイテム収納バックを貰えないかと言うと、その村人は助けてもらった恩返しに渡そうと思ってたと言ってくれた。

 

なんだか、断れないイベント話の流れだがあり御託頂いた。それをクロに渡す。

 

「これはクロが使いな」

 

「いいの?」

 

「あぁ、俺は俺で持ってるからお前はお前で持ってた方がいい」

 

「うん、ありがとう!」

 

そう言ってバックをクロの肩にかけてあげた。するとさっきまで大きさから、クロの体格に合わせた大きさに変わった。俺がビックリしてると、村人がドヤ顔して教えてくれた。

 

初めて見るわけじゃないが、目の前で見ると圧巻だ…

 

「それはな!この世にたった一人しかおらん大賢者様がお作りになられた魔法のカバンだ!なんでも入って何個でも収納できて、…とにかく収納出来る代物だ!普通のカバンなら大きさによってでもそんなに入らんが、そのカバンはたとえ魔物でも入っちまうと豪語するほどでな!魔物を入れるヤツなんて見たことたねぇが、俗説によるとそういうことをしてた時もあるって話だ!それが運良くあんたらに回ってきたってことだな、大賢者様に感謝せんとな!」

 

これは思わぬ収穫だ。助けた恩とダメ元で聞いた甲斐があった。貰えるというお約束付きなところは本当にいいところだも思う。

 

現実世界じゃありえないしな

 

しばらくして村に着いた。村の検問所で荷台に乗ってた俺達は、事情を話して中に入れてもらった。それから1番最初に、通行証を作ってもらうために受付場所に案内してもらった。ギルド云々は王国以外に、大きい村とかならあったりするらしい。重要視されるギルドのみ、王国で管理されてるらしい。

 

傭兵系は村で充分なのかもな…

 

案内してもらったところは『冒険者ギルド』とまんまだった。中に入ると人は少ないがそれでも、冒険者と名乗れる程にはいた。みんな各々のことをしていた。俺達は真っ直ぐに向かい受付のお姉さんに声をかけた。もちろん、敬語で。

 

敬語って便利だよなぁ…

 

「あのーすみません。通行証が欲しいんですけど、どうしたらいいか教えてくれませんか?」

 

そう言うと親切に教えてくれた。

 

「通行証ですね?通行証というのは冒険ギルドや商人ギルド、料理ギルド、薬師ギルド等のご自分の職業にあった所で行っております。冒険者だとしても、職業で通行証が違いますので注意が必要なんです。お二方は見た所、旅人のようですがよろしければ教えていだけませんか?」

 

そんなにあるのか、それをここで受け持ってるってことか??それとも俺だけしかできないのか…??

 

「俺は冒険者です。主に戦闘特化した感じです。こっちは」

 

「えっと、ボクも冒険者です。主に回復魔法や調合ができます」

 

クロがそう言うと今までワイワイ話してた周りが、一斉に静まり返った。どこを聞いてかは、ここの代表として受付のお姉さんが教えてくれた。

 

まあ、俺のはありふれてるからな…

 

「調合ができるですか!?」

 

「えっと……」

 

「チート系はなしで話してやれ」

 

小声でクロに伝えると頷いてから説明した。

 

「魔法でも使えたりはするんですが、そっちはヒールとかの回復のみで。調合は毒消しだったり睡眠防止、麻痺直し………えっとつまり、じょ、状態異常系を治す薬の調合ができます」

 

考えながら質問に答えるクロ。ちゃんと説明ができたクロの頭を撫でると、はにかんだ顔で嬉しそうに撫でられた。すると受付のお姉さんが先走るように話し出した。

 

「それなら薬師ギルドがいいと思います。冒険者として動くことが出来なくなってしまいますが、他のパーティーの方をサポートすることも出来ますし、なんでしたらここのギルド専用回復調合師になってくれても……」

 

俺はそれを聞いて。

 

「あの」

 

「あ、はい」

 

俺が声をかけるとあっさりした声で返した。クロに話しかけさせてみた。

 

「あ、あの…」

 

「はい!ないでしょうか!」

 

クロが言うと俺の時と打って変わって元気な声だ。つまり『調合』はそれだけこの世界では、重要視されていることになる。さらに、話しかけたのはこっちなのに何かに気づいたのかまた話し出した。

 

「あ!!あなたの持ってるそれは、かの大賢者様がお作りになられたと言われる魔法のバック、通称アイテム収納バックではありませんか!!調合をする方にはあって損はないと言われる、世界で一つしかないと言われる代物。国宝級のものじゃないですか!!これをどこで!?」

 

これはクロに聞いていた。クロは俺を見て俺は頷いた。

 

「えっと、ボクがしたわけじゃないことを予め言っておきますが、馬車を使ってた村人さんを何人かの盗賊さん達が襲ってたので、倒した時にそのお礼としてもらいました」

 

「そうなんですね!素晴らしいです!それで、誰が倒したのですか?」

 

「えっと、ボクの隣にいるハルさんです」

 

「ハルさん??」

 

前のめりに話してた受付のお姉さんは『ハルさん』という俺の名前を聞いた瞬間、キョロキョロし始めた。周りは頭を振って、そこに居るだろと指を刺した。受付のお姉さんはなんだか期待外れという顔で言った。

 

「そう……なんですね。すごいですね。はい。まあでも、そんな所は重要じゃないのでいいです。そんなことよりも調合もできて、魔法のバックを持ってる方の方が重要視ですよ!素晴らしいです!!ようこそ、冒険者ギルドへ!!」

 

あくまで俺は眼中に無い受付のお姉さん。最初こそはいい人かと思ったが、検討ハズレのようだ。俺は。

 

「クロ、お前だけでもここにとうろ」

 

「お姉さん」

 

「あ、はい!なんでしょう?」

 

俺の言葉を遮ったクロ。受付のお姉さんは呼ばれて返事をした、すごく元気に。

 

「ボクを褒めてくれるのは嬉しいと思ってます。それはありがとうございます。だけど、一つお姉さんに対して思うことがあります」

 

「はい?」

 

受付のお姉さんはキョトンとした顔でクロを見る。俺は少しクロが怖いと感じた。悪寒というか、これから何を言うのかハラハラしていると。

 

「お姉さん。ボクは回復系のサポートしかできることはありません。それに調合するのだって、ただ作るだけじゃ意味がありません。目利きだって必要です。ボクには調合が出来ても目利きまでの技能は持ってません。その品が良いか悪いかがわからないんです。でもボクの隣にいるハルさんにはそれができます。ハルさん無しではボクは無力なんです。なので、ボクを褒めるより村人さんを助けたことや盗賊を倒したハルさんを褒めるべきです。魔法のバックが最高級で国宝品だっていうのは間違いないんでしょうけど。ボクのパーティーでありパートナーであり相棒は、ハルさんだけなんです。ハルさん以外と組む気はありませんし、ここの専属師になる気もありません。ボクはあくまで、ハルさんと共に行く冒険者です。それを履き違えないでくれますか?それと、人を見た目で判断する人は軽蔑します。ここに入れば本当に利益になるんでしょうけど、お姉さんがそういう人ならボクはここで登録することを拒否します。あと、ボク達の身長はあまり大差ないですけどハルさんの方が上ですし歳も上です。こんな体格で疑うのも無理はありませんが。もちろん、お姉さんよりは下ですけどここで通行証を貰うよりも他に行った方がいいと判断しました。それと、ここのギルドの品が損なう態度は改めた方が良いと、アドバイスしておきます。それでは、これで。さようなら」

 

クロが受付のお姉さんに向かってそう言いきって、俺の手を引いてギルドを立ち去った。ギルド内にいる人間らはポカーンとした顔で、立ち尽くしてたがしばらくしてギャーギャーと騒ぎ出した。そんなことを知らない俺達はさっきの馬車に乗ってた村人に会った。

 

「おんや?おめぇさんら通行証は貰えたんか?」

 

「いえ、貰いませんでした」

 

「貰わんと王国には入れんぞ??」

 

「ここのギルドは品定めするような所みたいで、あなたを守ってくれたハルさんのことを褒めず、何もしてないボクやこのバックに対してのみだったんです…」

 

「まあ、戦う人なんどたーくさんおるでなー。おめぇさん方の場合だと重宝されちまうのは、もしかしたらそのバックを持ってるおめぇさんかもしれねぇ…」

 

「そうだったですか…。でもこんな体格でこんな歳の人が冒険者なら、普通は魔物でも盗賊でも怖くて動けないと思います。それに比べて、ハルさんはまだ15歳です。もしかしたら、ここの人達の大人の基準は違うかもしれないですが、そんな人でもやっぱり怖いって思えば子供も関係ない。ボクは何もしてません。まだやったことだってない。なのに、そんな風に言われても複雑なだけです…」

 

クロはさっき起きたことを話した。不服そうな顔をしながらあったことだけを話すと、村人さんも驚いていた。やはり『調合』はこの世界での『チート』なのかもしれない。

 

おい、神様!クロにこんな顔をさせるとはなんて罪な神だ!!そこんとこ、ちゃんと教えてからここに連れて行け!!まったくっ!!

 

俺は自分のことよりクロのことで腹が立っていた。

 

俺も見せた方がいいんじゃ?いやでも、奴隷になったらクロと離れ離れとか考えたくない…。どうしたらいいんだぁっ!!

 

クロは俺に、俺はクロにそれを見て村人さんは大笑いしてきた。俺とクロは大笑いする村人を見て卑下するように見た。いきなり笑うからってのもある。

 

「悪かった、悪かっただ!いやぁ、おめえさんらの熱い絆はそんじょそこらの熟年夫婦よりも分厚い絆を持ってんだなぁって思ってよ!感心してただけだ!」

 

「だからって笑うことは無いと思いますが?」

 

「それはもう悪かったって!そだ!オラの故郷もここと同じくらいの大きさなんだが、馬車だと3Kmはかかるだ。それでもええなら、乗せてくど?」

 

「どうする?ハルさん」

 

まあここはダメなとこだし、印象悪い所には居たくないし出るか

 

「じゃあお願いします。乗せてく条件に護衛もしますよ」

 

「ありがてぇ、ありがてぇ!んだら、もう用は済んだからけぇるかな。あそこをまた通らな行かんと思ってたし、襲われたらたまったもんじゃねぇ。護衛がいてくれるなら、賃金はいらねぇだ!よろしく頼んます」

 

そう言って俺達は馬車の荷台の中に入った。そして馬車が出た所で、俺達は荷台の裾を開けるとさっきの受付のお姉さんと多分ギルドマスターと思われるおじさんが俺達の名前を呼んでいた。俺達はそれを無視して、出ようとしたが村人の馬車がとめられた。

 

「ここで、魔法のバックと戦闘要員を見なかったか?探してるんだが…」

 

村人が後ろを振り返り荷台の方を見た。俺達を探すフリをしながら理由を聞いた。

 

「なんで、その人達を探してるですか?」

 

なまりっぽい敬語で笑いそうになる。それを必死に耐える。クロは俺に釣られて笑いそうになっている。

 

「先程の非礼をしようと思いまして…。後で冒険者の方々に聞いたら15歳で狩りをするのは、親が認めた子にしか与えられないらしく、狩りをしてもいい歳は20歳になるまではしてはいけないと言ってました。それなのに15歳で、そんなことが出来るのはこの世界探してもいないとのことで、私がもう一人の子にしか目もくれなかったことをギルドマスター様に怒られてここまで来た次第です…。もしまだいるのでしたら、謝罪だけでもさせて貰えたらと思いここに来ました。もう、出てしまわれてたらもし会えた時に伝えといてもらえないかと……」

 

そう受付のお姉さんは言った。村人は考えるように腕を組みながら、時間を稼ぐ。俺とクロは頷き合い、荷台から出た。それから何も無かったように。

 

「俺たちに何か用ですか?」

 

と言った。村人は決断するまで待つことにしたみたいだった。しかしここにいても邪魔なだけなので、村の外で待ってもらうことになった。受付のお姉さんは深々とお辞儀をし、謝罪した。90度よりも深くだった。ギルドマスターもお姉さんよりは浅いが謝った。

 

「申し訳ない…、コイツはまだ入ってきたばかりの新人だ。そして色々と分かってない箱入れ娘だ。仕事がないかと入ってきたんでな、受付係を担当になってもらってたんだがこんなことになるとは思わなかった…」

 

「この人が入って何日目ですか?」

 

「まだ3ヶ月だ…」

 

3ヶ月はまだ短いのかもしれない。働いて3年とかならまだ、スタート地点かなとかちょっと自信ついた頃かなとか思えるが、入りたてホヤホヤな状態なら短すぎる。そしてこの印象の悪さだ。

 

まあ、俺のは本当に戦闘系だしな。見た目旅人だし、剣とか持ってないしなぁ…。あぁでも、アイテムの中にはちゃんとそれ一式は持ってたか

 

使ってないだけであるにはある。だが、他の冒険者のように腰につけてたりはしてない。となればそういう態度になってもおかしくないだろう。まだ何か付けてた方が、変に思われなかったと思う。

 

俺にも反省点だな…

 

クロがギルドマスターに話しかけた。俺が頭の中で繰り広げてる気持ちの葛藤に、集中してたので代わりにクロが代理で聞いてくれた。

 

「それでボク達に何か用なんですか?ボク達はその印象の悪いギルドを出たばかりなんですが」

 

トゲのある言い方なクロ。俺もいつかこういうことした時に、クロにそう思われてしまったらと思うと怖くて仕方ない。そう思われないように、自分をちゃんと見つめなくちゃと思った。

 

「それはすまなかった…。ちゃんと適性検査もせずに印象を悪くしたことは、ちゃんと謝る。ごめんなさい…。だが、ここに立ち寄ってくれたならここで登録して欲しいのも、またこちらの願いだ…」

 

「ただ利益が欲しいだけじゃないんですか?それか奴隷のように扱ったりとか、ボクとハルさんを引き裂こうとか。ボクはさっきそういうのを受けたんですよ?それに、ハルさんはわかりませんが少なくともボクは信用していません。物珍しさで自慢げに言うのは良いですが、ボクの時とハルさんの時との反応が違うのもまた印象を悪くすることです。ろくに話も聞かないで、ずっと1人で話すような所に身を任せるのはボク自身は嫌です。ハルさんを危険に晒せたり、態度が悪い所にいてさらに印象が悪い所が見られるなら居ても後悔するだけです」

 

「うぅ…」

 

クロが俺を守るためにと言ってくれてるんだろうけど、目の前にいるのはギルドマスター。ギルドマスターはその名の通り、ギルドの最高位とも言える役職。その人を目の前に芯の通ったクロの言葉に、たじたじなギルドマスターを見て俺は、何か起きないかとヒヤヒヤしている。何となくこういう時のクロを止めてはいけないというか、止めれないというか。そう思ってしまう。そっとクロの手を繋いだ。クロがどこかに行ってしまわないように、俺の自己暗示。

 

「そこの所はどうなんですか?ボクは境遇を優越感に浸るような人間ではありません。かと言って劣等感に浸りたいのも違いますけど。ギルドマスターさんがボク達の信頼を勝ち取れる何かを示してくれたら、ここに残ります。ボクは信用できないところに長居はしたくないので、お早めに検討してください」

 

先陣を切るクロ。クロのコミュニケーション能力が凄すぎて、俺は多分口喧嘩だけで負ける気がする。

 

口喧嘩もするかはまだわからんが、そんな気がする…

 

しばらく考えていると、ギルドマスターはクロにこういう提案をしてきた。ここでできることは限られている。何を提案してくるのかと思ったら。

 

「ここのギルドは比較的に言って特殊だ。他のギルドがどういうもんかは知らないが、ここは適正によってランクが変わる。もちろん、ギルドの掟として皆Fランクから始まるんだがそれは階級なだけだ。通行証とは違う。通行証は名前と職業のみ記載される。まあ、どこでも同じだろう。しかし、それの何が特殊かというと勇者や賢者といった英雄的存在な技能スキル、あるいは職業を持ってる人のみに与えられる銀タグのペンダントがある。これは認められた人間にしか身につけることが出来ないもんだ。今回の話だとお前さんは『調合』ができると言っていたな?その適正検査を行い、本当に作れると認められたら銀タグのペンダントをやる。それは隣にいる相棒さんもしかりだ。これなら公平でかつ認められる話だと思うが?」

 

なるほど、俺の『目利き』も見れてクロの言ってることが証明されるわけだ。悪くない話だな。それに俺の力も見せれるなら、クロと同じ土俵ってもんだ!

 

ただ一つ怖いのが、それで貴族に魅入られて奴隷とかにされないかが心配。守られる保証もないというのに、そこはどうなのか。

 

「それを付けたとして」

 

クロが話し始める。俺はクロの言葉を聞きながら疑問を晴らしていく。

 

「ボク達のメリットはなんですか?デメリットも含まれるなら、嫌ですよ?ボクとハルさんを引き離すようなことにならないかも、わからないのにそれを信じろというのは今信用がない状態では無理な話ですよ?」

 

そうだそうだ!!もっと言ってやれ!!クロー!!

 

とは言えないので、動向を見てる。ギルドマスターはクロの質問にこう返した。

 

「通常の銀タグペンダントなら、貴族に目をつけられやすいし雇おうとする輩もいるだろう。それだけ重宝されてる証拠だからな。それはこの村から出れば管轄外になっちまう。そうなれば手出しは出来ない。これが銀タグペンダントを持つ最大のデメリットだ。だが、これは『通常の銀タグのペンダント』を持ってたらの話だ」

 

強調された『通常の銀タグのペンダント』と、次の言葉を聞いた俺は、目を丸くした。

 

「銀タグペンダントは上というのはない。金だとかプラチナだとかな、そういうのは鉱石でとってこない限りは作れない。銀ならこの近くでも取れる鉱石だ。通常の銀タグは鉄から作られてる。それを銀に見立てて作るから『通常』なんだ。だが、本当の銀で作られた銀タグは国宝品だ。つまり国王陛下が持つ位の高いタグなんだ。それを身につけると『通常』と同じく、目をつけられるんだがここが違う点だ。本当の銀で作った銀タグは光に当てると光るんだ。それこそ太陽に当てたら目が潰れちまう。それと、それを付けてると貴族はお前さん達に危害を加えることも奴隷みたく見下すようなこともできない。それは国王陛下を侮辱すると同じ行いになるからだ。それを身につけていれば、ここの出だって証明にもなる。ちなみに本当の銀を扱ってるのはここだけだ。ここの山にしかないからな。だから、特殊なんだ。どうだ?」

 

ハイレベルな話し合いになってきた。もうこれはクロに委ねるしかないと思ってた。なのにクロは今になって俺に相談してきた。

 

「ハルさんはどう思いますか?この話を聞いて」

 

いやいや、話を進めてたのはクロであって俺じゃねぇよ…。どうするったってスケールのデカすぎる話に、ついて行くのがやっとな俺にどうしろと?

 

そう思いつつ俺の決定で決まる流れになってるみたいなので、俺はとりあえず真面目に考えることにした。

 

うーん、まあ、本当に銀かどうか調べることは可能だし作らせるのか、もう作ってるのかわかんねぇけど、鑑定して偽物ならここで作ってもらうのはやっぱり辞めよう。あ、それか作られちまってるのを身につけるよりちゃんと銀かどうかを確かめてから作らせたら正確だよな?それならとりあえず適性検査は受けて、作るにしても、信用がない所に居たくないクロの気持ちも組めるだろうし、こっちからも条件出すか!

 

俺は頭の中で考えたことをギルドマスターに伝える。条件と一緒に適性検査を受けることを言った。通行証と銀タグペンダントは一緒に渡すことと、もし俺の選んだ銀じゃないやつで作ったらここでの登録はしないという条件をギルドマスターにした。俺も俺でクロが傍にいるって思うと、心強いのか立ち向かえた。ギルドマスターは渋い顔をして考え込んだ。受付のお姉さんはとてつもない空気感の中、頭にハテナを思い浮かびつつ話を聞いていた。どこの家かは知らんが、本当に箱入り娘なんだなと思った。

 

俺もついてくのがやっとだったし、無理もねぇけど…

 

しばらくしてやっと結論が出たのか、渋々と言った表情でギルドマスターが了承した。それを村人に伝えに行った。村人が困った顔をしていると、ギルドマスターが金はいいから宿で泊まってくれと言った。すると村人はそれならと了承してくれた。村人は宿へ、俺達は再び悪品ギルドへ戻った。それからそのまま適性検査室に通された。多分そんな名前ではない。

 

俺が勝手に付けた名前だけどな

 

まず最初にクロの適性検査が始まった。ズラッと並べられた薬草たち。それらから選んで毒消しを作るという検査だった。バラバラに置かれている薬草から的確に、クロへと渡さなくてはいけない。俺は考えてるように見えて、『鑑定眼』を使った。すると上位鑑定士の力が発揮した。見ると名前はよくわからないが、薬草の名前の下に説明書きが書いてあった。毒に効く薬草と書かれたものだけを選んで、それをクロに渡した。クロはそれを見事に『調合』してみせた。

 

鑑定眼の簡単説明書きによると、『調合』は魔法の一種らしく三分クッキングみたいに、説明しながら作るらしい。それが呪文みたいになって、単語の中にその呪文が記されてできるんだって。鑑定眼の説明書きヤベーな…。でもなんで別々なんだろうな?魔法のくせに、なんか意味でもあんのか??

 

そういうことを考えてると。

 

「できました」

 

とクロの言葉が聞こえた。それをギルドマスターが大声で毒になった人を連れてくるようにと、叫んで言っていた。クロは耳を抑えながらビクビクしつつ、俺がそばにいてよしよしと頭を撫でた。怖がってるという設定にすれば、変に思われないと思って勝手にしてる。それを弱点だとわかられたら何するかわからないからだ。信用も信頼もなんもなくなるから。それからしばらくして、重症患者にクロの毒消しを試したところ、みるみるうちに熱が引いていくのを目で見てもわかる。これが『調合』の力のようだ。

 

ふぅ、なんとか成功したようだ…

 

それを見たギルドマスターが合格だと言った。クロは感謝をして、それだけだった。まだ信用してないからだと思う。猫は警戒心が強い性質だからな。そして意外と繊細でもある。次は俺の適性検査だ。

 

魔力計測器なるものを使うのか??よくある異世界シリーズ物語あるあるだが…

 

案の定、球体のような魔力計測器が出てきた。しかもあるある系だった。ギルドマスターの説明によると、この球体に手をかざして色が赤なら『火』、青なら『水』、黄色なら『雷』、緑なら『風』、茶色なら『土』、白なら『光』、紫なら『闇』と言った感じらしい。俺は言われた通り、球体に手をかざした。すると、俺もギルドマスターも目を疑った。

 

「虹……色?」

 

「虹色だと…!?」

 

俺はキョトンとし、ギルドマスターは顔をしかめて考え込む。なにか凄いことなのか、それともダメだったのか。この場合はだいたい良い方に傾くが、ギルドマスターの顔がなんだか忙しない。

 

これはダメな方なんだろうか……

 

シュンとした顔になるとクロが頭よしよししてくれた。その後ギュッと抱きしめてくれた。クロはギルドマスターをキッと睨み、それから窓の外を睨んでいた。神様がいる方向を見てるのかは知らんが、よくある猫の謎行動に似ていた。俺も猫獣人だからわかるのかもしれない。そんな動きとかしてしまいそうで恥ずかしい。(※もうしてる)

 

沈黙が怖い…

 

しばらくしてギルドマスターが受付のお姉さんを部屋から出して、受付場に戻るように指示をした。それから去ったことを確認してから話し出した。とても深刻そうな顔をしている。質問もされた。

 

「お前さんの名前は?」

 

「ハルです…」

 

「お前さんは?」

 

「クロです」

 

「ハルとクロな、わかった。まずはお前さんの適性検査は合格だ。そこから少し質問をしてもいいか?」

 

「……はい」

 

何を質問されるんだ?俺何か悪いことでもしたのか?

 

「まずハルの虹色についてだ。虹色の判定をされることは、この世界を探してもいないだろう。いて、『神クラス』の色だ。つまり神様から授かった色という事だ。譲渡してもらったのか、産まれる前かは知らん。それは人それぞれだ。昔の話では神から授かった者は、転生者と呼ばれている。お前さん達はそれの類かもしれないと、俺は睨んでいる。だからといって悪いことを企んでいると言うわけじゃない。これは保護しなくてはいけない代物だからだ。お前さん達は村々でなら希少価値とは言わない種族だ。だが、王国には人間しかいない。いてもドワーフくらいだろう。それだけ貴重な種族だ。そしてさっき奴隷にされるとかの話は本当だ。現に、王国にそういう冒険者が迎え入れられたが実際はそういうことをされてるらしい。帰ってきたやつはほとんど居ない。幸福なのか不幸なのかはわからんが、色々とされてるらしい。時に実験に使われたりもしてると聞く。あくまで噂にすぎないが、そういう扱いをされてるのは事実だそうだ。俺の村からも何人か連れていかれた。こき使ってるらしい」

 

俺のレベルって『神クラス』だったのか…。そりゃあそういう顔にもなるわな…、俺でも頭を抱える…

 

ギルドマスターの話は続く。

 

「そこでお前さん、ハルに質問だ。答えはハイかイイエで答えて欲しい」

 

「わ、わかりました…」

 

「お前さん、『鑑定眼』を持ってるだろ?」

 

「!!」

 

なんでバレた!?こ、これは正直に答えるべきなのか!?でもバレたってことは何か不自然なことを俺がしたことになる。そうなるとクロが危ない!!

 

俺がどう答えるべきなのかと考えてるとクロがギルドマスターに質問した。

 

「その質問に対して答えた場合、何がありますか?信用も信頼も得てない以上、その説明を聞く権利はありますよね?」

 

警戒心がさらに強くなったクロはギルドマスターを睨みながらそう言った。ギルドマスターはクロの顔を見てため息を吐き、説明した。

 

「この質問はあくまで俺の個人的なものによる。誰かに口外するだとか、国に報告するだとかをするためじゃない。ただハイと答えたことへの忠告をするためだ。これから旅に出たり、王国に向かうならそれなりの心構えは必要だと思ってな。これでいいか?」

 

な、なんだ…。驚かさないでくれよ…。俺が悪いことしてしまったみたいな尋問だったぞ…。疑うのは警察みたいでわかるが、引きこもりニートだった俺には無縁だったんだからな?その点理解しとけや、バカ!!

 

真面目に子供の思考で癇癪を起こす。クロは俺を落ち着かせるために頭をよしよしと撫でながら宥める。それから改めて俺は本当の答えを言う。神様は伏せとけと言っていたが、俺はこの人ならと信じたのだ。

 

「答えは、ハイ」

 

「一つ一つ説明していく。まずこの質問をした意味は、薬草を見る時の目だ。これは玄人の人間にしか見分けがつかない。この世界にも鑑定士はいる。だいたいは王国に住んでるからな、この辺の村にはいない。だが、ここまでの鑑定士はいないだろうな。探してもだ。お前さんしかいないだろう。『鑑定眼』を使うと、目が光るんだ。主に右の目に出る。お前さんの目は、晴れた日の青空のように澄んだ目だ。綺麗な鉱石系の目をしてる。こんな目の鉱石があったら取って見てみたいほどだ。さすがに人の目を取る趣味はねぇから、そこは安心しろ。普通のヤツらには見えない輝きなんだ。そこでさっき説明した、忠告の話しだ。王国には賢者とかいうやつや技能スキルが優れたやつなら、見えるであろうお前さんの目を見たら間違いなく自分の味方にしたくなって、ありとあらゆる力を使ってお前さん達を襲いに来るかもしれない。だから、右目を隠した方がいい。普段はそのままでも綺麗な目をしてるだけで、そこまで重要じゃない。問題は『鑑定眼』をしてるところを見られることだ。それが一番危ない。目を光らせないようにした方がいい。なにか装う技能があれば右目だけはした方がいいだろうな」

 

意外と親切だった。ここまで説明されるとは思わなかった。素直になってよかった気がする。『偽装』を持ってるので、それでなんとかなるだろう。

 

「次の質問だ。お前さん『魔眼』を持っているか?」

 

「魔眼??」

 

それは俺の技能内にはなかったはずだ。昨日もう一度確認した時もなかった。まさか、俺は見落としたのかと思い『ステータス』を開いた。考えながら聞くためにクロに目配せして、クロが聞く。

 

「魔眼ってどういうのなんですか?」

 

「『魔眼』は自分で自覚してる者としてない者に別れるんだが、ハルの場合は後者のようだ。稀に無意識に開眼してる技能なんだ。お前さんの左目は紫だな。普段は普通の目だろうが、魔力を使ってる時に無意識に暴走することがある。『魔眼』には薄く模様が出るんだ。禍々しいものから神秘的なものまで幅広くな。その中で模様が色濃く出てる者は、無双者と呼ばれる。ハルの目はその無双者と呼ばれるほどに濃かった。だから質問した、『魔眼』はあるかと」

 

クロが聞いてくれてる間に見ていると技能の1番下に『魔眼』があった。本当に見落としてた。というか『魔眼』以外にもたくさんなんか持ってた。スライド式とは思わなかったが、今はとりあえず『魔眼』を鑑定することにした。

 

『魔眼とは、大賢者や英雄などが稀に持ってることがある。しかし遺伝子で使えるものでは無い。転生しない限りその眼を使うことは出来ない。さらに、魔眼の特徴は模様が出ること。通常は目の色と同じく、薄く出てくる。しかし、濃く出る色は黒か白に別れる。黒い模様が出た場合、魔王に匹敵するほどの神眼。白い模様が出た場合は無双者と呼ばれる神眼』

 

わわわ、ヤベー技能じゃん!これ!!

 

次は『無双者』を鑑定。

 

『無双者とは、その名の通りなんでも出来る者。剣技、魔法、体術、忍術、弓、槍、回復etc...。戦闘力が高く治癒力も高い。高位魔法や攻囲技などが全て使える。付与もまた、神の加護以外に無双者があるとさらに強力な物が作れる。所謂、最強無敵チート技能』

 

もう最後の方、チートって言っちゃってるよ…。最強無敵まででいいじゃん…。チートって言葉使ったらもう、本当に人類滅亡するじゃん。俺を敵に回したらおしまい展開じゃん…。ここの異世界涙目だ…。ありがとうございます、神様チート様鑑定眼様…

 

心の涙を流しながら『ステータス』を閉じた。それからまた、俺はギルドマスターの質問に答えた。

 

「答えは、ハイ」

 

ハイと答えたら盛大な溜息をつかれた。そして確認のためかもう一度、俺に王国に行きたいかと言われた。

 

「行きたいというか、行ってみたいが本音かもしれないですけど…」

 

「そうか、んじゃあそれを踏まえて説明しよう」

 

忠告とはいえ、なんだか不穏だ。何を言われるのか身構えていると。

 

「正直な気持ちとしては、俺はここにいて欲しいと願ってる。理由は銀タグを付けるにしても、目をつけられるにしても『魔眼』を持つ者を国王が見逃すはずがない。自分の手元に置きたいと思うのが本音だ。この世界で『魔眼』を持つものは、賢者や英雄以外にいないからだ。しかもこんな小さな子供が持ってるなんて、神童と呼ばれる以外ないだろう。『魔眼』を持っていれば国1つ滅ぼせる代物だからな。王国が黙ってないだろう。だから、なにがなんでもお前さん達を雇いたいと言うだろうよ。拒否すれば人質を確保して脅しに来るだろうし、そうでなくとも国から出さないと言うだろう。そんな所にお前さん達を連れていきたくない、というのが理由だ」

 

真剣な目で俺達を見るギルドマスター。これは本気なんだなってのがわかる。ここまで説明をしてくれるのは、親切から来るもんでもスケールがでかい。

 

「『魔眼』を持たなくとも、噂は絶えないような所だ。それでも行きたいか?」

 

行かせたくないという気持ちがすごくわかる。俺はクロを見て、クロの意見を聞きたくなった。やっぱり王国に行くのはやめた方がいいのか、と。

 

「ハルさんがこの話を聞いても、どうしても行きたいと願うならボクはそれに従いました。でも、迷いがあると言うならボクもギルドマスターさんの言葉に賛成です。行って何が起きるかわからないのに、守れない領域に達したらギルドマスターさんは手出しできない。ということはボク達は自分達で自分の身を守らなきゃいけない。でもハルさんはまだそれができない。能力があっても使いこなせていない。どんなに強いスキル技能を持っていても、いざという時に使えなかったら目も当てられません。それならボクはギルドマスターさんの言葉に従います。まだギルドマスターさんしか信じていないので、他の方はどうか知りません。あの受付のお姉さんに対してはもっと信用してません。ハルさんの勇姿を見てないからあんなことが言えるんです。そんな人とこれから立ち会わなきゃ行けないなら、ボクはここに居たくありませんがハルさんの言葉に従います。ハルさんがここがいいと言うならボクは我慢します。だから、ハルさんはハルさんの気持ちをギルドマスターさんに伝えてください。ボクはハルさんの唯一の家族でありパートナーであり、相棒ですから!大丈夫です、ハルさん!」

 

クロに勇気を貰った俺はギルドマスターに言った。

 

「ギルドマスターさんの言う通り、王国に行くのは辞めます。村が街みたいなものなら、ここを拠点したいです。でもやっぱり銀タグは欲しいです。狙われたくないですから。それと……」

 

「ん?なんだ?」

 

「15歳で敬語じゃなくて、タメ口って変ですか?」

 

「……………」

 

沈黙してしまった。変なことを聞いてる自覚はある。でも俺はタメ口の方が慣れすぎてて、敬語は窮屈。もし許して貰えるなら、そうしたい。そう思ってギルドマスターに質問した。するとニカッと笑って。

 

「あぁ、良いとも!それと…って言われた時は『少しでも品が悪かったらすぐ出てく』とか言われんのかと思って、ヒヤヒヤしたぜ…。そうじゃねぇなら大歓迎だ。まあ、人によっては敬語を使わないことに睨みきかす輩もいるだろうが、そこはまあ気にすんな。俺が許したんだ、そいつにどうこう言う権利はねぇ。なんか言われたら俺に報告してくれればいい。うーん、それならこっちにも一応のルールを伝える。本当は受付の奴に言わせるもんだが、今回は特別に俺から説明する」

 

許してくれただけじゃなく、笑い話みたく返された。プラス、クロのために配慮もしてくれた。

 

クロは受付のお姉さんを毛嫌いしてるからな…

 

ギルドマスターのルールを簡単に説明すると。

 

 

1.ギルド内の揉め事は禁止

2.依頼書は1日3つまで

3.自分のランクにあった依頼書を受けること

4.昇格審査を受ける時は必ず受付に言うこと

5.自分のランクより強い魔物が出た時は逃げること

6.何かの招集をかけられた時は必ず参加

7.先輩後輩という優劣はないが見下す行為は禁止

8.仲間は大切な家族

9.仲間の秘密は絶対厳守

10.上記が守れない者はランク格下げ+タダ働き2年

 

 

との事だった。

 

「何か質問はあるか?」

 

「さっきのルールの中に気になることがあったんだが、いいか?」

 

「ん?なんだ?」

 

「聞き間違いじゃなければ、タダ働き2年って言わなかったか?」

 

「あぁ、言ったな」

 

「重たっ!?」

 

「とは言っても、実際は半年くらいだ。よっぽどの事がない限り、2年とかはない。が、万が一があるからな。そこはとりあえず、重たくしてる」

 

「そ、そうか…」

 

中々に温かく、それでいて厳しい。やっぱり信じて答えて正解だった気がする。拠点にするにしても、いい上司じゃないとやっていけない部分はどこの世界も同じだ。ブラックは断固拒否。

 

ここがブラックじゃなくて良かった…

 

それから俺達は適性検査室を出た。ギルドマスターと共に受付のお姉さんの所へ行った。クロは俺の後ろに隠れて何も言わない。ギルドマスターは改めて、受付のお姉さんの紹介をした。

 

「コイツは、アンナ・リスタータ。みんなアンナって呼んでる。どこかの貴族の家柄らしいが、そこら辺は詳しく聞いてない。お嬢様がこんな田舎村に来るなんてとか思ったが、ここでどうしても働きたいって言うんで働かしてる。仲良くは出来ねぇかもしれねぇが、一応紹介した。だが誠意だけはわかってやってほしい。本当に申し訳ないと思ってるらしいからな」

 

「らしいなんて!本当にそう思ってます!何も知らずに口走っていたのは本当ですから…」

 

ギルドマスターの言葉にアンナさんは申し訳ないという顔で、俺の方を見てまた深々と謝罪をした。

 

「この度は、不快な思いをさせてしまったこと深くお詫び申し上げます…。初対面な方にあんなにペラペラと、品が悪いと言われても何も言い返せません。本当に申し訳ありませんでした…!」

 

90度からほぼ垂直と言ってもいいくらいにお辞儀した。体が柔らかくなくちゃできない行為だが、俺はとりあえず大丈夫ですと言った。クロはまだアンナさんのことを信用していないらしい。顔をそむけてフンッとしてしまっている。アンナさんはクロを見てずっと頭を下げた状態だった。俺は見かねて。

 

「クロ、こんなに謝ってるんだ。今だけは許してやれ。あの時のことをちゃんと謝ってるんなら、俺はもう大丈夫だから。それに俺のために怒ってくれたクロのことは誇りに思うが、頑なにそういう態度は誠意を込めて謝ってる人に失礼だ」

 

「わ、私はそんな…!」

 

アンナさんを制止し、俺はクロを見た。クロは俺を見てシュンとし、それからアンナさんに。

 

「まだボクは貴女を信用してません。ですが、貴女がこれからボクに信用に値する努力をしてくれた時に許します。それまでは引きづると思いますが、今だけはハルさんに謝ってくれたので良しとします。なので、頭を上げてください。アンナさん」

 

名前を呼ばれて頭を上げたアンナさん。大声で返事をし笑顔になった。クロはその笑顔を見てまたフンッと顔をそむけてしまったが、とりあえず解決。その後、俺達に銀で作られたタグのペンダントとFランクのギルドカードを貰った。作るつもりでいた通行証は作らなかった。王国に入国する時は必要でも、入国する必要が無い時は作らないでいいそうだ。その2つを貰ってから、俺達は村人のいる宿屋に行き報告した。

 

「そうかぁ、ここに残ることを決めただか…。そうなると、護衛ができんな…。あそこを通らないかんから、喜べたんだがなぁ…」

 

「その事なんだけど、これは他言無用でお願いしたい。あんた、ペラペラ喋っちまう人間かもしれないけどペラペラ喋ると効果が切れちまう魔法のランプがあるんだが、聞くか?」

 

「ペラペラ喋ると効果が切れる魔法のランプ??」

 

魔除けランプの事は鑑定眼で見た時に『神クラス』のもんだって書いてあった。それはもしかしたら、他の人に取られる心配もあるからで守る意味がなくなる。そこで俺は、口が軽そうな人でも簡単に口を固くする嘘を村人に言った。説明はこうだ。

 

「この魔法のランプの名前は、魔除けランプって言うんだ。魔除けだからあらゆる面での魔除けだ。魔物も盗賊も、人間を襲うような敵意の者達を遠ざける役割を持った本当に魔法のランプ。だけど、1つこのランプに欠点があるんだ」

 

「欠点?」

 

「それは、ペラペラ喋ると効果が切れちまうんだ。これに火をつけたのは俺だから、俺は効かない。最初に点けた者が主人だから、主人には逆らえない。つまり、効果が消えることは無い。だが、主人から手渡されてもその効果はずっと続くが主人でもない奴が、他のやつに言うとその効果が切れちまうんだ。切れちまうと、その名の通り効果が切れて使えなくなる。いわゆる、普通のランプになっちまうんだ。そうなったら魔除けランプじゃなくなる。守ってもらえなくなる。そうしたら襲って来るってわかってても、守られない。結果、今日みたいに襲われる。そうなったら、困るのはあんただし、あんたの村だ。そうだろ?」

 

「村のみんなにも言っちゃあダメだか?」

 

「誰が聞いてるかわからない。もしかしたら、別の村に言っちまうかもしれない。そうなったら魔除けランプを盗む輩がいるかもしれない。襲ったり敵意がないと効果がないんじゃ、意味が無いからな。そしたらあんたの村は壊滅、もしくは消滅しちまう。それが嫌なら他人にベラベラ話すのはやめた方がいい」

 

「家族にも言えねぇべか?」

 

「同じだ。誰が聞いてるかもわからない。子供が自慢すれば、妻が自慢すれば。……もう、わかるよな?」

 

村人は自分の家族や自分の村が襲われると思うと青ざめた。絶対に誰にも言えない状況を作れば、自分は助かるし村も家族も守れる。村のシンボルみたいにすれば、村の直径10mは守られる。村一つは確実に守れる。あとの他の村も入るようなら、その村も守れるだろう。村人は固く口を抑えて約束をしてくれた。それから耳打ちで、魔除けランプの効果がどのくらいの範囲かを伝えると、村人はまた驚いた。目を丸くして。

 

「それは、ペラペラ出しちゃあいけねぇ代物だ!俺は口が軽いが、村や家族を守れるんならその方がいい!ありがてぇ、おめぇさん!」

 

感謝した村人は頭を深々とお辞儀し、明日の朝に渡すと伝えた。俺とクロは村人の居るこの宿屋を一晩だけ下宿することにしていた。村人の部屋から2個離れた、ツイーンの部屋。ベッドが2つあればそれぞれで寝れると思い、俺がそうした。

 

「ふぅ、色々ありましたが何とかなりましたね!」

 

「そうだな。けど、クロ」

 

「はい?」

 

「敬語」

 

「あ、ごめん。つい…」

 

「最初に言っただろ?俺への敬語はなしって…」

 

「そうだね…、ごめんね、ハルさん…」

 

「次からは気をつけろよ?」

 

「うん、ハルさん!」

 

クロの頭を撫でてから、今日は疲れたので食事は明日取ることにした。色々ありすぎて疲れてしまったのが本音だ。王国に行ってみたいって気持ちは本当にあったけど、噂が絶えないような危ない橋は渡りたくない。クロと離れ離れになる率が格段に上がる。

 

それならこの決断が1番正しいよな

 

今日はそのままクロと寝た。一緒のベッドではないが、クロも同じくらい疲れて寝てしまった。

 

「おやすみ、クロ…」

 

眠る前にクロにそう言って、俺も寝た。また明日も、クロと元気に活動するために。


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