普通のことができない俺が、異世界ではチート並みになんでも出来る無双者!? 作:HAL
朝が来た。昨日は寝袋だったけど、今日はベッドの上。やっぱりベッドは気持ちがいい。二度寝したい所だが、それはクロが許してくれなかった。クロがニコッと笑顔で起こしてきて、朝食を取るように催促してきたからだった。あと理由があるとすれば、朝食が終わったら村人はそのまま村に帰るらしい。その前に渡すものを渡さなきゃいけない。なので、二度寝はできない。しばらくして朝食を食べ終えて、チェックアウトはまだせずに村人のいる馬車の方へ行った。するともう荷物を運び終えた村人が、俺達が来るまでずっと待ってくれてた。非常に親切な村人だった。
「おぉ!おめぇさんら、早起きだなぁ!昨日の話聞いて、楽しみだっただよ!どんなもん、おめぇさんらから貰えるんか!ランプ言うても見た目は同じだろ?」
「あぁ、同じだ。だから、あんまりわからんと思う。でもこの馬車につけたら、ちゃんと街の中心にかざすんだ。そうすれば夜道も、怖がらずに済む」
「本当にありがてぇ話だ!けんど、怪しまれないかい?」
「その時は神様からの授かり物だって言っておけ。あんたを助けてくれた神様ってことだ」
「わかっただ。このランプを信じて信仰すれば村は襲われねぇで済むんなら、おめぇさんの言葉を信じる!そろそろ、行くべ。またどこかで会っだら、その時はよろしく頼んます!」
そう言って村人は馬車に乗って去って行った。俺達はまた下宿部屋に戻り、支度する。それと今後の計画を、これからどうするか話し合う。
「さてと。街に行くはずが街はなく、代わりに王都があるって話だったよな」
「王都じゃなくて、王国だよ。ハルさん」
「王都も王国も変わらないだろ?」
「そうだけど…」
「問題はそこじゃなくてだ。普通にギルドへ行くとして、ギルドの依頼書を見て依頼を受けてソレをこなす。徐々に回数を重ねて慣れてきたらランクが上がったりするわけだ。それはどんな異世界ものでもありふれたシナリオ。それに関しては俺も熟知してる」
「それのどこに問題点が?」
クロの質問も最もだ。何故なら、どこにも問題点がないから。だけど、昨日の話。ギルドマスターが言ってた忠告の話だ。つまり、名声を上げればそれだけ目につけられて王国に伝わる。伝わるとここの冒険家達のように連れていかれて何されるかわからない。
そうなったら、クロを人質にとるかもしれない。そしたら俺が何をするかわからない。もしかしたらこの異世界を破滅か滅亡かそれ以上の結末に導く可能性も…
「依頼をこなすのは問題にならないが、名声をどう上げないようにするかだ。それなりに噂が立つのはいい。でも、その後変に噂されて王国にでも目をつけられたらと思うとな…」
「あ、昨日の…」
「あぁ、そうだ。そうならないための今後のルールを決めようと思う。俺自身のための旅だ、それを誰かのレールに引かれて歩くのは現世でもやってた。でも、ここは違う。同じレールでも意味が違う。良いように奴隷にされるのはごめんだ。だからこそ、クロと一緒にたくさんの経験が欲しいから地道にコツコツとそれでいて目立たないようにしていきたいんだ」
決意を言うような目でクロを見つめる。クロも俺の目を見て目を輝かせ、そして。
「はい!ボクで良ければお手伝いします!ハルさんのために出来るなら、ボクはどこまでもついて行きますよ!!」
「おう!」
クロの笑顔は俺の励みであり、俺に勇気をくれる。最高の相棒にして、最高の家族だ。でも。
「クロ、敬語」
「あ!……ごめんなさい…」
シュンとして耳が垂れる。可愛い。少しずつ慣れていくしかないと思い、頭を撫でる。頭を撫でるとクロは嬉しそうに喉を鳴らす。気を取り直して、まずはこれからのルールを決める。
異世界もののセオリーとしては、こんなの絶対にないけど俺には必要だからな
1.ランクが上がるまでは無理をしない依頼を受ける
2.人がやらないような依頼を受ける
3.魔物退治はこの世界に慣れるまでは行わない
4.魔法や剣技の練習や体力作りは夜に行う
5.日常生活を毎日やること
まず、これらをできるようにする。
最後の5は普通の人ならできることだが、俺はそれを現世でやれなかったからな。慣れるまではこれもいれておく。そうすればできた頃には習慣になってるだろうし、5以外も両立してできる
俺のこの目標はクロにも当てはまる。最後の項目は主に俺のサポートだが、他はまずこの世界に慣れるために必要なルール。この項目が全てできた頃にはランクも上がってると思いたい。
いや、そうなるようには頑張ろう
ルールが決まったら次は、俺の目の『偽装』をする。目が光るとそれはそれで目立つ。となると、色々制御しなくちゃいけない。なので、色々弄ろうと思う。
「まずは、『ステータス』」
『ステータス』画面を開いた。それから両目の『偽装』から始める。俺の目は紫と青、それは変わらないがコンタクトをつけてる感覚で変に思われないようにした。試しに魔法や『鑑定眼』を発動させてみてクロに確かめさせた。グッドサインが出たので発動を中止、『偽装』は完了。次に服装を調達しようという話になった。マントと村人服じゃあ、戦力にも替えもない。そうなると、色々と面倒だ。私服も欲しい。
「『アイテム』」
『アイテム』を開くと、装備一式は揃っていた。替えもあった。が、私服等はなかった。たまには休日も欲しい。そんな時に、私服がなかったら息苦しい。村人服でもいいが、これは新着するしかない。とりあえず残金の確認。ちなみに右下端に書いてある。
「神様優しい」
「どうしたんですか?」
「ここの通貨の名前はわからないが、5万は入ってる。これなら服もそれなりに良いものが買える!」
「神様も粋なことをしてくれたね!」
「さすが俺達の爺ちゃんだな」
「あれ?ハルさん。神様のことお爺ちゃんと認めたの?」
「!!…ち、ちがっ!!いや、違くないけど…。な、なんとなくそう言いたかっただけだ!!深い意味は無い!!」
「ふふ、そういうことにしくよ♪」
まったく、クロは揚げ足を取るのが上手いなぁ…
頭を振って顔を冷まし、それから村人服に着替えて準備をした。宿はチェックアウトしようと思ったら、ギルドマスターにしなくていいと言われたらしくここが俺たちの拠点になっていた。ありがたい話だ。それから宿屋の店主に服屋があるかと聞いたら、この宿屋を出てすぐの右側にあると教えてくれた。
「結構近くにあったんだな…」
「全然気づかなかったね…」
「まあ、俺達の体格じゃあわからんかもな」
元いた世界の俺の身長と今現在の俺の身長では、首を上げなければ見えないが体格差もあり首を真上に上げなければ看板が見えない。
まあ、教えて貰えたから結果オーライだ
中に入ると。
「いらっしゃーい!!」
おそらく店員であろうお姉さんと、獣人だろう店主が待ち構えていた。
「何がお探しですか?」
「私服を見に来た。お金に余裕があれば買おうかなと思って」
「私服と言うと討伐に行く時の気軽な服装ですか?それともただ街を出歩くためだけに使う服装ですか?」
「街を歩くため」
「では、こちらなどいかがですか?」
渡されたのは村人服とはまた違う生地とデザインだった。服の繊維はもしかすると、シルクかもしれない。ただこれだと少し地味。
「この生地はすごい上品で、貴族の人達が好まれて使う素材でできた服です。価格はちょっと高めですけど、人気の商品です」
シルクだもんな…、そりゃあ好かれるだろうよ
「クロはどうする?俺はもう少しだけカッコイイの貰おうと思ってるけど」
「ボクは予算があればこれが買いたいです」
「ちなみにこれはいくら?」
「1200ユールです」
えっと………鑑定!
『ユールとは、お金の単位のこと。日本円で1200円。万単位で1ユラル、億単位で1ラール。といった具合。村での相場は1000以上のユールがお買い得。高い値段で2000ユールまでが村で出して良いルール』
えっと、そうなると俺の持ってる金が5万だから5ユラルってことか?うーん、難しい…。覚えないと…
日本円で1200円ならまだ安いかもしれない。村だと高値なのかもしれないが、こっちには5万ある。なのでクロの服はこれで決まりだ。あとはもしものための大人バージョンなクロの服装も買っておこう。一応、これは今の体格のクロには合うが、大人のクロはちょっと幼すぎるところがある。
「クロの服はこれでいいとして、俺のはもう少しカッコイイ服がいいな」
「それでしたら、こちら等はいかがですか?」
渡されたのは魔法使いがよく使うローブのような、足の付け根よりは少し短いジャケット。大人のクロにも合いそうな服。色は黒をベースに白で少し装飾してる。黒にはやっぱり、白が似合う。見栄えする。
「これのもう少し大きいのあるか?」
「?……お客様が小柄ですからこちらの方が良いのでは?」
まあ、見た目はな。大人のクロはまあ兄といえば兄だから、それも良いか
「俺には兄がいて、その兄の着る服を探してもいたからこれより少し大きいのが欲しいと思って。あ、色はこれと同じでいいから。俺のはこれの色違いので何かあれば…」
クロを見ると自分も何か少しマントみたいなのがあったら、お揃いになれるのにという目をしていた。するとお姉さんがクスッと笑って。
「お連れの方はコレとかどう思いますか?」
持ってきたのは、服の上から羽織るだけで前が開いてるローブ。装飾は何もしてないが、俺と同じような服装だ。それを見て目を輝かせるクロ。俺はその目に負けて買ってあげることに。それから大人のクロの分と、色違いで俺の分も買った。5500ユールした。
ちなみに、俺の色は黒をベースで装飾色は青紫。俺にピッタリの色だ。ちなみにこの街を歩く上でも使えれば、いざ本当に街で戦闘になっても付与魔法が付いてるため防御服にもなってるらしい。優れものだ。クロの羽織りも付与魔法が備わってるので、安心
それから服やらは『アイテム』の中にしまい、俺達はもう一度宿屋に行き次は雑貨屋がどこにあるのかを聞いた。すると向かいの店らしい。俺達はそこに行ってみることにした。
「雑貨屋では何を買うの?」
「とりあえず付与されてるアクセサリーを見ようかと。あとは、ファッションも兼ねて」
アッチではそんな金もなければ、容姿自体に興味がなかった。だからずっと地味な格好、どうせ帰ることがないならこっちで色々としたい。
それに、今の俺はアッチよりも体格や容姿が可愛くもかっこよくもなれるハイスペックだ。どんなのでも似合う。…って、自分で言うと恥ずかしいなぁ…
中に入ると。
「いっらしゃい」
男の店主が出迎えた。こっちは普通の村人。そして職人って感じの服装をしてた。服屋は獣人でそんなに服にこだわりがあるような感じじゃなかった。どっちかって言うと、店員の方がある気がする。
まあ、服を買ってもらうなら店主よりも店員か
「何か、捜し物か?」
「アクセサリーとか。できれば付与付きのがあれば、買おうかと。それと普通にファッションでも合いそうなヤツかな」
「……妙な注文だな?まあいい。付与系のアクセサリーなら、そっちの棚にあるヤツがそうだ。だが鑑定士じゃない奴が見てもわからんよ。付与魔法でどんなのが付いてるかなんてよ」
俺が小さい子供だから侮ってやがる。まあ、その方がいいのかもしれねぇけど
俺達はどれにするかと時間をかけて見た。ファッションにも合うもんを選びたいと思うと、時間がかかるもんだ。指輪もいい、腕輪もいい、首飾りもと考えてると、じっくり見ていたくなる。するとクロが、俺が考えてる時に自分が欲しいと思った物を指さした。
「クロはそれが欲しいのか?」
「うん、さっきの服屋で買った服装に合うかなって」
クロの選んだアクセサリーは首飾りだった。付与魔法の鑑定を見ると、『物理防御』と『魔法防御』が付いていた。すると、それを見た店主が話しかけてきた。
「そいつは、『物理・魔法防御』の付与がかかってるが、不意打ち系はあんまり作用しない。自分に向けてきた攻撃系に反応する。まあ、サポートや回復系の職種持ちならそれで足りるだろう。逆に戦闘系だと少し物足りなさがあるかもだが」
親切に教えてくれる店主だった。
「それと、その首飾りについてる指輪二つにはいわく付きのもんだ。呪いだとかそういうのじゃねぇが、なんでも結婚?だかの儀式に使用された指輪らしい。そしてそれを教会とかで行ったために『神の加護』として、『天使の祝福』ってのを与えられてるらしい」
『天使の祝福』……?
鑑定してみることにした。
『天使の祝福とは、戦闘不能や気絶などに該当した時に天使によって、1度だけ生き返ることが出来る。魔法や調合では人を生き返らすことは出来ないが、天使の祝福を持つ物にのみ使うことが可能』
1度しか使えないのは貴重だな…。でもそれを使わんでも、『物理・魔法防御』が付いてるならそれもアリか
「クロはそれが気に入ったか?」
「うん、なんとなくだけど。これがいいなって」
「うーん、それか…。俺はこの腕輪もクロには合いそうだと思ったんだがな…」
「おっ、それは2匹の黒猫が装飾された腕輪だな。そこにもう1つ同じ白猫の腕輪もあるだろう?それはペア腕輪だ。片方ずつそれぞれに付与魔法は違うが、共通付与が『探知』だ。これはその腕輪を付けてる者しか探せない。いわゆる人探しだな。ありえない話でもない、盗賊やらの賊に攫われた時の追跡なんかができる。まあ、それ以外の共通はペア腕輪だけだがな」
『探知』は便利かもしれない。特定の人間が付けていれば迷うことなく、そこにありつけれるわけだ。迷子になっても同じこと。それはいいかもしれない。
それにクロとペア腕輪ならどんな服装にも合いそうだ
クロはそれを聞くとこっちが良いと了承してくれた。多分、『ペア腕輪』って所に反応したんだと思うが、それでもお揃いがあるのは嬉しい。大人のクロにも合うアクセサリーがあって良かった。
「んで、それぞれに付いてる付与の説明は必要か?」
……うーん、後で調べてもいいがそれだと変に思われるかな?思われなくても聞いて損は無いだろうし、聞いておくか
「んじゃ、頼む」
「まず、黒猫の腕輪からだ。そっちは戦闘系に特化した付与魔法がかかっている。『物理・魔法攻撃上昇』と『防汚』、それから『暗視』だな。白猫の腕輪はサポートや回復系に特化した付与魔法だ。『物理・魔法防御上昇』と『回復上昇』、それから『魔力吸収』だ。ちなみに、その腕輪は特殊でな。付けてる者にのみ、同じ付与を与えることが出来る。例えば『防汚』、これを白猫の腕輪の奴にも使いたいと思えば戦闘時に自分も使えてその相手にも使える。それは逆も同じで、白猫の腕輪の付与に持つ『魔力吸収』を黒猫の腕輪を持ってる奴に使わせたりすることが出来る。ただ、1つ欠点なのは使ったら1日使えなくなることだ。次の日になれば使えるようになるが、ご利用は計画的にってヤツだな。まあ、特殊付与は早々使うもんじゃないが、いざって時に使うが得だ。『物理魔法防御』や『物理魔法攻撃』系は譲渡することが出来ないから、そこは履き違えるな。あくまでサポートになるものしか特殊付与は使えない。何か質問は?」
これだけたくさん教えてもらったなら、これが一番性能がいいアクセサリーだ。異議はない。つまり『暗視』もサポート系に入るのでクロにも使えるという事だ。これはなかなかに使える。首を振って、これを買うのは確定した。後は、クロのための帽子を作るために布を買うことにした。生地は黄色と青が入ったのがいい。クロのチャームポイントである、目の色があったらと思って探す。クロにも、クロがこれがいいと思うやつを探してもらった。クロが好きだって思うやつで帽子を作りたいと思ったからだ。
俺が選ぶより、クロが選んだ方が長く使って貰えそうだし
「じゃあこれが良いなぁ」
クロは黄色と青のチェック柄を選んだ。素材はニット帽とかによく使われる生地。
「あと、これ!」
あと、黒の無地。
「これで、黒猫のバッチを作って欲しい!」
…………
「ハルさん?」
なんと、……なんという可愛さなんだ!!黒猫はクロがぬいぐるみだった時のチャームポイントの1つ!黒猫なんだから当然と言えば当然!!必需品!!
「じゃあそれを買おう」
何も無かったかのような顔でニコッと笑い、それからバッチを作るためにいくつかの板のような小物を見繕い、それを店主がいる会計場に向かった。
「ひーふーみー…………、全部で7点だな。合計4500ユールだ」
さっきの服屋の所でも変わらない値段。この数はだいたい腕輪が1500ユールずつ、生地が500ユールずつ、小物系が200と300ユール。って所だった。
まあ腕輪の付与があれの中で1番多いし、鑑定でもユールは2000までなら出してもいいって書いてあったし、当然の値段だと俺も思うし
そして店から出たら『アイテム』の中に入れて、宿屋に向かった。それから部屋に戻って、ファッションショーをすることにした。クロに買った服を渡す。着替えてくると洗面所へ行き、俺はさっき買った布地の帽子を作るように用意し始めた。しばらくチクチクしていると、クロがババーンと出てきた。
「クロ、似合うな」
「えへへ♪店員さんの選んでくれた服は僕のサイズにピッタリだったんだ!それに、黒の羽織もなんだか魔法使いになった気分になれて、とっても楽しい♪」
「それはなによりだな」
「ハルさんはまだ服着ないの?」
「俺は今、クロの帽子を作ってるからな。それが終わったらお披露目会をするよ」
「うん!わかった、待ってるね!」
「あぁ」
またチクチクを再開した。技能にも『裁縫』があったので、スムーズに縫えている。この世界にミシンは置いてない。だから、面倒だが自分の手で縫うことになる。
まあ、異世界と比べたらいけないか…
しばらくして、猫耳ニット帽が完成した。ちゃんとクロの猫耳がどの位置なのかを確認しながらなので、少し遅くなってしまったが、とりあえず着けてもらうことにした。バッチは帽子を着けた後にどこに付けるかを決めるため、必要なこと。
「ピッタリ頭にハマった!しかも、伸びるゴムが入ってるから耳がない人でも使えやすいかも!それに、ボクの耳がかさばることも無いからつらくない!」
好評価だった。そして気に入ってくれた。それから俺はバッチを付けるための目安を測った。そしてまた、チクチク。クロはニット帽を外して俺の横に。またしばらくして、やっと終わった。
「できたー!!」
その間寝てたクロは俺の音声に耳を塞いで、ビクビク震えながら起きた。俺はハッとしてクロに駆け寄り。
「ご、ごめん…クロ…。わざとじゃない、わざとじゃないからな…?」
ギュッと抱きしめ頭をポンポンと撫でた。小さく頷いたクロ。ホッとして、クロに見せるとさっきの震えは嘘のようにはしゃいだ。それから俺は『神の加護』である『付与魔法』が使えることが判明してから、バッチのみに『防音』を付けた。
ちなみにどこで判明したかと言うと、あのギルドで適性検査を受けた際に見つけたんだ。下にスライド式なんて聞いてない…って思ったのを覚えてる
黒猫バッチを右上に付けて、その斜め下に黒猫バッチよりも小さい星を付けた。もう片方には小さな星のバッチを2つ付けたので、黒猫バッチの方にある星には付与してないが、小さい星の方には付けて完成。
『完全防音』なんてしたら俺の声まで聞こえないからな。それに帽子にまで『防音』付けたら、足音が見失う可能性もあった。用心に越したことはないが、ちゃんと付ける所を間違えないようにしないと大事だ
クロの帽子が出てきた所で、俺も服を持って洗面所に行き着替える。こういう羽織なら下は、黒無地の七分袖に黒の黒無地のすらっとしたズボン。ベルトを絞めるほどのガリガリでも太ってもいないから、無し。幸いにも、パーカー付きだったようで日焼け対策もバッチリ。それから、洗面所から出て俺のお披露目をするとクロが目を輝かせて好評価してくれた。
可愛い体格でカッコイイ服を着こなすハルさんは、やっぱり凄い!……って褒めてくれるのは嬉しいが恥ずかしいな、コレは…
そういえばと、頭の中で思い当たり1度クロには服とズボンを脱いでもらった。顔を赤くしながらムッとして俺を見ていた。俺は、俺の羽織をクロに着させて待つように言った。それから付与魔法で『変形自在』を付けた。これはいざ大人のクロになっても、猫の姿になっても服の大きさが変わるだけで破けたりはしないようにした。いつ何があるかわからないので、それを着せれば変に思われなくて済む。ニット帽は多分、この今のクロがつけたいと言い出すだろうから付与魔法は付けなかった。もし、付けた方が良いと判断した場合のみ同じのをつけようと思う。終わったので服とズボンを返した。
俺達は男同士なのになんで恥ずかしがるのか…
クロも男だし、俺も男だ。風呂に入れば裸の付き合いってなって、恥ずかしがることないのにと思ってるとクロが俺の顔を見てムスッとした。
「ハルさんは全然わかってないんだね。どういう意味が教えてあげるよ」
そう言ったクロは大人バージョンになった。俺は少しドキッとしながら、大人のクロを見た。それから。
「ハルさん、今着てる服とズボン脱いで?僕もここで脱いだから、ハルさんもしてね?」
言われた通り俺は脱ごうとした。それから何かに気がついてクロを見ると、視線をずっと俺に向けてた。なんだか恥ずかしくなり、手が止まる。ただ脱ぐだけなのに、どうしてか顔が熱くなる。
「まだ?」
催促するようにクロが言ってきた。俺はヤケになって脱いだ。
「それを僕に渡して?」
言われた通り渡した。それから何もしない。ずっとクロが俺を見てるだけ。恥ずかしくて何故か今の姿を隠したくなった。隠そうとした瞬間。
「男同士なんだから隠さなくてもいいよね?」
俺はその時、ハッと気づいた。クロが俺に伝えたかったこと、それはさっきのクロの気持ち。俺は羽織りを貸してあげたが、もし視線に気づかなかったらこうなってた。俺はクロに羞恥プレイをさせる所だった。
いや、もうさせてたかもしれないが…
「……、クロ…」
「何?」
「ごめんなさい…」
「うん、わかってくれたならいいよ」
顔が真っ赤な俺。服を渡すクロ。俺は服を急いで着た。自分の恥部を隠せるって大きい事なんだなってことが初めて知れた。これが他の人ならそうはいかない。貴族ならもっての他だ。それからクロは大きいまま俺の後ろから抱きしめ腕を掴み、耳元で。
「また1つ、知ることが出来たね?」
「ひんっ…!!」
ビクンッと反応した。俺はもしかするとそういう意味では弱いのかもしれない。耳は1つしかない。人間の耳は俺にはない。しかも拘束されて身動き取れない。
「く、ろ…?」
「ふぅー」
「ひゃうっ!?」
かもしれないじゃない、俺の弱点が判明した。受身や構えを取らない限り、耳が弱い。わかってる仕打ちなら耐えられるかもだが、急でビックリした時はパニックになってできない。それを見透かされたら終わり。
「……まだ、怒って……?」
肩が震える。なのに顔が熱い。
「少しね」
「うぅ……ひゃっ!!」
散々クロに耳で弄ばれた後、解放された。クロも元の大きさに戻り、俺はぐったりしていた。いろんな意味で激しかった。俺の体験したことの無い体験をしてしまった気がする。
いや、まだ一線は超えてない!!……はず
とは言え、まだ昼間だ。お腹も空いてきたしランチにしようと思う。自分でも作れるが、料理に使う器具をそんなに持ってないので買えるようになってからしようと思った。とりあえずこの異世界での食を堪能しようと思う。というわけで、また宿屋の店主に聞いてどこか美味しい所はないかと聞いた。すると。
「ここを出て、左側沿いに歩いていくと『なんでも料理屋』って店に着く。その料理がこの村で1番旨い料理店だ。本当に名前の通り、なんでもある。行って試しに注文すれば出してくれるよ」
「ありがとう」
言われた通り俺達はその店に向かった。本当に『なんでも料理屋』と書かれた看板があった。クロと手を繋いで入っていくと、そこに広がっていた光景は俺のいた世界のファミレスみたいだった。配置がそう見えるからかもしれないが、これは本当にすごい。それとクロを見ると、耳を抑えることをしない。ということはちゃんと付与魔法が機能してる証拠。キョロキョロと興味津々に周りを見ている。俺達はカウンターまで歩き、カウンターの前で止まった。
「あのー」
「ん?あ、いらっしゃい」
「宿屋の店主にここを進められたんだが…」
「ここは『なんでも料理屋』!東方料理から地方名物料理まで置いてある所さ。東方料理をご所望なら、作り方を教えてくれさえすれば作れる。料理は料理だ、作ったことないなら聞いて作れば料理になる。なら、知らない料理もみんなの知る料理なら私に作れないものはないよ!」
本当に『なんでも料理屋』と名乗るだけのことはある
「何があるんだ?」
「メニューがあるだろ?これを見て決めておくれ」
渡されたメニューは地方名物料理が紙1枚分使い、東方料理はそこまでなかった。
「クロはこの中で何が食べたい?」
「ハルさんと同じのがいい!」
「うーん、そっか。俺の今食べたいものは……」
俺の今食べたいもの、それはやっぱりオムライス。25歳になっても、母親が昼飯をオムライスにして出してくれてた。そのオムライスが日常だったから、『昼飯=オムライス』みたいな感じのができたわけだ。けど、このメニューには載ってないようなので教えることにした。
ここで、料理の知識技能が発動するわけだ!
俺はメニューを返して、注文をする。普通に。
「オムライスがいい」
「おむらいす?」
「あぁ、分からないみたいだから今から教える」
「あぁ、わかったよ。なら、この紙に書いてくれるかい?材料と作り方を書いてくれさえすれば作ってやる。その、おむらいすってやつを」
まあ、わからないから東方料理は全てひらがななんだろうけど…
俺は渡された紙にスラスラと書いていく。俺が作ったわけじゃないのに、作った人のように頭の中に知識が流れ込んでくる。オムライスの中身は様々だ。人によるし、家庭による。俺の家で出されるオムライスはチャーハンの具材がオムライスだ。俺はあんまり好き嫌いはないがチャーハンは何故かどうしてもダメだ。
もしかすると、量が多いとかそういう理由かもしれねぇけど…。オムライスになるとコンパクトになって量もそこまで入ってる気がしないから、食えるのかも
一通り材料と作り方を書いたら、料理屋の店主に渡した。紙を一目で見て親指を立てて、厨房の中へ。俺とクロは近くの空いてる席に座って待つことに。
そういえばこの世界に【ケチャップ】って、調味料あんのかな…?ないなら、書いといてやろうかな
そう思った俺はペーパー紙にまた書き始めた。料理の知識は俺の思ってる以上に凄かった。俺はケチャップの作り方なんて知らない。知ってるのはトマトが入ってること。トマトケチャップっていうくらいなんだから、トマトは主役なのは知ってる。が、それ以外は知らないしアッチでは普通にある調味料。
けど、ここは異世界だ。あるわけないだろうしここのメニュー出るなら教えてあげたらもっと、料理の幅が広がるよな
オムライスを待ちながら書いていると、厨房から店主が出てきた。
「お前さん」
「ん?」
「ちょっと聞きたいんだけどね?この、けちゃっぷ?ってなんだい?」
やっぱり来た
「これは調味料だ。塩とか砂糖とかと、あれと同じ。レシピ書いたから、作ってみてくれ」
と言って渡した。用意が良いと褒められた。それからまた中に入り、少し時間がかかったがようやくオムライスが俺とクロの目の前に現れた。見た目はアッチで生きてた時と同じ。写真にあるような見た目だった。
すごく美味そう
クロを見ても早く食べたいと俺に訴えている。スプーンを取って。
「いただきます」
「いただきます!」
その挨拶をしてから食べ始める。食べた瞬間口に広がったのは、母親の味。誰かの料理なのに何故か母親を思い出した。こんなに上手ではない母親だが、味付けが同じだった。オムライスの具材はなんでもいいのにこんなに再現されてて、俺は思わず涙を零した。クロは美味しそうに食べている。俺は涙を出しながらオムライスを噛み締めた。アッチの世界の人間関係に未練はない。が、俺の生活には未練があった。そしてその生活にはいつも母親も関係してて、25にもなって反抗期をやっていた。母親はすごく心配性で兄貴や父親はほっとけって言っても、ほっとかなかった。俺自身も鬱陶しいと思ったことがあるのは覚えてる。
けど、鬱陶しいと思いつつ母さんの作るオムライスだけは逆らえなかった。あれは旨かったから。反抗してた気持ちなんてどっかに捨ててきたかのように、母さんのオムライスが好き。それをここで思い出すなんて…。もう届かねぇが、母さんありがとう。ありがたく食べるから。俺なんかにたくさんの愛をくれて、ありがとう。それから、俺を産んでくれてありがとう。もう俺の世話をしなくて済むから、自由に生きてくれ
そう思いながら食べた。顔がぐちゃぐちゃになりながらも、ありがたみを知った俺はゆっくり食べた。しばらくして食べ終わり、会計を済まして去ろうとしたら料理屋の店主に引き留められた。
「ちょい、お前さん」
「ん?どうかしたか?」
「お前さんのおかげでまた料理の幅が増えた!ありがとね!また何か食べたい時は、いつでもここへ来な!おむらいすも他の料理もまた教えてくれる料理も待ってるからね!それじゃ、またのお越しを!」
手を振って俺達は店から出た。それからまた宿屋に向かい、宿屋の店主に薦められた料理店のことを感謝し部屋に戻った。
この時、調味料ケチャップのおかげで料理の幅を広げた店主の料理は、他にも活用出来ることを知り噂が噂を呼んで繁盛するようになったなんて駆け出しの俺には、知らない情報であり後で知ることになった。
一休みを兼ねてベッドに寝そべろうとした瞬間、クロに止められた。理由は口に付いたケチャップを拭うようにと。確かにこのまま寝れば枕についてシミになる。あれは地味に取れないし、この世界にはシミ取りなんてなさそうだ。なので俺は紙で口元を拭きそれをゴミ箱に捨てた。そして口元についてないかを確認した所で、改めてダイブ。同じくクロもダイブ。ぬくぬくしてから、次はどうするかを考える。時刻はアッチの時間で言うと15時だろう。正確な情報なんてこの世界にないが、なんとなくだった。
何もする気になれない…。こういう時、いつもゲームとかスマホとか見て時間を潰すのにと思いながら寝返りを打つ。それが日常だがここにはない。本当に暇だ
朝早かったのもあって眠い。このまま寝てしまおうかと思い目をつぶると、俺は即夢の世界へダイブしていた。
夢の中で俺は、俺のお葬式をしていた。母さんも兄貴も父さんも泣いてた。俺の写真はあんまり見えなかったが、それでもみんな泣いてくれていた。母さんに至っては俺の事を本当に愛してくれてたから、崩れていた。俺は体を動かして母さんの元へ。
「母さん…」
「遼…遼…、不甲斐ないお母さんでごめんなさいね…?もっとあなたを見てあげれば良かったわ…。悩みとか相談とか、もっと聞いてあげればよかった…。そしたら、まだ違ったかもしれないのに…。お父さんやお兄ちゃんがどう思っても、私はあなたの母親…。母親が息子を愛さないなんて、ありえない。でも、この世にもうあなたはいない…。最後にオムライスを食べてくれたのはいつかしら……っ……。あんなにも美味しい美味しいって、言ってくれたのは……いつだったかしら……っ……、遠い昔のように思えてくるわ……っうぅ…。もし、天国でもオムライスが食べれたら私のことを思い出してね…?私も少ししたらそっちに行くわ、そしたらまたオムライスを作ってあげるわね…遼…」
最後まで母さんは俺の名前を『はる』と呼んでくれた。他は名前を呼ばないか、『りょう』って呼ぶ中、母さんだけはちゃんと呼んでくれた。その後の葬式は終わり、帰宅した母さんは疲れたのか布団の中に入り眠った。俺は母さんの枕元に行き正座した。
「母さん」
「ん………、だれ…?」
「俺だよ、ハルだよ」
「はる…って……遼!?」
ガバッと起きたお母さんは俺を見た。そしたらまた母さんは泣いてしまった。夢の世界で会えるなんてと言いながら泣いてる。俺は随分と昔にやってたハグを、25の状態で抱きしめた。母さんも抱きしめ返した。泣きながら俺は母さんに話した。
「今日、俺は感謝を言いにここに来たんだ」
嘘は言っていない。夢を見てるからとかは言えないが、さっきのお葬式とかを思い出すと感謝したくなったから。そんなこと恥ずかしくて言えない。
「お葬式の中、みんな違う名前で呼んでたり名前っすら呼んでくれなかったのに、母さんだけは俺の名前を呼んでくれた。すごく嬉しかった。今まで感じてなかったけど、こんなにも嬉しいって思えるなんてとか思った。母さんのおかげだよ。それと、オムライスはこっちでも食べれてるよ。母さんの味に似たオムライスだった。思わず母さんのことを思い出したよ。てか、テレパシーか何かで見てるんじゃないかってくらい的アタリが良かったのか、ドンピシャだった。やっぱ、母さんってスゲーって思ったよ」
自分の言いたいことや話したいことを俺は、包み隠さず話した。母さんはうんうんと言いながら聞いてくれてた。俺はその中で生きてた時の思いを伝えた。
「俺さ、ずっと母さんが鬱陶しいって思ってた。心配してくれるのは嬉しいんだけど、心配し過ぎなのはちょっとって思ってた。父さんと兄貴も俺の事放ってたし、俺も放っておいて欲しいとか思ってた。でも、母さんがいつも俺の事を心配してくれるのは、心のどこかで本当は嬉しいって思ってたのかもしれない。鬱陶しいって思う気持ちは全面的に出てたかもしれないけど、そう思ってくれるのは他人の母親じゃなくて実の母親なんだって、今思うのは今更なんだけどそれに気づいた時にはもう、俺は死んでた。そして今、俺はずっとずっと言えなかったことを今から言おうと思う。今言わないと一生後悔する気がするから」
母さんは何も言わずにただ頷くだけで聞いてくれてた。聞いてくれることがこんなにも、嬉しいなんて死んで始めて知った。生きてた頃からそうしてくれば良かったとか思ってしまう。
「ありがとう、俺のことを見て俺のことを心配して、俺のことを支えてくれて。ありがとう、俺を産んで育てて、ここまでの成長を見守っててくれて。それから、ごめんな?母さんよりも先に死んでしまって、反抗ばっかして、全然手伝えなくて、本当にごめん…。死んでからじゃ遅いのに、こんなにも長く、こんなにも迷惑かけてごめんなさい…」
感謝から謝罪へ、頭を下げながら言う。俺も泣きそうになってた。母さんは聞きながらすでに泣いてたけど、それでもただひたすら俺の話を聞いていた。
「俺、母さんの子供でよかった。俺、母さんのこと好きだよ。大好き。今日限りかもだけど、母さんに会えて嬉しかった。こんなに語ったのは初めてかもしれないし、久々だったかもしれないけど、母さんとこんなに語れて俺、楽しかった。もう話せないけど、最後に母さんに渡したい物があるんだ。ちょっと俺の部屋に来て欲しい」
そう言って母さんを起こし、母さんを俺の部屋に連れてゴソゴソと何かを取り出した。それは25になって初めて母の日に送ろうと思ってた、造形花だった。母さんの好きな色である緑や青、紫などの寒色系。普通は赤とかピンクを送るべきだったと思ったが、他でもない母さんに送るなら母さんの好きな色を渡したいと思っていたから。母の日に送ろうと思ってたのに反抗して渡しそびれたやつ。花は花でも造形、枯れることは無い花。それを母さんに渡した。
「これが夢の中ならもしかしたら、手元にないだろうと思うから。位置だけ教えとくね。この造形花はあのダンボールの中にある、あの箱の中に入れてあるよ。捨てようとか思ってた時もあるけど、せっかく送ろうと思った物だから形このままにして置いてあるよ。母さんに渡したかったから、気に入って貰えると嬉しいな。もし、気に食わなかったら捨ててくれて構わないから。でも最後にちゃんと渡せてよかった。反抗した状態で渡すよりもずっと良いから。母さんに感謝を込めて、これを贈るよ」
泣きながらニコッと笑うと。母さんは口を開けてやっと言葉を吐く。
「ありがとう、遼…。大切にするわ…、私が死ぬ時は棺桶にこれをいれてもらうつもりよ。もう、あなたはいないけれど、これがあなたの代わりになってもずっと愛し続けるわ…。ふふ、こんな贈り物を用意してくれてたなんて、知らなかったわ…?何があってもこれは守るから、安心して行きなさい?最後に本当に、あなたに会えて良かったわ。ありがとう、遼。愛してるわ…」
やっぱり俺の母さんは、俺の事を心の底から愛してくれる人だった。俺はもう一度ハグして、それから夢から覚めるとわかった時に離れ、そして。
「行ってきます、母さん」
「行ってらっしゃい、遼。元気でね」
「うん、母さんも。元気で」
そう言って俺は、それを最後に夢が覚めた。俺の目からは涙が零れていた。目が覚めて次に気づいたのはクロだった。クロは心配そうに俺を見てた。
「おはよう、クロ…」
「おはよう、ハルさん…」
紙で拭いてくれるクロ。なぜ泣いてたのか、どんな夢を見ていたのかをクロに話した。すると、クロも貰い泣きをしながら聞いてくれた。それからおいおいと泣いてしまった。クロの頭を撫でながら。
「ありがとう、クロ」
と呟いた。しばらく頭を撫でていると2人してお腹の音が鳴る。窓の外を見ると夜だった。灯りが付いてるということはまだ、お店が開いてるということ。俺とクロは支度して、またあの料理屋へ行くことにした。次はこの異世界の料理を食べてみようと思ったから。
『なんでも料理屋』の中へ入ると、ほぼ満席だった。とりあえずカウンターの方へ行くと、店主がちょうど出てきた。なんだか忙しそう。
「ああ、ごめんよ!今忙しくてね!猫の手も借りたいくらいなんだ!料理をしながら客を回すのがこんなに大変だとは知らなくてね!あの席なら空いてるから、あそこに座って待ってな!」
「わかった」
クロと一緒に空いてる席に座る。そしてみんなが食べてる料理を見た。そこにはケチャップらしき赤い調味料が料理に乗っていた。俺の見たことのない料理だけど、みんな美味しい美味しい言いながら食べている。
俺が教えたケチャップがこんなことになってるなんて、びっくりだ…
来たばかりの人が注文したり料理を置きながら注文を取る店主、見ていて手伝いたくなった。冒険者だけど、こうなったのは俺の責任。俺は店主に。
「お腹はすいてるけど、何か手伝えるか?」
「良いのかい?結構大変だよ?」
「困ってる時はお互い様です!ハルさんが手伝うなら、ボクも手伝います!」
クロも賛同してくれたので、俺は真剣な目で見つめる。店主もその目に負けて、色々と教えてくれた。それから俺達は冒険家業の前に、お店の手伝いをすることになった。これも経験するべきこと。
店主が言うには、頭ではもう何を頼むお客かわかるらしいが手が回らないと料理を作る暇もない。だから注文をお願いしたい、それからもし頼めたら、何番テーブルかも聞いてきてくれると助かる、だったか
クロと手分けして紙を四つ折りにして、何かの板に貼り付け注文を聞く。それからまだ来たばかりなので、ここがどのテーブルかも聞きながら、注文を書く。次々と来る注文の半分をクロに任せて、俺はもう半分の接客をする。アッチでは全然体験したことがないから、勝手がよくわからなかったがファミレスに入ったことがあるので、それを見て真似てる。一通り注文の波が終わると俺達は、店主にメモを渡す。親指を立てた店主が、厨房の中へ。それから出来上がった物を俺達に教えながら、客のいるテーブルに置いていく。それを繰り返す。この体型だから動くが25の俺だったら、絶対にバテてる。それくらい大変な作業。
これを毎日やってるのかと思うと、凄いな…
そして、ひと休みすることなく働きやっと人もまばらになってから、クロと共に席に着いた。息はしてたが息をしてる感覚はなかった。運動不足な体つきはしてないから動けたものの、安請け合いでこんなことを求めるべきではなかった。それでも助け合いはしたいと思ったから動いた。終わった達成感にクロと笑いながら。
「大変だったな…」
「そうだね…。でも、楽しかったよ!またやりたいかも!もし、時間があってまたこうなってたらさ!」
「そうだな…、ただ体力が持たなかったら意味ないから明日からやるぞ?筋トレも含めて色々…」
「うん!手伝うね!」
「おう、頼んだ…」
そういう会話をしていると、厨房から店主が出てきた。時間も時間でもう飯を食べる時間ではないらしい。店じまいを始めていた。俺達も帰った方がいいのではと思ったが、座ってるように言われた。店を閉めた店主が俺たちの方へ来た。
「今日は色々とありがとね!おかげでなんとかお客を満足させることが出来た!お前さん達には感謝しかないね!本当にありがとう!」
「いえ、元はと言えばケチャップを教えた俺の責任だし。それに、俺自身その責任がなくとも助けたいって思ったので」
「その気持ちだけでも嬉しいよ!さて、お前さん達にもちゃんとご褒美をあげないとね!何が食べたい?なんでも作ってやるよ?」
店主が感動のあまり目をキラキラしながら感謝していた。それから俺達に注文を聞いてきた。
「んじゃあ、今の気分はここのオススメが食べたい」
「どれもオススメだよ?」
「じゃあその中で人気なのがいいかな」
「そうかい!2人分でいいのかい?」
「あぁ、それでいい」
オススメをって言ったにも関わらず、店主がいくつか質問してきた。
「辛いのは食べれるかい?」
「いや、できれば甘い方がいいな。クロも同じで」
「濃さとしては?」
「そこまで濃いのはちょっと…」
「ふんふん、だいたいわかった。味付けは塩と醤油だとどっちがいい?」
「うーん?何を用意してくれるんだ??」
こんなにも質問してくるなんて、変なものでも出す気なのかと思ってしまった。店主は。
「この店で1番人気はラーン・マーンだよ」
……ラーン・マーン??
「麺を使った料理さね。地方料理で、ここに来た人が教えてくれた物さ」
うーん、麺料理で塩とか醤油とか使うのは俺らで言う所の【ラーメン】しか思い浮かばない…
「とりあえず塩で」
「ボクも塩でお願いします!」
「あいよ!ちょっと待っててね!」
そう言って店主は厨房の中へ入っていた。本当に【ラーメン】なのか、この目で確かめたいが俺は醤油より塩派なのでとりあえずこっちにした。濃さとか辛さとかもラーメンならありえる。時間が経って少ししていると。
「お待たせ、ラーン・マーンだよ!」
出てきたのは大きなお椀に麺とスープが入った【ラーメン】だった。正真正銘、これは俺達の知るものだった。匂いを嗅ぐと鶏ガラスープ的な感じ。クロと共に手を合わせて。
「「いただきます(!)」」
と、一言言う。そしてずぞぞーと食べると、まさに塩ラーメンだった。
超絶旨い!!ちょっと塩ラーメンにアレンジが加わってるけど、知ってる飯だ!!これはいい!!
すぞぞーと食べる俺達は夢中になって食べてた。そしてそんなに時間をかけずに、汁まで飲み干しそして。
「「ご馳走様でした!」」
と言った。店主は俺達のこの掛け声に疑問を持ったのか質問してきた。
「その、いただきますやごちそうさまってのはなんだい??」
「えっと……」
「これはボク達の故郷の文化で、作ってくれた人に感謝をして食べるための挨拶みたいなものです。このスープに使ってる動物達や、この麺がどうやって作られてきたかの原点などの生産者の方にも感謝をして、『いただきます』。確かそういう意味だったと思います。そしてちゃんと食べ終えました。みんなの分もボク達が背負って生きていきます。本当にありがとうって感じで『ご馳走様でした』と言うんです。ボク達は生きていくために食べなくちゃいけない、その中には犠牲を払ってくれる生き物達に感謝をしなくちゃいけない。だって、ボク達と同じように生きてたんだから。それなのに、なんの感謝もせずにのうのうと生きるなんてそれは許されないことです。だからボク達の故郷ではその感謝を忘れないために、この挨拶をして食べるんです」
とてもわかりやすい、丁寧な説明だった。俺にはこんな風に言えない気がする。それを聞いた店主は驚きながら、呟くように。
「へぇ!その故郷の挨拶、ここでも使っていいかい?確かにここの料理で使う生き物達は私達と同じで生きていたのは事実。それを感謝もせずに食べるなんて、あっちゃあいけない!これから浸透させることにするよ!お前さん達には本当にいろんなことを教えてくれる!良い子らだよ!」
店主の笑顔が眩しかった。本当に嬉しそうだったから。俺達も嬉しくなった、こんなにも感謝されると思わず笑顔になる。すると、何かを思い出すように店主が俺達の名前を聞いてきた。
「また助けて欲しい時や、私がお前さん達を助ける時に役に立つかもしれない!お前さん達の名前を聞かせてくれるかい?私はマリサ。マリサ・リンネットさ。みんなからはマリサさんと呼ばれてる。あとは姐さんかしらね。私の地元はここじゃないけど、ここで働いてもう7年は経ってるよ」
「俺はハル、こっちは相棒のクロ」
「よろしくお願いします」
「ハルとクロね!よろしく!」
自己紹介が終わって俺達は店から出た。それからまた宿屋に向かい、宿屋の店主から鍵を貰って部屋に行く。それからキツくない服装に変えて、口元を拭きそれからベッドにダイブした。するとクロが俺のベッドの中に入ってきた。どうしたのかと思ったら。
「またハルさんが寂しい思いしないように、今日はボクがハルさんと添い寝してあげる。昼みたいに泣いてたら心配しちゃうもん。ハルさんのためにそばに居るって決めたんだから!」
そう言ってくれた。俺はクロの頭を撫でながら。
「ありがとう。じゃあお願いするよ」
「うん!」
そう言ってクロは布団の中に入り位置を確認してから。いつものように。
「おやすみ、ハルさん」
「あぁ。おやすみ、クロ」
そして2人で眠った。変な夢も悲しい夢も見ることなくぐっすりと。また明日、元気に活動するために。明日は明日の風が吹く、みたいに。
親に感謝できる時に感謝しましょう!
死んでからでは遅いのです。
言っておけば良かったと後悔しないように!