魔法使いの先生   作:幽玄の鬼

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第一篇 人外の魔法使いとの邂逅

 此方と彼方、現世と幽世を跨ぐ()()()の一族、魔法使い。―厚いベールの裏、無粋なセメントの向こう。雨に霞む木々の奥……神秘と不思議に満ちたその世界は、人間のすぐ傍で息づいている。

 

 

 イングランドの片田舎の森の奥。鳥に獣。妖精や小人(隣人たち)が風に揺られ躍っている。

 薄暗く深い森の中を、隣人たちと戯れながら進む人影があった。

 ターバンを頭に巻き、USAというロゴの入ったシャツに、パーカー、ジーンズといったラフな格好は、森の木々の間ではどこかチグハグな感じがする。しかしその人影は人間ではない。腕は長く手の指は3本しかない。何より、ターバンで隠してはいるが第三の眼が額にあるし、砂の匂いを身に纏わせている。金髪で顔だちも整ってはいるが、何処か作り物めいている気もしなくもない。その瞳は木の年輪の如く幾つもの輪が並び、黄金の琥珀色をしていた。

 

『あらラ♪砂のモノが緑にまみれた森に来るなんて珍しいコトもあるのねン』

 風の精(エアリエル)がくるくると回りながら言う。

「いやはや。ダウリヤの乾いた砂漠もいいが、アルビオンの慣れ親しんだ土の香りは心が安らぐねえ。懐かしの薫りに胸が躍るよ」

 と人影は言う。どうやら男性らしい。低くて心地いい声が発せられた。

『そうよねン♪私たちも慣れ親しんだ風に煽られると心休まるわン』

 さっきのとは別の風の精(エアリエル)が楽しそうに言う。

「麗しき風の精(エアリエル)のお嬢さん方。我らが蜂蜜酒(ロビン)はここにいるかい?」

 

 その言葉に一筋の微風が吹き渡り、腰回りから翼の生えた、脚が鳥の風の精(エアリエル)が現れた。

 その風の精(エアリエル)は男性の肩に乗ると、わざとらしく拗ねた。

『あら酷いわネ。ワタシのコト疑うなんて悲しいわン。いくアンタとワタシの仲だって云ってもマナーは大切ヨン?』

「あははは。…別に悪気があった訳じゃないよ、エミリー。挨拶だよ挨拶。これから通うようになるんだからご近所付き合いは良くしていかないと。―たぁだ、どうしても末の甥っ子が結婚したなんて信じられなくてねえ」

 男性はエミリーと呼んだ風の精(エアリエル)の鼻を(くすぐ)りながらそう言った。エミリーは嬉しそうに顔を摺り寄せる。

『そうねン。ヒト嫌いで偏屈な、()()アンタの甥が嫁を貰うなんてありえないわよネン♪あら。気を悪くしたかしらン♪』

 面白おかしそうにエミリーは言った。

「いんやあ。全部事実だ。反論する言葉を私は持ち合わせていない。信じられないことに風の噂によると夫婦喧嘩までしたらしいからね。逢うのが楽しみだよ」

 

『噂をすれば♪影の茨の花嫁のご登場よン』

 別の風の精(エアリエル)が森の外れを指差す。そこには赤毛の少女が、石垣に腰掛け、空を眺めていた。―一匹の使い魔(ファミリア)と共に。

 

 

 

―――――――――――

 

 羽鳥智世(ハトリ・チセ)は日課の家庭菜園を終えた後、使い魔(ファミリア)墓守犬(ブラックドッグ)のルツと空を眺め黄昏ていた。

 カルタフィルスとの戦いや、学院(カレッジ)生活など立て続けにイベントが起こって疲れていたのだ。流れゆく雲を眺め、ただぼーっとするだけの時間。チセはゆるりとリラックスしていた。

 そんな中、ルツはどこかで嗅いだ事のある“におい”に気付き後ろを振り返る。チセも自身に寄せられる好奇な視線に気付き、後ろを振り返った。

 そこには人外の男性が立っていた。

「おお。君がエリアスがお嫁に貰ったという夜の愛し仔(スレイ・ベガ)か。よろしくね。私は君の大叔父だよ」

 アーキンはウィンクしながら、3本指の手を差し出した。チセは何が何だか分からなかったが、とりあえずその手を取り握手をした。

「あ、あの。知ってるみたいですけど私はチセ。チセ・ハトリです。えっと貴方は?大伯父ってどういう意味ですか?」

 その言葉にアーキンはポカンとする。が、何かに気付き悪態をつく。

「あんの骨頭が。全く、何年経っても手の掛かる甥っ子だねえ」

「甥?エリアスがですか?」

「ああ、そうだ。私はアーキン。アーキン・トゥムク。リンデルの兄で、エリアスの伯父に当たるかな?ラハブの弟子でね。リンデルとか、エリアスとかよりも、ずっとずうっと年上だからねえ。敬い給え、なんつって」

 片目を閉じ茶目っ気たっぷりにそう言うアーキンは、何処かうさん臭く、成程リンデルやエリアスに似ているようだ。

「そんなことよりも。早く君の旦那様(ダーリン)の所に案内いただけるかな?その為に遥々英国(ブリタニア)に足を運んだのだからね」

 チセから手を離すとアーキンはにこりと笑う。その際にチセの鼻腔を、何処かで嗅いだことのある砂においが(くすぐ)った。

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