その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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はじめまして、以前からチマチマ書いていた物で初投稿になります。お手柔らかにお願いします。
にわかな部分があるため誤字脱字、間違い等はどしどしご指摘頂ければと思います。


・設定など
よくあるダンまちの世界を舞台にしたオリ主モノ、GrimDawnのDLCで毒酸まみれになっていた時にふとオラトリアのワンシーンを思い出したのが切っ掛けです。

・GrimDawn側を知らない人でも読みやすいように頑張ります。
・ハーレムルートとヘスティア様ルートは原作にお任せで。


1話 クリアの先に

 どこの世界にも、栄える都市はいくつかある。時代によってその都市が移り変わることも、あまり珍しくはない光景だ。

 港町、大陸の真ん中にある交通の拠点など、要素も様々。共通点を挙げるならば、いつ・どこにおいても人々が押し寄せるという所だろう。

 

 訪れる者の目的も様々だ。活発な物流を土台に異国の物を取引して富を稼ぐ者、その異国の物を楽しむ富豪の類。

 そして自然と発生する、雇用の類。なんとかして利益にあやかろうと、その都市にある夢を追わんと、老若男女問わずが押し寄せるのだ。

 

 

 そのなかの1つの都市。恐らくは世界においてもっとも有名な都市の一つであろう“オラリオ”という都市の中心部には、ダンジョンと呼ばれている迷宮がある。内部の形状は様々であり、基本としては洞窟のようなものの、所々で大きく開けていたりと様々だ。

 未だにその全容は解明されておらず死と隣り合わせの場所であり、昨日の晩に共に飯を食べた者が明日の昼には死んでいても何もおかしくない危険地帯。人間を攻撃するモンスターを多数生みだす、非常に危険な天然の地下施設だ。

 

 だというのに、冒険者と呼ばれる職種になる者が毎日の如く殺到する。未知の宝庫でもあるダンジョンは、一攫千金の夢を叶えるには十分な舞台装置と言えるだろう。

 奥深くに眠っているかもしれない富や、強くなることで名声を得るために。冒険者は危険を承知で、都市の中心部にあるダンジョンへと入り浸るのだ。

 

 

「何アレ!何なのアレェ!?」

 

 

 そんなダンジョンの、未到達地域一歩手前である51階層で発生している異常事態。一人の少女の声が、片側一車線程度の広さしかない洞窟のような道に木霊する。

 正確には51階層において発生し、逃走ルートの関係で一度52階層を通っているだけであるが、4メートル級の全長を持つ極彩色の芋虫の群れがその後を追っていた。58階層にいる全長10メートルの巨体を誇る大紅竜、ヴァルガング・ドラゴンによる“階層無視”の大火球砲撃も同時に行われているものの、どうやら今のところは芋虫をターゲットとしているようであり直接的な影響は出ていない。

 

 実はこの芋虫、口、及び負傷箇所から強烈な酸をばら撒く性質がある。とはいえそれが解明されたのはつい数十秒前の出来事であり、時すでに遅し。前衛職が持つ近接武器のほとんどを溶かされてしまい、絶賛敗走中というわけだ。

 先頭を走る褐色の少女はいくらかの余裕があり、振り向いて様子をうかがう。金髪と緑髪の仲間はしっかりと後ろをついて来ており、洞窟のようなダンジョンの壁に遮られて視界にこそ映らないが、芋虫の軍団も明らかに後を追ってきている。逃走劇を繰り広げているのは8人のグループだったが途中で二手に分岐しており、結果としてこちらを走るのは三名の女性の姿だ。

 

 3名が目指しているのは、50階層にある休憩地点。数十名の仲間が待機するその場所へと戻るべく、洞窟内を疾走する。

 

 

「っ!?」

「誰かいるぞ!」

「うえっ、人!?」

 

 

 52階層における鬼ごっこもしばらく続いたのちに、駆け抜ける先に見える人らしき影。到底ながら一般人の枠組みに収まらない速度で走る三人の視界には、徐々に鮮明に映ってくる。

 所持しているのは、2枚の盾と捉えるべきか。そのうち左手側を構え、この場は任せろと言わんばかりに右手を静かに前から後ろへと動かしている。

 

 棘のついた、重厚な黒いアーマーに身を包んだ人のような姿。それが、その“男”との初めての出会いとなった。

 

 

====

 

 

 オラリオとは遠く離れた別の世界、“ケアン地方”。そこに、一人の男が居た。

 

 世界の終焉で処刑されそうになったところで一命をとりとめ、人類にその終焉を与えた者を滅ぼすために立ち上がった。

 しかし当然、最初のうちは無力である。装備が揃うまでは、いくつの血反吐を垂れ流したか分からない。

 

 それでも。いかに強靭で巨大な相手だろうと、権能を振りかざしてくる神であろうと。

 襲い掛かってくる敵に対し、真向からソロで戦い。ソロで大陸を駆け抜け生きてきた、一人の青年が居た。

 

 

『■■■■――――……』

 

 

 鳴り響く断末魔、倒れる巨体。その前に立つのは、先程の青年である。

 

 

 

 そんな一人の青年が、世界を救ったのだ。

 

 

 世紀末と呼んで差し支えない程に荒廃した世界。クトーニックとイセリアルという2つの巨大な魔物の勢力を筆頭に、様々な派閥が争いを繰り広げていた混沌とした世界。

 

 “過酷な夜明け”。英語表記で“GrimDawn”と呼ばれる争いに包まれていたその世界において、人類が迎えた滅びの運命を打ち破った。

 やり方は単純。人類と敵対する勢力を、片っ端から倒しただけ。獣も居れば基は同じ人間も居たりと、彼が殺した数と種類は計り知れない。殺戮のカウントでいけば200万、300万の数値など優に超えており、敵となったセレスチャル神だって殺したことも数知れず。

 

 しかし彼は、世界を救うことで感謝の念を集めたかった訳でもない。英雄などにも興味は無く、まったくもって成るつもりはなかった。

 

 ではなぜ身を挺して、いかなる強敵が相手だろうと単身乗り込み、人類を脅かす敵対勢力と戦ってきたか?

 

 その理由が“レジェンダリーを筆頭とした装備集め”だったことを味方が知れば、今すぐ戦闘が開始されて人類は滅びていただろう。この男、いつの間にか目的と過程が入れ替わっている。

 ともあれ結果として世界を救った事になった戦いも、これでようやく一区切り。彼はドロップアイテムを回収して相手の親玉の亡骸、イセリアルの集団が召喚した醜い姿の“神”を見下している。

 

 

「ようやく、これで一区切りか」

 

 

 青年が今いる場所は、ローグライクダンジョンと呼ばれるジャンルに該当する。現世との繋がりが断たれた特徴的なダンジョンであり、一度入ったら最後、死ぬか最下層のボスを倒すことでしか脱出できない場所である。

 最終決戦場からここに逃げ込んだボスを追い詰め、倒したというのが簡易的なシナリオだ。このあとは目の前のワープポータルに入り、通常フィールドへと戻ることができるだろう。

 

 いや。もう少し詳細に解説するならば、崩壊寸前の危機から救っただけ。殺しに殺し尽くして敵の主力級は全て屠ったものの、人類を滅ぼすであろう敵との戦いは果てしなく続き、終わる気配を見せていない。

 

 

 ともれラスボス戦の直後だというのに何故か無傷で、余裕綽々の表情を浮かべる一人の青年。街に戻れば、“英雄”だの“勇者”だの、大層な二つ名でもって称えられることだろう。

 回収したドロップアイテムを一通り確認するも、目ぼしい物は何もなかった。落胆と共に溜息を吐くと、ワープポータルである“リフト”を使用して本拠地へと戻るのであった。

 

====

 

 しかし青年は、暗闇の中で目を覚ます。日々の眠りから覚めるように覚醒した意識だが、どうにも視界は宜しくない。五感はハッキリしているものの空間をとらえることが難しく、まるで灯り一つない地下室に閉じ込められたかの様相だ。

 辺りは文字通りの闇一面であり、しかし何故だか微かに見えた光は本当に微弱なものが一点だけ。思わず“全く普通の盾”を持った右手を伸ばすと、身体の前にあった壁が崩れ去った。

 

 

 これらは、とある青年が2分前に経験した内容である。

 

 

「……どこなんだ、ここは」

 

 

 そして青年は、洞窟のような造りを見せる大きな空洞の端に立っていた。薄暗い月明かりが照らす程度の明るさが全体に広がっており、一番奥までは見えないものの視界については最低限は確保できている。

 

 首から肩まで覆う厚い首巻は顎の位置までを隠しており、左肩に装着されているツバ付きの金属製の黒い肩当が薄明かりにギラリと光る。黒色を基調とした上半身の鎧には、縦に走る銀のラインと無数の棘により、まるで装飾されているかのようだ。鎧からはコートのようにレングス部分が膝の少し先まで伸びており、そこには太腿を守るために鎧と同等のガード、そしてやはり銀色の棘がついている。下半身は濃い黄土色をベースとしたアーマーの類であり、肘までをカバーする篭手も重厚な金属製とあって肌の露出はどこにもない。

 そんな胴体部分とは対照的に、頭部を守るのは鎧と似た色のフードの類。目元までをすっぽりと覆える程の目深のフードだが、実はこの頭部と盾は“幻影”による効果を持っており文字通りの幻覚だ。公式においても実装されている見た目を変化させるモノであり、実際は禍々しいヘルムが装着されている。

 

 幻覚だというのに中身の人物の表情が伺える点はツッコミを入れてはいけないだろう。フードは単なる趣味、盾については装備品のデザインが悪すぎる故の彼の好みが反映されているというワケだ。

 このような恰好でダンジョン内部で棒立ちになり呟く青年もまた、現在進行形で多数、いや視界を埋め尽くす程の極彩色の芋虫型モンスター。単体が4mはあろうかという巨体のソレに圧し掛かられて――――

 

 

『■■――――!!』

 

 

 なんとも表現しがたい奇声を上げると共に、攻撃した側のモンスターが爆ぜていた。

 

 青年の周りには無数の短剣が回転しながら周囲を旋回しており、時折、1m程の黄金のハンマーもくるくると回転しながら周囲を回っている。また時折、光の波が生まれ、恵みの雨が降り注ぎ、天井から眩い光が降臨する。そのたびに、彼を殴っていないモンスターも爆ぜていた。

 首から膝下までを覆えるほどの大きさのあるくたびれた黄金色の盾を気持ち程度に構えるが、モンスターは後ろからも殴ってきているために意味がない。右手に持つ銀に輝く“刃の印章”が刻まれた金属製の盾、しかし属性上はメイスであるアイテム名“全く普通の盾”を力なくダランと垂れ下げ。周囲360度を囲まれてリンチを受けようが男の足は微動だにせず、結果として1㎝も動くことは無かった。

 

 

 通常ならば、死亡時にモンスターが爆ぜることは無い。こればかりは、殴ってきた、と言うよりは突進を行ってきたモンスターの特性にある。

 遠距離からの酸による攻撃、また近接戦闘においては体当たりや突進の類を駆使し、死に際になれば爆発し周囲に酸をばらまくという厄介なモンスターだ。俗に言う“汚い花火”と表現することもできるだろう。

 

 距離を詰めてくるこのモンスターに対し近接攻撃を行おうものなら、傷口からまき散らされる酸によって高確率でダメージを受ける。加えてモンスターが持つ酸は非常に強力であり、肉体はもちろん大抵の武器・防具の類も溶かしてしまう程であるために質が悪い。

 かと言って遠距離で対処しようにも相手の口から酸が飛んで来るわ数の暴力で距離を詰めてくるわで、対策が非常に難しい。更にはモンスターそのものに酸による耐性が無く、仲間の自爆が原因でダメージが入り己も自爆し汚物をばらまくソレが連鎖するという、マンボウもビックリの死因が加わっている。

 

 

――――“カウンターストライク”、及び“報復ダメージ”も作動、戦闘に影響はなさそうだ。

 

 しかし、そこの青年を相手にしてはそんな特性も役に立たない。そもそもにおいて、そんな自爆連鎖の開始点。なぜ片っ端から“攻撃した側が死んでいる”のか。

 理由は彼が身に纏う武器・防具や、所持しているスキル・恩恵の影響に他ならない。相手の攻撃を受けたことによって“報復”と呼ばれる自動的なカウンターダメージが発動し、一撃で芋虫のライフを刈り取っていたのである。

 

 

 報復ダメージとは、相手の近接攻撃を受けた際に発動し、攻撃者に“報復カテゴリ”のダメージを与える特殊なダメージである。近接攻撃を受けたならば必ず発動し、被ダメージに比例するようなものではなく“報復カテゴリ”によって独立した計算から発生するダメージだ。

 通常の攻撃と違って目に見えないモノであり、故に防ぐこともできない代物だ。通常のスキルのように発動後は暫く使えない“クールタイム”もないために、一対多数の際にも遺憾なく効果を発揮する性能を保持しているという、近接攻撃を行う者・モンスターにとっては天敵の存在と言える程の極悪性能と言えるだろう。

 

 現に、攻撃した芋虫は全てが例外なく一撃で即死の結果となっている。加減なしに力を振りまき襲い掛かる“神々”と真向から戦い、その“神々”に通じる程に強力な攻撃力を相手にしているのだから、モンスター程度が耐えることが出来ないのは仕方がないと言うべきだろうか。

 芋虫側からの攻撃も同様であり、故に僅かにも通じない。彼はそもそもにおいて、神が振るう一撃に対しても平然と耐えることができるのだ。

 

 芋虫は死亡時に自爆して物理・酸ダメージをまき散らすものの、彼は酸・毒からの攻撃による被ダメージの8割以上をカットしてしまう“耐性”を持っている。装備効果や恩恵による強力なライフ回復効果も持っているために、僅かなダメージは瞬く間に回復してしまうのだ。

 また、ヘビーアーマーに身を包んでいることもあって物理防御力・物理耐性も非常に高い。そのために、爆発によるダメージも微々たるものとなっている。強力な回復性能を備えていることも、理由の一つとなるだろう。

 

 

――――それらを考慮しても、随分と敵が弱くはないか。まるで……

 

 

「“ケアン”や“コルヴァン”の地方……とは違う場所、か」

 

 

 男の名はタカヒロ、24歳。そしてジョブを記すならば“ウォーロード”。もう少し情報を付け加えるならば、“物理報復型ウォーロード”と呼ばれている構成だ。

 元々は片手武器による近接の物理攻撃を得意とし、盾を装備して相手の攻撃を受け持つと言うタンク型の職業でもある。反面として両手武器との相性は悪く、更には魔法の類は素人以下もいいところで、騎士のような使徒を2体まで使役できる点がこの構成の特徴だ。

 

 芋虫の特攻を受けながら、彼は脳内においてインベントリを確認する。その手の小説によくあるログアウト画面が無かった点は、鋼の意志で見なかったことにした。

 

 スキル画面、ステータス画面、星座による恩恵も同様だが、異なる点が2つだけあった。まず、火炎・雷・冷気で3つに分かれていた“耐性”と呼ばれる対魔法防御力。彼ならば最高で84%をカットしノーマル環境において1属性あたり230%近くを所持するこの耐性が、更に“水”や“風”などに分かれている。

 もっとも、そのような自然由来の魔法への耐性、“エレメンタル耐性”だけで彼は84%(有効値)+92%(超過分)+50%(難易度補正分)の数値を確保しているために、派生分に関しても問題とはならないだろう。その手の攻撃は受けた事がないだけに油断は禁物だが、数値上の耐性は十二分だ。

 

 もう1つは、そんな耐性を彼に与えている彼の装備やスキル、星座の恩恵に関する点だ。これらは様々な効果を彼にもたらしているのだが、それらの効果を任意に有効化・無効化できる機能があったのである。例えばだが、報復ダメージのみを無効化したり、星座の恩恵のみを無効化すると言った運用が可能となる。

 とはいえわざわざ無効化するような場面は思い浮かばず、彼はとりあえず移動を続けることを選択した。丁度良く芋虫の特攻も終わったために、なぜだか薄明るい地下洞窟のような道を、芋虫が来た方向へと進むのであった。

 

 

「……で。どこなんだ、ここは……」

 

 

 何度呟こうが、声は見果てぬ道に吸い込まれて状況は変わらない。今居る場所がとあるダンジョンの深層と呼ばれる52階層であることを知るのは、もう少し先の話である。

 




・ウォーロード(War Lord)
 2つのクラス(ジョブ)を選択することができるGrimDawnにおいて、ソルジャーとオースキーパー(DLC)を取得するとウォーロードとなる。略称はWL。
 WLに限らず報復型とは、報復ダメージを主として”わざと殴られる”スタイルで相手にダメージを与えていくスキル・装備構成(ビルド)。
 攻撃に耐え抜くスタイルのため必然的にキャラ自体は硬くなるのだが、報復は相手の遠距離攻撃では発動しないため、自発火力に劣る……

 はずだったのだが、なぜかこのバランスガバガバなDLC配布当初は物理報復WLが頭1つどころか2つ3つ飛びぬけて強力な構成となっていた。
 ”報復攻撃のn%を攻撃力に追加”、
 ”鍛え直したベロナロス(エレメンタル→100%物理変換)”、
 ”オースキーパーそのもの”
 ↑だいたいこいつらのせい。

 文字通りぶっ壊れの強さを誇っており、他の一般的なビルドが血反吐を流しながら超えていくところを鼻くそほじりながら突破できる程の雲泥の差である。
 結果としてナーフされまくって現在は落ち着いているが、それでも強力なビルド。これ以上ナーフされない理由としては、巻き添えをくらった他のビルドが死ぬためというのが一説。

 なお、本小説のWLは大幅弱体化後(Ver1.1.5.4)の設定です。

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