その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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107話 少年の気持ち

 秘密の特訓の日々も無事に流れ、今日で節目の最終日。参加人数が少なく身軽なタカヒロとベルは、明日の午後から会場へ移動することとなる。

 

 あっという間に過ぎ去った、約半月。たった半月程度と捉えるかは人それぞれながらも、ベル・クラネルを筆頭に参加した戦士たちにとっては、非常に中身の濃い鍛錬だった。

 特にベルが得たモノは顕著である。鍛錬の期間中に一新された鎧も同様であり、重量増を最小限に抑えた一方で装甲値は跳ね上がっており技術の革新が伺える。名実ともにレベル4の第二級冒険者に相応しい、立派な鎧となって納品された。なお、相変わらずのネーミングセンスはさておくものとする。

 

 また、休憩中にリヴェリアから魔力の立ち上げ方を学ぶなど、様々な方面における第一級の冒険者によるアドバイスがなされている。あくまで戦闘面であってダンジョンの事ではないものの、それもまた重要な知識となって少年の糧となることだろう。

 もちろん実践にはアイズも参戦しており、いつのまにか応援用の旗を作っていたフレイヤは、応援席からエールを送っている。旗に描かれたベルの顔については妙にクオリティが高いが、その点はスルーすべきだろう。

 

 

 ちなみに。何をやっているのか知らされていないヘスティアは、デイリーで行っているステイタス更新のたびにレベル1の頃を思い出している。戦争遊戯(ウォーゲーム)の開催決定から15日目にして早くも器用さはBランクに突入しており、その他も1-2ランク下ながらも追従。偉業という点を除けば、余裕でランクアップ可能な域に達しているのだ。

 なお、今となっては少しだけ慣れたものである。成長スキルよりも何倍もヤベー奴が持っているアブナイ木々のせいで感覚がマヒしているだけなのだが、その真相を口にできる者は居ないだろう。

 

 

 そんなことはさておき、本番まで残り三日となった鍛錬最終日の今日は、参加者各位から激励の言葉を貰って幕が降ろされた。最終日付近にはフレイヤとアイズが“どちらが先に言葉を掛けるか”で軽く言い争っていたが、あまり珍しい光景でもなくなってきている。

 

 雲少ない綺麗な月明かりが見守る、オラリオの夜。メインストリートからは外れており人気のない道を進む師弟のうち、ベルは少し落ち込んだ様相を見せていた。

 何かあったかとタカヒロが問うと、「少しお話をしませんか」と、珍しくベルが誘う格好となる。どうやら、ファミリアのホームでも話せそうにないらしい。

 

 二人して、道中にあった人気(ひとけ)のない公園へと辿り着く。夜であるために、遠くにある居酒屋の声が微かに聞こえて来るほどだ。

 ベンチには腰かけず互いに向き合うと、タカヒロは何かと声を掛けた。それでも俯いたままである少年の口は、なかなか開きそうにない。

 

 

 そんな状態もしばらくしたのち、ふと吹き抜けた風に勇気を貰ったのだろうか。普段の彼らしくないしょぼくれた表情と共に、とても弱々しい言葉が口に出された。

 

 

「ランクアップして、ステイタスが伸びて。強くなっているのは、ハッキリと分かるんですが……」

「何か不安か?」

 

 

 続く沈黙、言うべきかどうか迷っている困惑した表情。たっぷりと30秒ほどの時間をおいて、ベル・クラネルは消え入りそうな声で言葉を発した。

 

 

「……僕の中の師匠が、小さくなっていくのが怖いんです」

 

 

――――やだ何この子かわいい。

 

 非常にシリアスな状況下に居るであろう本人には心から申し訳なく思っているものの、それが青年が抱いた率直な感想であった。そのまま抱きしめてあげて、大丈夫だと頭を撫でてあげたくなるような衝動に駆られている。

 

 

 かつて出会った日の翌日。己の中にあった、師であるタカヒロが見せてくれた剣撃の豪雨、暴風雨。

 されど今の少年の中には、姿形は影すらも見えそうにない。そして、そうならんと走り続けるごとに形が少しずつ薄れていくという事実を、ベル・クラネルは確かに感じ取っていた。そしてタカヒロもまた、そんな気持ちを抱くだろうなと考えていたために、今のベルの心が分かってしまう。

 

 いつかリヴェリアに対して、「同じ道を歩んでいない」と表現した理由の1つがここにある。今のタカヒロはブレイドマスターとは程遠い位置におり、弟子が振るう剣技の根底は彼オリジナルのスタイルであるために、共通する点となれば青年が教えた技術だけ。

 そのことを一番わかっているのも走り続けている本人であるために、感じる不安は強いものがある。ゴライアスを討伐できた辺りから、先の感情を、特に強く抱いていたのだ。

 

 もっとも、青年が残した捻くれた“お土産”は、(いま)だ仕事をしていない。その中身は気付いてこそ価値があるもので口にして良いものではないために、どう返したものかと言葉が詰まる。

 

 

「……弱ったな」

 

 

 まさか、こんな告白のような悩みを相談されるとは思いもよらず。本音が呟きという形で口に出てしまったタカヒロは、頭の後ろに右手をやった。

 先ほどの感情は、正直なところ直感的に抱いた本音である。もちろん性的なものではなく、子供に対して抱く保護者的な立場から生まれ出るものだ。

 

 横目で少年を見るも少し俯いてしまっており、うっすらと涙が浮かんでいる。決して決壊だけはしないようにと、ベルは口を強く噤んでせき止める。

 この少年がレベル1でミノタウロスの強化種を倒し、ロキ・ファミリアの第一級冒険者とほぼ互角に打ち合い、二人のレベル1と組んだ三人パーティーでゴライアスを屠った少年だと言って信じる者は居ないだろう。戦いの際に見せる戦士の顔も、褒められて咲かす華のような笑顔もそこにはない。

 

 そこにあるのは、年相応よりちょっとだけ幼い子供の姿。

 

 ヘスティア・ファミリア所属、ベル・クラネル。現在レベル4、そして時と場合によってはレベル5を相手に勝てる程の強者とはいえ、その実はまだまだ幼い14歳。

 タカヒロほどに達観していれば割り切れるだろうが、子供にとって“割り切れ”と悟らせるのは酷である。巣立ちの直前で親に縋るように、もう少しだけ甘えていたい感情を隠していない。

 

 

 青年とて、先ほどの不真面目な感想を抱いている余裕もないかもしれない。青年の想定以上の成長を遂げる少年に対し、教えられるような基本の技術は何も残っていないのが実情だ。

 もっとも、今の少年ならば鍛錬の内容からして気づいていると判断できる。だからこそ、このタイミングで先の話を口にしたと考えれば納得だ。

 

 

 その時が来たかと、青年も己の中で覚悟を決める。いくら弟子が()()()()()()()()とはいえ、いつかは迎えるものだと最初から分かっていたことだ。

 レベルがもう1つだけ上がった際の“とっておき”こそ残っておれど。そして微塵もおくびには出さないが、底では寂しさも芽生えているのが本心だ。

 

 

「……存在が小さくなる、つまり離れる、か。厳しいことを言うが、誰かの元に近づくということは、誰かの元から離れるということだ。思い出させるようで悪いが、君も祖父の元を離れたからこそ、オラリオで自分と、そしてアイズ君と出会っただろ?」

「っ……」

「そして自分に基礎を学び、アイズ君に、少しだがオッタル達に剣を学んだ。ロキ・ファミリアにパーティー行動を学び、リヴェリアに魔力のアドバイスを貰ったこともあるだろう。己の技術に使えるところがあれば、どん欲に取り入れ、優れる所があれば入れ替えた。だからこそ、今の君が出来上がったわけだ」

 

 

 何かを言いたい少年だが、何も言葉が見つからない。そして、こういう時の師は、必ず己にとって大切な言葉を授けてくれる。

 あの時もそうだった。酒場で貶され勘違いしていた時に置かれた右手の感覚は、きっと死ぬ間際まで忘れない。

 

 

「それが、離れる?違うぞベル君。それは、成長と言うのだ」

 

 

 思い返させるように、タカヒロは。出会った頃、最初に掛けた言葉を繰り返す。

 

 己が教えることができるのは、大雑把に言えば相手を広く見て戦う立ち回り、つまり小手先の技術。この鍛錬を終えたからと言って、例えばナイフで岩を切れるようになるわけではない。

 しかし、程度にもよるが格上にさえ通じる戦闘技術。数えきれない死線を潜り抜け身に着けた、攻撃・防御能力を基に発揮される狡猾さ。

 

 いくらかの発展形こそあったものの、大筋は何も間違っていないのが現状だ。当時とは比べ物にならないぐらい成長した今のベル・クラネルは、言葉の意味が痛いほどに分かってしまう。

 

 アドバイス程度ならば相談に乗れるが、己が教えることができるものは、もう何もないのだと。己が教わることのできるものは、もう何もないのだと。

 双方共に口にしていないこのセリフが、いともたやすく伝わり合ってしまう。血のつながりこそ無い二人だが、それほどまでに相手の事を信用しているからこそ、そうなってしまうのだ。

 

 

「……とはいえ、何もないというのも寂しいな。では一つ、この技を見て欲しい」

 

 

 そんな言葉を口にしたタカヒロは、一本の剣をインベントリから取り出した。月明かりに照らされ輝く反りのある刃は一切の乱れが無く、一目見ただけで超がつく程の一級品であることを伺わせる。

 目にしたベルとて、思わず目を開いてゴクリと唾を飲むほどの美しさ。そしてタカヒロが5メートルほど離れると、先ほど口にしていたスキルが放たれた。

 

 青年を円形に取り囲むようにして一瞬にして現れた、無数のナイフ。何百ものソレは魔法の刃であり、術者を中心に回転し、周囲を一斉に切り裂いてゆく。

 痕跡は跡形もなく無くなっており、刃が現れてから終息するまで、僅か1秒も無い程度。もしもそこに敵が居たならば、無数の刃によって一瞬にして斬り刻まれていることだろう。

 

 

 ――――アクティブスキル:リング・オブ スチール。

 何百もの魔法の刃が瞬く間に生まれ術者を致死的な速さで取り囲み、術者を中心に回転することで隣接する敵を切り裂くのだ。

 

 半径4.5メートルの周囲に無数の黒いナイフを出現させ、一瞬にして周囲を切り裂くそのスキル。1秒程度しか持続しない割にエナジーがモリッと減るスキルなのだが、得られる瞬間火力と爽快感は一入(ひとしお)だ。

 なお、反射持ちの敵が一匹でも居るとお察しである。凄まじい程のダメージ量を与える反面、その点のリスクも大きいのが玉に瑕。

 

 多くのエナジーを使い、魔法の刃を使うが物理攻撃の分類となるアクティブスキル。武器ダメージの参照を筆頭に刺突ダメージや体内損傷ダメージを持ち合わせるモノであるが、これらはオリジナルの性能だ。

 カウンターストライクの際と同様に、ベルが取得した場合にどうなるかは分からない。それでも取得できたならば、少年ならば有効に使い熟すことができるだろう。

 

 

「昔、自分が好んで使っていた周囲一帯を切り裂く技、リング・オブ スチール。君ならば、少し魔力のコツを掴めば真似事はできてしまうだろう」

 

 

 クラス:ナイトブレイドならば取得できるが、それ以外ではレジェンダリークラスの片手剣“リーヴァーの鉤爪”で使用可能なスキルである。しかしこれで再現される“魔力の刃”は、ホンモノの威力には程遠い。

 カウンター・ストライクがオリジナルと効果が違うように、これもまた違う様相で再現されるのかとタカヒロは考えている。どちらにせよ、ベルが実践してみないことには始まらない。

 

 

「実運用となると戦争遊戯(ウォーゲーム)には間に合わないだろうが、今の自分のように盾を持っていては使えないのでな……この技を、君に託す」

 

 

 決して、例えば物語の英雄のように広範囲の敵を一掃するようなスキルではない。しかしそれについては、少年は既にアルゴノゥトと呼ばれる強力なスキルを持ち合わせている。

 ソロプレイにおいて圧倒的に不利な状況を覆す、少なくは無い量のマインドを使うものの紛れもない範囲攻撃。文字通り周囲の敵を一掃する一撃は、本来の威力とは程遠いものの、一目見ただけで魅了されるものがある。

 

 最後に示してくれた、師としての姿。マインド回復用のポーションを全部使って再現しようと足掻く少年は、持ち前のセンスで基礎程度を取得することに成功する。

 

 しかし刃の数としては10程度であり、一度の使用でベルが持ち得るマインドの6-7割を持って行かれる程の燃費の悪さ。それでいて出現する刃はオリジナルとは違って、ベルが持つヘスティア・ナイフの劣化版である。

 それでも、少年が技を引き継いだことに変わりはない。発展アビリティが成長するように、このスキルを成長させることができれば、いつか役立つ時が来るだろう。ナイフに付与されたエンチャントもリング・オブ スチールに反映されているようで、エンチャント使用時は炎の輪が現れている。

 

 

「よく頑張ったな、ベル君。これで本当に、自分が教えられることは何もない。技術に限界という言葉はないが、ある程度の応用も含めて、“鳴る為に必要な”戦闘技術は全て伝えた」

 

 

 元々のセンスに長けている上に普段からマインドを使っていることもあって、取得は本当に早かった。出会った頃から続くこの成長っぷりに、青年とて、何度驚かされたかは分からない。

 リング・オブ スチールについてはマインドの関係で、ポーションを使わなければ戦闘において使えるのは一度きり。そして総ダメージとして反映されるオリジナルと違い、あくまで出現する魔法の刃一つ一つによる連撃の扱いだ。

 

 まだまだ使いこなすには程遠く、数も数百とはいかないものの、リヴェリアに学んだ瞬間的に魔力を立ち上げる方法を利用して一斉に開放する。それによって出現した十数個の刃の1つ1つは、少年が通常攻撃で出しえる3割ほどの一撃と、ほぼ変わりない物理威力が見受けられる。

 それに加えた、ヴェルフのエンチャントによる炎属性のダメージも上乗せされているために単なる物理ダメージではなく、広い相手に通用する一撃となるだろう。刃の数については込める魔力量に依存することが判明しており、使い慣れていくうちに最適化も行われることとなるはずだ。

 

 

 最後の授業は、少年の心の整理が落ち着かないうちに終了する。この時ばかりは、強くなったことに対して落ち込んだ感情を隠せない。

 

 下げられた目じりの表情で、師を見つめる。いつもと変わらないフードの下にある口元は柔らかな形を見せており、巣立ちを見守る父親のような様相を見せている。

 だからこそ、湧き出る悲しみを抑えられない。剣の使い方の講義が始まった一件、酒場での一件、大切な少女との一件。思い返せば様々だ。本当に駆け出しだった自分をここまで引っ張ってきてくれた青年に対し、ありがとうと伝えたい感情が溢れて止まらない。

 

 

 いつまでも師であって欲しいことと、相反する二つである。期間で表現すれば半年であり、聞けば「たった数か月」と小ばかにする者も居るだろう。

 しかし間違いなく、少年が築き上げてきた数か月だ。実戦よりも厳しい訓練に耐え、己の欲求よりも教えを守り、格上にも立ち向かい、貰ったものに全力で応え続けたその月数は、決して誰にも真似できるものではない。

 

 

 そして、もう一方。最後に与えた試練こそ残っておれど、あとは背中を押してあげるだけ。それが、師である彼にとってできる、最後の仕事と言えるだろう。

 

 

「では最後に、僭越ながら発破をかけよう。自信を持て、ベル・クラネル。お前は強い。同盟関係にあるロキ・ファミリアの最前線に立ったとしても、第一級冒険者と遜色のない活躍ができることを保証する」

「っ……」

「君の横に立つのは、君が望んだ少女だろう。ならば彼女を助けてやれ、その身でもって支えてやれ。これからは、君が決めた道を進む冒険だ。多くを学び、多くを得て、少しの危険に出会い、少しを失え。この街やダンジョンで生まれるだろう様々な出会いと冒険は、必ず君を成長させる糧になる」

「師匠……」

「自分もまた道半ばだが、頂点は遠く遥か先だ。背中を追うというのなら止めはしない。疑問があれば答えよう、力を試したいならば刃を交わそう。どこへ出しても恥じることのない強さを持った弟子の巣立ちを嬉しく思い、今をもって卒業を宣言する」

「今まで、ありがとうございました!!」

「あと数日で本番だ、皆から学んだことを信じて存分に戦ってこい。勝利を信じているぞ、ベル君」

 

 

 師弟の抱擁という旅立ちを見守るのは、優しく暖かい光で包み込む月だけである。少年から溢れる涙は答えるように光り輝き、抑えることができなかった。

 




ちょっと強引ですが、リングオブスチールが使えるようになりました。カウンターストライクも取得しているのとオリジナルとは違うので、お許しいただければ幸いです。
“お土産”が明らかになるのは、もう少し先の話です。

……ところでアポロン・ファミリアさん、この“準ぶっ壊れ”に対抗するカードはありますか?(震え声)


■リング オブ スチール(レベル1)
・瞬く間に(出現する)何百というファンタズマル ブレイズが、術者を致死的な速さで取り囲み、隣接する敵の数を減らす。
26 エナジーコスト
3秒 スキルリチャージ
4.5m 半径
80% 武器ダメージ
135 刺突ダメージ
標的の気絶を 1.5秒
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