その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

11 / 255
アップデートで追加された新規MI掘ってたら二次創作日刊一位
って何がどうしてこうなりやがりましたか……

本当、皆様のおかげ様です。お礼の前倒し更新!
内容はダンまち屈指のワンシーン一歩手前、舞台はあの居酒屋です。



ですがホント豆腐メンタルなので皆様お手柔らかにお願い致します…orz


11話 思わぬ再会

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~………」

 

 

――――なかなかの肺活量だ。

 

 などと斜め上の考えをするタカヒロは、本日何回目かわからないベルの溜息を酒場のカウンター席、少年の右横で聞くはめとなっていた。それに合わせて胃の空気も出ていっているのか、ぐぅ、と可愛らしい音も少しだけ聞こえている。

 態度があからさまなために、何かあったことは想像がつく。が、少年からすれば誰にも相談できないために、この“ガス抜き”の結果となっていることは予想できた。

 

 実はこの時のベル・クラネル。なぜだかダンジョンの5階層という浅い領域でミノタウロスと遭遇し、ロキ・ファミリアのアイズ・ヴァレンシュタインに助けてもらった上に一目惚れした日の帰りなのだ。

 なお、助けてもらった際の対応に問題がある。アイズの可憐さに見とれたと思えば恥ずかしさが込み上げ、御礼も言わずに一目散で逃げ出してしまい返り血塗れのままオラリオの大通りを疾走。そこからギルドの施設に飛び込んで、彼のアドバイザーであるエイナ・チュールに「女の子は強い男に憧れる。ましてやレベル6で風の魔法を使い剣姫の二つ名と名高い彼女なら釣り合う男は限られる」と言われメンタルを削られたのちに5階層へ行っていたことに関してコッテリと説教を受ることになるというオチである。

 

 

「はああぁぁぁ………」

 

 

 それら様々な香辛料で調理された結果として、このような悩める白兎が出来上がっている。彼を“料理された品”と表現するならば間違いなく不出来な一品であり、ベル・クラネルという素材の良さを損ねていた。

 

 ちなみに、店へ訪れているのは師弟関係の二人だけ。ヘスティアはバイト先の打ち上げがあるとのことで、カウンセリングが終わったタイミングで出かけている。帰宅直後にやたらと落ち込むベルを見て、タカヒロが外食を提案した形だ。

 なお、夕飯にしては時間が早かったことと資金は現地調達ということで、4階層あたりで適当に魔石を集めた帰りとなっている。そのために双方ともに鎧姿であり、店についてはベルが知っているところに決めたために案内を行っていた。蛇足としては、流石のタカヒロもフードを外して席についている。

 

 

 ガッツリと肩を落として魂を吐き出すかの如く溜息をつく少年の横顔を時たま流し見ながら、タカヒロは広い酒場を観察する。座っているのが入口から奥にあるカウンター席であるために、偶然にもほとんどの席が一望できる立地であった。

 

 他の席に居るほぼ全ての者が、冒険者の類であることは読み取れる。この世界におけるレベルで言うならば、1か2と言ったところだ。

 が、そこは大して問題ではない。ヘスティアやベルの説明からも、大抵の冒険者がレベル1、良くてレベル2の範囲でウロウロしていることは青年も知っている。

 

 客ではなく、この店で働いているウェイトレス。猫耳やエルフ耳を持つ女性の方がソレ等よりも戦闘要員としては遥かに上である点が、彼の中で盛大な疑問を作っている。

 彼もレベルという概念については未だに疎いが、直感的に判断するならば彼女達のレベルは4と言ったところだろう。オラリオにおいては数少ない、第一級冒険者クラスということだ。

 

 そして最初にドリンクを運んできた店主、豊饒の酒場を仕切るマッチョなドワーフの女性であるミア・グランドを見て、疑問は更に膨れ上がる。店主だと自己紹介を受けたタカヒロだが、彼の脳内では店主と言う2文字にボスというルビが振られている。

 持ち得る戦闘能力が、先の店員達の比ではないことは明らかだ。仕草からして本人達は隠しているつもりであるものの、彼の中では「ここはどこかの秘密結社か」と考えが斜め方向に飛躍していた。

 

 

「ですからベルさん、嫌な時は美味しいものを食べて元気を出しましょう!はい、ご注文のパスタとサラダですよ」

「はぁい……」

 

 

 なお、先ほどの盛大な溜息が出る前に料理を持ってきたこの店員だけは様々な意味で例外だ。タカヒロとベルが店へと訪れた際にシル・フローヴァと名乗った銀髪の女性ヒューマン。恐らくセミロング程度の長さであろう髪の毛を後頭部で団子にしており、戦闘能力に関してはレベル1以下の一般人。

 雰囲気としては見た目相応の可愛らしさがあるのだが、どうにも艶やかさがチラホラと見え隠れしているのが青年としての視点である。ベルに対するスキンシップは店員と客の度合いを超えており、普段から親しげな関係にあるのだろうと予想していた。

 

 もっとも、そんなスキンシップや“妙な視線”を向けられないならば、関係は店員と客で済む話だ。オラリオにおけるやや上級の酒場、タカヒロとベルが今晩訪れている酒場、“豊饒の女主人”とは、如何わしい店ではない。

 

 

「あ。ようこそご予約ですね、いらっしゃいませ!」

 

 

 ベルの肩に両手を置いていた彼女が、ふと店の入り口に顔を向ける。その瞬間には早歩きで入口へと向かっており、他の店員の半数も同様に向かっていた。

 そんな周囲の反応につられるかのように、タカヒロも視線を入り口に向ける。注文したボロネーゼとレタスが中心となったサラダのうち微妙に残っていた後者にフォークを刺しながら、“予約”らしい客を観察していた。

 

 シャキシャキと咀嚼しながら気配を殺しつつ、気づかれぬよう流し見る。どうやら少し時間より早くなったらしく、代表の一人が問題ないかどうかを聞きに来たようだ。結果として問題は無く、黒髪のヒューマンは外に居るであろう他の人物を呼びに戻っている。

 案の定、ゾロゾロと集団が入店してきた。先頭は……子供か?と思ってしまう程に背の小さい金髪の男、それに続いて髭を蓄えたガッチリとした身体のドワーフ。そして更には―――

 

 

「おや」

「っ!?」

 

 

 青年は、ゴクンと飲み込んだ直後。少年はパスタを口に入れる直前のタイミングで、それぞれ緑髪の女性エルフと金髪の女性剣士が目に留まる。玲瓏ながらも凛とした声と細々としながらも可憐な声は、それぞれ男二人の耳に残っている。

 集団の中においても一際目立つその容姿は美女揃いであるロキ・ファミリアにおいても頭一つ抜き出ており、街を歩けば殆どの男が振り返る程だ。なお、何故だか少年は反射的に頭を下げて、カウンター席と厨房の間にある仕切りに姿を隠してしまっている。

 

 

「うっほ、えらい上玉のご一行やなー」

「バカ、お前あのマークが見えねぇのか!?」

「あ?げっ、ロ、ロキ・ファミリアじゃねぇか!」

 

 

 後ろのテーブルからそんな会話が聞こえてきており、青年の耳につく。なるほど、あの嘘つきエルフはロキ・ファミリアの所属なのだなと彼女に関する情報を得ていた。

 もっとも、だからと言って話を蒸し返して何かを起こすつもりは彼にはない。単純に、見知った人物に関する情報の1つを得た程度の感覚だ。

 

 一方で少年の食事が進んでいないことに気づき横を見ると、タカヒロが助けたうちの一人である金髪の彼女を見つめるクリっとした赤瞳は、憧れと惚れを抱いている。とはいえわざわざ口にするものではないために、タカヒロは正面に向き直って果実ベースの軽い酒に口を付けた。

 やがて少年も、正面へと向き直る。何かふっきれたところがあるのか、残っていた少量のパスタをガツガツと口に放り込んでいた。

 

 

「よっしゃ、ダンジョン遠征ご苦労さん!今日は宴や、飲めぇ!」

 

 

 どうやら集団は、遠征帰りの打ち上げの様子である。次々と運ばれてくる料理に目を奪われるベルだが、その視線の最後には必ず人形のような彼女の姿があったことに気づいているのはタカヒロぐらいである。

 そんな彼も、ベルほどではないが店員を見定める流れで緑髪のエルフを流し見ていた。乾杯の音頭を取ったテーブルとは別のグループではないかと思えるぐらいに落ち着いた一角に居り、周囲に居るのもエルフだらけの様相を見せている。高貴なハイエルフである彼女を“雑種”の魔の手から守るために一丸となっていることを、タカヒロが知る由は無い。

 

 

「凄い料理の数々ですね。さすが、オラリオ第一を争うファミリアです」

「ああ、量も質もかなりのものだ。しかし自分も少し量が足りなかった、ベル君はどうかな?」

「じ、実は自分も少し……」

 

 

 少年は視線を落とし、人差し指をモジモジとさせる。頬は恥ずかしさから薄桃色を見せており、そのうち「えへへー」という照れ隠しの一言が聞こえてきそうである。

 君はどこの初心な少女だ?とツッコミを入れたいタカヒロだったが、ガラでもないために喉元で押さえつけた。そして微かな苦笑を返したのち、たまたま横に来た店員を捕まえる。

 

 

「店員さん、何かお勧めの……そうだな、スープのようなものはありますか?少し腹に溜まるとありがたいのですが」

「細切れのパンが入った、コーンをベースとしたものはどうでしょう?温かいですし食後にもピッタリです、おいしいですよ。適度な甘みもありますので、クラネルさんもお好きかと思います」

 

 

 説明からするにコーンポタージュの類だろうか、と彼は考える。来店した際シルに“リュー”と呼ばれていた薄緑髪の小綺麗な女性エルフの店員が、表面上の愛想こそ良くない仏頂面だが落ち着いた声でハキハキと返事をしていた。

 確かに、パスタを食した後に飲むものとして相性も悪くは無く、また、飲んでいた酒と喧嘩することもないだろう。

 

 タカヒロはベルに顔を向けると、彼も軽く頷く仕草を返している。彼女も少年の事を知っているようだが、関係のないことには触れないように返事をした。

 

 

「では、それを2つお願いします」

「かしこまりました」

 

 

 タカヒロも書物で学んだ程度だが、エルフの性癖はヒューマンと大きく違っている。あまり他人とは関わらず、触れることは余程に親身な者でなければ許さないというのが一般的なエルフの特徴と言って良いだろう。

 もちろん例外も居るとはいえ一般的なセオリーに沿うエルフ、“リュー・リオン”だが、ここは酒場である。彼女の容姿を目当てに無駄に話を引き延ばす輩も少なくは無いのだが、このような多少の質問を挟んだ上での注文ならば彼女としても気にならないようである。

 

 彼女は店員で、彼は客なのだ。軽く頭を下げ、注文を受けた彼女は厨房へと消えてゆく。やはりその歩き方に淀みは見られず、中々の腕前だとタカヒロは内心で評価していた。

 

 

 しかし状況は、突然と動くこととなる。




原作と少し時系列がズレており、本作では帰還当日の宴となっています。
ヒロイン風味のベル君に需要がありそうだったのでこっそり混ぜておきました。違和感がない不思議。
そして本来のヒロイン成分が足りない…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。