その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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110話 いざ尋常にと思いきや

 

 時は二日後の戦争遊戯(ウォーゲーム)当日で、場所はオラリオの外にある、とある地区の小さな平屋。朝一の時間帯で、ヘスティアが最後のステイタス更新を行っていた。

 たった二人であるために、さほど時間はかからない。“リング・オブ スチール”なる攻撃スキルが発現しているが、「まーた何かスキルがついてる」程度の考えでスルーした。彼女も成長しているのである。

 

 ほんの僅かながらもステイタスが上昇したベルに加えて、この日はタカヒロも3か月ぶりにステイタスを更新した。

 

 なお、アビリティ面は耐久を除いて微塵も変わらず。相変わらずの“ぶっ壊れ”具合に、ヘスティアとしては溜息しか生まれない。

 もっとも、此度において重要なのはスキルの方であると言って良いだろう。ニヤニヤとした表情を浮かべながら、ヘスティアはタカヒロを煽るように言葉を発した。

 

 

「ターカヒロくーん、やるじゃーないかぁ~」

「ん?」

 

 

 なんのことだ、と疑問符を発しながら上着を着る青年だが、相変わらずヘスティアはニヤニヤ顔を止めるつもりは無いようだ。それでいてどこかうれしさを覗かせながら、ステイタスを羊皮紙に書き写している。

 ちなみにタカヒロが疑問に思う理由として、体格の数値を1上げた分以外のステイタスが上昇しないことは知っているためだ。故に今更ステイタスを更新したところで、大きな変化はないと捉えている。

 

 真相としては、ヘスティア曰く「スキルが発現している」との内容だ。これは他ならないヘスティアが与えた恩恵によるものであり、既存の3つのスキルにも通じるものがある。

 ともあれ、一体どのようなスキルなのか。ヘスティアが書き示した羊皮紙を受け取ったタカヒロは、その内容に目を通す。

 

 

 【愛念献身(Alta Amoris・Dedication)(アルタ・アモリス)

 :情を捧げる相手、リヴェリア・リヨス・アールヴのための戦闘の際にクリティカル率+20%。共闘の際に効果向上。

 

 

 フッと鼻で笑い目を閉じて、かつてない程に穏やかな表情を浮かべている。こっちもこっちで思いの丈はカンストである為に現れておらず、効果が上昇する条件までもが全く同じと言う代物だ。

 己の相手にも同じモノが発現しているために、青年としても、このスキルは恋愛面・戦闘面の両方において非常に嬉しい程。新たな強さを得たタカヒロの珍しい緩やかな表情につれられ、ヘスティアの表情も柔らかなものへと変わっている。

 

 一方で、てっきりタカヒロがスキルを見て慌てふためくかとも思っていたヘスティアだが、予想外の格好だ。久方ぶりに「攻撃」できるかと思ったが、肩透かしの状況と言って良いだろう。

 同時に、不安も顔を覗かせていたのだ。これ程の情、そしてロキから聞いた、59階層における戦闘で見せた覚悟を抱くならば――――

 

――――何を考えているんだいボクは。今は、ベル君を応援することが最優先だ。

 

 内心でそう思い、微かに顔を左右に振るう。己では何もできないヘスティアだが、今はともかく、眼前の戦いを処理することが優先だ。それを示すかのように、タカヒロは先に立ち上がる。

 扉の向こうに居たベルも準備を整えており、二人はヘスティアと別れて会場へと歩いていく。チラリと後ろを振り返ったヘスティアだが、微塵も怖がる様子を見せていない二人の背中を目にし、ふっと口元を緩めるのであった。

 

 

 一方、バトルフィールドへと移動中の師弟コンビ。直前に対面したギルド職員から飛び込んできた情報は、多少は予想外のものだったらしい。

 それでも表情を崩さない二人に対し、ギルド職員は疑問を抱く。もしも彼がヘスティア・ファミリアだったならば、ひどく顔を歪めていたことだろう。

 

 ただでさえ絶望的な状況だというのに微塵の焦りも見せない二人を、待機地点へと案内するのが彼の仕事だ。一本道であるために不要と言えば不要ながらも、仕事であることに変わりはない。

 サボりたいが、サボるわけにもいかないのが実情だ。後ろから聞こえてきてしまった会話は聞かなかったことにしようと、己が行った賭け事を忘れるかのように速足にて先へ先へと歩いている。

 

 

「アポロン・ファミリアとソーマ・ファミリアの連合軍、ですか。どちらも人数が多いですから、長引きそうですね」

「多数を相手にした鍛錬には丁度いいじゃないか、効率の良い立ち回りが求められるぞ」

「そうです……あれ?そうなると、リリも敵に居るってことですか?」

 

 

 足を止めて二人で顔を合わせ、「そうなるな」という結論に達している。攻撃してくるかどうかは分からないが、ファミリアのメンバーである以上は居ることは間違いないだろう。

 二人して、そんな答えに辿り着く。直後、瞳に力を入れたタカヒロは、その点に対する言葉を発した。

 

 

「どうやら自分が仕留めるべき獲物が居たようだ。ベル君、そちらは手出し無用に願いたい」

「ホントに手を出すわけじゃないでしょうけれど、なんでそんなに()る気に満ち溢れてるんですか」

「本能と言ったところだ」

「物騒な本能ですね……」

 

 

 やたらと殺意の高い傍観者と、染まりつつある弟子の心境はさておくとして。青年が着ている鎧は、普段見るものとは違っていた。

 

 

「ところで師匠、なんでヴェルフさんの鎧を着ているのですか?」

「ん。まぁ、ちょっとワケありでね」

 

 

 ベルの言う通り、タカヒロはヴェルフの鎧に身を包んでいる。フルアーマーの試作品らしく、上半身と下半身、そしてヘルムの3か所が装着されている状況だ。

 理由としてはヘファイストスが要因であり、ウダイオス討伐の際に鎧一式に見惚れていたことはタカヒロも覚えている。故に観客の目線が己に目線がいかずベルへと向くように、青年なりに配慮しているというわけだ。

 

 相変わらずヴェルフのモノとなると瞬時に見抜くベルながらも、タカヒロとしては、なかなかに着心地が良いらしい。どうせ使うことは無いだろうと気楽なもので、2枚の盾すら出していないという慢心である。

 それでも、万が一となれば瞬きよりも速く取り出し突撃を仕掛けることになるだろう。そのことが分かっているベルはあまり深くは追及せず、二人は会場の入り口へと辿り着いた。

 

 

 スピーカーのような装置から、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)におけるルールが説明されている。事前に聞いていた内容と間違いはなく、ベルは簡単なストレッチを行って身体を温めていた。

 しかし、その行動も途中まで。数が多い相手方の入場を待っている時、そこにある硝子という名のモニタ越しに、奇妙な集団を目にすることとなる。

 

 

「フレー!フレー!ベ・ル・クラネル!」

「がんばれ、がんばれ、ベ・ル・クラネル!」

 

 

 全員が、ボタンを全て外した俗に言う“学ラン”姿に長いハチマキ白手袋、そして50階層で見た応援用の大きな旗が複数枚。なんだか別世界から来たようなノリの不思議な集団が、しかし確かに画面の向こうに存在した。

 これまた俗に言うチアガール的な、華々しさはどこにもない。人によっては魅力的な光景に映るかもしれないが、少なくとも大多数の者にとっては暑苦しいだけだろう。

 

 あるのはただ、ムキムキの筋肉。ひたすらな筋肉。どこまでも筋肉。

 ゴツい・細マッチョなどの“種別”こそ、眷属によって様々ながらも。野太い声と共に目に入ってしまうだけに、見ているだけで非常に暑苦しい集団である。

 

 またの名を、“フレイヤ・ファミリア”。記憶が正しければレベル8とか6とかの第一級冒険者達だったよなー、と思う外野ながらも、文句を言って喧嘩を売られては勝ち目がないために、オラリオの全員が総スルーしているのは仕方のない事だろう。

 ちなみに、一部の女性は黄色い声を飛ばしているが仕方のない事だ。集団はフレイヤ一筋であるために見向きもしないものの、フレイヤ・ファミリアの冒険者とは、常に人気者なのである。

 

 

 事の発端としては、数日前に遡る。

 

 そもそもが、やはり主神からの指示が無謀だった。他ならぬフレイヤが全員を集めて口にした「ベル・クラネルの応援団をやるわよ」という一言は、フレイヤ・ファミリアに属する者に盛大な疑問符と破綻した顔を作らせている。

 しかし、その冒険者たちは単純だ。直後に口に出された「頑張ったご褒美は期待してね?」という艶やかな表情と一言で、一行の戦意はジェットコースターの序盤の如く急上昇。その天辺に辿り着き、低下する気配を見せていない。

 

 そこからは、まさに迅速と言って良いだろう。何名か居る女性メンバーが採寸と衣類の作成を行っており、着衣の準備は10日ほどで完了したらしい。

 一方の男メンバーは、必死になって応援団の練習に明け暮れていたようだ。本番で声を出すために最後の二日間は振付のみの練習など、用意周到にもほどがある。

 

 

「常、勝!常、勝!ベ・ル・クラネル!」

「フレー!フレー!ベ・ル・クラネル!」

 

 

 その結果生まれたのが、この筋肉筋肉な応援団というわけだ。映像越しの風景は、相変わらずむさ苦しい。どうにかできないかと配信者が考え、とある光景を目にしてカメラを向けた。

 すると軽そうな小さな旗を持って目をキラキラさせ、少女のように旗を振って応援するフレイヤが映し出されて艶やかな癒しの空間へと早変わり。配信者は面白がって映しており、フレイヤと近い仲にあるロキは腹を抱えて大爆笑している最中だ。

 

 

「し、師匠、な、なんですかアレは……」

「随分と暑苦しい応援団なことだ、目立つことこの上ない。気にしすぎて、集中力を鈍らせるなよ」

 

 

 そして、その映像は会場入り口のモニタにも映し出されている。何が起こったのかと困惑するベルだが、タカヒロは相変わらずの平常運転。

 この期に及んで、士気を乱すことも無いだろう。見なかったことにすれば良いと最も適切なアドバイスを授けており、表情を戻したベルと共に、二人はフィールドへと足を踏み入れる。

 

 起伏にとんだ丘、崩れ去った古城跡。どうやら、何回か前の戦争遊戯(ウォーゲーム)における会場の跡地らしい。

 基本的な遮蔽物は瓦礫のみながらも、高いところでは数メートルが積み重なっているために十分に使うことができる。城の内部での戦闘も含めれば、様々なバトルフィールドがあると言えるだろう。

 

 

 そしていよいよ、ヘスティア・ファミリアの入場となったようだ。視界を妨げていた扉が開かれ、フィールドを見渡したベルは少し前へと歩いていく。

 モニターに映し出される背中に怯えや迷いの感情は一切なく、まさに威風堂々。フィールドを見渡しており、戦うべき場所を見極めている。

 

 

 そして、もう一方。此度は傍観者であるタカヒロは、そのまま少し横にある壁へと歩いて行き――――

 

 

「おい“副団長”。あの野郎、寄りかかっちまったぞ」

「まったく……」

「はは。最初から全く戦う気がないね、彼は」

「まずはリトル・ルーキーのお手並み拝見、と言った所じゃのう」

「ベル、頑張って……!」

 

 

 黄昏の館、食堂。最大派閥権限で超大型モニターを確保していたロキを筆頭に、幹部クラスからレベル1の駆け出しまでの全員が食堂に集っている。開催直前ということでヒートアップしており、まるでスポーツバーのような状況だ。

 真剣に見据える者、酒とツマミでハイテンションになる者など様々なれど、それでも全員がヘスティア・ファミリアを応援していることに変わりはない。応援団フレイヤ・ファミリアに習って飲酒組の間で応援歌が歌われているなど、思い思いの様相だ。

 

 

 現地で壁に寄りかかったタカヒロが左側を少し見上げると、会場の外となる塔のようなところに、小さいながらもヘスティアの姿を確認できた。事前の説明通りであり、目に見えないバリア的なものが貼られているらしい。

 参加しているファミリアの主神は、そこから全体を見ることになる。塔の内部にはモニターもあるために肉眼で見るかどうかは各々の趣味となるが、それでも、タカヒロが口にする一つの事実は変わらない。

 

 

「さぁ、その高みから目にしろヘスティア。君が路地裏で出会い恩恵を与えた漢が如何程か、()をもって知る時だ」

 

 

 言葉の数秒後、開始を告げるブザーらしき音が鳴り響く。史上類を見ない程に圧倒的な人数差による戦争遊戯(ウォーゲーム)が、今ここに幕を開けた。

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