「神様、頭痛は大丈夫ですか?」
「うー、少し残ったかも……でも、今日は我慢しなくちゃいけないんだぜベル君!」
「はい、なんたって今日は――――」
数日前に行われた
同時に、
主犯であるアポロン・ファミリアについては、ベルの怒りも相まってソコソコ容赦がない内容となっている。ベルがランクアップの申請を行った際に周囲の冒険者から聞かされた内容をヘスティアに伝え、そこからすぐさまロキに伝わって
結果についていえば、“常識”と比べれば真っ黒であった。オラリオにおけるアポロンの過去の行いが酷すぎることと天界時代の求婚騒動による恨みもあって容赦がない善神ヘスティアは、以下の決定を下している。
・ファミリアの解散
・主神アポロンのオラリオ外への追放
・現在所持している資産の没収
・フレイヤとロキが言いたいことがあるらしいので聞いてからオラリオを出ること
一方で、守銭奴である団長の暴走により突発的な参加となったソーマ・ファミリアについては処罰が非常に緩くなっており、
・ギルド監視下における構成員の素行の管理
・団長のファミリア追放
・希望する団員の無条件の
・改善が見られない場合は追加の制裁
この程度の内容だ。その他については特に賠償請求もなく、異例となった
なお、アポロン・ファミリアに対してはヘスティアが。ソーマ・ファミリアに対する賠償はタカヒロが発案したものだ。後者から毟り取るとなるとリリルカ・アーデに対して恨みを持つ者が生まれる可能性があるために、大規模な復讐を防ぐ形で後者は軽度な内容に落ち着いている。
ともあれ一連の戦いはベル・クラネルが行ったために、タカヒロは「ベル君が納得するならば」とアポロン・ファミリアへの処罰は口出しをしていない。正直なところ“殺したら何かドロップするかな”という本音が心の底から沸き起こっていたが、最後の最後で水を差すわけにもいかないのが実情だ。アレは水ではなかったらしい。
ちなみに、これらの執行には3日間の猶予が与えられている。処罰は全体的な処罰の温さも含めて承認している点は、ヘスティアが善神と言われる所以だろう。
一方で、以前にソーマ・ファミリアがやらかしたロキ・ファミリアへの問題が解決していないが、そちらはロキが話を進めるらしい。噂によるとさっそく交渉のテーブルに酒が並んでいるらしいが、ヘスティア・ファミリアには関係のない事だ。
黄昏の館からやってきたタカヒロも合流したヘスティア・ファミリアは、ソーマ・ファミリアのホームへと辿り着いた。ヘスティアが、ソーマ・ファミリアにてリリルカが
暫くして作業も終わったようで、ヘスティアとリリルカ、ソーマの3人が揃って部屋から出て歩みを進めている。無言で歩き続けるようなことは無く、ヘスティアがソーマに向かって言葉を発していた。
「ソーマ……君は何で、そんなに子供たちを軽視するんだい」
「……酒に溺れる子供の言葉など、雑音でしかない。だが君の所の子供は、良い音色を奏でていた。非常に興味がある」
当たり前だよ。と口にして胸を張るヘスティアだが、その二人の眷属の表情は険しいままだ。リラックスとは程遠く、ベルに至ってはいつでも飛び掛かれる気配を隠しきれていない。
そんなベルを横目見ながら通り抜けたソーマは一人部屋の奥へと進み、2つのグラスと1つの容器を取り出し持ってきた。トクトクという音と共に注がれる透明な液体は、今までに見たことのない代物と言えるだろう。
「これが
あくまで考えの基準は、趣味であり己の生きがいとなる
とはいえソーマ・ファミリアにおける眷属達は、この酒に魅了されたかの如く溺れている点も事実である。故にリリルカは、声高に反対の意見を叫んでいた。
「いけませんベル様、タカヒロ様!神酒というのは強力な魅了作用が」
「大丈夫だ。一口程度なら、1時間も経てば効果は無くなる」
飲んでみろと口にして、ソーマは二つのグラスをタカヒロとベルに手渡した。一口ならばと言う割にソコソコの量が注がれている点は、相手を試している点もある。
透き通る美しさは一種の芸術品の様相であり、目と香りだけで楽しむことができる程。アルコールに対する強弱はさておくとして、酒が苦手な者だとしても、恐らくは容易く飲むことができるだろう。
となれば、残りは口で楽しめるかどうか、そして飲んだ反応が如何なるものか。緊張した面持ちで見つめるヘスティアは二人の芯の強さを知っているが、それでも不安は不安である。
最悪はそこの“ぶっ壊れ”が何とかしてくれるだろうと心の中で問題を押し付けるヘスティアの前で、かつての師弟コンビが口を付けた結果としては――――
――――リリの説明通りなら魅了だけれど……こんな酒で、僕の焦がれは乱せない。
――――癖もなく、飲みやすくて好みだが……装備ではないし、装備の作成にも使えない。
「なっ……!?」
驚きの表情を見せるソーマ、どうやら二人には全く効かなかったようである。あろうことかタカヒロは数秒のうちに全部を飲んでしまって、なお仏頂面の平常運転を見せているのだから周囲の驚きは
僅かな影響すらも受けていない二人の姿に目を見開くソーマは、子供たちへの考えを改めることとなり。今後のソーマ・ファミリアの状況は、徐々に改善していくこととなるのであった。
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ともあれ現在は、まずは賞金の受領から。冒険者ギルドの本部へと赴くベルとヘスティアは道中も周囲の冒険者達から常に称賛の言葉をかけられている状態であり、ヘスティアは少し踏ん反り返って鼻高々。なお、頭を撫でられるなど子ども扱いされているのはご愛敬だ。
一方のベルは愛想よく微笑んで礼を述べている程度ながら、それが何名かの女性の心に届いてしまっているのもご愛敬。どう見ても先の
そんなこんなで目的地に到着すると、やっぱりエイナから「コラッ」と少しだけ怒られる。無茶をするなという彼女の心配は感じ取れるベルながらも、こんなやり取りを続けてくれるのは、初心に帰ったような気持になって心が落ち着くというものだ。
そして別室に案内され、賞金の授与となる。どっさり、ミッチリ袋に詰められた金貨の山は、見た目も金額も凄まじい。
「さ、3000万ヴァリスって、重いですね……」
「た、大金だよベル君!」
目がドルマークになっているヘスティアはさておき、半額ちょっとの物量を見たことがあるベルとしては、そこまでビックリする程のものでもなかったようだ。なんでそんなに落ち着いているのかとエイナが尋ねるも、苦笑する他に道がない。
このお金は一旦ギルドが預かり、続いてアポロン・ファミリアのホームだった場所へと赴く。やがて目的の建物が見えてきて、案内をしていたギルドの職員は簡潔に概要を紹介した。
パッと見の感想は、三階建ての立派な洋風のお屋敷。階層こそ3つながらも横方向の広さはかなりのものがあり、職員が口にした設備があるならば、30-40人程でも問題なく暮らすことができるだろう。
館を囲う高い柵、手入れが行き届いた庭の草木。いつ崩れるか分からなかったかつての廃教会とは、随分と対極を成している。もちろんこちらにも地下室があるが、そこだけでも雲泥だ。
しかしこれらの称賛も、入り口にあった石像で消え去ることとなった。そして嫌な予感を抱きつつも中に入ると、その予感は的中することとなる。
「こ、これはキモいぜ……」
「うーわー趣味悪いですねー……」
大天使ベル君ですらドン引きする程の、アポロン要素。そこかしこに肖像画や石像が乱立して存在を主張しており、美的意識の欠片もない惨状だ。
装飾1つに至ってもアポロンの顔がある程の、気合の入れよう。逆に、それが付いていないモノを探す方が難しいだろう。撤去費用となれば、馬鹿にならない金額のはずだ。
元々アポロンが住んでいた場所というだけでもヘスティアにとっては吐き気を催す邪悪であり、故に二人だけながらも満場一致でこの館も売却が確定となる。翌日、タカヒロが知っている不動産を経由して、無事に1000万ヴァリスでの売却と相成った。
大きさと厳格の割に随分と安いが、原因が先のアポロン要素にあるのは言うまでもないだろう。その他に残っていた資産についてもサクサクっと処理したところ、こちらも1000万ヴァリス程となっている。ロキ・ファミリアから連絡があって酒類がまとめて買い取られたが、その点は想定の範囲内だ。
ということで。現在のヘスティア・ファミリアには、3000万ヴァリス、アポロンから生まれた2000万ヴァリス、そしてリリルカ分の1000万ヴァリスと含めて6000万ヴァリスもの大金が存在しているのだ。
なお、もちろんタンス預金。昼食を取りながら“気が気で夜も8時間しか眠れない”と主張するヘスティアに自然落下の空手チョップするタカヒロは、この廃教会をどうするか話を切り出した。
「うーん……とりあえず崩れそうで怖いので、上だけ綺麗にします?」
「一案だが、この際、もう建ててしまってもいいのではないか?リリルカ君が来るならば、既に部屋が足りんぞ」
10万ドルどころか数千万ヴァリスをポンと稼げるこの“ぶっ壊れ”、金にモノを言わせると中々に発言が軽い傾向がある。
幸いにも元教会というだけあって周囲も含めた敷地も広く、それこそアポロン・ファミリアと同規模の建物も建造可能。オラリオ最大手であるロキ・ファミリアのホームには何度か足を運んだことがあるために、どれほどの施設がどれほどの大きさで必要なのかは把握することができている。今は取得星座を戻しているそこの一般人が
生産ファミリア繋がりということでヘファイストスから紹介を受けていた建築系を行っているファミリアに、さっそくベルが図面結果を持って行ったところ。“運が良く”、ちょうど仕事が無く暇をしていたところらしい。
ベルの事は相手方も知っていたのと設計図面の精度が異常なほどに高かったこともあり、多少の手直し程度で着工と相成った。普通ならば時間がかかる作業でも、神の恩恵によって非常にスピーディー。此度は金にモノを言わせてアルバイトを雇っているため猶更だ。
既存の上物はわずか半日で撤去されており、基礎工事へと入っている手際の良さ。その間、ヘスティア・ファミリアは近所の借家で過ごすこととなっている。
なお、その間にも建物内部に使う素材などは要協議。そこはタカヒロの出番であり、相手方のファミリアと毎日のように協議を行っている。
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そして数日後、ヘスティア・ファミリアにとっては一世一代のイベントだ。
「た、確かに募集した日は今日だけどさ……」
「す、すごい人数ですよ神様……」
借家の前に集まる、人・人・人。性別・種族に関係なく様々な要員が集まっており、これら全員が、ヘスティア・ファミリアへの入団希望者というわけだ。
しかし、大きな問題が一つある。それは他ならない、ベルの現在のレベルにあった。
レベル4という数字はロキ・ファミリアを基準としては目立たないかもしれないが、れっきとした数少ない中級冒険者。もう少し言うならば、第一級冒険者の一歩手前。
故にベル・クラネルは、タカヒロの受け売りながらも、まず大衆に対してヘスティア・ファミリアの門を叩いてきた理由を問い、知らねばならないと考えている。レベルの違う己が常に一緒に居ることはできないと思っているからこそ、団員が持ち得る“考え”は重要だと思っていた。
ベルとヘスティアとしても、訪れた全員を受け入れるつもりは全くないのだ。初めてであるために厳格には行えないだろうが、まずは軽い面談で一次選考を行うべきだと判断して、質問内容などをタカヒロとも相談しつつ色々と準備を終えている。
翌日の面談日にもソコソコの長さの列が出来上がり、適当な場所で待ってもらいつつも確実に進めてゆく。ヘスティア・ファミリアの面接官は3名であり、尋ねる内容は様々だ。
何故、ヘスティア・ファミリアなのか。何を目的として戦うのか。仲間のために戦えるのか。各々が最も気にする点を真剣な眼差しで告げており、一次選考に通る者の大半は、緊迫した表情で受け答えをしている。
「それでは続きまして……ソーコーシャさんですね、宜しくお願いします」
「それじゃー早速、自己紹介をお願いするよ」
「拙者は、普段だれに対しても丁寧語や尊敬語で接して外見完璧だが、身内や友人にだけは砕けた口調で接し、そそっかしい内面が見え隠れする妙齢の女性大好き侍と申す」
「ヘスティア、この御仁は合格だ」
「待てい!?」
質問の内容が様々あるように、結果もまた様々だ。合格となる者、不合格に打ちひしがれる者、悪態をつく者など、それこそ多種多様の様相を見せている。
その中には、見知った顔もチラホラと混じっている。此度の
だからと言って、良くも悪くも差別はしない。大なり小なりヘスティア・ファミリアに興味を抱いてやってきているワケであり、ならば扱いは、他の者と何ら変わることはないのだ。
ここで問題のある者を迎えてしまっては、ヘスティア・ファミリアにとって良い結果など生まれない。故に全員が真剣に、時折息抜きをしながら、一次面接も終盤にこぎつけた。翌日は二次面接が行われることとなり、それも終盤へと差し掛かっている。
「サポーター、ですか。でしたら師匠、やはり50階層より下で……」
「ああ、24時間活動できる条件で募集している」
「ベル様、タカヒロ様!?リリの時だけ募集要件が厳しすぎませんか!?」
「ふ、普通です!」
「べ、ベル君が珍しく大嘘を言っているぜ……」
そんな面接も、彼女が相手となれば気軽なものだ。一次面接の段階で内定が出ているために、面接官側もおふざけモードで息抜きとなっているのは微笑ましい光景だろう。なお、大嘘である点がヘスティアに見抜かれているのはご愛敬だ。
蛇足だが、面接を受ける者のほぼ全てがタカヒロを目にして「こんな人いたっけ」との感想を抱いているものの、仕方のない事と言える。ヘスティア・ファミリアであることには違いは無く、大人びた様相と内容の質疑を向けられて背筋が伸びることとなっていた。
そして、面談の結果を三人で話し合い、合否の区切りもついたころ。
「神様。今更かもしれませんが、本当に僕が団長でいいのですか?」
少し前からベル・クラネルが気にしていた、重要な部分。師であるタカヒロが口にすることを聞く限り、どうやらタカヒロは副団長すらも務めるつもりはないらしい。なお、やる気がないわけではなくサポートなどが必要ならば務める言葉を残している。
もっともタカヒロ曰く、それについては超が付くほどの重要な理由があるらしい。何のことかが分からずアイズ宜しく首を傾げるベルに対し、ヘスティアも続けて疑問符を浮かべていた。
「自分が副団長になる点については構わないが……」
「問題があるのかい?」
「ギルドの規約を見る限りは、ギルドに登録されていることが条件に書かれて」
「ぜぇ――――っ対にやめてくれよ!?」
「では大人しくしていよう」
「……なるほど、分かりました」
そして、申請しやがった時の事を考えるだけでお腹の中がグツグツとなりかけるヘスティアであった。
そんなこんなで結局のところ合格となったのは、リリルカを除くとレベル1が18名とレベル2が6名の合計24名。もっとも今はホームが建築中であるために、借家をさらに借りて過ごしてもらうこととなる。本格的な活動は、ホームが完成してからだ。
狭いながらも、まずは全員が集まって各々の自己紹介を行っている。パルゥムもサポーターの一人が合格となっており、さっそくリリルカと気さくな仲となっていた。
意外にも24名の内3名が男1女2のエルフなのだが、セオリーと違って、基本的な応対程度ならば肌の触れ合いも許せるらしい。エルフらしく少し強い言い方ながらも、協調性はしっかりと備えている。
応対しているタカヒロがやけにエルフについて詳しかったために3人が質問をしていたところ、「実は良くしてくれているエルフが居る」的なことをタカヒロが話していたら、突然とリヴェリアが訪ねてきた上に惚気とは程遠いもののフレンドリーな対応を見せている。そのために3人揃ってカカシとなっており、思わぬ洗礼を受けた格好だ。
恩恵はその日のうちに刻んだのだが、嬉しい想定外として、リリルカがレベル2になれることが判明した。もちろん早速ランクアップを行っており、長年の夢の1つを果たせて涙を流す彼女を、周囲が早速祝福している和やかな空気となっている。
ステイタスとしては“器用”と“魔力”がDランクに達しており、偉業のトリガーは恐らくゴライアスの一件だろう。捻くれている約一名が「お祝いに“あそこ”へ行くか」と口にしたことで涙はすっかり止まっており表情は絶望へと変わっていたため、全員が困惑していたのはご愛敬である。
そんなこんなで、ヘスティア・ファミリアの成長は新たな一歩を迎えることとなる。新たな大勢の仲間たちと共に、ここから第二のスタートを迎えるのだ。
なお。
蛇足としては、平均レベル5のファミリアとなる。
>>拙者は、~
の一文は、2020年07月01日(水) 22:43に“紙★装甲車”様から頂きました感想の一文です。
使用許可は頂いております、ありがとうございます!
P.S.
年末年始は、かつてないほどのハードスケジュール……!
更新が遅くなりますが、ご了承くださいませ。