その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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前話の最後の原因


118話 恋する娘の悩み

 ベルとリヴェリアが、ファミリアのためにダンジョンの本を選んでいる頃。オラリオでは、もう一組の男女がカフェで時を過ごすこととなる。

 

 

 同じオラリオでも離れた距離にある西区で、一人の男が駆け足で急いでいた。目的地は西区にあるカフェであり、とある者から呼ばれて約束していた格好だ。

 

 予定時間を、既に5分程すぎている。予想外にも程がある足止めを食らった白髪の青年が口にする言い訳としては「どう頑張っても無視できなかった」という内容であり、不可抗力の類だったらしい。

 

 本当ならば複数の突進スキルを交互に遣って最速で駆け付けたいのだが、交通事故を引き起こすわけにもいかないので封印中。開口一番で発する謝罪の文言を考えながら、待ち合わせの場所へと移動していた。

 最後の角を曲がると、少し先にあったカフェらしき店舗が視界に入る。相手は既に店の中の個室へと入って席に着いているらしく、店員に案内されるタカヒロだが、美しいブロンドの髪が擦りガラス越しでも映えていた。

 

 

「すまないアイズ君。どうしても外せない用ができてしまって、遅れてしまった」

「ん……大丈夫、です。私も、今きたところ」

 

 

 扉を開けると、女の子を象徴するようなふわりとした甘い匂いが微かに漂う。謝罪の言葉を口にしながら席に着いたタカヒロは、相手に向かって軽く頭を下げた。

 デスペレートを帯剣こそしているが、服装はタカヒロも何度か見た清楚な感じが溢れる白を基調としたワンピース。こうしてみると本当に、年頃の娘にしか映らない。

 

 ちょっと無理がある嘘を口にするアイズだが、それも相手を思ってのこと。もちろん青年側からは何も言えず、借りを作ってしまった格好だ。

 そこから数秒程して店員がドアをノックして入室し、水・お絞りと共に注文を聞いている。二人して紅茶の類を注文すると、店員は愛想よく下がっていった。

 

 

「こっちこそ……タカヒロさんは、忙しいのに、ごめんなさい」

 

 

 そう言われる青年だが、なんとも言い返せない。鍛錬こそ絶やしていないものの別に忙しいと言うには程遠く、装備面で色々と新しい考えは浮かんでいるが、まとまりに欠けるために特に動いていないのが実情だ。

 ロキ・ファミリアからウラノス、フェルズを経由して来るのだろう闇派閥に関する情報もパッタリと止んでいるために、こちらも動くに動けない。近々会合を開いて闇派閥対策にタカヒロが動いていることをロキに報告するらしいが、その点はウラノスに任せておけば問題ないだろうと青年も気にしていない。

 

 一応、ダンジョンにおいて探索の活動は継続中だ。19階層は踏破してマップを全て埋めたが、隠しエリアらしき部分は見つかっていないのが現状である。

 現在はチマチマと20階層を調査しているのだが、こちらもまた同様だ。それどころか、食人花(ヴィオラス)も見かけない始末となっている。

 

 

 ともあれ、そんな問題もさておいて。今回はアイズが相談したいことがあるとのことで、こうして個室のある喫茶店へと訪れた格好だ。

 

 最初は他愛もない話を少しだけ続けるも、あまり気分が乗っていないようにタカヒロは受け取っていた。なお、全くの第三者が目にしたならば「変わらない」と回答してしまう程度の変化である。

 そう思っているうちに、やがてドリンクが運ばれてくる。店員が退出したタイミングでアイズが一度口を付け、ティーカップに目を向けつつ、重たそうな口をゆっくりと開いた。

 

 

「タカヒロさんは……私の過去、リヴェリアから、聞きました?」

「ロキ・ファミリアへと入団した頃の話だろうか?」

「もっと、前」

「その頃となると……過去に両親を亡くした程度のことは聞いているが、深くは知らない。その程度だ」

 

 

 細く繊細な白い手が、ぎゅっと強く握られて拳となる。やはり目線を下げつつ、アイズは続けて口を開いた。

 同時にタカヒロは、今から口に出されることが相談内容なのだと察知する。リヴェリア程ではないが“アイズ語”は理解しているつもりであり、言葉の駆け引きが得意ではない彼女ならば、いきなり本題が来てもおかしくないと読み取っていた。

 

 

「私の、両親は……モンスターに、殺されたんです」

 

 

 それが、彼女がダンジョンに潜る最も大きな理由の一つ。己の両親の命を奪ったモンスターへと復讐するために、母の下へと辿り着くために強くなる。

 アイズにとっての全てであり、絶対に譲れない大きな意思。自分の身体や命など二の次に、とにかく強くなるためにダンジョンへと入り浸っていた七年間。

 

 けれども。復讐を目指す過程で黒く染まってしまった、己の心にも気づいていた。かつての鍛錬で、少年には、そうなって欲しくないと切に願ったこともあった。

 染まってしまった一角。黒く染まった炎(孤独)から己を救ってくれたベル・クラネル(自分の英雄)。一人ではないことを教えてくれた、掛け替えのない存在。

 

 

 そんな少年の姿は、一言で言うならば眩しかった。死に物狂いで鍛錬に打ち込む凛々しい姿もまた美しいが、オラリオの街中でこそ、アイズが好きなベル・クラネルの姿が一層輝く。

 

 街中で迷子となり泣いている子供を見つけ、どうしたらいいのかとアイズが内心で狼狽えている時。真っ先に駆け出して駆け寄って、穏やかな顔で「大丈夫」と声を掛け続け子をあやすその姿。

 向かう先で老人が重そうな荷物に苦戦していれば、アイズに一言断りを入れて率先して代わりに持ってあげる、その姿。見ず知らずの他人から感謝されたことなど、ベルと一緒に過ごした僅かな期間だけでも二桁の回数に達している。

 

 

 他にも、例を挙げればきりがない。横に居てくれるそんな相手に対して、アイズは自分という存在と比べてしまっていた。

 まるで、自分とは大違いだと。比べれば比べる程に差が見えてしまい、その差を知る程に不安になり。悩み、苦しみ、誰にも打ち明けることが出来なかった。

 

 

「復讐に燃える、私の心は……強くなるために戦いを求めて、戦うことが出来る事に安心する、私の心は……。モンスターと、変わらないんじゃないかって……」

 

 

 片や純粋な優しさを抱き、それを誰に対しても示すことが出来る真っ直ぐな少年。

 

 片やモンスターへの復讐を抱くばかりで、女らしいことが出来ない不器用な少女。

 

 

 今まで独りだった時をベル・クラネルと過ごすうちに、アイズの中で、ベルと己はこのように相反する位置づけとなってしまった。モンスターは必ず殺すと己の心に誓っていただけに、生まれ出る醜悪さが分かりやすく露呈してしまっている。

 故に、そんな純粋で清らかな彼の横に自分などが居ていいのかと不安の心が生まれている。これらのことを口にして、アイズは最後にこう締めくくった。

 

 

「私は……ベルの隣に立つ資格が、あるのかな」

 

 

 長い睫毛を伏せ、消え入りそうな声で心からの不安を口にする。その仕草が59階層のリヴェリアと重なり、青年は眉に力を入れた。

 

 きっとベルに相談しても、優しい彼は全面的に否定して己の手を取ってくれる事だろう。

 リヴェリアに相談しても、今までのように、母親らしい励ましの言葉を掛けてくれることだろう。

 

 だが、しかし。今の彼女が欲しているのは、優しい手や励ましの声ではなく、答えの類。少し前に黄昏の館でリヴェリアが話してくれた、北の城壁において目の前の青年が口にしたらしい「間違っていなかった」という一つの答え。

 肯定・否定はさておき、今のアイズも、そんな“明確な答え”を求めている。そして付き合いこそ短いが相手を全面的に信用しているからこそ、アイズはタカヒロへと悩みを打ち明ける覚悟を抱き相談を持ち掛けたのだ。

 

 

 悩みを聞いたタカヒロは腕を組み、中々に難しい問いに対して回答を決めかねている。特に言い出しを決めかねているのだが、それも仕方のない事だろう。

 なんせ、色々とデリケートな内容だ。そこで彼は問題を分割し、一つ一つを解決しようと考えを巡らせる。

 

 相手という存在が欲しいのに方法が分からない、不器用な彼女アイズ・ヴァレンシュタインが抱いている最終的な不安は、ベルと共に歩めるかという只一点。しかしその根底には、彼女が抱くモンスターに対する負の感情が隠れている。

 だからこそ、タカヒロはまずそこを明確にする。建前ではなく、彼自身とて明確に抱いている一つの意見を述べるのだ。

 

 

 「紙一重(かみひとえ)、という言葉を知っているか?」

 

 

 淡々とした表情は変わらず、問い掛けるようにして口を開く。

 

 紙一枚の厚さ程しかない、ごくわずかな隔たりを指す三文字の言葉。偶然にも知っていたアイズは伏せられた睫毛をそのままに、コクリと可愛らしく静かに頷く。

 しかし同時に、次に出てくる言葉がアイズ自身の考えを肯定するものだとも察していた。望んでいない答えとはいえ、それが信頼できる者からの答えならばと、受け入れる心の準備を行っている。

 

 

「確かにその一点を見れば、君とモンスターは紙一重と表現できる。どちらも共に、積極的に戦いを求める者と言えるだろう」

 

 

 予想通りの回答に、ぎゅっと口を強く噤む。テーブルの下で両手を強く握りしめ、やっぱり自分は釣り合わないのだという答えに達しかけた。

 しかし、その前に再び声が耳へと届くことになる。アイズが抱く思考を断ち切るかのように、タカヒロは再び言葉を発した。

 

 

「紙一重。自分は、この言葉の裏にもう一つの意味があると思っている。その紙一枚を超えるか超えないかは、決定的に違うんだ」

 

 

 伏せられた睫毛と、顔が上がる。開かれた金色(こんじき)の瞳が無意識に、優しく、それでいて力強く向けられている相手の瞳を離さず捉える。

 

 

「その一枚の紙とは、“戦う理由”。君の場合は、両親の命を奪ったモンスターに復讐するため、モンスターから仲間を守る為に強くなる、と言った内容だろう。ともあれ、君とモンスターとを比べた時、この紙一枚を抱いているかどうかという、大きく明確な違いがある」

 

 

――――故に、君とモンスターの心は全くの別物だ。

 

 それが、アイズ以上に戦いの中に身を置いていた、タカヒロという男が出した答え。もしもアイズが悦楽にモンスターを殺しているならば話は変わるが、それがないことはタカヒロも知っている。

 そして、これで終わりではない。驚きの表情を崩さないアイズに対し、続けざまに口を開く。

 

 

「そして復讐とは、知性ある生き物が抱く真っ当な感情だ。それを達することで心に一つの区切りを付けてから、先へと進むことができる」

 

 

――――故に“復讐”と呼ばれる行為は、基本として咎められることではない。

 

 それが、タカヒロという男が持つ概念だ。そもそもにおいて、復讐を決意させるようなことをする輩が悪いというのが持論である。

 もっとも思い違いならば論外である上に、復讐を成し遂げて「相手が違っていました」では済まされない内容だ。故に事実確認はしっかりと行う必要があり、万が一に違っていた場合は責任を取る覚悟を抱いたうえでの容認であることを付け加えている。

 

 そんな言葉を口にした本人は、イセリアルやらクトーン、カドモスあたりに復讐されてもおかしくはない。モンスターが復讐の心を抱くかどうかは分からないが、カドモスからタカヒロへの敵対度合いはストップ高に匹敵している。

 とはいえ、先の3者の中で、青年に対して攻撃できる大義名分を持っているのはカドモスぐらいのものだろう。先に攻めてきたイセリアルとクトーンに対しては、逆にタカヒロ側が大義名分を手にしているのは明白だ。

 

 

 復讐という、黒く染まった卑劣な行為。てっきり否定されるかと思っていたアイズは顔を上げ、先ほどからポカンとした表情を浮かべて耳にした回答の数々に驚いている。

 目にする先には、据わった男の表情と真っ直ぐ己を見つめる漆黒の瞳。先の言葉と相まって、アイズは口にされる言葉の続きを期待してしまう。

 

 

「具体的に言えば……ロキにセクハラをされたら、死なない程度に殴り返すだろ?」

「あっ……」

「それだって立派な復讐の一つだが、大義名分はアイズ君にある。真っ当な理由と真実が同じならば、決して悪しきことではない」

 

 

 張り詰めた空気は、どうやらここまでらしい。茶化された比喩を耳にして、アイズは思わずクスッと笑みを浮かべている。そう言われてしまうと何だかスッキリするのだから不思議なものだ。

 同時に、心からホッとした安堵の心に包まれる。決して正解はないものの、答えの一つを授かった少女の顔から緊張という怯えた糸は完全に取れていた。なお、ロキに対する扱いは自業自得の為に論争の外とする。

 

 ともあれ、“ならば己は、清らかなベルの横に居て良いのだろうか。”アイズが最終的に行きつく地点は結局のところそこであり、先の会話の流れから、肯定の言葉を期待してタカヒロを見つめている。

 

 

「話を戻そう。君がベル君の隣に居て良いかという点については、自分が答えることはできない。共に歩む者を決めるのは、他ならないベル君だ」

 

 

 しかし口に出されたのは、安心できるとは程遠い内容だ。期待に胸膨らませていた少女の顔は消え去り、ベル・クラネルと出会う前のアイズ(剣姫)が顔をのぞかせる。

 彼女は、突然と突き放されたような感覚に襲われていた。肯定でも否定でもない言葉を耳にして、反論の言葉も、問いの言葉も思いつかない。

 

 

「居てはいけない、と言っているワケじゃない。あくまでも、選択肢がベル君にあるというだけだ」

「で、でも、ベルは、私と一緒に……」

「今はそうだが、これからはどうだろうか。風の噂だがベル君は、オラリオの女性には結構な人気者らしいぞ?」

「っ……!」

 

 

 正直なところ、聞きたくなかった。そう思い顔を背けるアイズだが、それではいけないと、唇に力を入れて前を向く。

 己の黒い部分と同じで、都合の悪いところ見たくなかっただけだ。今の距離に甘えているだけではあの輝きを手に入れるには届かないと、向き合うことを決意する。

 

 ならば、どうすれば。答えを求めて瞳に力を入れ、彼女は相手の瞳を見据えた。

 

 

「そうだな……自分から出せる提案は、二つある」

「二つ?」

「まず一つ。大前提として、相手のベル君が、君と共に居たいと思えることが重要だ」

 

 

 正直なところ既にベタ惚れなベルであるために心配はいらないと思っているタカヒロだが、絶対という事がないのが恋というものだ。ゆえに青年もまた、様々な手を用いてリヴェリアの気を引いているところがある。

 幸いにも、男10人に聞けば10人が魅力的と回答するぐらいの容姿を持つのがアイズ・ヴァレンシュタインだ。少し考えや感情が薄いところは確かにあるが、それもまた人によっては、手段によっては立派な武器となるだろう。

 

 

「でも……私には、魅力なんて……」

「……」

 

 

 全世界の女性が耳にしたならば、9割5分ぐらいに喧嘩を売りそうなセリフである。

 それはともかく、タカヒロにとっては非常に返答が難しい状況だ。一歩間違えればセクハラ一直線、故に“男側(ベル側)”に責任を押し付けたうえで、文言は慎重に選ぶ必要がある。

 

 

「確かに表情が薄いところはあるが、自分やリヴェリア、特にベル君の前では、ちゃんと笑ったり悲しんだりしてるだろ?」

「……うん。ベルと居ると、楽しい」

 

 

 再び咲きかける、花の笑顔。やはりベルの話題となると、自然と彼女の表情に笑みが浮かぶ。

 

 

「それでいいさ、男なんてのは単純だ。相手が自分にしか見せない喜怒哀楽の表情があるだけで、特に初心な奴は、簡単に惚れてしまうぐらいに単純なのだよ」

「……えっ?」

 

 

 流石に単純すぎない?と首を傾げながら思うアイズだが、残念ながら現実である。ある程度の耐性があれば話は別であり、これは恋する初心な女性(どこぞのlol-elf)にも当てはまる内容だろう。

 ともあれ、アイズ・ヴァレンシュタインが持ち得る一つの武器であることに変わりは無い。アイズが見せる表情変化にベルが目を奪われていることは知っているタカヒロだが、その点までを口にすることはなかった。

 

 

「あとは……そうだな。思い切って、甘えてみたらどうだろうか?」

「あっ、甘、え……!?」

「ベル君は甘えられる事に慣れていない、もう少し言うなら“攻めに弱い”。今まで何度か見せていたが、甘えを見せるのが最も効果的と言えるだろう」

「でも……恥ず、かしい。私の方が、年上、なのに……」

 

 

 熱せられた鉄の様に顔を赤くし、背け、両手でもって鼻を覆う。何を想像しているのかタカヒロには分からないが、どうも年上であることを意識する傾向にあるのは育ての親が“彼女”だからだろうか。

 もっとも――――

 

 

「気持ちは分からんでもないがベル君と君とは二歳差だ、強く意識する程でもないだろう。リヴェリアだって、自分と二人きりの時は小娘かと思うぐらいに甘えてくるぞ?」

「!?」

 

 

 驚愕の内容に目を見開くアイズですら、未だかつて、そんなリヴェリアの姿は見た事がない。と言うよりは、例の“アールヴ事件”の一件を除いて全くもって想像すらできはしない。そもそも何歳の差があるかについては、考えを即座に捨て去った。

 様々な考えが浮かぶものの、相手がタカヒロであるために嘘を言っているとも思えない。ならば勉学のためにと、どのようなことをしてくるのかと聞いてみる。

 

 

 曰く、姿を隠すための目深なフード付きロングコート着用時や人目につかないところでは、積極的に指を絡めるようにして手を繋いでくる。なおその時、顔は絶対に見せようとしない。

 曰く、彼女がベッドや椅子から立ち上がる際には視線を向けつつ両手を伸ばして、一時的なお姫様抱っこを高確率で要求してくる。

 曰く、部屋にある一人掛けのソファに座って本を読んでいると、端の空きスペースに割り込むようにして座り全体重を預けて寄りかかってくる。

 曰く、彼女に疲れが溜まっている時はベッドまで引っ張られて押し倒され、抱き枕の様に手も足も絡めとられて十分以上は占領され延々と愚痴を聞かされる。

 

 等々。もっとも流石にこれら程ではないが、タカヒロ側からも時たま膝枕や耳かき程度の甘えを見せていることを追記しておく。

 

 

「り、リヴェリア、凄い……」

 

 

 学ぼうとするも自分がそれをやっている姿を思い浮かべるだけで顔は更に赤くなり、沸騰したお湯のごとく顔から湯気を出すアイズ。どうにも記憶に残りそうになく、それでもって感情表現に乏しい彼女にとっては、とても今の自分では真似できそうにない“偉業”の数々だ。

 とはいえ男側にとって迷惑じゃないのかと疑問に思い、アイズは率直に問いを投げる。満更ではないために嫌な気を起こしていないタカヒロは、苦笑交じりにそのことを口にした。

 

 相手の気を己に向けるために全力な、恋する一人のハイエルフ。そんな姿を目にするだけで一層のこと愛でたい感情が青年にも生まれており、相手の想いに応えているのは必然と言えるだろう。

 いくら仲が良く両想いとはいえ、根底は他人であることを忘れてはならない。求めるだけ、与えるだけでは、いつか気持ちはすれ違いを見せてしまう。そうなってからでは、遅いのだ。

 

 

「そしてもう一つ。ベル君が進もうとしている道は……かつて、とある男が歩んだ、一つの戦士として確立する為の棘の道だ」

 

 

 それは、アイズも分かっている。具体的に何がどうとまでは分からないが、鍛錬であそこまで自分を追い込むベルの姿に現を抜かすと同時に、もがき苦しむ姿に心を痛めた。

 だけど。そんな道を進むベルを、応援してあげたい。そんな道を進むベルに何かしてあげられないかと思い、鍛錬のカッコイイ姿を目にして理性が負けているも、いつもウズウズとしてしまう。

 

 

「アイズ君が見て、ベル君の進む道が間違っていると思わないならば……やりたいと思っていることを認め、出来る範囲で支えてやってくれ」

 

 

 “支えてあげればいい” ではなく、“支えてやってくれ”。この二つの違い、そして無意識のうちに相手の言い回しが変わってしまっていた事には気づいていないアイズだが、相手が言いたいことは分かっていた。

 だからこそ表情に力を入れ、コクリと一度、大きく頷く。ベルに気に入られる為に……リヴェリア程は無理だけれど、頑張ってアピールしていこうと決意を新たにするアイズであった。

 

 

「あ。あと、もう二つ。ベルが、使ってる――――」

「それについてか、だったら――――」

「それと、私の……」

「……(いだ)く心の問題ならば、――――も、できそうなものだがな。物は試しに、コッソリと訓練してみようか」

 

 

 翌日。二人きりの時にさっそく猫のように甘えていたアイズに対し、ベルは終始しどろもどろの対応しかできず、顔色は深紅の瞳に負けぬほどになっていたのだとか。

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