リヴェリアからすればこの地に居るはずがない、ワイシャツを着た仏頂面の一般人。その眼前に居るアイナは、“コレ”がタカヒロだったのかと非常に驚いている様相だ。
実は、彼女によって書かれた共通語の手紙はタカヒロ側にも届けられている。どうせリヴェリアが相手を連れてくることは無いだろうと予測したアイナだが、どんな相手なのか目にしたく、折角なので同日に呼び出した格好だ。
ギルド職員のエイナがロキ・ファミリアの門番とは別に、ベルを経由して渡していたその手紙。詳細な地図と呼びだした理由が書かれた手紙が、リヴェリアには内緒との内容で届けられていたのだ。
ということで、今は流石にとげとげしいフルアーマーでこそないものの。今まさに目の前、家の奥で石になりながらも顔を向ける先に居るこの人物こそが、“お相手”であることは間違いないというわけだ。
「ええっ、貴方がタカヒロさん!?」
「ええ、この度はお招き頂き」
「わっか――――い!えーっ!?」
アイナ・チュール、病気の影も引っ込み昔のお転婆染みた自分に逆戻り。タカヒロが謝礼の言葉を言う暇もなく、四方八方から青年を観察している状態だ。
数十秒ほど経った後、此度のお客であることを思い出してアイナはタカヒロを招き入れている。相変わらず固まったままのリヴェリアの隣に座らせて、普通にお茶を注いでいた。さも普通のようにタカヒロも受けており、ここだけ見れば違和感など欠片もない。
前回のレクチャーで、相手の男性が非常に大人びていると聞いていたアイナ。てっきり己の夫と同じぐらいか少し上の者が出てくるのかとばかり思っていたらしいが、思いっきり裏切られたらしい。
リヴェリアから彼女アイナの性格を聞いていたタカヒロとしては、話通りに随分と活発的な様相だと受け取っている。それにしても、この美しさで二子の母だというのだから驚きだ。
とはいえ、その驚きも示している暇はない。放たれるマシンガントークに対して軽く苦笑した表情で返すことしかできず、タカヒロが実年齢を口にしたこともあって、場のペースはアイナのモノとなっていた。
「うっそー!?ちょっとちょっと何よリヴェリア様、貴女そんな趣味だったわけ?」
「ち、違う!そのような趣味があるわけではない!」
「だったらこんな若い子を引っ掛けないでしょうー?」
ねぇー?と同意を得たそうに、アイナはタカヒロに顔を向けた。男が置いてけぼりにされているが、女性“あるある”な状況と言えるだろう。また、アイナ本人もそれに似たことをしており、年下好みな遺伝子は、シッカリとエイナ・チュールへと受け継がれている。
しかしそこには、普段見せている仏頂面の青年が居る。先ほどまでの少しだけ陽気だった気配はどこにもなく、眉間には少し力が入っていた。
「お言葉ですが、今の発言は自分に対しても当てはまる。自分は決して、年上が趣味だから彼女に惹かれたわけではありません」
しまった。と言いたげな表情をして、アイナはバツが悪そうに二人に対して可愛らしく謝った。言葉を貰ったリヴェリアは嬉しさ半分、なぜかエッヘンと言わんばかりにドヤ顔を示している。lol.
もっとも、青年がそれに触れることは無い。場の雰囲気を治すためか、タカヒロは軽く溜息を吐いて声のトーンを戻すこととなった。
「そして自分は、あと半年もすれば25歳です。若いと呼ぶには程遠いでしょう」
「何言ってるの十分若いわよ、リヴェリア様なんて――――」
今まで聞くに聞けなかったタカヒロ、予期せずして相方の実年齢を知る。“
それでも、青年が特別な表情を浮かべることは無い。正直なところ別に何歳でも構わないと言うのが本音であり、それも表に出しておらず、今のやり取りは無かったように振舞っている。なお、アイナもまたリヴェリアと同い年とのことであった。
事実、タカヒロは話題を変えてしまっており、いつのまにかアイナとリヴェリアの仲についての話となっていた。過去を懐かしむように口にするアイナと「お前もそうだったではないか」とツッコミを入れるリヴェリアの姿は、本当に仲の良い友達と言えるだろう。
普段のファミリアなどで見せるリヴェリアと程遠いのは変わらないが、己に向ける顔ともまた少し違った彼女の姿。第三者が居るためにデレることはないが、新たな一面を目にすることができて、青年も内心ではご満悦だ。
まるで、相手の親と行う面談のようである。馴れ初めをほじくり返され、背中から魔法をぶっ放したリヴェリアの事実を知ってドン引きするアイナや要所要所で必死になって恥ずかしさを否定するリヴェリアなど、賑やかな様相だ。
しかしタカヒロとしては、一応は王族であるリヴェリアに対してフランクに接するアイナに違和感を感じているようだ。ロキ・ファミリアにおけるエルフの対応が基準となっているだけに、違和感は猶更の物があるらしい。
そこで二人の仲を聞いてみると、かつての従者だったことが伝えられている。年齢も同じながら、姉のように接してきたことが多々あるのだと、リヴェリアは過去を懐かしむように口にした。
「だからフランクなのか」と思ったタカヒロだが、どうやらそれだけでもないようだ。続けざまに、アイナの口から祖先のことが語られる。
実は、アイナ・チュールという女性。嫁ぐ前の名前アイナ・ウィスタリアの祖先をさかのぼると、リヴェリアの父“ラーファル・リヨス・アールヴ”と同じ祖先に突き当たる。ラーファルの更に祖先である故人、“リシェーナ・リヨス・アールヴ”の子孫なのだ。
リシェーナについてはタカヒロも書物経由で少しだけ知識があり、本当かどうかは不明ながらも“穢れを知らない”とされるハイエルフ、“セルディア・リヨス・アールヴ”の妹だ。セルディアとは当時居たとされる大英雄アルバートのパーティーメンバーの一人であり、千年前に存在したとされているハイエルフなのである。
そんな血筋にあるアイナとはいえ、拡大家族の血筋であるために“アールヴ”の名を名乗ることは許されていない。拡大家族とは同じ家に住む者を示す言葉ながらも、“城”を家という扱いにすれば意味は通じる事だろう。
なんせ、幼いころからリヴェリアの従者として暮らしてきた人物なのだ。薄まっているとはいえ血も繋がっており、二人は立派な家族として成立する関係にある。
エルフの始祖であるアールヴの血筋が話題の中心ということで、エルフスキーなタカヒロのテンションも少しだけ上がっており、少し表情に変化が見える。もっとも当時については記録が少なく謎が多いために不明な部分だらけとなっており、都市伝説クラスの話となっていた。
“穢れを知らない”という書き回しも、“女性らしい生き方ができなかった”ことを遠回しに憐れむ表現と受け取ることもできるだろう。その点については作家に聞くしかないが、どちらにせよ真相は闇の中だ。
その他、様々な話題が場に出される。リヴェリアがオラリオで見せた奔放さがメインであり、タカヒロの事についてはあまり触れられなかったのだが、「アー↑ルヴだー!」事件の話題を口にしかけたタカヒロにリヴェリアが掴みかかったタイミングで、アイナが口を開いた。
本人相手に聞きにくいこともあるだろうと、アイナは発言の敷居を下げるような立ち回りも見せている。せっかくなのでタカヒロは好意に甘え、最も気にしていることを口にした。
「お付き合いさせて貰っているために、問題が起こらないかという純粋な疑問と不安からの質問ですが……リヴェリアがアルヴの森に居た時間はヒューマンからすれば永かったと思いますが、王族としての婚姻の話などは?」
「そう思うわよね、でも全く無かったわ。エルフはヒューマンと違って見た目もあんまり変わらないし、授かる確率は低いのだけれど、安全に子供を産める期間も永いのよ。だから、その辺りの強制力は緩いわけ。エルフ同士の結婚をヒューマンが知ると、年の差婚と受け取られるのはよくある話よ」
「なるほど」
そうなれば、少なくともリヴェリアの故郷から刺客がやってきてー、などという事態には成らないだろう。タカヒロとしては、少し肩の荷が下りた状況だ。
それでもアイナからすれば、青年の覚悟を計りたいところだ。万が一の話と前置きしたうえで、エルフの剣士や魔導士が大挙して「リヴェリアを返せー!」などと押しかけきて戦いとなったならばどうするかと、陽気さを匂わせながら問いを投げる。
「相手が引かぬ上に、リヴェリアが自分を選んでくれると言うならば……」
するとどうだろう。タカヒロが見せる表情と気配が、突如として一変したのだ。
「全てを噛み砕き、吐き捨ててやろう」
今までの青年の顔とは打って変わって、冷血な人格が顔を出す。自然と僅かに立ち上がる
すぐ横では少し胸を張って自慢気にドヤ顔を晒している
ともかく、あまりこの話題を伸ばすことは良くないだろうとアイナは考えている。そのために別の話題を出そうと考えると、先ほどの“歳の差婚”付近の言葉を思い出した。
一転して、アイナの表情が怪しくなる。何かあるのかと感じ取ったタカヒロだが、想定外の言葉が口に出されたのであった。
「それなら安心ね。だからタカヒロさんも、頑張っていっぱいリヴェリアとの子供を」
「ななななな何を言い出すアイナ!!ま、まだ婚姻には至っていない!!」
「あら、どうしたのかしらリヴェリア様。“まだ”ってことは、もしかして結婚したい気持ちは満々なのかしら?」
「っ~~~~!!」
ドヤ顔から一変して食い掛ったリヴェリアは耳まで真っ赤にして歯を食いしばり、目を見開いてアイナに顔を向ける。両腕は拳に力が入って鎖骨の位置に持ち上げられており、もう少しいじられれば、身振り手振りのパフォーマンスが始まることだろう。
振り上げた拳を降ろす場所がない、というわけではないが、アイナに指摘された点は正解――――オブラートに包むならば、間違いではないために否定できない。この発言者がロキならば、今頃は星の1つになっていたことだろう。
「リヴェリアとの結婚、か」
青年としても、何か思うところがあったのか。相変わらず据わった表情と口調はそのままなれど、ポツリと零れるように言葉を呟いた。
それを耳にしたリヴェリア。手を差し伸べられたのだと判断し、タカヒロに対して言葉による援護を要請する。
「お、お前からも、何か言ってやってくれ」
「それ以上の未来はない」
味方かと思えばまさかの敵でもあり、実質的に二対一であった。ポツリと零れた青年の言葉を拾ったリヴェリアだが、その一言で綺麗にハートを射抜かれている。横に居るタカヒロの肩を掴んで揺らそうとするも、メンヒルの防壁は揺るがない。
クソ度胸から放たれた仏頂面の本音は相変わらずの攻撃力であり、ある意味でカウンターストライクな状況も攻撃力が高い原因の1つだろう。忘れてはいけないが、その男のジョブは報復ウォーロードだ。
そんなジョブから放たれたカウンターな言葉を耳にしたリヴェリアは顔を突き出してタカヒロの横顔を視界に捉えつつ目を見開き、耳まで真っ赤に染めて鯉のごとく口を小さくパクパク。やがて口元は栗のような形状となり、何かを言いたくても嬉しさが上回っている為に言葉を発することすらできないらしい。
数秒後にはダイニングテーブルに額を付けて頭から湯気を出す程に茹っており、両腕は翡翠の髪と共に力なく床へ向けて垂れ下がっている。互いの気持ちも合致してるし結婚しちゃえば?と笑いながら軽いノリを見せるアイナだが、そう簡単に決めて良いものではないだろう。男側はまだしも、女側は“王族”だ。
それにしてもアイナとしては、目の前で茹っているのが、恋愛方面にいては微塵の隙も無かったリヴェリアとは思えない。この青年の前においては、こうも隙だらけの可愛い女になってしまうなど、流石のアイナでも予測し得なかったことだ。
かつて己の目の前でも見せることのなかった、リヴェリアの姿。彼の前では臆することなく出せるのかと思うと少しだけ嫉妬の心が芽生えてしまうが、そう振舞える相手を見つけることができたリヴェリアを心から祝福している。
先ほどは青年の不安を聞いたアイナは、今度はリヴェリアに対してそんなことは無いのかと問いを投げる。むくりと上体を起こしオデコが少し赤い彼女は茹で上がり具合は収まっており、一変して不安げな表情を浮かべている。
――――無い事はない。出されたその言葉に、タカヒロとアイナは何事かと、彼女の瞳に目を向けた。
「……無い、という事はない。タカヒロの心をちゃんと掴むことができているか、会わない日は一層のこと心配を抱く。もっともっと何かをせねばならないのではないかと、不安に駆られるのだ」
「待て、これ以上に何をする気だ。次の一手となれば、握り潰すことぐらいしか残っていないぞ」
つまりは、しっかりガッチリ掴んでいるということ。彼女の不安を一蹴する面白い例えに軽く笑うアイナだが、今の言葉を思い返してツボに入ったようで可愛らしい笑い顔を見せている。同様に苦笑の表情となるリヴェリアは、嬉しさのあまりタカヒロの腕を取って抱き着いていた。
それにしてもアイナとしては、何故リヴェリアがそのような感情を抱くのかが不思議である。傍から見ても悪い感じは全くないために、笑いが収まった彼女はリヴェリアに対して問いかけた。
「……今まで、まったく知らなかった事だ。そして心から尊いと思うからこそ、怖いのだ。いつか破綻し、痛み、悲しみが生まれないかと脅えてしまう」
すると、こんな乙女チックな文言が返ってくるわけで。素で言っていることが明白であり、今までに知らなかったリヴェリアの天然っぷりを感じ取ったアイナ側が悶えるという奇妙な光景が広がっている。
アイナの体調に異変が生じたのは、その時だった。突然と強めの咳を連続して見せており、表情も苦しそうな様相を隠せていない。
タカヒロとリヴェリアもすぐさま立ち上がって駆け寄り、背中を摩ったり水を用意したりするなどして対応する。
「大丈夫ですか」
「アイナ、しっかりしろ!」
「ケホッ、ケホッ!」
故郷アルヴの森を飛び出して以降、しばらく経ってから発現して今に至るまで続いている、持病のような咳と気怠さ。今日も薬は飲んでいたアイナだが、本日は予想以上に盛り上がり、お転婆が過ぎたらしい。
普段から飲んでいる薬も単に咳と気怠さを抑える程度のもので、根本的な解決には至っていないという内容だ。咳き込む彼女を覗き込むようにして本気の心配した表情を見せているリヴェリアの様相が、青年の目に痛々しく映っている。
医療の知識など欠片しかないタカヒロだが、治せるであろう1つのスキルは持っている。しかしコレはリヴェリアに対して明らかに“在り得ない”と捉えられるものであり、本音では、できれば使いたくない代物だ。
スキルを所持していると伝えたことで、リヴェリアが向けてくれる瞳が変わってしまうことが怖いというのが、タカヒロの本音である。ドライアドのことを未だに伝えていないのは切っ掛けがない為に忘れられているだけなのだが、此度においてはドライアドですらも霞むモノ。エルフにとっては恋する相方が所持していれば狂喜乱舞となるモノでもあるのだが、青年の中においては、前者の怖さが上回っているらしい。
いかなる苦境やモンスターを相手にしても怯まない強靭な精神力も、リヴェリアが絡むとなると弱々しい。アイナ・チュールに対して申し訳なく思うも、時が来れば必ず使うことを心の中で約束していた。
「リヴェリア、彼女を安静にさせよう。寝室ならばベッドがある筈だ」
「あ、ああ!アイナ、しっかりしろ!」
少し前にも話題(?)になったリヴェリアの年齢についてですが、アニメ円盤の特権書き下ろしSSにある“ハイエルフの旅立ち”に“里を出た時(ロキ・フィンと出会った時)の年齢”が記載されており、そこから何年経ったかを計算していくと“99という数値”になるようです。
ホントかよと思いつつ今更ながら円盤を購入したところ本当に書いてあった一方、例え20歳や30歳だろうが、500歳だろうが本作のストーリーに影響することはありません。
なので本作における彼女の年齢は読者様にお任せとしまして、とりあえず1000歳未満とだけ設定させていただきます。
(流石に1000歳だと親族も含めて神が来る前の時代と重なるので、リヴェリアが1000歳以上というのは無いかなーと……。)