その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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ベル君が試練を迎えるように、ダンまち二次創作作者はここが試練だと思います。
ここが穏便に収まってる二次創作ってあるのでしょうか…。

居酒屋イベント、最終話です。


14話 謎の男再び

 お金を置かずに全速力で駆け出したベルだが、酒場“豊饒の女主人”を仕切るマッチョなドワーフの女性店主であるミア・グランドが叫び店員が追いかける事態にはならなかった。ベルと一緒に来店した青年が、まだカウンター席に残っていたためである。

 この者までもが同じ行動を繰り返すならば、それこそ雷が落ちるだけの騒ぎでは済まないだろう。文字通り、血の雨が降っても不思議ではないシチュエーションだ。

 

 とはいえ、流石に血の雨の事態を防ぐに越したことは無いために、逃走防止の牽制を狙ってミアがタカヒロの前に陣取っている。一人しか残っていないものの注文された2つのコーンスープも、彼女が彼の前に置くこととなった。

 彼もわざわざ店主が持ってきたワケに気づいている上に、当然ながら食い逃げする気など更々ない。スープを両手で受け取りカウンターに置くと、言葉を発した。

 

 

「……すみません、店主」

「……なんだい?」

 

 

 先ほどベートが発した会話の内容はミアにも聞こえており、やはり“良い気分”とは言えない表情を見せている。少年と違って彼女自身はレベル6の第一級とはいえ、彼女もまた冒険者上がりなのだから良い気はしないのは当然だ。

 それでも酒場の会話に飛び交う話を遮るなど、余程のことが無い限りは彼女と言えど権限を持っていない。状況としては“そんな余程”の一歩手前であるものの、緑髪のエルフも叱りの言葉を口にし始めているために極端に悪化することはないだろう。ロキ・ファミリアが発端となっているこの問題に口を出すのは、フレイヤ・ファミリアである彼女にとって、今の段階ではお門違いである。

 

 で、この青年の質問はなんだろうか。そう思って彼の顔―――と思ったが顔をやや下げておりフードに隠れているために頭部を見ると、予想だにしない言葉が飛び込んできた。

 

 

「生憎と初めて訪れた店なもので教示願いたい。ここは……酒に溺れた輩の遠吠えで飯を食べる趣味嗜好なのか?」

 

 

 豊饒の女主人がそんなワケ―――と反論しかけて、店主ミアがそれ以上の口を開くことは無かった。

 青年の言葉を耳にし思わず熱くなった頭で思い返せば、狼の青年が声を大にして話していた内容は思い当たる節がある。今日の開店直後の酒場の話において「返り血を浴びて真っ赤な少年がシャワー室に来た」という件で始まった馴染みの話に出てきた少年の特徴は、先ほどまで青年の隣に居た少年に合致していた。

 

 その者が先程の騒ぎを耳にすれば、あの行動も頷ける。冒険者の心を癒やすはずのこの場所で、もっとも起こってはならない事態が発生したわけだ。目の前の男性があの少年の仲間、同じファミリアだというのなら、今の発言も納得である。

 

 

「……その子のために、出してやったスープなんだがね」

 

 

 もう背中も見えず気配もない、己の店の入り口に目を向ける。店内との境界線の向こう側にある夜の暗さは、闇でこそなけれど己の心を映しているかのようだった。

 同じファミリアでもなければ、店主とはいえ一居酒屋の店員ができることは、酒と料理でもって心の傷を癒し体力を回復させることだけだ。先ほどの言葉でタカヒロも出されたコーンスープの本懐を理解し、「なるほど」と誰にも聞こえない呟きを残している。

 

 

「あ――――なんだ、テメェ?」

 

 

 しかし、タイミングが宜しくない。リヴェリアがお叱りを入れたせいで他の団員や関係のない者達の声が小さくなっており、タカヒロの先程の一文がベートに届いていたのである。

 

 小さくなっていた声は、完全に消え去った。ロキ・ファミリアの面々はベートを止める言葉と同時に「早く謝れ」の内容をタカヒロに向かって叫んでおり、状況は最悪である。部外者は「謝るならば狼男だろ」と誰もが思っているが、その誰もが口に出せる勇気を持っていなかった。

 事実とは言えあからさまな挑発を投げた青年だが、それ以上は口にしない。相手が大声でわめいていた弟子への悪口については、叱りを入れていたエルフ、リヴェリアと呼ばれていた彼女の言葉を根底として今の一言で仕舞いとし、追求しないことを決めている。

 

 言葉には言葉で。また、いくらか相手を貶す言葉でもあるうえに、これぐらいなら言い返す権利はある。他ならぬ弟子を貶されたのだから口にして当然だと、己の正当性を内心で主張していた。

 

 とはいえ、状況は待ってくれない。抑制という蓋を外し理性を乱す、酒が与える影響というのは素面の者からすれば予想だにできない事態を引き起こす。

 言葉を受け取った狼人は、己のアイデンティティである誰にも止められない程の俊足を発揮する。そのまま一足飛びで宙を駆け抜けると、カウンターの青年の頭部を殴りつけ――――――

 

 

「ガッ!?」

 

 

 青年が展開させていたトグルスキル、“カウンターストライク”が発動し、入り口付近の壁にまで吹き飛ばされて背中を柱に叩きつけていた。白目をむいてそのままピクリとも動かず、全くもって立ち上がる気配を見せていない。

 

 カウンターストライクとは、被ダメージ時に一定の確率でx%の武器ダメージとy%の報復ダメージを相手に与える常時発動型のトグルスキルである。他にも複数の効能がある非常に優秀なスキルであるものの、非常に細かいために省略する。

 本来はレベル16止まりなのだが、装備効果により最高値のレベル26、現在は2枚の盾がないのでLv20にまで高められたこのトグルスキルの発動率は被ダメージ時において32%、つまり約3回に1回の度合いである。判定が発生して吹き飛ぶかどうかは運任せだったものの、発動したのは“犬”の日頃の行いの賜物だろうと内心で鼻で笑い、同時にちゃっかりとスキルの威力を確認していた。

 

 なお、吹き飛ばされた者が“その程度”で済んでいる理由はタカヒロが2枚の盾を持っていないことに加えて、スキル以外の報復関連の能力を全て無効化しているためである。裸ではないためソコソコ強化はされているが、これがもし52階層の時と同じ状態ならば、ベートの身体は2m程飛び上がって絶命するか跡形もなく四散していただろう。彼が持ち得る報復ダメージとは、本来ならばそれほどの威力を備えているのだ。

 また、殴りかかった相手の彼が見せる対応は傍から見れば涼しいものである。全く何事も無かったかのように、運ばれてきたスープに口をつけた。

 

 

「……先ほどの、この店に対する言葉を撤回しよう。長年に渡って息子を見守ってきた母のような、優しい味だ」

「そうかい」

 

 

 まさに、何事もなかった態度。ミアもタカヒロの言葉に照れ隠しを返し、鼻の下を人差し指ですすって腕を組み、満足した表情を見せるのであった。

 

 しかし、「何事もありませんでした」で収まらないのがファミリア同士のトラブルである。ミアが厨房に戻らないのは、この最悪の状況が乱闘という形で店の中で開始されるのを防ぐためだ。

 まるでヤクザのシマ争いと変わり無い。ファミリア間の些細な喧嘩とは、町を巻き込む全面戦争に発展する可能性だってあり得るのだ。とはいえヘスティア・ファミリアとロキ・ファミリアでは差がありすぎるために、そうなることは無いとも言い切れる。

 

 ロキ・ファミリア側からは相手に殴りかかるベートしか見えておらず吹き飛ばされる場面はわからなかったが、それでもベートが先に手を出したのは明らかであり、何かしらの落とし前は必要となる。ロキ・ファミリアの団長であるフィンと副団長であるリヴェリアが、すぐさま謝罪に向かうために立ち上がった瞬間であった。

 

 

「ロキ、我々は謝罪を、っ!?」

 

 

 まずリヴェリアが、驚きの声を上げて目を見開く。つられて横に居たアイズも、奥のカウンターに居た“対象者”に気が付いて目を見開いた。

 とはいえ、ファミリアでは主神に“母親(ママ)”と呼ばれる存在であり冷静沈着なリヴェリアの表情が、公の場であからさまに破綻するのは珍しいものがある。そんな珍しいものを見た主神ロキは、驚きながら呆然とするリヴェリアに声を掛けた。

 

 

「なんや珍しいな、どうしたんやママ」

「ママと呼ぶな!」

「団長、あの人です。52階層で助けてくれた人は」

「なんだって?」

「えっ?あ、そうだよそうだよ!ちょっとベート、誰に殴りかかってんのさ!それにしても、うわ、こんなところで再会するなんて!」

「そこの小娘、こんな所とはどう言うことだい?」

「ヒッ!ち、違いますミアさん!そういう意味ではなくて!」

 

 

 ロキとリヴェリアの漫才が終わったかと思えば思わぬアイズの言葉にミアとティオナの漫才が続き、立ち上がったフィンの足が止まる。同時に立ち上がったリヴェリアと顔を見合わせ、まさかの事態に、前に出した足が進まない。

 そして、周囲の者は理解できない。52階層でロキ・ファミリアを助けるなど、実施できるとしてもオラリオにおいて極一部の者だけである。となれば大抵は顔も姿も知られているのだが、タカヒロの姿は全員の記憶に存在していないのだ。

 

 

 とはいえ、彼の所在を詮索するのは後回し。この場においては、ともかく謝罪が必要であることは明白だ。ロキ・ファミリアにおける団長のフィンと副団長のリヴェリアは、止まっていた足を前に出す。

 そして、カウンター席の隣へと到着した。何か用かな?と言いたげにしてフード越しに視線を向けるタカヒロに対し、フィンは口を開き―――

 

 

「――――どうやって」

「ほう」

「っ……!」

 

 

 興奮した思考により言葉の優先順位を間違える、非常に珍しい彼の失敗である。常識に沿うならば最初に出されるべきは先ほどの暴言と暴行に対する謝罪行為であり、どうやってソロで52階層に辿り着いたのかを知るのは他のファミリアに干渉する内容であるためにグレーゾーンのエリアである。交流がある者同士ならば人気のないエリアで話し合うのも互い次第だが、少なくともこのような場所で交わす話ではない。

 しまった、と言いたげな表情をしたフィンだが、青年は両手を胸の位置で左右に軽く広げている。続けざまに出されたタカヒロの言葉は、二人にとって予想外のものだった。

 

 

「おや、何か御用でしょうか?どうやら先ほどの罵倒が自分と同じファミリアの、先ほどまで隣りに居た少年のことを指していたのは事実のようですが……自分は何もしておりませんし、何をされたかも分からない」

 

 

 故に、あそこで転がっている“犬”が何故そうなったか聞かれても分からない。最後は鼻で笑って終わり、スープを飲む彼の言葉は、一連の出来事を知らぬ存ぜぬの扱いに持って行こうとしていることが明らかである。そのために、二人は何も言い返すことができなかった。

 それを確認したかのように自分の分のスープを飲み乾したタカヒロは、一枚の貨幣をカウンターに置くと立ち上がる動作を見せ――――

 

 

「ちょい待ちや」

 

 

 静寂を切り裂く関西弁と似たイントネーションの言葉を放つ、ショートへアの赤髪のポニーテールでくくる女性に止められた。

 

 その女性は行儀悪くテーブルに右ひじをつき、その手のひらで顎を支えて身体をタカヒロへと向けている。デニムらしき衣類と“腹巻の胸バージョン”としか彼には言い表せないスタイルで随分と露出が多く、糸のように細い目が特徴的だ。

 彼女の言葉を受けて青年は再び腰を下ろし、身体ごと女性に向けている。その視線を遮らないようリヴェリアとフィン。もっともこの段階でタカヒロは後者の名前を知らないのだが、即座に謝罪に来た二人が見せる対応から、赤髪の女性の方が地位が高いのだと内心では考えている。

 

 

「ロキ・ファミリアの主神、ロキっちゅうもんやが、自分、ナニモンや。うちのベートが手ぇと口出したことは謝るが、レベル5が殴りかかって吹っ飛ぶなんて尋常やないで」

「神ロキ……フッ、ああ悪戯好きの道化の神か。簡単に答えが分かるよりも、謎を考えた方が楽しいのだろう?」

 

 

 鼻で笑って放たれた言葉に対して間髪入れずに面食らったのはロキの方であり、思わず少し身を乗り出した。先ほどタカヒロがフィンに返した「(自分からは)何もしていない」という言葉が嘘では無かったためにサグリを入れていたのだが、まさかこんな一文が返ってくるとは予想だにしていない。

 彼が言っていることは事実であり、神が地に降りた核心を突いている。また、道化のエンブレムを掲げるロキ・ファミリアを統括する主神ロキにとって、一番の娯楽と言って過言ではないモノなのだ。

 

 直後。フードの下から放たれる強烈な殺気を受け、思わず身震いしてしまう。トリックスターと謳われた彼女程の存在が押し負ける程に、相手が放つ威圧が肌に刺さり背中が寒気を覚えている。

 

 

「フ……ハハハハハ!そうか、そうやな!いや、今宵は悪かったわ兄さん。こんど、あの少年と一緒にウチに来てくれへんか?恨みを持たれても良いことなんて1つもあらへん。ちゃんと持て成させてもろうた上で、ロキ・ファミリアとして謝りたいんや」

「承知した、伝えておこう」

 

 

 震えを誤魔化すことも含め、まさかの回答にロキは笑い声をあげる。そして、ファミリアの名声を落とさない目的も含めた、自身の本音を言葉にした。

 それに対し、「この話は終了だ」。そう口に出すかのように、青年はガチャリと鎧を鳴らして立ち上がる。

 

 

「あ、あの……」

「先に見せてくれた叱りの件を感謝する。優しい味だ、落ち着くと良い」

 

 

 どうしていいか分からずにとりあえず声を発するリヴェリアに対し、タカヒロは礼の言葉と共にコーンスープが載ったもう一皿を彼女に差し出す。思わず受け取ってしまったリヴェリアは、呆気にとられた表情を見せている。

 タカヒロはそのまま店の外に出るも、背中を見る者は多数なれど追う者は一人も居ない。入り口の横で狼の青年が屍になっているが、残念ながら気づいて居る者も無視している。とにかく彼をこの場から帰すことを、共通の最優先としていた。

 

 

「……ふーっ、相手が大人でホンマ助かったわ。謝る言うたけど、あれで怒り沈めて許してくれるワケがないっちゅーに。にしてもどこの誰だか聞いたのは失敗やった、怖かったわー」

 

 

 いつのまにか滲み出ており、殺気を向けられた時にどっと噴き出た汗を拭う。元々酒に強いこともあるロキの酔いは吹き飛んでおり、その空気は周囲にも伝染していた。

 

 

「言い出しっぺも手ぇ出したんもこっちなんやし……まぁ一緒になって笑っとったウチが言うのもなんやけど、なんちゅー奴に喧嘩売っとんねんベート」

「ベートはさておくとしても、色々と彼は気になるね、表裏のある人間ってのはよく言ったものだ。それにしても今更だけどロキ・ファミリアには酒乱の類が多くないかい?身内でやる分には結構だが、外では名声にも関わる問題だ」

「せやな、怪我人出る前に考えんとアカンわ。とりあえずベートは気ぃ失のうてるだけやろ、表に吊るしとき」

 

 

 彼を帰すことを最優先とした、その理由。あの一言はあれど、先ほどまでは何も無かったかのように、店主ミアに対して割と紳士的に応対していた青年だ。

 神ロキは、もう背中が見えない店の出口を見て向けられた殺気を思い返す。思い出すだけで身震いしてしまう程のソレは、大人の対応を見せていた言葉とは程遠い。

 

 しかし、彼が抱いた殺気も当然である。酒場において彼が知り得たことを繋ぎ合わせると、50階層への遠征に失敗し、17階層ではミノタウロスに逃げられた鬱憤をベルにぶつけているようにしか見えないのだ。

 

 故に振りまいてこそいないけれど、ロキに示したように彼の内心はまさに激怒。ウォーロードは取得さえしていれば“オレロン(戦争の神)の激怒”というスキルが使えるが、その言葉の比喩に匹敵する状態を示している。

 

 

 去り行くその背中が、素人でも分かる程の静かな、しかし強大な怒りに満ちていたのだから。この場において青年の歩みを止められる者は、誰一人として居なかった。




相手がベル君に“手”を出していないので、こちらも“手”は出さず。怒りは抱いていることを示しつつ、酒があるとはいえやっちまった者には相応の痛みを。(身勝手な行動の上の自爆ですが。)
穏便に、もしくはスカッととはいきませんが、今後のロキ・ファミリアとの接点も芽生え、ロキ・ファミリアとしての謝罪の意向も周囲に示し、比較的大人な感じに纏まったのではないかと思います。

…それにしても、まさか感想欄で次話のタカヒロの推察状況をものの見事に言い当てられるとは(汗)恐れ入ります。
あとエセ関西弁が怪しいので、おかしいところがありましたらご指摘くださいorz


・カウンターストライク(Lv26、裸時の性能。)
攻撃者に対して電光石火の速さでカウンターストライクを浴びせるために、極めて鋭い準備状態に入る。
35% 発動率
2.0 エナジー/s
130 エナジー予約量
1秒 スキルリチャージ
4m 標的エリア
25% 武器ダメージ
22% の報復ダメージを攻撃に追加 (DLC:FG導入時のみ)
585 物理ダメージ
1260出血ダメージ/3s
686 物理報復
+170% 全報復ダメージ

補足説明:
毎秒のエナジー(MP)消費を除けばデメリットの類は一切なし。トグルスキル使用者が攻撃を行わずとも、発動タイミングで勝手にスキルが反撃する。


ちょくちょく出てくる報復ダメージについては、もう少し先で紹介させていただきます。

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