その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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「~~~~」で囲まれている部分はGrimDawnの用語が多々出てきます。読み飛ばして頂いても問題ありません。


144話 鍛冶師のヤベーやつ(神)

 

――――以前に訪れた時に見せてもらったガントレットの他にも、何か装備があれば見せて欲しい。

 

 

 ベルとタカヒロが装備について話し合った、数日後。始まりはヘファイストスが口にした、そんな類の言葉だった。

 

 

 言葉が向けられている相手は何を隠そうタカヒロであり、本日はガントレットの劣化具合をチェックするために来店中。少し前に穢れた精霊の攻撃を受けていたのだが、それと加えて普段の鍛錬においてかかっている負荷と合わせ、どの程度が劣化するかを調べているというわけだ。

 もっともヘファイストス渾身の力作かつ素材が素材であるために、誤差程度にも劣化していないのが答えとなる。鎧と似て控えめな黒い光沢を放つ様相は、見ても使っても一級品の代物だ。

 

 

「何か、と言われても何が良いか……そうだな。では、自分が気に入っているチェストアーマーでどうだろう?」

「バッチこい、よ!」

 

 

 ドヤ顔で“バッチこい”などと口にするこの神様。普段のヘファイストスとは大違いであるが、理由はお察しの通りだ。おめめは椎茸で、ソワソワした気配を隠しきれていない。尻尾があれば盛大に振るわれている事だろう。

 もっともタカヒロがそのチェストアーマーを選んだ理由としては、以前に一度見られていることがあるためだ。新たなモノを見られるよりはマシであり、あの時においては一番印象に残っているだろうと考えたためである。

 

 

 数秒後に場に出されたのは、“神話級 ドレッドアーマー オブ アズラゴー”。コンポーネントと増強剤も適応されたタカヒロのメイン装備の1つであり、チェストアーマーに分類されるヘビーアーマー。

 数多くの報復ビルドに組み込まれる程に万能な鎧であり、この鎧そのもので全報復ダメージが110%も上がるうえに物理耐性も付与されており、微量ながら“攻撃能力”も上昇。更には付属するトグルバフ“アズラゴーの戦術 (Lv2) ”が非常に強力な効果を持っているのだ。

 

 机の上に出された鎧を目にしたヘファイストスは、まるで新しいスイーツを発見した女子の様相。目を輝かせるとガタッと音を立てて立ち上がり、パタパタと可愛らしく駆け寄ってくる。どこかの誰か約二名(リヴェリアとヴェルフ)が目にしていれば、きっとそれぞれに強烈な嫉妬を抱いていたことだろう。

 

 

「キャーッ、あの時のモノね!嗚呼、やっぱり凄いアーマーじゃない!こんなの天界でも滅多にお目にかかれないわよ!?」

 

 

 この鎧が亜空間(インベントリ)から出てきて、かつ何故目の前の男がそんな装備を持っているのかは、どうでもいい事らしい。吐息がかからぬようハンカチで押さえつつ四方八方からグルグル眺めるヘファイストスは、持ち主の存在すらも忘れてしまっている。

 足取りは非常に軽く、お目目は大きく開いており相変わらずのキラッキラ。普段の凛々しい姿は欠片も無く、まさに3月3日にひな壇を見つめる少女の様相と表現して問題は無い。

 

 なお、ヘファイストスが眺めるこのレジェンダリー品質の鎧は“設計図”が存在する。貴重な資材をいくつか使うが、タカヒロならば鍛冶屋を借りて作成することができるのだ。付与される効果の数値を厳選するために、ケアンの地においては何百個が作られほぼ同数が破棄されたかは定かではない。

 鍛冶屋で作られた装備のベースがレアならば、モノが出来上がったタイミングでAffixが付属する。それよりも上のエピック、レジェンダリーとなるとAffixは付属しない。どちらにせよ、各種の効果数値が下限~上限の範囲で割り振られるのだ。

 

 

 ということで設計図を見るかとタカヒロがヘファイストスに告げると、物凄い勢いで首が上下に振られている。インベントリのどこにあったかと漁り、見つけると取り出して、机の上に広げたのだ。

 サイズ的にはA3程度ながらも、びっしりと様々な内容が書かれている。使用するアイテムをここにエンチャントすることや細部の設計など、素人が見てもチンプンカンプンと表現してしまう程に専門的な内容だ。

 

 

「凄い。本当に細かい所まで、完璧って言える設計図だわ」

 

 

 広げられた1枚の設計図を見つめる眼差しに先ほどまでの興奮や気楽さは一切無く、真剣そのものと表現して過言は無い。鋭い目つきは図面を破らんとする勢いであり、時折唸りながらも、細部にまで目を通しているようだ。

 時折現物と見比べて、納得したような仕草も見せている。やがて軽いため息を零した彼女は、設計図の全体を一通り眺めなおして――――

 

 

 

 

「でもこれ、少し劣化するかもしれないけれど……例えば膝当て~脛当ての部分で作ってみても面白そうね」

 

 

 

 

 炎と鍛冶を司る女神は、息をするかの如く、とんでもない発言を放っていた。

 

 

「……なんだって?」

 

 

 それに対する、青年が真顔にて何とか回答できた内容がコレだった。どうにも、未だに己の耳が信用できない。このスレンダー美人な女神様、ものすごく魅力的な(頭おかしい)ことを言っている。

 この神が口走った内容をおさらいすると、“少し性能が低下する恐れがあるが、チェストアーマーの設計図でパンツバージョンが作成できる”ということ。それがどれ程までに“ぶっ壊れ”かは、説明するには容易いものがある。

 

 

「ん?だから、これを膝当て~脛当ての部分にしてみても面白そうって思ったのよ」

「……」

 

 

 例えば強力な2種類のチェストアーマー、それぞれの設計図があるとしよう。しかしながら実際に装着できるのは1つであるために、必然と排他の選択となることは先日ベルに示した通りだ。

 一方で、あまり強力ではない部位、例えば前回において問題となったグローブの部位などがあることもまた事実だ。故に、その残りのチェストアーマーをグローブの形状で実装することができるならば、理論上は両方の効果を得ることができる訳である。

 

 

「冗談か?」

「本気よ」

 

「正気か?」

「正気よ」

 

「女神か?」

「女神よ」

 

 

 タカヒロが新たな設計図を出して確認するも、例えばヘルムの設計図でブーツの作成なども“可能”とのこと。いくら彼女とはいえ武器やアミュレット類を防具などにはできないらしいが、流石はリソースを趣味に全振りしている“鍛冶を司る女神”である。やること成すことが、世紀末ケアンの基準においても常識の範囲内に収まらない。

 ともあれそうなれば、装備パズルは根底からガラっと変わる。“白米”が置いてある居酒屋のように、全てのツマミ(設計図のある装備)オカズ(装着候補)として立ち上がってくるのだ。

 

 では作成時に星座の恩恵効果なども上乗せできるのかと聞いてみたところ、それは無理との回答。流石に、そこまで“うまい”話は無いらしい。

 以前にヘファイストスも口にしていたが、ベース素材とエンチャントの乗りにはバランスが存在する。この設計図に記載されている武具は、そのバランスが極限にまで突き詰められているとのことだ。

 

 つまるところ、これ以上を乗せようとしても上手く乗らず、また何かを消して別の物を乗せようとすると、バランスが崩れてガラクタ同然となってしまうらしい。エンチャントの効果までは分からないヘファイストスながらも、そう言った意味では、やはり限りなく100点に近い設計図とのことだ。

 それでも、タカヒロからすれば魅力すぎる案件だ。広大なインベントリのどこかに眠っているアイテムを引っ張り出す必要があるものの、さっそく考えが浮かんでいる。

 

 

「ヘファイストス、時期は分からんが防具の作成を依頼したい。素材は全て持ち込みで、技術料は別途で支払おう」

「私からしたら魅力すぎる案件なのだけれど、いいのかしら?」

「その代わり、エンチャントの出来具合によっては再度の作成を依頼する」

「選別、いえ。厳選、かしら。どちらにしても、腕の見せ所ってワケね」

 

 

 ニヤリとして応対するヘファイストスからすれば、確かに魅力的な案件だろう。神話級と謳われる超一流の装備を作れる上に、技術料までもが転がり込んでくるのだ。

 ちなみにヘファイストスにはあまり関係ないのだが、もう1つの条件があるらしい。その条件はまだ確認していないのと時間も押しているために、タカヒロはここで帰宅となった。

 

 

 ところで、その条件とはなんぞや。それは帰宅した直後、昼飯を終えた直後にヘスティア・ファミリアにて判明することとなった。

 

 

「へ?ぼ、僕が作成の依頼をするんですか?」

「ああ。この一世一代と言える依頼は、ベル・クラネル(幸運持ち)が行うべきだと古事記にも書かれている。頼む、この通りだ」

 

 

 まさかの頭を下げるタカヒロに、ベルは頭を上げて貰うよう祈願する。正直なところモノもカネも用意する必要は無く、単に作成依頼をするだけという単純さであるためにベルにかかる負担は移動ぐらいのものだ。

 今迄において貰ってばかりだったベルからすれば、お安い御用ですと返事をしたい程。しかしながら装備キチとしては上限いっぱいのエンチャント数値を得ようと、必死さを隠せない。下手をしたら、靴を舐めろと言われても舐めだしかねない程の覚悟なのだ。

 

 

 なお、やや離れた位置から光景を横目見る主神ヘスティア。ロクでもないことが動き出すのではないかと気が気ではないが、“一際壊れたぶっ壊れ”が更に壊れる程度であるために一般世間としては問題は無いだろう。

 

 

 結果としてベルは了承の返事をしており、何をどこの部位に変換するかが脳内において論争が開始されることだろう。ケアンの地で取得したアイテムは無限ではないために、慎重に行う必要がある。

 ここを間違わなければ、己が更に一歩を踏み出せることは間違いない。性能はさておき考えられるパターンとなると、文字通り無限に近いモノが挙げられる。しかし、既に確定している装備が1つあった。

 

 

 最も気になっているのは、やはり手にあるガントレット。別の部位で、やはりこれがもう1つ要る。物理耐性15%程に加えて星座の恩恵効果が40%も上昇するというぶっ壊れ(頭おかしい)逸品は、黒竜のリポップが行われない限りは、2個目を作れるかは怪しいものだ。

 しかしながら世界のどこかには“隻眼の黒竜”が居るらしく、探し出してチョメチョメすれば鱗がもう一枚手に入る、かもしれない。ちなみに前回ドラゴンと戦った地点には時折暇潰しで赴いているのだが、毎度の如くもぬけの殻だ。

 

 ともあれ、たら・ればで話を進めても意味がない。ひとまずは現状を把握するべきだと心を落ち着かせ、軽く溜息を吐いた。

 さっそく紙とペンを取り出し、現状を一通り明記する。上昇値については重要項目以外はあまり見ないこととして、手の装備を変更したことによるデメリットと現在の各種耐性を一覧に明記した。

 

~~~~

 

■手の変更

・各種耐性

物理 :71.4%  エレメンタル:84+123%

毒・酸:84+59% 刺突:87+99.6%

出血 :84+73% 生命:84+93%  気絶:84+57%

カオス:87+54% イーサー:91+72.6%

 

・その他

手の装甲値+1700。

-3% 攻撃速度

-3 カウンターストライク

-25% 中毒時間短縮

-584 ヘルス

+3% 装甲強化

+342 物理報復

+64% 全報復ダメージ

 

 

 ヘルスについては誤差程度、やはり顕著なのは3レベルが下がった“カウンターストライク”だろう。全体的に強くなったのは間違いないが、確実なデメリットの1つであることに変わりはない。

 報復ダメージとは違って、カウンターストライクは射程圏内に居れば遠距離攻撃を相手にも発動する。クールタイム1秒ながらも盾の効果で0.6秒毎に使えるモノであり、重要な攻撃スキルの1つだ。

 

 ともあれ、各種の耐性については十分な量を確保できている。結果的に上昇した報復ダメージは342、その1800%程となる倍率があるために6156の数値上昇。これは、今までにおける報復ダメージの4.1%を占める数値だ。

 これを“4.1%も”と捉えるか、“たった4%”と捉えるかは人によるところだろう。少なくともタカヒロとしては間違いのない前者であり、効果が及んでいる範囲はそれだけではないことを明記しておく。

 

 それはさておき、青年の両手に装着されている漆黒のガントレット。もしこれと同じ能力の防具がもう1つあるならば、“AoE”を行ってくる敵に対する火力が飛躍的に上昇する。

 

 AoEとは、“Area of Effect”の略称。 範囲攻撃や、一定範囲に効果のあるスキルなどを指すと表現して良いだろう。

 範囲攻撃に相当するモノを指す言葉であるのだが、つまるところは遠距離攻撃。報復ビルドの天敵である遠距離攻撃に対する火力を上げようと、今のタカヒロは色々と試行錯誤を行っている。

 

 そもそも報復ダメージとは、近接攻撃を受けた際に攻撃者に対して強制的に叩き込まれるダメージだ。しかしながら、この“近接攻撃”という言葉にも少しばかり語弊があると言って良いだろう。

 報復ダメージが発動する条件・しない条件を簡単に説明すると、報復者・武器・攻撃者の3つが“物理的に繋がっているかどうか”と言えるだろう。故に59階層の精霊の場合、距離的には遠距離ながらも己の身体である触手を使った攻撃であった為に、あの時も報復ダメージは発生していたのだ。

 

 

 だがしかし、単にガントレットと同じ効果があるものを2つも3つも装着すれば強くなるかとなると、そういう単純なものではない。装備パズルとは様々な要素が絡む、複雑怪奇な代物なのだ。

 

 例えば現在の装備におけるショルダーを、ガントレットと同じ効果のモノに入れ替えたとする。するとカウンターストライクは6レベルも下がることとなり、同時に毒酸・出血・エレメンタル耐性が圧倒的に足りなくなる。

 それを補うためにコンポーネント剤を“刃の板金”から耐性系に入れ替えると、星座の効果による上昇値を差し引いたとしても報復ダメージはベース値が200、倍率も100%程がダウンしてしまうことになるだろう。実数値17万弱、倍率1800%程となる現在の物理報復ダメージからすれば、僅かな数字に見えてしまうかもしれない。

 

~~~~

 

 それでも実数としては、ざっくり計算で8%程の報復ダメージが低下してしまう。カウンターストライクのスキルレベル低下に伴い性能低下も顕著さが芽生えるために、対遠距離火力は更に悪化することになるだろう。

 星座の取得によって使用可能なスキルは更に40%の値が上昇することになるのだが、これは常時において発動しているものではない。発動している時と発動していない時の差は、より一層のこと顕著となってしまうのだ。

 

 故にいくら星座の恩恵が上がるとはいえ、安定性を取るならばヘファイストス産装備は1つで押さえておくのも、決して悪い選択ではない。特化しすぎては、その他がおざなりになってしまうのが傾向として挙げられる。

 

 

 というのが今までタカヒロが考えていた内容だが、ヘファイストスが口にした序盤の一言で枠組みは既に崩壊。2つ目が欲しいという意欲は、既に成層圏を突破している。流石に3つとなると性能が偏り過ぎるが、2つならばなんとかなるはずだ。

 肝心となる黒竜のリポップについては、期待できそうにないことは分かっている。しかしながら、どうにかして“黒竜の鱗”というドロップアイテムを手に入れなければ話が始まることも無いだろう。

 

 

 成功するかどうかはわからないが、青年の中に“アテ”は1つある。徹夜での装備パズルの検証を終えたタカヒロは睡眠をとり、翌日の朝食後、行動を起こすべく武具を用意する。

 本日は珍しく雨模様、先が思いやられる天候と言えるだろう。そしてバロール戦においてノードロップを経験しているだけに、タカヒロは保険をかけるようだ。

 

 

 依頼主の視点曰く、善は急げ。そんな人物が保険を掛けるために必要な――――

 

 

「ベル君。一昨日の事ではなく、今日はもう1つ頼みがあるのだが」

「はい、何でも仰ってください!」

 

 

 

「もっと深く、潜ろうか」

 

 

 

 犠牲者ベル・クラネルが持ち得る綺麗な真紅の瞳から、ハイライトが消えていた。

 




■ガントレット装着+肩を取っ払た場合
・各種耐性(ダンまち環境、トグルバフのみ有効化)
物理:83.4   エレメンタル:84+63%
毒・酸:84+19% 刺突:87+73.6%
出血 :84+33% 生命:84+93%  気絶:84+57%
カオス:87+54% イーサー:91+72.6%
・その他
手の装甲値+1700ぐらい?
-3% 攻撃速度
-6 カウンターストライク
-3 ファイティングスピリット
-25% 中毒時間短縮
-45 攻撃能力
-1184 ヘルス
+6% 装甲強化
-85 物理報復(*1744%)
+4% 全報復ダメージ

■神話級 ドレッド アーマー オブ アズラゴー
・アズラゴーは、 陰険だが議論の余地なき戦術をとることで、 騎士仲間の間で恐れられた残忍な男だった。
レジェンダリー ヘビー チェストアーマー
1908 装甲
(付与される可能性のある数値 最小/最大)
+11-16/17-24 生命力ダメージ
+69/+104% 物理ダメージ
+69/+104% 生命力ダメージ
+69/+104% 体内損傷ダメージ
+69/+104% 生命力減衰ダメージ
+7%    人間からのダメージが減少
+28/+42 攻撃能力
+3/5%   物理耐性
+213/319 生命力報復
+88/+132% 全報復ダメージ
+3 ウェンディゴ トーテム
+2 メンヒルの意志(対象スキル)
+2 スペクトラル バインディング
+2 神聖化(対象スキル)

■アズラゴーの戦術 (アイテムにより付与)
・アズラゴーの戦術を受け入れよ。 陰険で疑わしい術だが、 結果に異議を挟める者はいない。
4 エナジー / 秒
250 エナジー予約量
15 m 半径
+12-25 生命力ダメージ
+4% 攻撃ダメージをヘルスに変換
+24% カオス耐性
+300-460 物理報復

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