その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

150 / 255
149話 アイズの謎の片鱗

 では次は、と言うワケではないが、タカヒロもまたレヴィスに対して質問があるらしい。口調やフードに隠れた様相も変わらないが、この短時間で、随分と二人の距離は縮まったと言って良いだろう。

 

 オラリオが抱えている問題について、探すのに時間はいらない。闇派閥もさることながら、ダンジョンには、未だ“汚れた精霊”という存在が残っている。

 かつてタカヒロが「エレメンタルの成り損ない」と表現した内容は、大筋では正解の結果だった。しかし地上を目指している理由となれば全くの不明であり、レヴィスに対して問いを投げるも、彼女もまた、タカヒロの考察と同様の内容を返している。

 

 

「……分からん。アレはアリアと共に居ることを望み、そして地上を目指している。しかし、何のためなのかが分からない」

 

 

 ダンジョンにて反転した精霊と意思を交わすことは、もうできない。だからこそレヴィスが一方的な触手となり操られ、アリアを探すことを強いられた。

 

 

 汚れた精霊が“アリアと共に居る”ことを望んでいるという新たな情報を知ったタカヒロは、ここで精霊という存在について思い返す。オラリオへと来てからの知識ながらも、精霊とは基本として大・中・小の精霊に分類されている事。

 小精霊とは気まぐれな存在であり自我がなく、本当に清らかな場所へ行けば目にすることもできる。大精霊ともなれば全くの逆であり、今となっては、目にしたことがある者は上級冒険者の総数よりも少ないだろう。

 

 中精霊、大精霊ともなれば滅多に居ないとはいえ、例外なく妖精(エルフ)が崇拝している対象だ。大精霊ともなれば、神聖さや珍しさなど様々な理由により、エルフが向ける信仰は凄まじく大きいものがある。

 

 

 そして大精霊という言い方を変えれば、即ち“神々の一歩手前”。そしてオラリオにいる神々とは基本として、己の欲求に対して良くも悪くも素直な存在。

 ただ空を見たいがためにエレメンタルという存在を目指しているのではないかと、タカヒロは持論を口にする。これまた否定も肯定もできないレヴィスは、一旦は考察の内容を受け入れた。

 

 

「だがアレは、アリアを連れてくることについて生死を問わなかった。これは、どのような意味を示すのだろうか」

 

 

 この点はタカヒロも想像すらできておらず、腕を組んで考察するジェスチャーを返している。レヴィスも答えは出ないようであり、同じような姿勢となっていた。

 

 そもそもにおいて、タカヒロが気になっていたところの一つ。アリアを取り込まずとも、あれ程の分身を量産できるならば、数を揃えれば都市の封印を容易く突破できるだろう。

 少なくとも移動制限のないダンジョン内部において冒険者やモンスターを虐殺したならば、突破できるだけの力は容易く身に着けることができるだろう。そう考えているタカヒロは、ギルドという存在を思い返す。

 

 

 そのような選択の実行を妨げている存在があるとすれば、ギルドの地下で行われているウラノスの“祈祷”。先程タカヒロが感じた違和感も、59階層の一件から戻った際の報告の場で、ウラノスが発した言葉に起因する。

 

 

 ――――我が愛せし“カレの命の代償”……カレとは、かつての古代において、ダンジョンで散っていった英雄たちのこと“だろう”。

 

 

 この一文を耳にした時、最後の言葉に違和感を感じていた。そもそもにおいて神々が地上へと降りてきたのは、モンスターの侵攻に苦しむ人々に対して助力する為だったのではないか。

 見る、という動詞を人間的に表現するならば、モノを視覚的に捉えること。しかし神々の基準における“見る”とは、その程度に収まらない。

 

 数多の世界とまではいかないかもしれないが、少なくとも、地上で起こっていた事態は目にしていたはずだ。神とは本来、おおよそ人の水準で計り知ることのできない存在なのである。

 

 

 言葉のあや、と言うわけではないが、表現の問題だった可能性もあるだろう。故にそこまで気に留めていなかったタカヒロだが、此度の一件で疑問へと変わった。

 ならばウラノスが“精霊が食べられた”と表現した点についても引っ掛かりが生まれるが、現時点では情報が何もない。よく知るレヴィスが「神の成り損ない」だというのだから、経過は不明とはいえ、結果として存在しているモノはそのような内容なのだと腑に落ちていた。

 

 これも言葉選びと言ってしまえばそれまでだが、カレを彼と表現するならば男性の一人称。故に汚れた精霊は、とある一人の男に執着のようなものを持っていたのではないかと想定した。

 原因や経過は不明なれど、いくつもの精霊が集合体となってなお、そのような感情を抱く存在。その者が有名か無名かは分からないが、歴史に名を馳せた人物ならば、タカヒロは一人の男の名前を知っている。

 

 

「……レヴィス。アルバートという男は、アリア以外の精霊からも好かれていたのか?」

「よく知っているな、伝記とやらにも書かれているのか?」

 

 

 アリアと共に、伝記“ダンジョン・オラトリア”に書かれ、他の数ある御伽話においても登場する大英雄。史上最強の剣士としても知られており、未だ最強との呼び名が高い。

 英雄にパートナーの存在は付き物であり、例え相方が複数居たとしても珍しい存在ではない。第三者が書いた記録においては、大なり小なり湾曲していることもあるだろう。

 

 答え合わせとしては、アルバートはアリア一筋のために、俗にいうハーレムでこそないものの。伝記に書かれる大英雄は、精霊から非常に好かれていた存在だったらしい。

 レヴィスも同じパーティーではないために風の噂程度に知っていたのだが、今となってはアイズがアリアの子供だと言っている点も知っている。タカヒロもそのように考えているのではないかと推察したレヴィスは、とある事実を口にした。

 

 

「知っているとは思うが、精霊と人では子を成せない。だからこそ、あのアリアに子供がいるワケがない」

 

 

 例を挙げれば、エルフとヒューマンとの間に子が出来れば、基本としてはハーフエルフが誕生する。しかし例えの一つとしてキャットピープルとエルフとなれば、その間に子が生まれることはない。

 極端なことを言えば、人が馬と交わっても子を成す結末は全く無しだ。このように器そのものの相性が悪ければ、物理的には繁殖が可能な生命だろうとも生まれない命も確かにある。

 

 では、地上に暮らす者を超える存在となればどうだろうか。例えばオラリオで普通に暮らしている神が人と交わっても、子が生まれることはない。

 神と子では、器が違う。つまるところ器そのものの相性が壊滅的であり、器という言葉を“それっぽく”表現するならば“魂”と言えるだろう。

 

 

 神や精霊の魂を人と比べたならば、双方の格差が大きすぎる。故に精霊と人との間に、子供が生まれることはない。

 神と精霊ならば人よりは近いために可能かもしれないが、先の例えで精霊が神に置き換わるならば可能性の低さはゼロそのものだ。どこかで何らかの“事例”があったかは闇の中ながらも、だからこそ、そのような内容が“知識”として残っている。

 

 

 ――――というのが、オラリオにおける“通説”。タカヒロからすれば「試した奴がどれだけいるのだ?」と言いたげなのだが、これには裏付けに基づく理由がある。

 なんせ彼は、ケアンの地において神とヒューマンのハーフやクオーターを見てきたのだ。絶対数だけならば片手で事足りる程度ながらも、目にした事実は変わらない。

 

 もし仮に“できない”とするならば何故、神話の中にも“神が人の子を孕ませた”という描写が存在しているのか。アイズが精霊の子と仮定した時、タカヒロは、その点が引っかかっていた。

 

 否定ばかりしていても始まらないので、精霊と人の間には子供が出来ない点について真実だと仮定する。一方で、物語には書き手が居ることを思い浮かべていた。

 場合によっては神かもしれないし、精霊かもしれないし、人かもしれない。それこそ書き手とは、この3点に納まらない存在の可能性であることも十分だ。

 

 書き手の立ち位置がどうあれ「人」と表現する器、それは見た目的な話だろう。故に単純な考えとして、一つの道が残されている。

 

 

「精霊が人間と神の中間に位置するならば、精霊が人に堕ちたとは考えられないだろうか」

「……どういう事だ?」

「これも仮定の話だが、何らかの理由で……人間が、精霊アリアへと血を分け与えた」

 

 

 人間が精霊の血を得ることで精霊へと近づくならば、その逆が起こっても不思議ではない。根拠なんて何もないタカヒロだが、純粋に逆の発想をしてみた結果である。

 ならば、人間アルバートと器が変わった精霊アリアとの間に子が生まれる可能性とて十分に存在する。仮の話と分かっていながらも筋が通る話を耳にして、レヴィスは問わずにはいられない。

 

 

「……ではお前は、アイズ・ヴァレンシュタインをどのように捉えている」

 

 

 精霊の血が混ざっていながらも見た目は人間――――今回の場合はヒューマンという種族と何ら変わりない容姿を持つ、ヴェルフとアイズ。そのことを脳裏に浮かべたタカヒロは、自然と眉間に力を入れた。

 つられてレヴィスは緊張が芽生えてゴクリとつばを飲み込み、出される答えがどうなるかと勘ぐるも僅かに想像もできはしない。そして、今までの情報からタカヒロが導き出した結論は――――

 

 

 

 

 

 

 

「全く分からん」

「んなっ!」

 

 

 思わずレヴィスもズッコケる反応を見せる程に、相変わらず淡泊であった。普段と変わらぬ仏頂面が、輪をかけてシリアスさを打ち砕いている。

 

 そんな結論となった最も大きな理由としては、仮にアイズがアリアとアルバートとの間にできた子供だったとしても、時系列に矛盾が生じる為。約1000年という時間の空白を、どう頑張っても常識の範囲内で埋めることが出来ないのだ。

 僅か7歳という年齢でロキ・ファミリアへと加入したことも謎――――と考え、美少女に目がないロキ(一般基準のロリコン)ならば可能性はゼロではないとも考えている。故に残る謎は先の時間という空白だけながらも、此度のレヴィスのような経過ではないだろう。

 

 

 恐らくはアイズ本人に聞けば、真実を教えてくれることだろう。しかしそこに大きな闇があった場合、掘り起こしてしまうことに他ならない。

 せっかくベルとの間に良好な関係を築けているのだから、ベルの為にも、あまり触らない方がいいだろうとタカヒロは考えていた。これは、アイズを育ててきたリヴェリアに聞いた場合も当てはまると考えている。

 

 

 事実は明るみに出るべきである、という言葉があるように。知らないままの方が良いことも、確かにあるのだ。

 

 

 それはさておき、何より望むモノのためならば、相手が人間だろうと神だろうと関係なく挑むように。その男にとって、種族というのは単なる“見た目の区別”に留まっている。

 故にタカヒロにとって、アイズはアイズ。リヴェリアはリヴェリア以上でも以下でもない。共に居る者が人間だろうと神だろうと、彼にとっては関係のない事だ。

 

 

 此度のウラノスへの協力とて、言葉を言い換えれば、“ウラノスという神にとって都合のいい事象”を成す事について助力しているだけの話。ケアンの地でも散々にわたって繰り返されてきた、神々の争いの一環と捉えても過言は無いだろう。

 タカヒロが助力を惜しまないのが、その結果がリヴェリアやベル、アイズ達が住まうオラリオの平和に直結する為だ。そしてヘファイストスまで消えてしまったら、装備の更新もままならない。

 

 そのように考えると、やっていることはケアンの地と変わらないのだなと意識してしまい溜息を漏らしている。どの道この答えに辿り着くようで、ある意味では一種の呪縛と表現しても過言ではない程だ。

 

 

 

 もっとも、ケアンの地を駆け抜けたウォーロードが選択する方法は唯一つ。

 

 どの道になろうとも真正面から立ち向かい、粉砕する。今も昔も、他の選択肢など存在しない。

 

 

 

 そんな変わらない方針と、似たようなベクトルと言えるだろう。タカヒロが口にした“アイズはアイズ”という考えに対して少し腑に落ちるところがあったレヴィスとて、やはり抱く考えは変わらないらしい。

 

 

「――――それでも私は、アリアに子が居るとは思えない」

「何故、そう思う」

「何故だ、だと?」

 

 

 眉間に力を入れ、レヴィスは顔をタカヒロへと向けている。まるで一触即発な状況であり、空気は非常に重苦しく――――

 

 

「奴の男に対する不慣れ具合を甘く見るな!アルバートが優しく声を掛けただけで、真っ赤に茹っていた程の奴なのだぞ!?」

「そう来るか」

 

 

 どこかのlol-elf程ではないが、似たような何かと表現して過言は無いだろう。故にタカヒロとしては、精霊アリアが見せていたポンコツ具合が手に取るように分かってしまう。

 とはいえ時が経てば、いつかは慣れも生まれるだろう。結果としてアイズ・ヴァレンシュタインが生まれたとしても、それは何ら不思議なことではない。

 

 

 そんなこんなで話し込んでいるうちに、いくらか食料を見つけたのかベルが駆け足で戻ってきた。しかし表情は思わしくなく、どうやら重大な問題を抱えているらしい。

 

 

「師匠、いくつか食べられそうなものを持ってきたのですが……正直、食べたことがないので、分からないです」

「彼女に食べさせてみろ、それで分かる」

「なるほど!」

「おい待て」

 

 

 ナチュラルに人体実験をさせられそうになるレヴィス。食あたりをしてもポーションで治せるとはいえ、事が起これば色々と問題だ。

 そもそもにおいてリフトを使えば街へと戻ることが出来ると気付いたベルは、そろそろ帰りましょうと提案する。闇派閥に見られては宜しくない為にタカヒロはローブを取り出し、レヴィスに羽織らせた。

 

 そして3人は、リフトにてオラリオの西区へと帰ってくる。前代未聞の能力に驚くレヴィスだが「レベル100ならこんなものか」と謎の納得を見せており、特にツッコミを入れることもしていない。もし仮に装備キチの他にレベル100が居たとしても、風評被害が甚だしい。

 ともあれ空腹、可愛らしく表現するならば“お腹ペコペコ”な彼女のために近くの屋台へと寄り、三人揃って軽く腹ごしらえ。久々の食事が美味しいのかよく分からないレヴィスだったが、ともかく、ヘスティアが待つホームへと足を向けた。

 

 一応ながら“1-2日ほど留守にする”旨のメモを残していた為に、ヘスティアも心配はしていない。可愛い可愛い第二眷属が一緒に居る為に、逆に二人が帰ってきてからの自分の()を案じているのは危険察知能力の賜物だ。

 黒竜がいる階層まで降りていたことと多数の戦闘やレヴィスの一件が加わったこともあって、予定は大きく間延びしている。朝食後の出発だったが、帰還は翌日の昼になった恰好だ。

 

 

「神様、ただいま戻りました!」

「おっかえりベルくーん!」

 

 

 年相応の笑顔と、元気な女神。いつも通りに交わされる、帰宅の挨拶。

 ヘスティア・ファミリアでは、まさに日常と言える光景だ。しかし本日は、これだけでは終わらない。

 

 

「神様。実は一人、新しい眷属を推薦したいと思うのですが!」

「ん?本当かい?」

「はい。レヴィスという名前の、女性です!」

 

 

 ベルの後ろへと視線を向けたヘスティアは、レヴィスが持ち得るプロポーションに優れた姿を目にして片頬を膨らませる。しかしながらレヴィスと共にやってきた問題は、そんな単純明快な代物ではないのが現状だ。

 

 

 一方で。特大戦力を引っこ抜かれた緊急事態を闇派閥が知る由もなく、突如として姿を消したレヴィスを探す為に可動戦力のリソースを大きく割かれる事になるのだが、これはまた別の話である。

 




ヘスティア・ファミリアに爆弾が持ち込まれたようです。二次創作にしたかって、ぶっ飛んだシナリオですね。

原作にある「アリアに子がいるはずがない」との言い回しは、“人間と精霊で子がなせない”ではなく別の要因が絡んでいると思います。
アニメや漫画版が“正”とは言いませんが、アイズの容姿が母親と似すぎている点も気になりますね。
エレメンタルの考察で出てきた“風の精霊=緑”という内容の表現がアニメ版においても希薄ですが、“極彩色”の表現も疑問符が付く内容だったので、色については不明です。
(そもそもにおいて神話における“精霊”という存在は自然発生するものですし……)

あとレヴィス自体、異端児の人間寄りバージョンなのでしょうか。原作ではソードオラトリアの主人公(であるはずの)アイズと大いに絡んだ割りに退場がアッサリしすぎたので、また戻ってきそうですね。

原作においては本当に情報が何もないので、本作ではこのような形といたしました。闇派閥は、もっと絶望を抱いて貰います(愉悦)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。