その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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GDパート(装備更新)が続きます。例によって「~~~~」の間は読み飛ばして頂いても問題ございません。


154話 浮かび上がった選択

 ファミリアとしての活動と一括りにしても、ファミリアによって異なる内容を指し示すことが多い。大きく分けて冒険と生産に分かれておりファミリアごとに特色が強いため、その点は仕方がないだろう。

 加えてヘスティア・ファミリアとなれば、ロキ・ファミリアと共に鍛錬を行うことも珍しくは無い。ヘスティア・ファミリアの一員であるタカヒロも様々な事情でロキ・ファミリアと絡んでいるが、今日は、そのようなやり取りもスケジュールには無いらしい。

 

 分かりやすく言えば、タカヒロにとって今日はオフの日。故に仕事よりもヤル気は高く、物事(趣味)に没頭できるというものだ。

 

 

「ブーツの部位が、最良か……」

 

 

 それが、様々なパターンを検証した結果、導き出された青年の答えであった。候補となっていた部位は足と肩と腰であり、1日における所要時間は様々なれど、ここ10日間にわたって行われた書面の格闘が終わった時でもある。

 かつてヘファイストスに作って貰った、“オブ ザ オリンポス”のAffixが付与されたガントレット。部位違いで同じ性能のモノを装備したいがために、行われていた検証である。ちなみにだが、肩の装備に付属しているAffixにて耐性を確保するパターンだ。

 

 導き出された解答が記されている羊皮紙を中指で軽く弾き、青年は立ち上がった。時間としては昼を過ぎた頃であり、アポイントを取っていないが逸る気持ちは抑えられない。

 さっそくヘファイストスのところへ訪れると、もはや顔パスのレベルで執務室へと通された。ファミリアの者はここで退出しており、それを見届けたタカヒロは、インベントリから必要な素材の数々を取り出している。

 

 

「この素材に、その顔……防具作成のご依頼かしら?」

「ああ、これらの素材は見たことがあるだろう。以前のガントレットと同じ“条件”で頼みたい。作成部位は、ブーツだ」

「オッケー。前の書類は残ってるわ、任せておいて!」

 

 

 同じ条件ということで、支払い予定は2億ヴァリス。握手にて契約となり、ヘファイストスはさっそく準備に取り掛かった。

 彼女としても、これほどの防具が打てるとなるとスイッチが入る模様。素人のタカヒロが目にしても“他の仕事そっちのけ”の態勢になっており、目は玩具を見つめる子供のソレと同等だ。

 

 今回はガントレットの時の経験を活かし、事前にブーツのサイズなどをある程度は把握しておくこととなっている。人によって足幅が広い人も居るなど、何かと重要な項目だ。

 そんなこんなで採寸に30分ほどを費やし、「楽しみにしている」と言葉を残してタカヒロは帰宅した。書き残した羊皮紙を眺め、残りをどうするべきかと楽しい悩みに耽っている。

 

 

 闇派閥の事など空の彼方である。暇つぶしに60階~64階層のマップ埋めをしているうちに日付は飛ぶように流れ、四日後の早朝。ヘファイストス・ファミリアが開店する前の時間帯に、タカヒロは執務室のドアを叩いた。

 そこに居たのはヘファイストス自身であり、前回において目にした装備のブーツ版が厚手の布の上に置かれている。アイテム名もガントレットがブーツに書き換わった程度のものであり、残るは数値ガチャだけの内容だ。

 

 許可をもらい、タカヒロは装備を手に取って確認する。するとほんの一瞬なのだが、眉間に力が入ったのだった。

 大満足でニコニコとしていたヘファイストスは、その一瞬を見逃さない。何かあれば鍛冶師として申し訳が立たないために、あくまでも気さくさを残して何事かと問いを投げる。

 

 

「……あら、何か問題があったかしら」

「い、いや……大切に使わせてもらう。ところで価格は前回の通りと話をしていたが、支払いの期限はあるだろうか?」

「素材もほとんど持ち込みだし、いつでもいいわよ。あら、誰かしら」

 

 

 急用らしく話を区切るように団員の者がドアをノックし、ヘファイストスに用事があるようで、彼女を場所へ来るよう催促していた。一人残るわけにもいかないためにタカヒロも続いて部屋を出ており、二人はここで別れることとなる。

 彼はそのままホームへと帰還しており、自宅のテーブルにブーツを置いて眺めていた。まだ床を踏んでいないために、テーブルの上に置いても問題はないだろう。

 

 

 ところでこの装備キチ、念願の2つ目となる“オブ ザ オリンポス”の装備だというのに気が乗っていない。これでは、ウラノスやフェルズが流した胃酸が無駄になるというものだ。

 しかしながら、仕方のないことでもある。不壊属性(デュランダル)を除いて5つある項目の内、たった1つが前回と違っていたのであった。

 

 例えで表現するならば、まるで“醤油ラーメン”を注文したら“中華そば”が出てきたかの様相。どちらも似たようなモノ、と書けばお叱りを受けるとはいえ、“オイシイ”ことに変わりはないが、何かが違う。

 

 此度においては、エンチャントの報復部分が該当する。報復ダメージの種類が“物理報復”ではなく、“酸報復”であったのだ。

 

 

■デュランダル・ネメシス ブーツ・オブ ザ オリンポス

・レアリティ:レア

・装甲値:1730

不壊属性(デュランダル)

+19% 物理耐性

+15% 装甲値

+991 酸報復ダメージ

+80% 全報復ダメージ

+40% 星座の恩恵効果

 

 

 確かに、報復の心得との注文は行っていた。しかし、それが物理なのか火炎なのかなどは伝えていなかった。

 もっとも、伝えたところでこの世界においては報復ダメージなど存在しないために、そこまで指定できたかどうかは怪しいところがある。酸報復のためか数値は物理報復より高いものの、素直に喜べないところが装備キチとしての“サガ”だろう。

 

 とはいえ、作り直す手段はない。もう一回アセンションをしていいかとウラノスに直談判しに行こうにも、交渉材料を持ち合わせていない。

 また、作り直したところで“火炎報復”などになるパターンも在り得るために、そうなれば色々と無駄になってしまうだろう。酸報復でも“報復ダメージのn%を攻撃に追加”には反応するし、ベルトによって60%を物理変換しているのだから全くの無駄には――――

 

 

「っ、そうか……!」

 

 

 “酸報復”と“変換”という言葉から、ここにきて1つの閃きが浮かび上がる。かつて“物理耐性が確保できないから”という理由で避けた、とあるビルドが脳裏に浮かんだ。

 火力では純粋物理を上回る点は知っていたが、ディフェンシブなビルドを目指していたが故に触れることもなかった、とあるビルド。食わず嫌いと表現したならば間違いだが、単に見た目が気に入らなかったという事実も多少は影響しているだろう。

 

 

 ――――人読んで、“三神報復ウォーロード”。

 

 

 酸報復を物理報復に変換して“結果として物理報復となる”という特殊なビルドとなるのだが、火力については純粋物理報復の2~3割増しとなる強力なビルドである。決して主神ヘスティアの胃酸ダメージを増幅させて胃壁に穴をあける(物理変換する)と言ったことが目的ではない。

 武器・盾・鎧・肩の4か所を揃えて“セット効果”を発動させる点も、また特徴的と言えるだろう。故に知名度は高く、タカヒロも何度も検討した効果を持ち合わせている。

 

 そもそもにおいて報復ビルドとは、ベースとなる報復ダメージを“全報復ダメージ+n%”のエンチャント効果で伸ばしていく代物。割合上昇であるために、元の値が高ければ高いほどに伸びしろがある点は説明するまでも無いだろう。

 

~~~~

 

 そこで純粋物理と三神との比較となるわけだが、セット装備となる武器・盾・鎧・肩と変換用の頭を入れた5か所で見ただけでも随分と差があるものだ。

 例えば、ベースとなるダメージの差。純粋物理報復の場合、この5か所での合計値はザックリ計算だがタカヒロの場合で3700程、全報復ダメージの増加倍率は360%だ。

 

 一方の三神装備による酸報復ダメージは下限~上限の振れ幅があるために中央値での計算だが、なんと5650もの値となるのである。倍率も530%となって170%もの差があるために、9割も変換できれば、ここだけ見ても攻撃力の差は2倍以上のモノがあるのだ。

 更に、例えばこの数値を9割変換した値は5650*0.9=5085となり、ここに1900%もの全報復ダメージが上乗せされることとなるだろう。故に、最終的なダメージの差は一入(ひとしお)だ。

 

 そしてこの“属性変換”の面白いところなのだが、通常における物理ダメージは“狡猾”のステータスによってボーナス値が変動する。例えば狡猾値が1000あるならば、約420%の値がボーナス倍率として“加算”される事になるのだ。

 この“狡猾”のボーナスは純粋な物理報復ダメージに対しては影響しないのだが、属性変換で物理となった報復ダメージとなれば話は別。狡猾のステータスに依存する上昇%ボーナス、此度においては約420%が、酸から物理に変換された分のダメージに上乗せされるのだ。

 

 

 “だったらベース値が高い三神装備の酸報復を物理に変換すれば強いんじゃない?”となるのは、自然な流れと言っても過言ではないだろう。単純に報復ダメージだけが装備効果ではないものの、その差は一目瞭然と言えるために猶更だ。

 とあるヘルムとベルトに付与されているエンチャント効果を使用して、通常と報復における酸ダメージの90%を物理ダメージに変換してしまえば凡その目標は達成できる。タカヒロが持ち得る無駄に厳選した装備ならば、2か所合計で96%の数値を変換することが可能なのだ。

 

~~~~

 

 とはいえ当該装備に変更することによって攻撃力が上がる一方で“体格”や“ヘルス”が減ることなどもあり、先にも述べたが物理方面の耐久性については若干の不安が残るのだ。かつてはカバーできる装備がどこにもなかったために、防御面を優先するならば自然と純粋物理報復となったワケである。

 しかしながら、ご存知ヘファイストスパワーで作られた装備によって、星座による回復効果や物理耐性・装甲値は強烈な値が確保されている。故に、その点に関する憂いはどこにもないのが現状だ。

 

 幸いにも、見た目なんぞは“幻影”で変えてしまえば良い。少しでも強くなるために色々とやってきた青年からすれば、この選択肢をドブに投げることなど在り得ない。

 収集癖が幸いして、三神報復ウォーロードに必要な装備は厳選済みで揃っている。そして何より、今までは“己が死なない”ことを最優先としたビルドだった。

 

 しかし、誰かを守るとなれば自発火力の高さも非常に重要となることは言うまでもない。ならば猶更のこと、目の前にある可能性を追わないという選択肢は在り得なく――――

 

 

「……また、パズルのやり直しというワケか」

 

 

 ここ10日間程の頑張りが、全くの無に消えた瞬間だ。溜息こそ出てしまうが、その顔は情熱が籠っていると表現して過言は無いだろう。

 ヘファイストスの逸品が腕と靴の部位である点も、まさに運命的な選択と言うしか言葉が無い。この現実こそ、三神報復ウォーロードにジョブチェンジしろと“お告げ”があったような運命と言えるだろう。

 

 

 ところで、先程から出てきている単語“三神”とはいったい何か。それはケアンと同じ世界にあるコルヴァンの地において、オカルティストが崇める3名の“魔神”を意味する言葉である。

 オカルティストとはジョブの1つであり、簡単に言えば毒・酸や呪詛を使う黒魔導士のような存在だ。召喚魔法も扱うことができ、その技法には、先の三神の力が使われている特徴を持っている。

 

 ・魔神:Solael(ソレイル)

 三神の最若年者で、業火と破壊に纏わる神。

 

 ・魔神:Bysmiel(ビスミール)

 三神のうち唯一の女性神で、主従関係に纏わる神。

 

 ・魔神:Dreeg(ドリーグ)

 三神の最年長者で、毒と再生に纏わる神。一番マトモな性格と言われている苦労神。

 

 そしてこの三神は、コルヴァンの地を乗っ取らんとして蘇ったコルヴァーク(太陽を司る原初の神)を潰すためにタカヒロを鉄砲玉として扱った集団でもある。三神報復ウォーロードに使う装備は、この三神のうち魔神ドリーグの力が込められた“神造防具”なのだ。

 鉄砲玉の射線が己に向かないか天界でヒヤヒヤしていたドリーグだが、これにて不安の1つが解消されたことだろう。恐らくは大手を振って、その道を選んだタカヒロを歓迎しているはずだ。

 

 

 そうと決まれば、さっそく装備を選定して計算のし直しだ。このビルドの特徴として手足以外の防具が固定される傾向があり、此度においては手足もヘファイストスの防具2種類で固定されているために、フリー枠としては指2か所とメダルのみ。

 故に、あまり時間は要さない。一応今のところは仮の域を出ないながらも、装備の選定は三日程度で終了した。

 

 まさに、己が望んでいた究極の装備となったと言っても過言はない。それによって増減したステータスポイントを“再構成のトニック(ポーション)”でリセットして振り直しているために、微細ながらも増加度合いは猶更だ。

 しかしながら、背中に刻まれた“ステイタス”は以前のままの数値となっているだろう。故に既存のままでは反映されない恐れがあるために、タカヒロは念を入れて、ヘスティアに対してステイタスの更新を申し出ている。

 

 

 

 

 場所は変わってホームの狭い空き部屋。椅子に座る第二眷属の背中を眺めるヘスティアは、鍛えられた直感から嫌な気配は感じ取っていた。

 眷属になってから3回目となる、ステイタス更新。それも此度は青年自ら望んでのモノであるために、警戒度合いは猶更である。日頃の行いは非常に大切だ。

 

 それでも青年は、己の眷属に他ならない。覚悟を決めてステイタスの更新を行ったのだが、やはり己の直感は正しかったと片眉を歪めている。

 

 

「……タカヒロ君。レベルは相変わらず100だし、その割に“器用(狡猾)”のアビリティが物凄く伸びてるのは、ベル君の前例があるから何も言わないよ」

「……そうか、ではこれで」

「待てい」

 

 

 何事もなかったかのように上半身裸のまま立ち去ろうとするタカヒロだが、その願いは叶わない。逃がすものかとヘスティアはガッチリと肩を掴んでおり、青年もまた強行突破する気は無い様だ。

 

 

「でもさ、1つ聞いていいかな?」

「問題でもあったのか?」

「その通りさ、コレを見てくれよ」

 

 

■アビリティ変化

 力 S :982 → B :710

 耐久Ex:6154→ Ex:5755

 器用C :686 → S :974

 敏捷I :0  → I :0

 魔力F :338 → F :330

 

 

「分かるだろ?なんで、(体格)耐久(ヘルス)魔力(精神)アビリティの値が“下がってる”んだい?」

「何もしていない」

「嘘を吐くなあああああ!今度は何をしたあああああ!!」

 

 

 珍しく棒読みの言い訳に対してガミガミと後ろからマシンガントークを放つヘスティアに対し、仏頂面は平常運転。この程度で沈まなくなった分、ヘスティアもまた成長を遂げているのだろう。

 今日も賑やかなヘスティア・ファミリア。此度においては秘密事項が口に出されていないが、主神の胃が休まる日は、まだ遥か先の日程なのかもしれない。

 

 

 そして、やっとこさ完成かと思い装備一覧を眺めた青年タカヒロ。しかしながら整理を行っていた際に、“とある装備の設計図”の存在に気づいてしまう。

 これを鍛冶の神に依頼したならば、どうなるか。結果はどうあれ、可能性があるならばチャレンジあるのみ。

 

 

 こちらのパズルが完成する日も、また少し先の話なのかもしれない。

 




 オラリオには居ない“三神”の説明が含まれていますが、紹介程度ということで。

■三神報復ウォーロードはVer1.1.7においてピンポイントで5656されました。それでもソコソコ強かったのですが1.1.9でトドメを刺された感じです。(本小説はVer1.1.5.4)
 物理変換のボーナス420%は装備や星座の恩恵込みの数値でして、ステイタスだけ(狡猾974)だと確か360%ぐらいだったと思います。

■アビリティ変化
 力 :S :982 → B :710
 耐久:Ex :6154 → Ex:5755
 器用:C :686 → S :974
 敏捷:I :0  → I :0
 魔力:F :338 → F :330
・ポイント振り分け
 体格:20pt
 狡猾:78pt(ヘスティアからの1pt含む)
 精神:10pt

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