その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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155話 ヘファイストスが本気を出すようです

 “善は急げ”というワケではないが、“思い立ったが吉日”とはよく言ったものだ。流石に真夜中に突撃するのは気が引けたのと少し検討をしたかったために翌日の昼過ぎとなり、タカヒロはヘファイストスのところへと足を運ぶべくホーム入り口のドアを開いた。

 

 

「おや。タカヒロ様、お出かけですか?」

「ああ、少し用事があってね。ヘファイストス・ファミリアのホームへ行ってくる」

「了解しました!」

 

 

 珍しくリリルカに見送られ、タカヒロはホームのドアを開き外に出る。強めの陽射しが午後であることを強調しており、もう少し日が強ければ、外へと出る意欲を減衰させてしまうだろう。

 ここ数日だけでも足を運ぶ頻度が多すぎるために、道中にて手土産となる焼き菓子を用意していた。この辺りの細やかな気配りは、何か物事を頼むうえでは大切なことと言えるだろう。決して“賄賂”ではない上に、そんな焼き菓子よりも、持ち得る素材(賄賂)の方が何百倍も効果的だ。

 

 贈り物用の袋を片手に、タカヒロはバベルの塔へと到着する。昨日の今日であるために代わり映えなどどこにもないが、ショールームに並ぶ武器防具の数々は、見ているだけでも飽きないものだ。

 その根底は、女性が衣服を眺める時に近いものがあるだろう。約束の時間までに少しあるためタカヒロもショールームの中を見学していると、後ろから声を掛けられた。

 

 

「タカヒロさん、お疲れ様です」

「おや、ヴェルフ君こそ。休憩だろうか?」

「はい、一区切りつきまして。ご用命ですか?」

「ああ、神ヘファイストスに頼み事があってね」

 

 

 タカヒロ曰く、“試しに防具を1つ作ってもらいに来た。”前回のガントレットの時を知っているヴェルフは、今度は何かと期待と緊張が半々である。

 時間もあるので立ち話と洒落込むこととなり、タカヒロは、自分の防具作成にヴェルフが関わっているかどうかを尋ねている。回答としては、雑用程度ながらも参加しているとの内容だ。

 

 とはいえ手伝いがてら作業を見ているヴェルフからしても、勉強になることが多すぎて逆に混乱する程の技術が湯水のように使われているらしい。その点で言えば、ベルとタカヒロの関係にも似ているだろう。

 だからこそヴェルフの技術は昔とは比較にならないものがあり、今しがたできた一振りの剣を持ってきたのだが、その差はタカヒロでも分かる程。それでいて彼の持ち味である使用者を想う心は欠片も損なわれていないという、性能は関係なしに“思わず使いたくなる”武器だ。

 

 素材の影響もあってエンチャントこそ発現していないが、それも時間の問題だろう。もしかしたら使うドロップアイテムによっては、既に付与することが可能かもしれない。

 至高の装備を作ってくれるヘファイストスとは違うベクトルで、この鍛冶師が作る武器も青年の中では小さな愉しみの1つである。彼女から比べればまだまだ(つぼみ)の存在がどう花開くか、思わず期待してしまう程だ。

 

 そんなことを考えていると時間になっており、タカヒロはヴェルフと別れてヘファイストスの執務室へと足を運ぶ。土産の袋を手渡して彼女がお礼を述べると、さっそく交渉の席に着いた。

 

 

「神ヘファイストス。納品して頂いたブーツの代金を納入したいのだが、1つ相談があってな」

「素材で収めるってことね!」

 

 

 もはや、以心伝心の一歩手前。彼女の言葉と共に互いに拳を突き出す動作を行い、ここに契約は決定した。

 なお、相変わらず納期については特に明記されていない。ヘファイストスからすれば己の野望を満たしてくれる装備を打つことができているために、逆に料金を支払いたいレベルにあるのは誰にも言えない秘密と言って良いだろう。

 

 それはさておき、タカヒロは新たな依頼を出すようだ。「次は何を打たせてくれるのかしら?」と目を輝かせるヘファイストスは、まるで贈り物を貰う寸前の恋人のような様相である。

 その点については僅かにも触れられることはなく、インベントリから取り出されたのは、とある“レア等級”となるベルトの設計図。かつてヘファイストスが目にしたことのあるレジェンダリー品質から比べれば、大したことのない代物かもしれない。

 

 

 問題は、その品質の違いにこそある。前回のヘファイストスの説明によると、レジェンダリー品質の設計図においては新たなエンチャントの上乗せは不可能という内容だった。

 この点については、タカヒロが作った場合においても同じことが言えるだろう。数値のブレこそあれど、彼が作った際に付与できる効能は、設計図に書かれた代物以外には在り得ない。

 

 しかしながら、タカヒロがレア等級の設計図を基に作った際は話が変わる。アイテム名の前に“接頭辞”、後ろには“接尾辞”と呼ばれる2種類の固有エンチャント、“Affix"が付与されることになるのだ。

 ならばヘファイストスが作った際にも同じことが起こるのではないかと考え、こうして足を運んだわけだ。まずは設計図を見てもらい、どの程度の余裕があるかを確認している。

 

 結果としては、ガントレットやブーツにあるような“オブ ザ オリンポス”のAffixを付与する余裕は無いらしい。そうそう美味しい話はないだろうなと予想はしていたタカヒロだが、少し肩を落とす結果である。

 とはいっても、ある程度のエモノを付与できる余裕はあるようだ。何が好みかと聞かれたタカヒロは希望するモノこそあるのだが、分かりづらいために現物を使って説明することを選んでいる。

 

 

「ところで、ここに別の設計図があるのだが……」

 

 

 そう言って取り出したのは、1枚の別の設計図。先ほどのモノよりも大きめであり、ヘファイストスはすかさず全体を見回した。

 しかし疑問に思うところがあるようで、不思議に思うような表情を隠せていない。手を口に当てて少しだけ首を傾げ、タカヒロに対して言葉を発した。

 

 

「これは……ヘルムの設計図かしら?」

「ああ。神話級に引けを取らない、“最上級品質(レジェンダリー)”だ」

 

 

 瞬間、やはりヘファイストスが向ける瞳が一変する。今までの数々と同じく、これもまた見たことのないモノであるために無理も無いと言えるだろう。

 

 

 アイテム名、“ターゴの兜”。レベル94以上で装備可能なクラフト専用のヘルムなのだが、1つを除いて効能は目立たないものがあり、本当にレジェンダリー品質なのかと疑う程の代物だ。ヘファイストスも詳細は分からずとも、図面を目にしただけでこの点を察知して、疑問符を浮かべていたというワケである。

 

 しかし、その一点だけで価値がある。ここに記載されている特徴的な内容、“酸ダメージのn%を物理ダメージに変換”という機能が唯一無二の特徴と言って良いだろう。

 ビルドの選択肢の一つとしてタカヒロが厳選した装備の1つであり、所持している現物ならば設定されている最大値となる“酸ダメージの36%を物理ダメージに変換する能力”を備えている。

 

 タカヒロが望んでいるのは、この変換能力というワケだ。ダブルレアMIとなる現在のベルトにも60%の酸ダメージを物理ダメージに変換する能力を筆頭として様々なエンチャントが備わっているのだが、無論、楽をして手に入れたモノではない。何十万という特定モンスターを倒した果てに得たドロップ率0.00数%の逸品を選択肢から省くという、まさに世紀の大変革である。

 更新後のレアベルトは設計図を基に作られるとはいえ、タカヒロが作ったところで、属性変換のエンチャントを付与することは不可能だ。しかし“オブ ザ オリンポス”のAffixを付与できるヘファイストスならば可能ではないか、また、どこまで伸ばすことができるのかと、大きな期待を寄せているのだ。

 

 

「なるほど。この兜が持っている、この部分の能力を、さっきの設計図、ベルトに付与するというわけね」

「ああ。物は試し程度でいいのだが、一度試してくれないだろうか。素材は全て持ち込もう」

「素材の在庫は十分かしら?」

「無論だ、300セットはあるだろう」

「オーケー、相変わらず頼もしいわね」

 

 

 ニヤリと口元を釣り上げたのち、ヘファイストスは「どうしたものか」と悩む動作に入っている。聞けば頭の中で設計図を組み立てているらしく、単純そうにみえて複雑になるようで、あまり上手くいっていないらしい。

 やはり紙に書いて仕上げた方がいいとのことで、今日はここで区切りとなった。急いでも仕方がないことと時間としても夕方であり、丁度良いタイミングだろう。とりあえず、二日後に経過確認の予定と相成った。

 

 

 二日後に訪れる約束を取り付けるも、やはり気を紛らわすために50階層への正規ルートでシャトルラン4往復している“一般人”。こっちもこっちで再び50階層でソロキャンをしていたオッタルは生暖かい目を向けているも、問題の相手は全くもって気にしていない。

 もっともオッタルからすれば、2往復目で前回同様に差し入れを貰って気合と備蓄は十二分。ついでに短時間だが打ち込み相手も行ってくれており、礼を述べると己も実力試しに、カドモスの討伐へと向かっていた。

 

 

「いない、だと……!?」

 

 

 しかし残念、既に全て討伐された後の祭り。“狩場”とは早い者勝ちなのだ、リポップまでには時間を要することだろう。

 もちろん原因は、上へと登っていったソロプレイヤーである。上機嫌である上に目の前に絶好のカドモス(ベンチマーク)が居るとなれば、やることは一つに他ならない。ケアンの地に居た、如何なる攻撃に対しても絶対に壊れない“案山子(KAKASHI)”がオラリオには存在していないために、カドモスが割を食っている状況だ。

 

 

 そんなこんなで時は流れ、青年は約束の時間にヘファイストス・ファミリアへと訪れる。ガントレットの時と同じく、机の上には1つのベルトが乗せられている。

 アイテム名、“フィジクス・ドリーグ ヴェノムスパイン ガードル・オブ コンバージョン”。文字通りの未知のAffixであり、ガントレットの時と同じく期待に胸が躍ってしまっている。

 

 接頭辞であるフィジクス(Physics)とは、“物理”を意味する。接尾辞のコンバージョンとは“変換”であるために、接頭辞と接尾辞がセットとなって効果を発揮するモノなのだろうかとタカヒロは物思いにふけっている。

 ケアンの地においては二つセットで機能するようなAffixは無く、タカヒロも現物を見て期待と共に少し首を傾げた程。作成者のヘファイストス曰く、「単に1つの属性を変換することに全力を注いだ」とのことで、こうなっているのかもしれない。

 

 完全なオリジナルではなくケアンが産地であるがために、デュランダルは付与する必要はない。ともあれ、神が作った逸品であることに変わりはないと言えるだろう。

 許可を貰い、タカヒロはベルトを手に取って確認する。さて何パーセントの数値が変換されるのかと期待して値を見れば、いつかのガントレットの時と同じレベルの衝撃波に襲われた。

 

 

■フィジクス・ドリーグ ヴェノムスパイン ガードル・オブ コンバージョン

・レア ベルト

・102 装甲

+5% ヘルス

+14% カオス耐性

+1150 毒報復 (5 秒間で)

+55% 全報復ダメージ

+1 オースキーパーの全スキル

毒・酸ダメージの95%を物理ダメージに変換(ヘファイストスが付与)

エレメンタルダメージの12%を物理ダメージに変換(ヘファイストスが付与)

 

 

「毒も酸も似たようなモノだし、もうちょっとエンチャントを付与できそうだったから、ついでに他のダメージも変換しておいたわ!」

「やっぱアンタ史上最高の女神だろ」

 

 

 どっどどドヤドヤ。もっと褒めて良いのよ!と言わんばかりに胸を張り両脇に手を添えてエッヘン顔のヘファイストスは鼻高々で、職人よろしく「一仕事終えたぜ」と言わんばかりの満足げな表情だ。

 

 

 実のところ設計だけで二徹している、己の趣味に全力なこの女神。当たり前のように毒ダメージまで物理に変換しているというオマケ付き。

 彼女が口にした言葉、「毒も酸も似たようなモノでしょう?」。確かにヘスティアの胃袋に対しては五十歩百歩かもしれないが、少なくともタカヒロにとっては全くの別モノだ。彼にとっては嬉しい副産物とはいえ、相変わらずヘファイストスという神は、やること成すことがケアン基準においても常識の範囲に収まらない。

 

 「いらなかったら付与しないから言ってね!」と口に出すヘファイストスだが、この10%程度の属性変換でも1%程度は火力が向上するのである。話を蒸し返すが、“神をも殺せる火力”の1%だ。

 

 

 それを捨てるなんて、とんでもない。たった1%とは言えど、物理攻撃を運用するビルドとなれば必ず攻撃性能が上がる代物(エンチャント)なのだ。

 

 

「ふふふ、もっと褒めて良いのよ!」

「希望の貢ぎ物は?」

「深層の素材マシマシで!」

「了解した、また今度持ってくる」

 

 

 期待してるわ!とウキウキで答えるヘファイストスは、94階層の素材を要求中。言葉を受けたタカヒロは“またアレをやるか”と計画を練っており、同じファミリアの者とダンジョンに潜っているベルとリリルカの背筋に寒気が走った。

 ちなみに指輪やアミュレットなどの装飾品では小さすぎて、この効果を乗せることはできないらしい。タカヒロからすればノーマルの“ケアンの復讐者”辺りは既に凄まじい効果を持っているのだが、そこはプロにしか分からない制約があるのだろう。

 

 しかし、ここまできたら酸ダメージが100%変換できるのではないかと思えてしまうタカヒロ。己が作れるものではないために心苦しいところもあるのだが、そこはやはり“厳選”の対象だ。

 設計図を基にした作成については再作成依頼の可能性を伝えているために、その点についても問題はないだろう。しっかりと理由を説明し、此度はその条件を発動することとなる。

 

 酸から物理への変換が95%となっている内容を伝えると、ヘファイストスもプライドがあるのか表情が歪んでいる。やはり「そんな中途半端な代物は納品できない」と言葉を残しており、戦闘態勢へとスイッチした。

 とはいっても、無駄に作り直すだけでは意味がない。「少し時間をくれ」と言葉を残したタカヒロはホームである竈火(かまど)の館へと戻り、夜になってバベルの塔へと帰ってくるのであった。

 

 

「え、えっと、ヘファイストス様、装備の作成をお願いします!」

「分かったわ!条件は、タカヒロさんが指定した前回と同じ内容ね!?」

「は、はい!」

 

 

 ということで、何かと便利な乱数調整役……もとい幸運持ち(ベル・クラネル)が連れてこられたというワケだ。内容は全く分かっていないのだが、ヘファイストスが見せるあまりの気迫に押されており、苦笑いにて応対を見せてしまっている。

 そんなこんなで毒・酸ダメージを100%、エレメンタルダメージを11%も物理ダメージに変換してしまう恐ろしいベルトが作られた。これにてヘルムの制約が解かれているために、今回の装備更新における強化の度合いは猶更酷いこととなるだろう。

 

 

 それでも使用者は、既に壊れている“ぶっ壊れ”。それが更に壊れたところで、やはり傍から見れば大差はない為に問題は生まれないのであった。

 




Q:ヘファイストスが作ったベルトって、どれだけ強いの?
A:(前話で)三神報復ウォーロードを目指したタカヒロからすればエクスカリバー級の逸品。このベルトのおかげでヘルムがフリーに選べるので、火力・防御力ともに大きく上昇する。ヘファイストスが「似たようなモノ」っていう軽いノリで毒ダメージまで物理変換しているので輪をかけて酷いことに。

今更ですが、本作で一番ぶっ壊れているのはヘファイストスだと思います……。


Targo's Helm(ターゴの兜)
■レジェンダリー:ヘビーヘルム
■要求レベル:94
■要求体格:915
1666 装甲
70 体内損傷/5s
+84% 物理ダメージ
+67% 刺突ダメージ
+84% 体内損傷ダメージ
+30% 酸→物理 変換
+28% エレメンタル耐性
+5% スキルクールダウン短縮
+1 オースキーパー全スキル
+1 ナイトブレイド全スキル
+50 物理ダメージ : ジャッジメント
+200 体内損傷/2s : ジャッジメント
+60 物理ダメージ : アマラスタのブレイド バースト
+100% 冷気→物理 変換 : アマラスタのブレイド バースト

ターゴの兜はVer1.1.7.0で
酸→物理が
エレメンタル→物理変換に変更されました。南無。
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