その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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装備更新最終回。例によって~~部分は読み飛ばして戴いても問題ございません。


165話 装備決定

 ヘファイストス・ファミリアの主神、ヘファイストス。最近はとある作業に没頭していた彼女は、「納得いかない」と言わんばかりの表情を高い頻度で見せてしまっていたのは団員のよく知るところだ。

 事情を知る者がヴェルフに聞いてみるも、どうやら詳しくは言えないらしく“とある人物からの依頼”が納得のいくレベルに達していないとの内容だ。そのために、彼女は「ああだ、こうだ」と様々な手法を凝らしており常日頃から悩んでしまっている事態となっている。

 

 とはいえ、その装備を作るための素材は無限には存在しない。依頼者が置いていった未知の素材を少し加工してから作ったりと数多の工程で工夫してみたが、それでも出来上がったモノは不思議なほどに同一だ。

 曰く、設計図から改良を加えようと思ったのだが結局のところは何故か劣化品しか出来上がらなかった。もっともネックレスだった部位を指輪へと変換しているだけでも非常識レベルの技術の高さなのだが、彼女本人によれば「オリジナルとは己が超える為の指数」らしい。

 

 

 

 そんな彼女の執務室。中央の長机の両側にソファがあり、片側にヘファイストスとヴェルフ、机を挟んでタカヒロが座っている。

 今回はお茶も出されておらず、まず本題から入るようだ。多量の木箱を抱えるヴェルフは、間違っても落とさないように慎重さを極めている。

 

 

「やっぱり駄目ねー。あれから何度もやってみたけど、やっぱりどれも、私にとっては同じ程度だわ」

「そうか」

 

 

 ヴェルフとヘファイストスによって卓上に並べられる、数多の指輪。キラリと銀色に輝くそれはどれもが寸分の狂いなく同じ外観であり、これが一つ一つ手作りだと信じる者は少ないだろう。

 それらを眺め順に手に取るタカヒロだが、ヘファイストスが言う通り全ての指輪は全く同じ性能だ。“失敗作”エリアにあるモノは文字通りの劣化版であり、失礼ながらも採用されることはないだろうと考えている。

 

 “神話級 ケアンの復讐者”、その指輪バージョン。性能はオリジナルの平均値から7割となっているが、それでも強力な性能を所持している。

 ガントレットやヘビーブーツと同様にケアンに持ち込んだならば、喉から手が出る者が大量にいることだろう。この指輪を巡って神話級の争奪戦が開始されることは、想像に容易いものがある。

 

 

「タカヒロさん。見ただけで凄い指輪だってのは分かるんですが、俺が装備してみてもいいでしょうか?」

「構わんが、効能は発揮されないと思うぞ」

「そうなの?」

「えっ、そうなんですか?」

 

 

 これにはれっきとした理由があり、ケアン産となる素材だけで作成されているために、装備が持ち得る効果を発揮する際に制限がかかっている。試しにとヴェルフが装着しても、体感も実際の力なども何も変わらないのは仕方のない事だろう。

 最低レベル94、かつ“精神”のステータス。この世界で言う所の“魔力”のアビリティが394以上なければ、持ち得る数多の効果を発揮することはできないのだ。

 

 そのことは口にできないが、タカヒロは「一定のレベルが必要」と言葉を濁しており嘘はない為にヘファイストスの嘘発見器も貫通している。なお、ここオラリオにてソレを達成することが出来る者が居るかは神ですら知らないことだ。

 

 

「ともあれヘファイストス、これらが要望の品であることに変わりは無い。在庫の全てを受け取ろう」

「分かったわ。ヴェルフ、片づけちゃって」

「あいよ」

「ああすまない、今この場で二つ貰ってもいいだろうか?」

「ええ、問題ないわよ。余った素材は、別途……袋か何かに、纏めておくわ」

「そうしてくれ」

 

 

 二人して、テキパキと木箱に指輪を収めていく。二つだけ今この場で貰うことを口にしたタカヒロは、適当なものを取ってインベントリへと仕舞っていた。

 現時点における己の最終装備に該当する、強力な指輪。14か所ある装備枠のうち手・脚・指1・指2・腰の五ヶ所ないし四ヶ所を占める鍛冶の神による逸品は、どれもが神話級をぶっちぎる程の効能だ。

 

 

 支払いについてはヘファイストスが意地を張ったことと、素材が全て持ち込みだったために僅か4億ヴァリス。この金額は、ブーツ・ベルト・指輪の三つの合計額だ。

 カドモス銀行の如く多数がストックされた“カドモスの表皮”のうち20枚を、残りは50~60階層付近で得た素材のストックをバラ撒いている。どれもこれもが産地直送で新鮮な素材であるためにヘファイストスがポンコツ化しており、「もうこれで十分!」というザル計算ののちに支払いが完了していた。

 

 金銭感覚が狂うと愚痴をこぼしているヴェルフだが、それも仕方のないことだろう。二人の装備キチ(タカヒロとヘファイストス)が合わさる時、億単位のヴァリスが飛ぶように動くのだ。

 そんなヴェルフに対しては、37階層で睡眠採取した素材を大量にプレゼント。なんだったら試作がてらリリルカ辺りに新しい武器を作ってやってくれと言葉を残し、執務室を後にしている。

 

 

 久方ぶりの上機嫌で、ホームへと戻った装備キチ。これからまた、楽しい楽しいパズルが開幕するというわけだ。

 

~~~~

 

 しかし現実は、そう都合よく美味しくはないモノだった。いくら星々から受けることのできる恩恵が8割増しになったとはいえ、その内容は基本としてディフェンシブ。理想的な取得に対して祈祷ポイントが1足りないのも相変わらずだ。

 もともと“攻撃能力”をダブルレアMIのリング二種類で稼いでいたために、これを二つ共に変えてしまったならば攻撃能力が大きく不足することになる。やはり一か所のみの変更が無難かと考えるタカヒロは、またパズルのやり直しとなったワケだ。

 

 一番の問題としては、バランスが崩れたスキルだろう。今のところの予定では、カウンターストライクがマイナス4、メンヒルの防壁とブレイクモラルがそれぞれマイナス2の予定となっている。

 メンヒルの防壁はダメージ吸収が1%減、ブレイクモラルは相手の物理耐性減少値が2%減。カウンターストライクは4レベルということで最も顕著で、発動時の与ダメージに含まれる報復ダメージが2%減となっている。

 

 本来ならばスキルの振り直しを行って対処するのだが、これについてはポーションが存在せず、それを行える呪術師らしき人物もいないために八方ふさがりだ。このデメリットを考慮したうえで、装備を選定する必要が生まれてくる。

 一応、ヘスティアから恩恵を貰った際にスキルポイントが1つだけ余っている。装備の変更で攻撃速度が1割減ってしまったこともあり、この1ポイントをどこで使うかが大きなカギとなるだろう。

 

 ヘルムについてはマトモなものがないので、スキルのこともあって今までに引き続きキャラガドラ君ヘルムで固定。防御能力が大きく突出していたために、各種装備に付与していた“増強剤”を変更して耐性値も含めて全てを計算。

 そしてやはりヘファイストス産指輪の二つ装備はやりすぎのようで、在庫にあったダブルレアMIのリングを一つ採用してみると、なんだかんだで良い結果が現れている。実際の戦闘では誤差の範囲だろうが、攻撃能力・防御能力共に+30前後(それぞれ約1%)と若干ながら上昇する結果となった。

 

 

 ここだけ見ると以前と比べて能力が上がっていないように見えるが、真髄は物理耐性と報復ダメージにある。前者については驚異の76.4%を記録しており、これによってタカヒロへの物理ダメージはヘビーアーマーによる強力な装甲で減衰したうえで僅か23.6%しか通らないのだ。

 なお、そこから“メンヒルの防壁”で更に減らされるのは正常な仕様である。だからと言って魔法で攻撃しても、得られる結果は同等で誤差の範囲だ。

 

 耐性についても主要なものはベース値が87%に達しており、超過耐性も軒並み80%以上を確保している為である。魔法ダメージは本来の威力の僅か10.4%にまで減衰され、更にそこから固定値を減衰された分しか通らないという、以前にも増してカッチカチな仕様へと生まれ変わっている。

 他にも移動速度と各種装甲値が2割増し、凍結耐性100%キープで絶対に凍らず、オラリオでは死にステータスながらもイーサーダメージは完全無効化。“体格”が大きく減ったはずなのにヘルスが2万の大台を突破、装備効果によりスキルのクールタイムが全て1割減など、もたらされた効能は様々なものがあるのが実情だ。

 

 

 ビルドを象徴する全報復ダメージは、+1741%から193%増しの+1934%。物理報復ダメージは約5600から3000減って2600程度ながらも、値の100%が物理報復へと変換される酸報復ダメージは6964の値を確保している。

 更にダメージ変換が発生する際には“狡猾”による物理ボーナス値が上乗せされるために、変換後の値は更に上昇する。今回の場合、6964の酸報復ダメージが物理へと変換された場合に増加する量は+1934%ではなく、+(1934+今回の場合は約368)%となるのだ。これらと比較すればオマケ程度ながらも、火炎や雷報復の一部も物理へと変換されている。

 

 報復による具体的な攻撃力としては、以前の物理報復WLによる報復ダメージは振れ幅含めて約13~15万。それが此度の三神報復WLになると、純粋物理分52,884+酸変換分167,275となって約22万にまで跳ね上がるのだ。

 もっとも酸ダメージ分については、純正物理と比較すると最低ダメージと最高ダメージの間でムラがある。それでも以前と比べて、期待値として4割増しの火力上昇量となっている点については変わりは無い。

 

 この上昇分は、自発火力の真髄である“報復ダメージのn%を攻撃に追加”の部分も同様に発生することは言うまでもないだろう。セット効果によって報復ダメージの34%を攻撃に加える突進スキルも加わっているために、火力の増加量は猶更だ。

 強力なカウンタースキルであるカウンターストライクも4レベルが低下したものの、セット効果によって42%もの報復ダメージが加算されている。カドモス二匹分のヘルスに相当するダメージ量だ。

 

 そして、これがトグルを除いたスキル未使用となる“平常時”の比較であることを忘れてはならない。こちらも見直しによって少し装いが変わった星座のスキルにも含まれる部分があるのだが、これはヘファイストスの装備によってn%加算部分の値が8割増しになっているので更に輪をかけて凶悪だ。

 上半身装備である“【神話級】ドレッドアーマー オブ アズラゴー”がなくなったことにより“アズラゴーの戦術”が使えなくなり、与ダメージに対する9%のヘルス吸収も5%に減ってしまったが、さして影響はない。2万を超えたヘルスもさることながら、8割増しとなった星座のスキルの二つが理由として挙げられる。

 

 大幅に向上したドライアドのスキルは攻撃時において59.4%の確率で発動し、18%+1076のヘルスを回復する。これが3.2秒ごとに発動するというのだから、その効能は凄まじい。

 更には別の星座のスキルにおいても12秒ごとにほぼ同数のヘルスを回復し、発動後8秒間にわたって毎秒当たりのヘルス再生量を倍増させる。増加した毎秒当たりの再生量は、総ヘルスに対する16%に匹敵する量だ。

 

 つまり強化されたこの二つのスキルだけで、12秒おきに回復するヘルスの総量は全ヘルスに対する100%に匹敵する。それが際限なく続くのだかから、敵からしてみれば冗談かと疑いたい程の性能と言えるだろう。

 もちろん、これ以外にも強力な回復スキルや“敵の攻撃力を減らしてしまうスキル”を備えている事を忘れてはならない。このビルドの基本コンセプトは、あくまでもディフェンシブなのである。なお、(当社比)である点はご愛敬だ。

 

~~~~

 

 そんなこんなで、「ああだ、こうだ」と悩んでいたパズルはほぼ完成形と相成った。現在は吟味の為に取り出したアイテムの数々を片づけており、足の踏み場もない汚部屋は暫くしたら解消されることとなるだろう。

 結果としては、昔よりも壊れていた“ぶっ壊れ”が更に壊れたと言える内容であり、大幅かつ様々な方面において能力が向上。トグルスキルのみを使用した時の変化を以前と比べ、それらを三行程度で纏めると、

 

 ・以前より更にカッチカチ(特に対物理においては、今までの被ダメ量が更に約半分まで低下)

 ・以前より遥かに高火力(トグルを除いたスキル未使用時の比較において4割増し、使用時ならば2倍以上)

 ・やっぱヘファイストスは頭おかしい(誉め言葉)オラリオ史上最高の女神である

 

 と言えるだろう。

 見た目は大きく変わってしまうが、そこは便利な“幻影術”。更新された装備は元々の見た目、正直に言うならば彼好みの様相へと変えられており、傍から見れば全く分からない結果として落ち着いていた。

 

 

「しかし、希望Affixドロップ率0.001%の(苦労して集めた)ダブルレアMI装備が三分の二も外れるとは……」

 

 

 装備を収集することは楽しいとはいえ、いざ集めんと出撃した際にドロップ率という現実を目の当たりにしたならば、表情が少し歪むだろう。流石の彼とて初回ばかりは同様の反応を見せていた過去があり、軽いトラウマを抱えている。

 

 ともあれ、元々は6か所あったのだが、結果として残っているダブルレアMIは、メダルと指の2か所だけ。とはいえ、強さを追求した結果がコレなのだから仕方がない事と諦める他に道がない。

 事実、単純にヘファイストス製の手と足を交換しただけでも3割増しの火力と言える性能なのだ。新たなアクティブスキルを使えば相手の物理耐性を以前よりも更に8%減らすことが出来るために、与えることができるダメージの上昇量は輪をかけて大きくなる。

 

 

 そんなことを考えていると、試したくなるのも仕方のない事だろう。ちょうど装備一式を着こなしてチェックしていた為に、追加で準備をする必要があるモノは、念の為のポーションだけだ。

 

 いつもの就寝時間までには30分程あるために、自室から50階層そして51階層へと突撃隣のカドモス君。目に見えぬ恐怖を感じてアタフタするカドモス君ご一行は気づいたら死んでいたのだが、それほどまでに、新装備による火力の上昇量は明白だ。

 全盛期の物理報復ウォーロードを上回る程の自発火力は、神々からしても脅威だろう。オラリオにおいて使う場面があるのかは不明ながらも、これにてタカヒロの主目標一つが達成されたこととなる。

 

 此度の装備もまた、完成というよりは“一区切り”の段階。今後も更なる余地を求めて、細やかな改善が続けられることとなる。

 

 残る主目標のもう一つは、時間の問題もあるために直ぐに達成されるようなこともないだろう。ここ1年弱の時間で築き上げてきた内容が無に返らぬよう気を付けることを思いながら、自室に戻ってきたタカヒロはベッドに身体を預けるのであった。

 




報復周りはバージョンアップするごとにナーフが重なっているので、ご注意ください。
次話、1/1を予定しています。

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