その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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182話 それはまるでツアーのような

 

 ダンジョンと呼ばれる施設のような場所から人の気配が少なくなるのは、それこそ深夜の時間帯だけと言って過言は無いだろう。それでも完全になくなることはあり得なく、常に何名かの人物がバベルの塔の出入り口を行き来している。

 ダンジョンから帰ってきた者、皆が地上へと帰る時間にダンジョンへと向かう者。何らかの理由により帰れなくなった者を除いて、今日もまた、時間を問わず、名も知れぬ者達が入り浸る。

 

 

 このように繰り返される一日の“とある日”、太陽が顔を覗かせた直後と言える頃。バベルの塔、出入り口付近にて、少しのざわめきが生じていた。

 

 

「おい、あれ……」

「ああ。ロキ・ファミリアの幹部達だな。久々に見たぜ」

 

 

 とはいえ、有名人となれば話は別だ。先の会話を口にした冒険者の他にも、様々な者達が、揃って集団へと視線を向けている。

 

 

勇者(ブレイバー)九魔姫(ナインヘル)……だけじゃないな、上位勢が揃い踏みか」

「何かあるのか?下層への再アタックなら、メンバーが足りないだろうし……」

「うーん、上位勢の考える事は分からんぜ」

 

 

 ロキ・ファミリアが前回行った下層へのアタックは、表向きとしては“59階層で撤退”となっている。

 勿論、汚れた精霊の分身にまつわる一件が表ざたになっている筈もなく。本来の59階層、つまりダンジョンで初めて出現する氷の世界への対策が甘かった、というのが大きな理由とされている。

 

 

 そして誰かがポツリと呟いた一言、「上位勢の考えは分からない」。

 

 

 名も知られぬ冒険者よ、決してソレに意識を向けることなく自身の適正階層へと挑むのだ。例え君が上位勢だろうとも、今この場にロキ・ファミリアの幹部が集っている理由など、絶対に分かりはしない。

 もしも今ロキ・ファミリアがダンジョンへと向かう理由だけでも当てる事が出来たならば、“超能力者(エスパー)”の称号を得ることが出来るだろう。もしくは“自称一般人”の行動を熟知しており、故に己の常識が毒されているかの二者択一だ。

 

 

 

 始まりは今から三日前。次の内容が記された簡潔な手紙が、突然と届けられた事だった。

 

 

 

 ◆《日帰り:素材集め開催のお知らせ》

 ・日時:――――、06:00~22:00

 ・集合場所:ダンジョン5階層、地点XXXXX

 ・収穫素材:各ファミリアにて持ち帰り

 ・持ち物 :お弁当、耐寒装備、バッグパック

  リリルカ追記:ヤル気と根性と素材回収班

 ・備考:少しだけ深くまで、白兎と一緒に、どうでしょう。

 

 

 

 まるで表向きは、ちょっと其処のファミレスへ行こうとでも言わんかの如く。はたまた、平和な田舎町で行われる町内会のノリだろうか。

 見方によっては、イチゴ狩りか何かのようにも見えるだろう。集合場所で観光バス(リフト)に乗って、ちょっと離れた郊外へ向かうようなシチュエーションだ。約一名が来る事が予測されるからこそ、弁当の記載も抜かりはない。

 

 

 階層については“乗っ取られ基準”でいう所の“少しだけ深く”の為、50階層ないしは少し進んだ階層と読み取れる。耐寒装備の旨が記載されている為に、恐らくは60階層付近を示しているのだろう。

 これが突然と90階層に指定されなかった点については、当該階層のモンスターと遠足対象者――――否、冒険者一行の実力差を把握している為か否か。真相は、本人が知るのみとなっている。

 

 

 ともあれ、このような手紙が関係各所、なお具体的にはロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリア――――ではなくフレイヤ本神へと送付された所詮により、ロキ・ファミリアでは興奮と共に少しの混乱が発生していた。誰しもが、この予定が最優先事項と認識して行動してしまっている。

 なにせ全ての予定が組み替えられ、丸1日のフリータイムが設けられたのだから混乱が生じるのも無理もない事だろう。準備物の詳細は各々が異なれど、得物と言う只一点だけは共通だ。

 

 

 異なる一例としては、やはり、二人分のお弁当を持参しているアイズだろう。誰の為に造られたモノかを察知した高性能パッシブレーダー(レフィーヤ)は既に正気が抜けかかっており、纏う空気は非常に暗い。

 なお前回も含めて、対抗意識を燃やして3時起床からの3段重箱を作っているポンコツハイエルフはご愛敬。到底ながら、これからダンジョンへ赴く為の装備と心構えとは程遠い。

 

 

 ――――闇派閥?あー、うん、調査と対策は大事だよね。でもコレの方が遥かに……そうだ。攻略勢の実力を向上できるし、ドロップアイテムで武器を調達する事もできる。対闇派閥が終わった先に必要な情報も手に入る。一石三鳥じゃないか。

 

 とは三日前に行われたフィン・ディムナ渾身の説得であり、何かと大義名分を作ってロキへと示す事は出来たようだ。かつて52階層付近で遭遇したイレギュラーの爪痕によってスッカラカンとなったロキ・ファミリアの財政状況は、未だ尾を引いている。

 それら全てを解決することが出来るかもしれないイベントということで、ロキ・ファミリアの参加者一行、具体的に言うとレベル3以上の冒険者達とレベル指定なしのサポーター達は、指定された集合地点へとやってきた。

 

 

 ダンジョン5階層、目立たない位置にある行き止まり。そこに居た猪人に対して平時ならば睨み合う状況は、今日だけは絶対に生まれない。

 

 

「……遅かったな、待ちくたびれたぞ」

「うーん、これでも集合の10分前なんだけどね」

 

 

 とはいえ、軽口程度はご挨拶。フィン達は念を入れて、少し早めの行動となっていたようだ。

 場を護る守護者のようなオッタルの後ろでは、ロキ・ファミリアの幹部が59階層で入る事となった“リフト”が、怪しい光を放っている。リフトを消す関係で、制限時間が厳守となっていたようだ。開いたままで、5階層から50階層へと駆け出し冒険者が迷い込んでしまうことを防ぐ為である。

 

 

「……?ベート・ローガは、どうした」

 

 

 以前の鍛錬で戦ったことがあるオッタルは一行を見渡し、ベートが居ない事について疑問符を抱いていた。陽気な者達が乾いた笑いを見せつつフィンが「諸事情」と口にしており、オッタルも「そうか」と返す程度だ。

 なお実情としては、1カ月前から入っていた仲人の予約があった為、どうしても外すことができないという彼らしさ。普段は高圧気味で酔いが回った時は宜しくない性格が顔を出して拍車がかかるのだが、根底としては弱者を大切にする善人の類である。

 

 

「それにしてもティオナ、随分と大きなバッグパックね。どれだけ持って帰るつもりなのよ」

「えへへー。実は私も、ゴブニュ・ファミリアに借金が溜まっていてさ……」

「ちょっと大丈夫?いくらなのよ」

「うーん、よくわかんない。〇億ヴァリス?」

「……」

 

 

 初耳と言う事も相まって、笑うに笑えない団長フィン・ディムナ。真後ろで同ファミリアの姉妹が発している恐ろしい会話から耳と関心を強制的に逸らしつつ、一方で60階層の地へと思いを馳せる。

 他の幹部であるガレス?そもそも興奮気味で聞いていない。リヴェリア?弁当を喜んでくれるかと言う一点しか気にしていない為に聞いておらず、故に審判は見ておらずセーフである。

 

 

 無論、問題がないとは言っていない。己が指揮するファミリアの財政事情が火の車であることを再認識して、フィンは親指が震え始めた。ただの寒気である。

 

 

 ともあれ、そんなフィンもまた、思いを馳せると言っても、未踏の地へと赴く冒険者の姿とは程遠い。近所へ遠足に赴くことが決まった子供そのものであり、行先と年齢を無視して見た目だけを評価したならば、さほど違和感はないだろう。

 

 とはいうものの、60階層以降が未経験となる両ファミリアにとっては、身の安全がほぼほぼ保証された上で60階層を経験することが出来るのだから、それはもう願ってもないチャンスだろう。

 何せ此処は――――約一名にとっては“3軒先”程度ながらも、本来ならば、伝説級となるゼウス・ファミリアもしくはヘラ・ファミリアのみが到達しえた階層なのだ。故に情報としても多くは無く、それらの影を追う者、特にフィンにとっては、喉から手が出るほどに欲しいモノだらけとなっている。

 

 

 

 そんな未踏の地へ向けて、まずは第一歩――――ではなく、大きくスキップ。目の前のリフトをくぐった先は安全地帯(セーフゾーン)となる50階層であり、先客一行がたむろしていた。

 とあるファミリアの団長と、冒険者でも一般人でもない特徴的な人物。今を全力で楽しむその者は、そもそも人と表現できないポジションに居る事は明白だ。

 

 

「えーっ。でしたら此処とか18階層とかの安全地帯(セーフゾーン)でも、神様は入っちゃダメじゃないですか~」

「うふふ。私はいいのよ、ト・ク・ベ・ツ」

「だめですよフレイヤ様。ダンジョンは危ないのですから、ちゃんと、ご自身を大切にしてください」

「あらあらあらあら」

 

 

 ダンジョンに入ることなど今更となる、妙に艶やかでハイテンションな残念女神フレイヤ。少しだけ傾斜した地点に敷物を敷いて横座りし、人二人ほど離れた場所に腰掛けるベル・クラネルと会話を楽しむという、“下界で最もやりたい事”の一つを堪能中。

 他のヘスティア・ファミリアの団員たちは少し離れた場所で、一人のサポーターを含め、レヴィスが色々と教え込んでいる最中だ。既に息が上がりかけているものの、いつもと違う鍛錬だからこそ、非常に有用なものとなっているだろう。

 

 

「あ、皆さん来ましたね」

「あら、残念」

 

 

 集団がリフトでやってきた事に気付いたベルは皆を呼ぶと、まず先にレヴィスが味方に付いた事だけを説明中。既に知っていたフィン達からも“仲間になった事について”フォローが入れられており、驚愕の空気こそ消えないものの、一触即発とは程遠い。

 なおレベル10と知った途端に、驚愕と興味の表情に分かれたのは言うまでもないだろう。好戦的なアマゾネス姉妹はさっそく挑みかかっているものの、綺麗に蹴散らされる結果に終わっている。レベル差4の壁は高く厚い。

 

 アイズもまた一緒になって挑みかかるも、結果は以前と変わらない。むしろ以前よりもレヴィス側にかかっているリミッターが緩いために、持ち得る力の差を痛感していた。

 チャレンジャー側のスタミナが切れ、ギブアップとなったタイミング。今更ながらもアイズが使っている剣に対して違和感を抱いたティオネが、剣を覗き込むようにして質問した。

 

 

「そういえばアイズ。その剣、どうしたの?」

 

 

 普段のデスペレートは折れてしまったこともあり、到底ながら実戦へ投入できる状態には程遠い。もし仮に即席の打ち直しを行ったところでアイズが放つ攻撃に耐えることはできず、結局は再び折れる未来を迎える事だろう。

 此度の装備名は、“スピリア・スクラップメタル グラディウス・オブ アタック”。レベル1で装備可能となる初期装備の剣ながらも、攻撃能力と追加の物理ダメージを発生する2つのAffixがついた、駆け出し用のマジック等級な片手剣である。この世界におけるおおまかな性能としては、レベル5の冒険者が使うような代物だ。

 

 ということで、タカヒロが貸し与えたレンタル品。本人は今となっては使うような場面はなくコレクションとして保管しており、捨てるに捨てる事ができないらしい。使わない物で部屋が埋まる奴である。

 もっともアイズからすれば、以前にゴブニュから貸してもらった剣と違って破損を気にせず打ち込める逸品だ。絶対的な攻撃力はデスペレートに劣りつつも耐久面は此方が上であることを理解しており、まるで持ち主を体現したような剣ということもあって、安心感を抱いている。

 

 

 そんな光景を横目に続いてオッタルもレヴィスに対して挑みかかるも、力技同士のぶつかり合いということでレヴィスが有利。狡猾さは少ないと知ったオッタルがスキルを有効化して挑みかかるも、全てが綺麗に防がれている。

 レヴィスとしては2レベルのアドバンテージこそあるものの、スキルに限定すれば逆転する。結果として実力の差は大きいと呼べる程ではなく、だからこそティオネ・ティオナ姉妹の時ほどレヴィスは余裕を持てておらず、彼女としても有効な鍛錬となっていた。

 

 

悪魔兎(ジョーカー)。タカヒロさんは、どちらかに向かわれたのですか?」

 

 

 オラリオにおける常識的な頂点のぶつかり合いを見ている、観客席で生まれ出た質問。リヴェリアが来たと言うのに姿を見せない者に対して、エルフ一行の代表であるアリシアからの質問だ。

 どこに居るか予想はつけど何をしているかまでは分からず、一方で嫌な予感が巡るヘスティア・ファミリアのルーキー達。普段の行いは、本人が思うよりも大切なのである。

 

 自分たちに教えを授けてくれる者。兼、目の前で力技を繰り広げている彼女、レヴィスを味方へと引きずり込んだ実行者の現在はと言うと。

 

 

「師匠ですか?師匠でしたら先に59階層へ行っていまして、ご自身が餌になってモンスターを釣っていると思います。海釣り、とか言っていましたね」

 

 

 What the. マイルドに意訳すると、ナンテコッタイ。

 

 

 本人曰く、陸釣り(トレイン)の次は海釣り、とのこと。レフィーヤから「何ですかソレ」と問いが飛ぶも、ベルは即座に「知りません」と返している。

 パス・パレードとはまた違う、文字通りの“身を挺した魚釣り”。獲物(モンスター)タカヒロ(ルアー)に噛付いたが最後、近接攻撃故に発生する報復ダメージによって絶命するのだ。

 

 誰しもが、装備キチはそれが出来る事を知っているからこそ、僅かにも疑わない。だからこそ「何やってんの」という感情で場が埋め尽くされているのだが、それも仕方のない事だろう。

 

 

 なお、それに付き合わされている残り一人の“活きの良いサポーター”リリルカ・アーデ。もう少しだけ頑張ろう、素材集めの地獄()はまだ、始まったばかりなのだから。

 

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