その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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183話 押し寄せる情報量

 

 灰色の木々が衝撃を受け震える、ダンジョン50階層。超が付くほどの深層へ足を踏み入れた者に対して不安を抱かせるような灰色の大樹林が作り出す光景が、目に入っている者は居ないだろう。

 当初の目的も、今は少しだけ忘れられているかもしれない。オッタルを打ち負かしたレヴィスは少しの休憩を挟み、フィンやガレスを筆頭に、第二ラウンドとなって打ち合いを行っている。

 

 ヘスティア・ファミリアのルーキーはもとより、ベルやアイズも光景を目にして打ち合いを学んでいる。そんなベルを後ろから人形のように抱きかかえたいフレイヤが両手をワキワキとさせているが、アイズに手首を掴まれショゲていた。

 なお、フレイヤが持ち得る魅了については、誰にも言わないものの彼女自らが対策済み。そのようなツマラナイ事で推しの戦いを見れなくなるなど、絶対に許されない不祥事の一つなのだ。

 

 それはともかく、結果として対レヴィス戦にて全タテされたものの準備運動を終えた一行は、59階層を目指して足早に下り始める。戦闘はオッタルとレヴィスという怪力ツートップ、かつロキ・ファミリアの幹部陣営ということで層も厚く、勿論ヘスティア・ファミリアのレベル1、そしてソレ以下であるフレイヤも同行中。

 後ろから見つめるヘスティア・ファミリアのメンバーにとっては最も勉強になる場面の一つだろう。58階層から狙撃される次のフロア以降はどうするのかと大多数が疑問を抱くもオッタルは構わず52階層の先へ進んでおり、結果として、その心配は無用であった。

 

 

「あれ?どうして、ヴァルガング・ドラゴンの砲撃が飛んでこないのでしょう……」

 

 

 疑問を抱いたレフィーヤだが、誰しもが同時に感じた事だ。そして数名は同時に嫌な予感が脳裏をよぎり、恐らくは事情を知っている白兎の言葉を待っている。

 

 

皆が危険だから(ついでに素材集め)と言う事で、皆さんがいらっしゃる30分ぐらい前に、師匠達が58階層を更地にしていましたからね。なので、暫くは安全ですよ!」

 

 

 ただ一言、アーメン。いくらモンスターとは言えど、全員が、散っていった命に同情してしまう。

 とはいえ、その甲斐あって進軍速度は絶好調。やけに数少ない敵を相手にしつつ、物凄く静かで逆に不気味な58階層に達したところで、ベル達一行を出迎える姿があった。

 

 

「ベル様ベル様、こちらですよー!」

「えっ、モンスター!?」

「に、乗っている……!?」

 

 

 驚きは誰の言葉だったか。度合の大小はあるものの、恐らくは、ほぼ全員が該当していることだろう。

 出迎えたのはリリルカ・ライダーであり、ジャガ丸と共に陽気に両手を振る姿は、ダンジョン58階層の常識とは程遠い。周囲に転がる魔石は、恐らく30秒ほど前までモンスターの形を保っていたモノだろう。

 

 

「待て、アイズ!!」

「アイズさん!!」

 

 

 そして間髪入れずに駆け出すアイズの姿に、ヘスティア・ファミリアを除く全員に緊張が走った。アイズが例外なしにモンスターを憎んでいることを知っている為、問答無用で攻撃を行うリスクを警戒している。

 しかし当該のモンスターは、最低でもリリルカと仲が良い事は目にした通り。もしもアイズがモンスターを攻撃するならば、ヘスティア・ファミリアとの問題に発展することは明らかであり――――

 

 

「ジャガ丸、久しぶり!」

■■■(おひさ)―――!』

「アイズ!?」

「アイズさん!?」

 

 

 やや緩んだ表情のアイズ・ヴァレンシュタインとジャガ丸が繰り出すハイタッチを目にして、リヴェリア師弟を筆頭に、ロキ・ファミリアの面々は目を見開いていた。にこやかにして居るのは後を追って近づいたベルとジャガ丸に騎乗中のリリルカだけという、何とも奇妙な絵面である。

 スキルとして発現する程の強烈な憎しみをモンスターに対して抱いている事は、ロキ・ファミリアの全員が知っている。だからこそ、どうやら敵でこそないものの、モンスターと仲良くしている光景は驚愕にしか映らない。

 

 

「もうーアイズさん、久しぶりって程じゃないですよ」

「私にとっては、久々なの」

 

 

 違う、そうじゃない。

 

 ボケなのか素なのか分からない会話のやり取りに、突っ込む気力がある者は居ないようだ。しかしながら二人の間で今のベルの言葉はツッコミだったようで、片頬を膨らませたアイズが人差し指でベルの頬をツンツンしている。

 

 そして「ヒャッハー我慢できねー」と言わんばかりに、女神フレイヤがジャガ丸を上回る超ダッシュを繰り出して参戦出場。水晶越しに見ていた以前は未遂に終わったものの、此度は管理職が仕事をしていない為にストッパーが存在しない。

 アイズとは逆側の頬を超御満悦の表情でツンツンぷにぷにしており、ベルもされるがままで状況は動かない。もう暫くは、この光景が繰り広げられる事だろう。

 

 

 と思いきや、「ならば拙者が」と言わんばかりの第三者ダンジョンに動きがある。ベル達の少し横から湧き出ようとモンスターが、ダンジョンの側壁1メートル程の位置に亀裂を入れた。

 勿論狙いは、目の前で茶番劇を繰り広げる御一行。ここは深層であると思い知らせる為――――などとはモンスター故に思っていないが、そこに存在する侵入者を倒す為に、亀裂を入れると同時に飛び出す為に力を籠め――――

 

 

■゙?(あ゙?)

 

 

 飼い主に調教されたのだろうか。「ほんわかした雰囲気を邪魔するつもりなの?」とでも言わんばかりのジャガ丸が、オッタルですら目で追えぬほどに超高速の“破爪”を繰り出してダンジョンの壁を粉砕した。リリルカ君が反動で吹っ飛んだ!

 58階層を更地――――といえど物理的にではなく、モンスターを一掃したという意味の更地具合。無論、ジャガ丸も原因を作り出した一角であり、今のように一撃でモンスターの命を刈り取っていったのだ。

 

 弾け飛ぶ側壁とリリルカ・アーデ(ミサイル)は、ジャガ丸によって繰り出された一撃の力強さを物語っている。例えオッタルやレヴィスでも届くことは無い威力は96階層産出のモンスター強化バージョン、余裕のパワーで馬力が違う。

 同時に炸裂した側壁の射線はベル達を綺麗に回避しており、器用さについても嫌と言う程に示していた。飼い主が一番気に入っているのは、この器用さについてかもしれない。

 

 結果としてゴトリと湧き出てくる、魔石とドロップアイテム。ベルが近くに居る為にフルドロップしている点は、スキル“幸運”の賜物だ。

 ついでに言えば、俗に言うところの“死体沸き”である。生まれ出るはずだったモンスター、ドロップアイテムからして恐らくヴァルガング・ドラゴンが産声すらも上げる間もなく残した遺品は、誰かの冒険に役立てられる事だろう。

 

 

 片や何が起こったのか分からず目を見開き、ロキ・ファミリアの数名は既に恐れおののいている。何も問題はないと言わんばかりに冷静な、ヘスティア・ファミリアのレベル1を見習うべきだ。

 片や何が起こっても白兎の頬を突く事を目標とする、少女と少女(?)。少なくとも今の精神(こころ)は少女だろう、何も問題などありはしない。

 

 そんなベルは、一仕事を終えたジャガ丸を撫でまわしており。先の反動で吹っ飛ばされたリリルカが小さな身体を伸ばして文句を口にしており、三者三様。

 仕舞にはジャガ丸の実力が気になって恐る恐る近づくオッタルが威嚇されて縮こまるなど、正にカオス。“TPOを弁えた行動”という言い回しがあるのならば、間違いなく3文字全てに背いている内容だ。

 

 

「じょ、情報の量が、多すぎます……」

 

 

 呆れ半分に呟いたのは、珍しくアリシア・フォレストライト。抱く本音を口にしただけである点もさることながら、まさかのアイズの姿を目にして案山子となっているロキ・ファミリア幹部陣営が見せるべき反応の代役だ。

 しかし目に見えている情報を分析したところで何かできるワケでもなく、何かが解決する事もないだろう。コレを理解できるとなれば、最低でも数年単位は費やす必要がある筈だ。

 

 

 ならば残る道は一つであり、“場の流れ”にのっかる事。流れは流れでも激流に身を任せ“どうか”している事こそが、ヘスティア・ファミリア(ぶっ壊れ)を最も有効に使える方法なのだ。

 

 

 ということでアイズのモンスター嫌い克服については「まーた“あの人”絡みか」と強制的に納得した総員は耐寒ローブに身を包み、リリルカ・ライダーを先頭にして59階層へと突入する。前回とは真逆の気候にロキ・ファミリア陣営は緊張を抱くも、ヘスティア・ファミリアのメンバーは、何のその。

 もちろん50階層よりも更に奥深くと言うことで、身を蝕む怖さは輪をかけて強くなっている。各々がレヴィスやジャガ丸、そして団長のベルを信頼しているからこそ、常に周囲を警戒するなど、各々の役目を果たしているのだ。

 

 

「……君たちは、凄いね。とても、レベル1やレベル2の落ち着き具合には見えないよ」

「まさか、さっきから一杯一杯です」

「本当。空気だけを比べても、レベル1で来るような所じゃありませんよ、ここは」

「ロキ・ファミリアの幹部の方々や、フレイヤ・ファミリアの猛者もご一緒ですからね。恥ずかしい真似はできませんから、猶更です」

「タカヒロさんを相手した鍛錬が原因じゃないか?あの人、こっちが色々やる前から全部見切ってるような動きを匂わせるし、だからって僅かでも手を抜くと露骨に溜息を吐かれるし」

「わかる。なんかもう八方塞がりで絶望しかないっていうか。いや、相手して貰って手抜きの件は、完全にコッチが悪いんだけどさ」

「ははは、違いない」

 

 

 流石のフィンも笑いが生まれた点については驚いており、道中で理由を聞けば、対人の鍛錬の約半分を50階層でやっていたこともあり、深層の怖さは“そこそこ慣れた”との回答。ならば残るは対モンスターの恐怖のみであり、それについては先の信頼が足枷を外している。

 現実的には不可能だろうが、信頼できる仲間たちとならば苦難を乗り越えることが出来ると、各々が強く確信している。心は疲弊しかかっているかもしれないが、各々の目は死んでいない。

 

 

 そして同時に、平然を装いながらも先の発言に対してフィンは驚愕と戦慄の心を抱いている。露骨さは不明ながらも、“己の攻撃に対してタカヒロが予測動作を行っている”事が分かるならば、それは即ち“相手の動きを予測する事が出来ている”という事実に他ならない。

 

 絶対的な力はレベル1や2の程度に留まるとはいえ、そんなことが出来る者がオラリオにどれだけ居るかとなれば、全員の答えは誤差の範囲で一致する事だろう。それが冒険者の間における常識であり、得ようとすれど高望みと呼ばれる領域の一角となる。

 しかし無論、行動予測の範囲は仲間に対する連携能力に直結する。もしもヘスティア・ファミリアの構成メンバーがこのまま変わらずレベル3や4となった際の総合戦闘能力がどうなるかと考えただけで、フィンは恐怖から口元が吊り上がった。

 

 

 指揮官が恐怖と妄想に耽る中、全員に耐寒装備の配布が行われる。凡人枠である為にトレンチコートが追加されたフレイヤを護りながら、各々はブリザード吹き荒れ視界も良好とはいえない59階層の進行を開始した。

 どうせ他に冒険者も居ない為に気楽なものであり、向かってくるモノが敵であると判断するのは容易いだろう。何せ此処は、何が起こるか分からないダンジョンだ。

 

 

 現にこうして、答え合わせが行われる。新たに現れた冒険者(獲物)に向かって、モンスターたちが突撃を慣行した。

 

 

「敵正面、数50以上!追加、左より12!」

「左まかせて、行くよベル!」

「援護します!他は前を!」

 

 

 絶対に、アイズを護る。瞬間的ではあるものの戦う理由を抱いた少年を傍から見れば、恐らくは輝きを放っていた事だろう。

 

 真っ先に駆け出すアイズとベルは、互いに想定の範囲内だったのだろう。詠唱に入るべきかを選択されるリヴェリアは今回はしない事を選んでおり、レフィーヤもそれに倣っている。

 指揮官であるフィンはもとより、リヴェリアやラウル、リリルカの目つきは鋭く周囲を広く見つめている。前方からのモンスターを迎撃するために飛び出したガレスやティオネ・ティオナ姉妹とアリシアなど数名が繰り広げる攻防を、じっと静かに見つめている。

 

 

「フンヌ!ええい馬鹿力のモンスターめ!」

「かったーい!て言うか、つめたああい!」

「油断しちゃだめ、ここは59階層よ!」

 

 

 ここはロキ・ファミリアにとって未踏の地。故にモンスターの沸き方も効率的な対処陣形も分かっておらず、手探りの状況だらけなのだ。

 それを知っている為に、もしくはライダーのリリルカが止めている為に、レヴィスとジャガ丸は手を出さない。この二名ならば片手間で処理できる内容ながらも、手を出して得られるモノはドロップアイテムと魔石だけ。

 

 

 近い未来、彼等が更なる奥へと到達するための予行演習。己が未来を切り開くためにダンジョンへと挑んだかつての仲間達を思い浮かべるレヴィスは、決して声や表情に出すことは無いものの、挑む一行を心の内で励ましている。

 

 

 とはいえ、それだけでは通じないのもまた、ダンジョンの深層と呼ばれる場所。誰の言い回しか“何が起こるか分からない”とはよく言ったものだが、それは此処59階層とて同様だ。

 故にイレギュラーの類も、いつ何時に発生したところで不思議ではない。そして此度は、ブリザードが弱まったタイミングだった。

 

 

「後ろからモンスター多数!っ、あそこに氷塊があったのね!」

 

 

 極寒のブリザードとは、音と温度を遮断する。今の今まで、モンスターも冒険者の戦闘に気づくことがなかったのだろう。

 ダンジョンの攻略においては手練れと言えるロキ・ファミリアの者ですら、氷塊の影に隠れたモンスターの存在に気づく事ができなかった。更に彼等にとって運が悪い事に、ここぞとばかりに多量のモンスターが押し寄せる。

 

 

 始まるは奇襲戦闘、1秒単位を争う時間との攻防。フィンならばこうするだろうと予測がついているリヴェリアだけは動き出す態勢に入っているが、他についてはフィンの指示を待っている。

 アクションを見せない他の者達が悪いのではない。司令塔の指示に従うという基本中の基本を守っているだけであり、パーティーという集団行動においては、最も厳守すべき一つとして挙げられる。

 

 故にフィンが必要とするのは、声に出す為に必要な2-3秒の時間。いくら広い目を持つ知将と言えど伝達には時間が必要で、このような突発的なイレギュラーには分が悪く――――

 

 

「ファイアボルト!」

 

 

 なお、広い目を持ち合わせているのは此方も同じ。ベル・クラネルの十八番と言える超短文詠唱から放たれた魔法が敵を怯ませ、フィン・ディムナが最も望む時間を作り出す。

 彼はアイズと左翼の相手をしているのではなかったか。そう思う面々が視線を変えるもベルはモンスターを相手している真っ最中であり、到底、多方面に気を向けている余裕は見られない。

 

 フィン・ディムナを筆頭とした者達の背筋を、ゾクリとした感覚が駆け抜ける。モンスターの一体すらも倒せない僅かな一撃が作り出す情景が、これ程のモノとは考えもしなかった。

 攻防が与ダメージと被ダメージ、もう少し追加で言えば回復量だけで比較されるならば決して評価される事はなく、むしろ無駄と呼べる一撃。しかし今の一撃でパーティーメンバーが得たモノは、何物にも代えられない逸品と同等だ。

 

 

 ヘスティア・ファミリアのメンバーたちも、まさかの一撃を目にして目を見開く。こちらは遠距離攻撃に徹しており傍から見ていたこともあってベルの動きを追うことが出来ていたのだが、アイズと二人で乱戦を行いながらソレが見えていたのかと誰しもが驚愕の表情を浮かべている。

 

 

「すげぇ……」

「流石、俺たちの団長だ!」

 

 

 思わず呟いたのは、ルーキーの誰か。ロキ・ファミリアの幹部達ばかりを見ていると勘違いしてしまうが、真正面から相手をする事だけが戦いではない。今のような小技は、4-5人が集えば弓などで代用することも出来るだろう。

 例えマトモなダメージを与えることが出来なくても、出来ることは何かある。集団での戦いにおいて最も大切な事を学んだ者達は、各々が再び、遠距離での攻撃に徹することとなった。

 

 

 対処としては先程ガレスが駆け抜けていったので、直ちに問題が生じる可能性も低いだろう。次は何を学ぶことが出来るかと緊張の中に期待と興奮を抱きつつ、ルーキー達は、先輩の背中を見て学ぶのであった。

 

 

 

 

 その横では。

 

 

 

 

「女神フレイヤ様が鼻部に被弾!」

「いや、自爆だ」

 

 

 足を引っ張りかねない女神と冷静に返答と介護するオッタルは、早速ながら戦力外通告。“見て学ぶ”とは、輝くベル・クラネルを目にして興奮している女神(ソレ)から目を逸らしつつの行動内容である。

 




メディーック!
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