その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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ほのぼの


185話 主役は遅れて

 

 主役とは言わずもがな、物語で描かれる中心的人物である。そこに脇役だのヒロインだのモブなど、様々な人物や生命が関わるのだ。

 

 “主役とは遅れてやってくる。”このようなフレーズがあるのは、味方がピンチの時に主人公が登場すると言うシチュエーションが、最も人気のあるセオリーの一つであるからだ。

 英雄録においては、王道と言える展開の一つだろう。そして敵にとっては、最大のピンチであることに間違いない。

 

 

 ならばもし敵のポジションを、今のダンジョン59階層に居るモンスターに当てはめたならば、どうだろうか。

 

 

 彼等はきっと総力を挙げて、勇敢にも挑みかかる事だろう。地上からやってきた異物を排除すべく、討つべく、味方と共に挑みかかるに違いない。

 

 ではもし、そんな彼等が一戦を終えて、59階層における“とある地点”へと帰ってきたとしたら。彼等は口を揃えて、とある者に対して次のように叫ぶだろう。

 

 

 

 

 “こっち来んな”と。

 

 

 

====

 

 やや弱くはなったものの、依然として極寒のブリザードが吹き荒れる59階層。地点としては中盤ぐらいであり、正規ルートと呼ばれる攻略ルートに沿っての行動だ。

 なおここ59階層へと来たことがあるのは、歴代でもゼウスとヘラのファミリアのみ。ギルドすらも情報を持っていない階層を何故正規ルートで進めることが出来るかとなれば、かつて駆け抜けた者が居るからだ。

 

 案内役は、情報をインプットされたリリルカ・ライダー。一行を主の元へ向けて引率中であり、これも立派なサポーターとしての仕事の一つである。

 時折出てくる逸れモンスターについては彼女が跨っているジャガ丸が一撃で始末しており、大きな戦闘は発生していない。苦笑する後続を率いつつ、ジャガ丸は、とある地点で停止して振り返った。

 

 

 先頭を行くジャガ丸が、前足を使って指差した氷塊の先。水際に並ぶ岩場からすぐ先は、目視こそできないものの巨大な池のようであり、水深は水際から急激に深くなっている。

 足を踏み外せば急激に体温を奪われることとなり、水中に住まうモンスター達が、すぐさまピラニアの如く押し寄せる。動きを制限された者が迎える未来など、語るまでもないだろう。

 

 

「えーっと……いらっしゃいました、が……」

「こ、これは……」

 

 

 そんな極限と言えるような極寒の海中に、半身浴。とでも言わんかのごとく、鎧姿でこそあるものの胸部から上だけを海上に曝け出し、海岸にもたれかかるようにしているルアー役。

 まるで誰も居ない温泉で身を水中に投げ出し、温泉の淵に両腕を投げ出すかの様。極寒のブリザードという情景が存在しなければ、湯を堪能するようにも見えただろう。

 

 心頭滅却すれば火もまた涼し、ではなく、冷水もまた熱し。ダンジョンに風流を求める事は、絶対に間違っている。

 

 

「……同じファミリアの者として聞くが、何故、そのような?」

 

 

 前回にベルやリリルカと来た時は海上モンスターの素材だった為、今日は水中。それが、レヴィスが不審者から聞き出した事実だった。オブラートに包むならば特殊行動、早い話が奇行である。

 先程まで大真面目に戦っていた一行だからこそ、抱く気持ちの温度差は凄まじい。目指す背中とは少しばかり、いや大きく違うベル・クラネルなど数名は、色々と思う所があるだろう。

 

 

 追いかける人を間違えただろうか?いや。こんなの(ぶっ壊れ)が三人も四人も居たならば、心的疲労(ストレス)によってウラノスは天界へ還っている。

 

 

 まさに、“百聞は一見に如かず”を体現した構図。何をしているかはベルから聞いていたものの、目撃者全員の脳裏を埋めつくした「何やってんの?」という疑問符は、まったく減る余地を見せていない。

 流石の家族3名も、今回ばかりは呆れ、苦笑い、いつもの無表情と様々だ。そして最後、無表情のアイズだけは純粋に、心配の気持ちを抱いている。

 

 

「寒、そう。ベル。タカヒロさんは……鎧だけで、平気なの?」

「ここは寒いとか、そういった次元じゃないんですけどね……。うーん、多分ですけど大丈夫でしょう」

「いやちょっと待ってください!寒いで済むのですか!?この極寒の世界で、それも水中ですよ!?水中!!」

 

 

 発言者が白兎だからだろうか。ツッコミに徹するレフィーヤながらも後ろに続く者は誰一人としておらず、皆さん何も思わないんですかと言わんばかりに辺りを見回すも、返ってくる反応は総スルー。

 氷結していないから地上よりは暖かい、と言う理屈は通じない。気化熱を筆頭とした様々な要因は、常に熱を移動させる要素なのだ。通常は。

 

 お前が餌になるんだよ、的な事を実行した理由としては、只一つ。色々と方法を試した結果、水中のモンスターを引き寄せる最も効率の良い方法だったから。

 例え極寒の環境と海水をもってしても、ハクスラ民の本能が持ち得る熱を()ますことなど出来はしない。唯一の例外が居るとすればリヴェリアだが、奇行の類は今に始まったことではなく、誰かに迷惑がかかっているワケでもなければ本ツアーはタカヒロなしでは行えない為に、特に口を挟むことはしていない。

 

 

 だからこそ咎めることもなく、ごくごく当然のような対応。横に並んで屈む彼女は、積み上げられたドロップアイテムや魔石を整理する作業に移っている。

 まるで、相方が散らかした部屋を整理・整頓するかのようだ。初めて目にするドロップアイテムにベルやリリルカも興味を示しており、一緒になって手伝っている。

 

 

「どうだタカヒロ、あまり思わしくないようにも見えるが」

「ああ。地上と比べても、効率は非常に悪い。そろそろ終えるつもりだ」

 

 

 最後となるらしい一匹が噛付くと、鈍い音と共に、報復ダメージによってサメの類は空中へと“釣り上げ”られた。水中から突撃してきた慣性が生きていたのか、死体はそのまま水上へと打ちあがっている。のちにガネーシャ・ファミリアによって演劇化されるゾンビ・シャークの原点、などということは無い。

 ともあれ、これにて釣り場は店じまい。冬場に暖かな風呂から出るように、少しばかり名残惜しそうに陸へと上がる装備キチ。フードの下の表情はいたって普通であり、体が冷えた際に現れる唇が青ざめた様相も見られない。

 

 大漁旗を掲げるには程遠かったこともあり、整理整頓はすぐに終了。インベントリに放り込んでいる為に傍から見れば消えるドロップアイテムの事など、誰もツッコミを入れる愛と元気と勇気を持ち合わせてはいないようだ。

 

 

「……り、リヴェリア様。失礼を承知ですが、ど、どうして、それ程までに冷静で……?」

「……もう、慣れてしまったのかもしれん」

 

 

 弟子レフィーヤの質問に淡々とした様相で答えるハイエルフ。その一言で全ては伝わってしまっており、「何か問題か?」と言いたげな実行犯の視線が、フードの下から届いていた。

 それでもって、この程度で慌てふためいていては、59階層と呼ばれる場所を満喫するには程遠い。今現在は12時を少し回った辺りとなっており、午後には60階層へ行くというのだから、ツッコミで疲れてしまうことも御法度だろう。エルフたちにとっては下手にツッコミを入れることが出来ない点もまた、静寂さに拍車をかけている。

 

 

 

 で。そうなると、昼食を取る場所が必要となるワケだが――――

 

 

 

「やっぱり便利ですね、リフトって!」

「うん、反則技」

「ホントだよ」

 

 

 一行は60階層へ降りた所で、リフトを使って50階層へと逆戻り。ちなみにリフトは展開したままであり、逆にいつでも60階層へと突入することが出来る状態だ。

 なお思わずフィンが同意の言葉を漏らした一行の感想としては、全員がアイズと同じ内容。その気になれば接続先を50階層ではなくオラリオ西部とすることも可能な為、モンスターがリフトへと入った際のことを考えなければ、毎日ホームへと戻りながらダンジョンを攻略することも可能なのだ。

 

 

 そのような裏技チックな方法を知ったフィン・ディムナとリリルカ・ライダー。例え彼という本体が出てこないと仮定しても、闇派閥よりこっちが敵に回った時の方が遥かに危ないのではないかと真相に辿り着いてしまい、考える事を放棄した。

 

 

 もっとも、その考えは正解だ。そこで呑気に座っている奴は、かつてケアンの地において数十個の国を滅ぼした勢力に対し、リフトによる瞬間移動を駆使して立ち向かったどころか単騎で全てを叩き潰した張本人。

 勿論タカヒロ本人だけではなく、味方勢力も彼のリフトを利用して各拠点への移動時間をカットしながらの進軍を行っている。空中から超高速で降下して敵陣に乗り込むヘイロー降下など可愛いものであり、敵からすれば、乗っ取られ一人の侵入を許したならば、傷一つない敵の軍隊全てがそこに出現するに等しいのだ。

 

 もしもフィンやリリルカが思考回路を放棄していなければ、このような考えも浮かんだだろう。そうなれば、闇派閥は瞬殺となっていた筈だ。

 

 

 このような考えを浮かばせない場の空気としては、「そんな事より弁当だ」。アイズお手製の、少しだけ味が濃い目に作られた肉とバランスが丁度良いオカズ群が、最も注目を浴びている一つと言って良いだろう。

 アイズが作ってくれた嬉しさもさることながら、比喩表現抜きに美味しそうな見た目に少年は魅了されている。女神フレイヤの魅了ですら当たり前に無効化する程の存在でも、どうやら胃袋は弱いようだ。

 

 例によって山吹色のエルフは血涙を流しつつ呪いコロコロさんとばかりにベル・クラネルを威嚇しているが、手を出した瞬間にアイズと絶交になるのは分かっているようで睨みつけるに留まっている。そんな彼女に対してアイズは小皿へと少量を盛り付けて渡しており、瞬間のうちにねじ伏せた。3レベル差の一撃である。

 なお弁当の類については耐寒ローブを流用して梱包しており、冷凍保存とはなっていない。戦闘時においてもサポーターがしっかりと仕事をしていたため、崩れについても許容範囲。

 

 

 そして皆が気になるもう一つ。前回も無事にフィン・ディムナの胃袋に納まった、ティオネ・ヒリュテの手料理だ。

 構成としてはアイズと似ており、肉中心。前回もあって片や疑念半分、片や不安半分のフィンは、己の二つ名である“勇者”に恥じぬかの如く料理を口に含み咀嚼、飲み込んだ。

 

 

「うん、普通においしい」

「「「えええええっ!?」」」

「ちょっと待ちなさいどういう事!?」

 

 

 フィンの呟きに驚く周囲、に対してツッコミを入れるティオネだが、それは過去の行いに聞けば答えが出るだろう。レフィーヤによる矯正が功を奏しており、無事、メシマズからは脱却することが出来たようだ。

 なお影の問題児フレイヤについては、オッタルが根回しを済ませている。故に被害者が生まれることは無く、アイズの手料理によって生まれる堕落したベル・クラネルのレアな姿を御満悦に観察する所業に夢中である。

 

 

 そんな観察対象。確かにアイズが作ったオカズ群に目と胃袋を奪われているベルだが、一方で反対側の状況が気になるのも事実である。

 周囲が最も気を向けている弁当の一つ。同胞リュー・リオンではないが、“やりすぎ”と言える三段重箱。こちらについて気になっているのはアイズも同様であり、一方で、軽く引いてしまっていた。

 

 

「……すまない、作りすぎた」

「……そうか」

 

 

 そんな重厚弁当が差し出されたタカヒロは、肯定などもっての他。かと言って本音に従うならば否定も出来ず、無難に相槌を打つに留めている。

 一辺が20cmはあろうかという重い(想い)階層の中身は、色とりどり。それこそコース料理を詰め込んだかの如く、汁物こそ無いが、様々なレパートリーが敷き詰められていた。

 

 自分に対してこれ程の弁当を作ってくれる事は物凄く嬉しく思うタカヒロ。しかし下手に料理が出来る手前、どれだけ時間をかけたんだという感想が、いの一番に浮上している。

 そして一品を口に含んでみると、尾ひれ抜きに彼好み。捻くれている為に決して声には出さないが、その表情が僅かに変わったことをリヴェリアが見逃す筈もなく、感情は以心伝心にて伝わっている。

 

 

 なお、物量はお察し。頑張るタカヒロだが大食いとは程遠く、流石に全てを胃袋に収める事は不可能だろう。可能な限り全ての食材に箸を付けつつ、リヴェリアの許可も貰い、アイズやベルに少量をシェアしていた。

 このような行いが出来るのは、4人が家族同然の付き合いをしており周囲もそれを知っている為。普通ならばアイズはともかく、リヴェリア作成の料理をシェアしたと言うだけで、エルフ一同から怒号の類が飛び交うだろう。

 

 

「っ!?」

 

 

 料理を口にしたアイズ・ヴァレンシュタインに衝撃走る。彼女もスキルが向上しているからこそ、今の一品にどれだけの手間がかかっているか、なんとなくではあるものの、分かるようになってきたのだ。

 なお二人とも料理を始めて間もないが、これ程までに成長が早いのは愛情のなせる業に他ならない。駆け出しとはいえ侮るべからず、一念は鬼神にも通じるのだ。

 

 

「フフ……どうした、アイズ」

「……負けないっ」

 

 

 もとより自らが包丁を握ることがなかっただけで、要領については良い部類となるリヴェリア。冗談を抜きにして本気を出して料理の練習に励んでいるようであり、大人げなくニヤリとした表情で迎え撃っている。火花を散らす視線は、誰の為の戦いなのかは分からない。

 一方でお返し、というわけではないがベルがアイズの弁当を少量シェアしていたりと、男側の状況は平穏だ。もしも片方が「こっちの方が美味しい」と口にすればバトルとなるが、双方共に、そんなつもりは全くない。

 

 

 食後の休憩も終わり、一行は再び戦闘態勢へとスイッチする。タカヒロ曰く“本番”らしい午後の部に戦慄を覚える各々は、内容を告げられることなく順次リフトへと入っていくのであった。

 

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