その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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199話 とある女性

 

 翌日、朝の時間帯も終わるかどうかとなったオラリオの街。今までにも何度か色々とイベントが起こった、個室を備える珍しいカフェ。

 

 本日のカフェは賑わいを見せており、そこかしこで戦いとは無縁な和やかな・賑やかな空気が作られている。その中には多数の冒険者も含まれており、今日はこうして羽を伸ばしているというわけだ。

 男女の比率で言えば圧倒的に女性が多いのだが、その点は仕方のないことだろう。羽を伸ばしているオラリオの男の大半は、朝から開いている酒場に入り浸っているというわけだ。

 

 そんなカフェには、店員の記憶に新しい四名が来店中。個室料金に軽食にドリンクにと少なくないお金を落としてくれており、中々の上客と言える分類だ。

 白髪の二人と、店員も知るロキ・ファミリアの二名。その四名がどのような関係か探りを入れることはなく、店員にとってはレベル1だろうか7だろうが等しく“お客様”というわけだ。

 

 

 店員に案内された四名の客が個室に居座ること、早30分。朝食代わりに軽食を食べ終え、食後のドリンクで一息つきながら、少し前のイベント、18階層での出来事をベル・クラネルが話していた。

 ロキ・ファミリアのストーキング担当者である山吹色の彼女に関する話題が出たところで立ち上がるリヴェリアを、タカヒロが抑え。そして、一時的ながらもリューがヘスティア・ファミリアへと入団する事になった一連の流れが伝えられている。

 

 

「なるほど。そのリューというエルフは、随分と早まったことを口にしたものだな」

 

 

 クククと、静かに笑って考えを口にするハイエルフ。そんな反応を見せるに対し、横から物言いたげな目を向けるタカヒロは「お前も大概なのだが」という言葉をぶつけたい心境に包まれているのは仕方のないことだろう。

 

 なんせ男が「好きです」と想いを伝えたならば、いきなり「不束者ですが」と返してくるlol(ハイ)エルフなのだ。そんな事実を知る青年の目を見て色々察したベル・クラネルは、例によって地雷を回避するために乾いた笑いを見せている。

 

 

 結局のところ、リューの言い分を纏めると「ヘスティア・ファミリアで修行したい」とのことだった。元々の主神であるアストレアは顕在ながらも、現在はオラリオの外に居る。

 

 何よりも。こうして自分を立ち直らせてくれたヘスティア・ファミリアで己を磨いて、自信をもってアストレアを迎えに行きたいというのが彼女の考えらしい。

 意地汚い見方をすればヘスティア・ファミリアを踏み台にするような言い回しとなっているが、そこについては胃痛持ちながらも善神ヘスティア。「君がアストレアの所に戻っても仲良くしてくれよ!」との言葉で、随分と穏便に収まっている。

 

 現在のリューはベルと同じレベル4終盤ということで、共にダンジョンへ潜って鍛えることもできるだろう。そういった点においてもタカヒロの視点においてはメリットしかなく、「主神と団長がOKならご自由に」程度の心境だ。

 一方のアイズとしては、やはり警戒の雰囲気を見せている。もっともそれはリューが過去に色々とやったためではなく、単に女としての立場なのだが、それも仕方のないことだろう。

 

 

 誰にも語られていないのだが、実のところベル・クラネルの“異性好み”ストライクど真ん中とは“金髪・長髪・エルフ”という三種の神器によって構成されている。前二つは該当するアイズなのだが、最後の一つは種族的な問題の為にどうすることもできないのが実情だ。

 しかしなんと、薄緑色の髪を持つリュー・リオンの地毛は金髪なのだ。そんな彼女が髪を伸ばしてしまえばどのような容姿になるかは明らかであり、その事実を直感的に受け取ったが故のアイズの反応なのである。

 

 もっとも、今のベルがそんなリューを目にしても「奇麗な人だな」程度にしか思わないのもまた事実だ。確かに一目惚れから始まった少年ながらも、今となってはアイズ・ヴァレンシュタインという一人の少女に恋する存在なのである。

 ついでにその者の師が持ち得るストライクゾーンを挙げるならば、“エルフ・強気・美脚”という三種の神器。決して容姿だけで決めているワケではないものの、リヴェリアがこの条件にピッタリ当てはまっているのは事実と言えるだろう。

 

 

「それにしても、私達と出会った時にはレベル1だったベル・クラネルが、もうレベル5を目前か」

 

 

 リヴェリアの言葉で、三人の目線がベルを捉える。その視線は、三人それぞれ違っていた。

 

 師匠である一名は、「そっかー」程度であまり意識しておらず。

 相方である一名は、「すごい」と成長速度を羨み、お目目キラキラ。

 残りである一名は、「いくら何でも早すぎるだろう」と言いたげにマトモな反応を見せつつ、先の二人の目線を感じて呆れている。

 

 

「で、でもリヴェリアさんも、フィンさん達も、レベル7になれたんですよね!」

 

 

 50階層での鍛錬が終わったときに行われた、一斉同時のランクアップ。おめでとうございますと称賛するベルに返答するリヴェリアは、あの鍛錬のおかげだと正直な理由を口にしていた。

 

 が、しかし。そうなると、ベルの中で疑問が芽生えるのは仕方のないことだろう。

 

 なんせ、例の50階層における鍛錬にリヴェリアがマトモに参加していないのはベルもよく知っている。だからこそ、何故ランクアップできたのかと、至極マトモな質問を行っていた。

 

 

「え?じゃぁ、言い方は失礼ですけど、リヴェリアさんはどうやってレベル7に……?」

「それが、私もロキも分からんのだ……」

 

 

 なお事実は、例の“コンニャク製ハンマー”だ。リヴェリアがそれを知れば、蒸気機関車の如く頭から煙を出して暴走を始めることだろう。

 

 

「でも。ベルの成長は、ものすごく、早い」

 

 

 コクコクと小さく可愛らしく数回頷いて、アイズは自分が口に出した言葉が正しいと主張する。確かに、言葉の中に間違いはどこにもない。

 

 常識の外の領域でもって我が道を行くタカヒロをもってして、“異常”と評価させる程の成長速度の速さ。長年オラリオにおいて記録されてきた中においても群を抜いて最速の記録であり、レベル4までの最速ランクアップ記録を全てベルが所持している程である。

 しかし青年としては、腑に落ちないところがある。確かにスキルの影響によりステイタスの伸びが良い――――を通り越して異常になっている点はさておき、伸び幅が通常とは異なる点は数字的にも明らかだ。

 

 

 スキル名、憧憬一途(リアリス・フレーゼ)がステイタスの成長速度に影響していると仮定する。とはいえステイタスの驚異的な伸びについてヘスティアも「間違いなくコレが原因」と断言しており、この点が覆る事はないだろう。

 

 もし仮に、当該スキルがリング・オブ スチールを一発で取得する程の“才能”までにも影響していると仮定する。スキルの説明は“早熟する”とだけあるために、ステイタスだけではなく才能そのものが伸びることも当てはまるかもしれない。

 しかしタカヒロとしては、二つ目の仮定については否定の意見を抱いている。ベルが持つ明確な意思、“アイズの為の英雄”という思いの丈の変化と共にステイタスの上昇値が若干上がったことは知っているが、鍛錬において見られる“技術吸収・応用の才能”の幅については変化がないと感じ取っていた。

 

 つまり、ベルが持ち得る類まれな才能。“優れた才禍を持っている”根底の理由は、別の何かにあるはずだ。

 そのためにタカヒロは、オラリオに来る前に、強い人から鍛錬を受けなかったかという問いを投げている。もちろん剣も魔法の腕もからっきしだったベルは否定の声を出したが、直後、気になる一文が付け加えられた。

 

 

「あ、でも……。今だから分かるんですが、本当に幼いころ、物凄く強い人と一カ月ほど過ごしたことがあります」

 

 

 懐かしむように口に出された言葉に疑問を抱いたのはタカヒロであり、かつてベルは両親のことを覚えていないと口にしていた為だ。祖父こそいたが、戦いに関してはサッパリだったとも聞いている。

 となれば、例えば同じ村の住人だろうか。タカヒロがそんなことを考えていると、ベルが言葉の続きを口にした。

 

 

「僕が7歳ぐらいの時に会ったのが、唯一残っている記憶なんですけどね。あ、そう言えば男の人もいました」

 

 

 どうやらベルの記憶によると、ガタイのいい男性とスラリとした女性のペアだったらしい。とはいえ夫婦だったかどうかとなれば当時のベルでは全く分からず、その辺りは素直に「分からない」旨を口にしている。

 

 

「ベル君、名前も覚えていないのか?」

「そうですね……フルネームまでは覚えていないのですが、女性の方は記憶があります。僕がよく“アルフィア伯母さん”と呼んでしまって、怒られていました」

 

 

 発言を耳にして、ピクリとリヴェリアの手が微かに震えた。机の下、腿の上に置かれていたということもあり、気付かれていないだろうと安堵する。

 

 しかし、横に居た一名は例外だ。普段において彼女の僅かな溜息さえ汲み取るタカヒロは、更なる情報を得るべく言葉をかける。

 

 

「女性か、どのような人だ?容姿、性格、口調、強いならば戦い方とか、だな」

「少しウェーブのかかった銀色の……アイズぐらいの髪の長さでしたね。もっと長かったかもしれません。ロキ様みたいに、目は細かったと思います。攻撃魔法だったと思いますけど、“ゴスペル”という詠唱は、今もよく覚えています」

 

 

 その一言で、リヴェリアの予想は確信へと変わった。“偶然”同じ名前の可能性もあったが、容姿はもとより“詠唱”まで同じとなれば、同一人物と確定していいだろう。

 幼かったことと直接的で本格的な戦闘がないために、忘れているアイズとは違い。彼女と真っ向から戦ったことのあるリヴェリアは、当時の状況をよく覚えている。

 

 九魔姫(ナインヘル)と呼ばれる己の、攻撃魔法の全てが無効化され。

 耐久力に長けるガレスが、たったの一撃でノックアウトされた事実。

 

 更にはその一撃とは四文字で発動するという超短文詠唱の魔法であり、無詠唱に匹敵する発動の速さを兼ね備えた代物。それでいて、当時のガレスを一撃で沈めるという桁外れた攻撃力。

 “音”による攻撃であるために、攻撃そのものが見えないことも要因の一つ。直撃せずとも余波だけで平衡感覚を狂わせるほどの威力を持つという、まさに規格外と称されるべき攻撃なのだ。

 

 

 魔法名を、“サタナス・ヴェーリオン”。詠唱文章は超短文となる“福音《ゴスペル》”、ただそれだけ。

 音を放って攻撃する魔法、ただそれだけ。とは言っても音の波紋とは質量を持つモノであり、それを超が付くほどの高速で放ったならば、人の骨など簡単に砕けてしまう強さを持つ。戦闘機がマッハ1.0の音速を超えた際に発生する“ソニックブーム”が、それらを示す最も有名な一つだろう。

 

 

 そんな仕掛けの攻撃を放つ者。ベルが口にしたアルフィアという女性の所属は、かつてオラリオにおいて二強と言われた片方“ヘラ・ファミリア”。

 名実ともに第一級冒険者である、Lv.7の実力者。“静寂”の二つ名を持ち、その才能に愛され過ぎている成り立ちから、周りからは“才禍の怪物”と称されていた。

 

 当たり前のように使える魔法は三種類あり、長文を用いるが超威力の攻撃魔法“ジェノス・アンジェラス”、こちらも音を用いる攻撃だ。そして残る一つがリヴェリアの魔法をも無力化してしまうシレンティウム・エデンであり、これは彼女の身体を包むように展開される。

 魔法を使う中~後衛職なのだが、第一級の前衛に匹敵する近接戦闘もこなせてしまう程。レベル7ながらも、状況や条件次第では自身より格上のレベル9(団長)を倒すことも可能だったと言われているとなれば、その強さが分かるだろう。

 

 

 が、しかし。タカヒロは、最初の方の言葉が気になって仕方がないようだ。

 

 

「ん?その者は、ベル君の伯母なのだろう?」

「はい、そうですね。僕の母の姉と聞いた記憶があります」

「伯母で合っているではないか」

「そう、なんですけど……そう呼ばれるのが、嫌だったようで。あと、それっきり、会ったことがありません」

 

 

 なるほど。と納得するタカヒロ。「お義母さん」ならばともかく、年を取ったことを認識させられる「伯母」となれば、嫌う者もいるだろうと察していた。

 音を扱い、静寂を愛する一人の女性。アルフィアとは、ようは神経質な気質を持ち合わせている性格の持ち主である。

 

 

 ともあれ、ベルからすれば関係のない事だ。彼にとっては家族も当然であり、記憶にある大きな存在に変わりない。

 

 

「もしかしたらもう一度だけ会ったことがあって、僕が忘れてしまっているだけかもしれませんけどね。あ、思い出した!その時に“英雄になるにはどうしたらいいですか?”って聞いたら、モンスターの巣に放り込むだの岩を括りつけて水に沈めて“死の一歩手前を経験させる”って言われたんですよ。僕が最初のころにやった師匠の修行と、同じですね!」

「いや待てベル君、全くもって違うだろう。そんな向こうを見ず、更に無鉄砲を放つ類のモノと混同するな」

 

 

 早口と苦笑の中に混じる寂しさは、タカヒロへと届いていた。両親の記憶がない以上、ベルの中で唯一残る血の繋がった者なのだから、そのような感情を抱いても仕方のないことだろう。

 タカヒロも何度か実感していたが、いくら強いとはいえまだまだ幼い年齢だ。親でなくとも血の繋がった近い者を追ってしまっても、なんら不思議ではない感情である。

 

 

「どこで何をしてるんでしょうねー。見た目に反して強気な人でしたから、どこで誰が相手でも、後れを取ることはないでしょう」

 

 

 沈んでしまった空気を嫌うように、ベルは陽気な口調でアルフィアのことを口にする。それでも隠せていない寂しさを感じ取り、アイズは机の下にあるベルの手に優しく己の手を置いていた。

 暖かく柔らかい手を感じて、ベルは静かにアイズへと顔を向ける。顔こそ向けていないが口元を柔らかくするアイズを目にして、思わずベルの口元に笑みがこぼれた。

 

 が、しかし。

 

 

「あっ。案外、オラリオに来ているかもしれませんね。リヴェリアさん、何か知っていたりしませんか?」

「……」

 

 

 知らない方が、良いこともある。そう考えていたリヴェリアは、あえて自分から口にすることを避けていた。

 しかしこの場において、「知らない」と即答することができなかった。故に何かしらの情報を持っていることは筒抜けであり、退路を失ってしまった彼女は、消え入りそうな声で静かに口を開くこととなる。

 

 

「――――ベル・クラネル。私は、そのアルフィアという人物を知っている」

「えっ、本当ですか!?」

 

 

 ベルにとって、まさかの情報だった。名前と性格ぐらいしか知らなかったものの、極僅かな期間だけだったものの、己を世話してくれた血のつながった人物に関する情報。年を取ると共に忘れるだろうと思っていただけに、まさかのサプライズと言えるだろう。

 レベルや所属ファミリアという基本的な情報なれど、ベルが知らないアルフィアのことが口に出される。まさかのレベル7という事実にベルは驚きを見せており、身を乗り出すようにして聞き入っている。

 

 が、しかし。口に出された情報は、ベルが最も耳にしたくない内容の一つであった。

 

 

「彼女は、7年前の大抗争において……オラリオを滅ぼす闇派閥に味方した、私達の敵だった」

 




■本作におけるアルフィアまとめ
◆原作(ダンメモ)と同じ
・7年前に敵として対峙した
・レベルや能力、性格や容姿など
◆本作オリジナル
・ベル君はゴスペられた記憶がある ⇒92話 4人の夜
・名前は憶えていないがザルトにも会ったことがある


早い話、原作者のIFストーリーを経たものの二人の心変わりが起こらなかったバージョンですね。
原作で起こっていたとしても、ベルとリヴェリアが接近する事がないので、やっぱり知られることは無かったのかもしれません。
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