その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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201話 語られる真実

 

 かつてアルフィアと戦い、その最後を知っているであろうリュー・リオンへと話を聞くために。アイズと共に豊饒の女主人へと訪れたベルだが、リューは仕事の真っ最中だ。

 昼過ぎということもあって客は少なく、少し話す程度ならば問題は無いだろう。しかし恐らくは周囲に聞かれたくない上に、積もる話にもなるだろうとベルは考えている。

 

 流石に本日という土壇場で業務を抜けることができるかと聞くのもどうかと思い、ベルは無理を承知で明日に時間をとれないかとリューに問いを投げていた。少し困惑しながらも、彼女は「店主ミアに相談してみる」旨の言葉を返している。

 “七年前のこと”というだけで詳細な内容は不明ながらも真剣な表情であり、自分に手を差し伸べてくれたベルからの相談ということもあって断る手立ては持ち合わせてはいなかった。雇い主であるミアに正直な理由を告げて明日休暇を貰えないかと相談するも、見守るような表情で「行ってきな」と返されている。

 

 

 そして、翌日。流石に丸一日休むのは気が引けた為に朝の業務をこなしたリューは、久々に私服姿となっている。

 部屋着と戦闘衣服(バトルクロス)、そしてウェイター服こそ彼女にとってのポピュラーだが、私服姿となれば話は別。豊饒の女主人で働く者達ですら、本当に滅多に目にすることのない様相と言える程なのだ。

 

 

「もしかしてリュー、あの少年とデートかニャ!?いいニャいいニャ、ミャーも一緒に」

「アンタは休まず仕事だよ!!」

「あいだーっ!?」

「……」

 

 

 そんな姿のリューの予定を知らない者がさっそく茶々を入れるも、すぐさま鉄拳が振り下ろされて一発K.O.の結果となっている。床に突っ伏して頭から煙を出す同僚の一人に「行ってきます」と言葉をかけ、リューは街へと繰り出した。

 

 まだ日が昇り切らぬ、晴れ渡った穏やかな日常。かつての仲間たちとこんな空の下で再び歩みを進めることができるならばと天に願うも、細められた目の先に映るのは変わらぬ景色。

 それでも、彼女が思い出に沈んでしまうことはない。彼女たちが残してくれたものと共に歩むことを決めたからこそ、リュー・リオンは前へと強く進むことが出来るのだ。

 

 例えダンジョン内部にてジャガーノートと鉢合わせることになったとしても、足が震えることはないだろう。勝てる・勝てないかはさておき、果敢に、そして勇敢に動くことが出来るはずだ。

 

 そんなことを脳裏に浮かべながら、リューはオラリオの地を歩いていく。目的の、ベルと約束した喫茶店、そのなかの個室の一つまでは、残り50メートル程の距離を残すだけ。

 流石に先の例は極端すぎる例えながらも、彼女が持ち得る心の構えは他の事例が起こった時も同様だ。いかなる困難が現れようとも、立ち向かうことができるだろう。

 

 

 

 

 そう。何が出てきても、怯むことは――――

 

 

 

 

「り、リリリリリリヴェリア様!?」

「む。なんだ、私が居ては話しづらいか?」

「い、いえ!決して、そのような事は……!」

 

 

 まさかの人物と相席であることを知って足がすくむ、さっそくのフラグ回収である。リュー・リオンにとって予想外にも程があるハイエルフが、余裕のあるサイズの4人用ボックス席の一角についていた。

 なお、偶然にもリヴェリアが下座についているというオマケつき。誰がどこに座るかなど全くもって気にしていない四人一家の所為でそうなっているのだが、今のリューからすれば、難易度は深層をも上回るアルティメットな状況と言えるだろう。

 

 

「し、しかし、わ、わたくし程度が同席などと、恐れ多くございます!」

「よい、気にするな。むしろ、お前が居なければ始まらん」

 

 

 ごもっとも。とリヴェリアの言葉に賛同したいタカヒロながらも、エルフ同士の水準が分からない為に言葉は胸の内に仕舞っている。

 ともあれ、リューが席につかなければ始まらない点は間違いない。リヴェリアの隣とはいかないためにベルとアイズ側の席に着くことになり、アイズの隣に腰を下ろした。

 

 なお、表情はカッチカチ。蒼穹の目線も下に向いてしまっているために、まずはリラックスさせる必要があるだろう。

 ということで、何かしらの動きが必要だ。タカヒロは飲み物を注文するかと、言葉と共にメニューを取り出している。

 

 

「ドリンク、デザート、軽食でも構わない。好きなものを頼むと良い、代金は持つ」

「あ、は、はい」

「リヴェリアが」

「!!?」

「むっ。まぁ、構わないが」

 

 

 見開く瞳と驚愕の表情。まさかの後出しリヴェリア支払い発言なだけではなく、リヴェリアをすっ飛ばして真っ先にリューの前へとメニューが置かれた為に彼女の混乱に拍車がかかる。リヴェリアのほぼ真正面にリューが座っているために、リヴェリアからすればメニューが真逆となっているのだから、その反応も猶更だろう。

 誰もリューに対して攻撃しているつもりはないが、彼女からすれば烈火の如きラッシュである。慌ててリヴェリアへと顔を向けるリューながらも、相手は「何か問題か?」と言いたげな様相だ。今この場においてはリューが客人となっているために、リヴェリアの中でも“当然”と処理されている内容なのである。

 

 そのために時間をかけるわけにはいかず、リューは速攻で紅茶と菓子を決めることとなった。その実5秒も要しておらず、「それが大好きなんですね!」と、ベルが方向違いのコメントを残している。

 ともあれ彼女が選び終わったために、メニューは90度横へと向けられた。リヴェリアとアイズの後方から、ベルとタカヒロが少し身を乗り出して内容を吟味している。

 

 最初に決めたのはリヴェリアだったのだが、タカヒロは思う所があるようだ。どうやら、過去に何度も注文しているケーキの一つらしい。

 

 

「またそれか、飽きないのか?」

「ああ。ところでお前は、ケーキの類(このような物)は苦手だったな」

「ああ。太りたくないのでね」

「ぐっ……ええい、偶には良いではないか!」

 

 

 四人の様子を観察するリューだが、目線はリヴェリアとタカヒロの問答(じゃれ合い)へと固定されてしまっている。リヴェリアの意見に口を挟むというエルフ基準では絶対にありえない会話も当たり前の如く混ざっているために、目線が向いてしまうのは猶更だ。

 リヴェリアが誰かしらと付き合っているという噂は聞いていたが、こうして実際に目にした際の違和感が凄まじい。二人きりの時よりは圧倒的に起伏が少ないとはいえ、青年を前にして豊かな表情を見せるリヴェリアは、リューが知る姿とは程遠い。

 

 

「師匠、ケーキが苦手なのですか?」

「ケーキというよりは、生クリームの類があまり好きではなくてね。それはさておき、ベル君はどうする?」

「えーっと、僕も、あまり甘いのは苦手なので」

「私は、これ!」

「ちょっ、アイズそれジャガ丸くん……」

 

 

 純粋に今回は何にするか悩むベル・クラネルと、その横でブレないアイズ・ヴァレンシュタイン。悩んでメニューをめくろうとしているベルの横から身体を乗り出して遮るようにして指をさしており、“新作”と書かれたジャガ丸くんに興味津々の様相だ。

 なお、その内容は“抹茶小豆クリーム味”。それを揚げ物と組み合わせるという想像するにも難しいコンビネーションの逸品を前にしてアイズ以外の四人の表情が曇っており、しかし期待にウキウキな少女を前に口には出せない。

 

 そんなこんなで注文した品々が運ばれてきており、部屋の空気が明らかに変わることとなる。ベルはアイズを挟んで横に居るリューの顔を見据えており、タカヒロとリヴェリアもまた、そちらへと顔を向けている。

 向けられる視線を前にして凛々しい空色の瞳に力がこもり、四人を一通り見据えていく。リューは紅茶で喉を潤して、静かに口を開いた。

 

 

「……それでは、最後の戦いを、お話しします」

 

 

 7年前に発生した、オラリオ全土を巻き込んだ大抗争。子供から老人まで多くの者が泣き、傷つき、命を落とした暗黒期。

 天に向かうようにして赤く燃え、叫び声が木霊するオラリオの市街地一帯。バチバチと音を立て家屋を包む炎は、生活と言う名の当たり前の日常を灰へと変える。

 

 

 “悪”によってオラリオの平穏が脅かされ、早数日。各地に点在して活動を続けてきた闇派閥も数を減らしてきたが、未だ二つの最も強力な戦力が闇派閥に関わっている事にも変わりはない。

 ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアに所属していた、二人のレベル7。ザルド、そしてアルフィアという存在が、冒険者の前に立ちはだかった。

 

 そして闇派閥は最後の手札を切ることとなり、ダンジョンの20階層付近で黒い竜のようなモンスターを召喚。タカヒロが討伐(挨拶)した個体と比べれば大したことは無いが、それでも階層主バロールを上回る程の存在だ。

 ダンジョンから地上へと這い出そうとしている黒い竜を、アルフィアが守っている。遠くからはザルドとオッタルが打ち鳴らす白刃の雨が音として降り注いでおり、こちらの最終決戦の幕が開けるのに時間は要さなかった。

 

 

 “正義”と対峙するレベル7の弱点は、双方共に似ている。アルフィアは先天的な、ザルドは後天的な重い病を抱えていたこと。

 

 

 故にリュー達が選んだのは、持久戦。その選択が功を奏し、アルフィアが放つ攻撃は明らかに弱くなり、付け入る隙が目に見えて増えている。

 最終決戦も、第二ラウンド。反撃に転じようとしたアストレア・ファミリアの面々が覚悟を決めた時の事を、リュー・リオンはよく覚えている。

 

 

「その時……“静寂”は、確かに、こう口にしました」

 

 

――――英雄となり、“ヘラ・ファミリア”の私を打倒して見せろ。未来を求めるのならば英雄の器を示し、希望を示し、この()を倒して見せろ。

 

 

「あの“静寂”が、そのような言葉を……!?」

「……」

 

 

 驚きに目を見開くリヴェリアと、その横で逆に表情に力を入れるタカヒロ。正義を受け継ぎ、5年前にダンジョンで散ったアストレア・ファミリアしか耳にしなかった、アルフィアの言葉に他ならない。

 本当に心の底からオラリオを壊滅させようとするならば、まず口に出されるような言葉ではない事は明らかだ。大抗争の前にベルのもとへと赴いたことと合わせて、タカヒロの中で疑惑は更に膨らんでゆく。

 

 強要されていたか、はたまた“自発的”か。ベルとの思い出と合わせたならば、可能性としては後者だろう。

 病魔に犯されていた身体、迎えを知っていた死の運命。ならば身を挺して悪となり、未来を切り開く冒険者たちに何かを示すために敵対となることを選択したのかもしれない。

 

――――英雄となれ。

 

 タカヒロにとっては、あまりにもボヤけた言葉。オラリオにおける冒険者おいては、あまりにも眩しい目的の言葉。

 数多が目指す、容すらも見えない一等星。戦う理由を持ち続けなければ、足元に届く事も不可能だろう。

 

 

「……なんとも、不器用な性格だ」

 

 

 思わず、誰にも聞こえない程の罵倒の言葉がタカヒロの口から零れてしまう。敵対ではなく教導の道を取ることはできなかったのかと、会ったこともない者に対して問いを投げたい衝動に駆られてしまう。

 

 その者が、“才禍の怪物”と呼ばれる程の人物だからこそ。優しいベル・クラネルの親族だからこそ、猶更のこと。

 真実とは大事になる程、いつか明るみに出るものだ。もし“アルフィアが悪だった”というオラリオの出来事をベルが知った時のことを考えなかったのかと、問い質したい衝動に襲われる。

 

 

 ともあれ、“頭ごなしに相手の考えを否定するのは宜しくない思考だ”。我に返ってそう思い目を閉じることで反省したタカヒロは、リューの言葉の続きに耳を傾ける。

 

 

 訪れる、最後の決戦。眼前に対峙するレベル7、それも生半可な強さではない“才禍の怪物”に対して、平均レベル3となるアストレア・ファミリアは連携して挑みかかる。

 短期決戦では相性が悪い為に、相手の体力をすり減らす長期戦を選択。文字通りの防戦一方で全員は既に満身創痍、しかし目論見は確実に効果として現れている。

 

 故に、全員の瞳に“希望”が繋がる。大技にて迎え撃つために詠唱へと入るアルフィアだが、全員による連携が詠唱への集中を許さない。

 

 

 かつての戦争遊戯(ウォーゲーム)にて、ベル・クラネルが口にしたように。カタログ上での身体能力に勝るアルフィアだったが、アストレア・ファミリアの連携を前に敗れることとなった。

 

 

 そして、結末。アルフィアは、闇派閥がダンジョン内部で召喚した黒い竜、それが這い出してきた穴へと倒れるようにして身を投げた。

 燃え盛る縦穴の中を落ちていく彼女の身体は業火に焼かれ、その身を灰に変えながら。それがリュー・リオンが目にした、最強の冒険者の一人、アルフィアの最後だった。

 

 

 最後を知って悲しみに暮れるベルの対面で、タカヒロはリューへと険しい表情を向け続けている。今の言い回しが過剰表現かどうかを見抜くものであり、結果として装飾の様子は伺えない。この一文によって、口にこそ出されないがタカヒロの疑惑は更に濃いものとなっている。

 

 様々なレベル7という“器”を相手にしてきた青年もまた器の限界は知っており、それ程の身体を一瞬のうちに灰に変える炎など“あり得ない”。それこそタカヒロが知る原初の太陽神“コルヴァーク”辺りならば可能だろうが、当時生じていた火災が持ち得る威力など、到底ながら遠く及ぶことは無いだろう。

 

 

 ともあれ、最後に残った黒い竜を倒す戦いこそあったものの、“静寂”との戦いはこれで仕舞い。沢山のモノをなくしたオラリオに、また一時の平和が訪れたのであった。

 

 

「以上が……私が知っている、内容です」

 

 

 気付けばかなりの時間が流れており、頼んだドリンクは全員のものが空となっていた。場を一度リフレッシュすることも兼ねて、タカヒロは再びオーダーを取っている。

 しかしドリンクの数々が運ばれてくるも、場の雰囲気は重いまま。とはいえ、先程まで話されていた内容が内容だけに仕方のない事だ。

 

 チマチマと少し詳細な部分に関する問いがタカヒロやリヴェリアの口から出されるも、長くは続かない。場は再び、静寂へと戻ってしまう。

 

 

 打ち破ったのは、ベル・クラネルであった。

 

 

「師匠……」

「なんだ」

 

 

 いつものタカヒロとは違う、少し柔らかく優しさが混じる返答。突拍子もないことを聞こうとしていたベルの感情を読み取っており、臆することなく口に出せばいいと、間接的に促している。

 

 大抗争を前にして、ベル・クラネルへと会いに行き優しく接していた事実。そしてアストレア・ファミリアへと残した、意味ありげな言葉。

 この二つの事実から、この場に居る五人の中においてアルフィアが悪党ではないとの考えは強まっていた。どちらか片方だけだったならば、その疑惑の色が濃くなることもなかっただろう。

 

 そして、それとはまた別の話。レベル7という器を知るベル・クラネルは、己が今から口に出す問いが笑われるものだと覚悟しながらも、答えが欲しくてタカヒロに対して口を開いた。

 

 

「アルフィア伯母さんは、生きている。そう信じることって、浅はかな考えでしょうか」

 

 

 優しい少年が抱いた、一つの淡く薄い希望。最後は消え入りそうな声で口に出したベルに対し、タカヒロは静かに口を開く。

 

 

「希望とは、常識的に在り得ない事に対しても通用する。ベル君が口にしたような、最良の結果を目標とした方がいいだろう。先の結末ならば、死体も確認できていないのではないか?」

「はい。勝利こそはしましたが、私達も満身創痍ですぐに撤退した為、死体は確認できておりません」

 

 

 望みは薄く、それこそ紙一枚の厚さにも届かない程だろう。開いた穴、燃え盛るダンジョンの穴に身を投げたというならば、生きている方が不思議なものだ。なお、そこの青年は除くこととする。

 しかし確かに、抱く希望は繋がった。死体が確認されていない以上、生きている事もあり得るのは当然のことだろう。

 

 もっともベルとて、あくまでもタカヒロが口にしたように“最良の結果”を考えているに過ぎない事だ。しかし期待を込めて口にすると、タカヒロから更に擁護の言葉が口に出される。

 

 

「“死んだと思った奴が生きていた”。戦乱の時においては、あまり不思議な話でもない」

 

 

 過去に彼が経験した内容の一つ。具体的な内容までは口に出されないが、具体的に誰かとなれば“区切りとなった決戦に巻き込まれたケアン地方の料理人”だ。決戦の際に援軍として加勢し“虚無の神”に取り込まれたのだが、結局のところは虚無の世界で逃げ延びていた経歴を持つ料理人のことである。

 繰り返すが、料理人だ。神の血を引いているが、まぎれもない料理人だ。

 

 なぜ料理人が最前線に居たかはさておき、ベルの希望が繋がったのも事実である。それもあって、“幸運持ち”であるベルの心に、一つの願いが生まれていた。

 

 

――――もし。もしも生きているなら。また、会いたいな。

 

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