その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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206話 困った時の神頼み

 

 消える様相を見せない松明によって、言葉もまた照らされ続ける。床と同じように心と言葉に影が落ちている状況は、暴かなければならない真相へと近づいている為でもあるだろう。

 ヘスティアとロキによる考えの交わし合いは、未だ終わる気配を見せていない。とはいえ互いの意見を表すことは大切であり、普段こそ取っ組み合っている二人だが、そのようなことが出来るのは心の奥底では信頼しているが為の事だ。

 

 

「せやかてヘスティア。ディオニュソスが天界で暴れとったっちゅー話やけど、今もオラリオで似たようなコトやっとると思うんか?」

「ちょ、ちょっと待ってよロキ!流石にオラリオでそんな事をしていたら、ウラノス達が気付いているんじゃないかい?」

 

 

 ヘスティアの言い分も真っ当な内容だ。1000年前からオラリオにあったと言われている闇派閥だが、構成するメンバーについては膨大とは言えない程度。故に構成員一人一人の作業量も比例するはずであり、それこそ暇な奴となれば資金提供者ぐらいの者だろう。

 だからこそ、ディオニュソスが闇派閥だというのに、“ディオニュソス・ファミリアのメンバーについての活動が少なすぎる”という矛盾に気が付いた。タカヒロを経由してウラノスが白と分かるまではヘルメス・ファミリア、ディオニュソス・ファミリアの両方に斥候を張り付けていたロキだが、ディオニュソス・ファミリアによる“悪”の活動報告は挙がっていない。

 

 

 ディオニュソス・ファミリアの全員を総合して“エニュオ”と名乗るのは無理があるだろう。いくら神とその眷属とは言え、全員の考え・作戦内容を一つにして、他の派閥へ命令することなど不可能だ。

 主神のディオニュソスと団長フィルヴィスだけが“エニュオ”と想像すれば、まだいくらか可能性は高くなる。卓上論の域こそ出ないが、「フィルヴィスというエルフは闇派閥」というタカヒロの言葉を神々が信用しているからこそ、ロキたちが抱く考えは真実へと近づいていた。

 

 

 となれば、仮定に対する証明を行うための話題にスイッチするのは自然な流れと言えるだろう。もちろんエニュオと比較されるのはディオニュソスであり、話題もそれ一つに絞られている。

 二名の神は、先程タカヒロが口にした言葉を思い返して1つの考えを導き出す。もしもエニュオが完璧に裏方に徹していたならば、ウラノスやロキが率いる諜報部隊のセンサーに引っかかることも無いだろうと。

 

 

「……タカヒロはん、以前に言うとったな。エニュオっちゅーのは、裏方に徹するはずやと」

「想像に過ぎない話だ。追い詰められた際の反応となれば、また違ったものになる可能性も十分に考えられる」

「ロキ、裏方ってのは重要なのかい?」

「せや。全部がそうやないけど、あえて裏方に徹する奴っちゅーんは(ふた)通りあってな。理由はどうあれ単に頭脳戦したい奴と、争いを見て“愉しむ”奴や」

「っ……!」

天界(どこか)で似たよーな奴、見たことあるやろ、ヘスティア」

 

 

 ヘスティアの表情が、“恐怖”に引きつる。自身に熱を入れて動けるようにするかのごとく、たった今に抱いた考えを口にした。

 

 

「……まさかロキ、ディオニュソスが神の力(アルカナム)でオラリオを」

「んーそりゃ有り得んな。お前さんも分かっとるやろ、そないな事した瞬間に不発で終わるわ一発で天界行きや、ロクなことあらへん」

「そ、そうか……。でも、もし何らかの方法で神が争いに介在できるとしたら……」

「イレギュラー、ちゅーやつやな。そないな方法があったとして、オラリオがどうなるか、考えとうもないわ」

「その時は――――」

 

 

 ポツリと溢すように口にして、タカヒロは続きを口に出すことなく閉ざしてしまった。何かあるのかとロキとヘスティアが視線を向けているが、再び開く気配は見られない。

 

 

 実は“神が本気を出したら何かドロップするのでは”というドロップアイテム目的で、「戦いとなった時は自分も呼んでくれ(混ぜてくれ)」と言いかけていたのは闇の彼方に葬るべきだろう。神々プラス自称一般人によるバトルロワイアルとでも言えばいいのだろうか、色々と酷い温度差である。

 

 

「……その時、ああ天界での話になるか。戦いを企てていたとのことだが、ディオニュソスは、どのように立ち回っていた?」

 

 

 黙ったままというのも気が引けたのか、代わりの一文を口にする。ともあれ此方については、聞いておいた方が良い項目だろう。

 

 

「うーん、そうだね。一言で言うなら“見境なし”だったよ」

 

 

 ヘスティアの言葉通り、様々な神々を巻き込んだ大きな戦い。周りの神を巻き込んで、煽り立てて、戦いへと発展させた。

 中には、直接ディオニュソスへと加担する者も居ただろう。それでいてディオニュソス自身はあまり表舞台へと出ることは無く、言ってしまえば裏方役だったとのことだ。

 

 

「使えそうなら何でも使っていたよ。なんたって、このボクの所にも戦いの話を持って来たぐらいだからね」

「見る目もないワケか」

「せやな」

「にゃにい!?」

 

 

 確かに、戦いから最も遠いと表現して過言は無いヘスティアへと声を掛ける時点で色々とお察しだ。再び荒ぶるツインテールはさておき、“エニュオ”という存在が行っている立ち回りと似ていることを、ロキとタカヒロは感じ取っていた。

 

 イシュタルをはじめ今まで巻き込んだと思われる神々、そして数多の子供達。闇派閥も取り込んでいたとなれば、以前にフレイヤがプチっとやってしまったイケロスも含め、天界で親しかった者だけを味方につけているという素振りもない。

 文字通りの“見境なし”、それこそ天界の頃と同じ様相。状況証拠が着々と揃いはじめ、ロキも考えを纏め始める。

 

 

「こら、真面目に疑ってかかった方がええかもしれんな……。どやろか、ウラノ――――き、気絶しとる!?」

「む?」

「ウラノス!?って、フェルズ君まで!?」

 

 

 呑気に首を横に向けるタカヒロとロキだが、例の発言があってからは一言も発していなかった。何が起こったのかと心配するヘスティアと周囲を警戒するタカヒロだが、うち片方がウラノスをフェルズを気絶させた犯人だ。祈祷?直ちに影響は無い。

 爪を使って器用にウラノスの頭部を揺すっているジャガ丸だが、一歩間違えれば破爪となってウラノスの首がポロリしかねない状況。真っ先に気づいたヘスティアがジャガ丸に対して高台から降りるよう指示を出すと、ジャガ丸はタカヒロの横へと戻ってきている。

 

 気を取り直した二名だが、どうにも今までの話が全く入っていなかったらしい。そこでロキは要点だけ()い摘んで、二名に対しても意見を聞いている。

 やはりロキからすれば、今のディオニュソスからは、癇癪を持っており狂気と表現できる気配は感じ取ることが出来ないらしい。何度か対面していることもあって、その点については確信を抱いているようだ。

 

 

 しかし一方で、かつてケアンやコルアンの地を滅ぼさんと、もしくは自分勝手に好きにやっていた神々の行いを見てきた装備キチ。それら全てにおいては、己の行いに対して疑問を抱いている神など一名たりとも居なかった。

 

 

「己が正義であると信じて、己に泥酔したとしよう。ならば上辺だけを取り繕った際に生まれる僅かな歪も、生まれ出ることはあるだろうか?」

「……そ、それ程までに己に酔っとるんか、ディオニュソスは」

 

 

 そう口にするロキだが、“この下界において”真っ当な思考を持つならば、“世界(オラリオ)を滅ぼす”などという考えが浮かぶことは無いだろう。この辺りについては、元々のロキの性格や、彼女がディオニュソスと同じ分類の神だったからこそ気付くことが出来ない点だ。

 

 となれば、どのようにして証拠を得るか。復活した二名と合わせて、この点が論議されている。

 

 タカヒロがレヴィスから得た情報によれば、エニュオは数年前から計画を練っていたらしい。今現在においてそれが実行されているとなれば、今までは予定通りに進んでいたのだろう。

 恐らく資金源だったと思われるイシュタルの退場だけでも、相当の影響を与えているはずだとロキは口にする。

 

 

 癇癪持ちというのは、物事が思い通りに進まない場合に影響されるのがセオリーだ。偶然にも約一名の行いを起因として、イシュタルの退場をはじめ、計画は大きく破綻していることだろう。

 故に此度は真正面からぶつけ、相手に自白させる方向はどうだろうかとタカヒロは口にした。もちろん相手が躱すことも想定しなければならないが、臨機応変はトリックスターであるロキの得意分野であるために問題は無い。

 

 

「しかし、証拠はどのように押さえる」

 

 

 ウラノスが口にした内容も最もだ。神は神の嘘を見抜くことが出来ない為に、ロキが嘘つき呼ばわりされた際、ロキに証言を強要されたなどと口にされた際には対抗手段がなくなってしまう。

 

 しかしロキは、フレイヤがベル・クラネルを見ていた水晶玉を思い出す。何故ベル・クラネルに手を出さないのかと尋ねた際にまさかの録画機能があることを知っており、証拠としては十二分に使える代物だろう。

 とはいえ、相手はあのフレイヤだ。少し前まで争っていた仲でもある為に、素直に貸してくれるだろうかとロキは不安を覚えている。

 

 

「そこまで不安なのかい、ロキ」

「せやなー。あのフレイヤが、なんの見返りもなしに貸してくれるワケ――――」

 

 

====

 

 

 時刻は夜、場所は変わってバベルの塔の最上階。そこには、普段は居ない神2名と眷属2名がフレイヤ及びオッタルと向き合っていた。

 眷属ではない者2名の毛髪は、共に白い。兄弟と呼ぶには見た目が離れすぎており、どちらかと言えば親子と表現すればシックリと収まることだろう。

 

 

 そして夜分に押し掛けた詫びもソコソコに、ロキが録画機能付き水晶玉を貸してくれとフレイヤに要望を出す。しかし面妖な趣の薄笑みから返ってきた答えは、ロキもまた予想していた内容だ。

 

 

「あら、貴女に貸し出す理由がないわ?以前の祝賀会、覚えてる?」

「ぐぎぎ……そう来ると思うとったわ」

 

 

 フレイヤが見せる反応は想定内のようで、やはり戦争遊戯(ウォーゲーム)優勝の祝賀会について根に持っていた。このままでは、ロキ達は大人しく引き下がることとなるだろう。

 

 

 そこでタカヒロは、場がこじれる前に“特効薬”の肩を軽く触れる。するとベル・クラネルが、満面の笑みで言葉を発した。

 

 

「フレイヤ様、先程ロキ様が仰った道具を貸してください!」

「いいわよ!!オッタル、用意して頂戴」

「直ちに」

「ありがとうございます!」

「うふふ、お安い用だわ」

「……」

 

 

 外れた下顎が恥骨付近にまで落ちかかっているロキと、一転してニッコニコで笑顔を振りまいている女神フレイヤ。後ろに控える中間管理職もベルは見知った仲である上に、そんなフレイヤの表情を拝むことが出来て内心ではニッコリである。

 

 対フレイヤ特攻兵器、ベル・クラネル。少年たってのお願いとなれば、フレイヤに断ることなど出来はしない。こうかは ばつぐんだ 。

 

 オッタルが用意を終えたところで、フレイヤはベルに対して手取り足取り使い方を伝授中。髪をたくし上げる動作がやけに色っぽく、実のところ彼女なりにアピール中。

 普通の男ならばこれだけで数十回はメンタルが死んでいるものの、それでも当たり前のように魅了を無効化しておりホイホイと付いていくことがないのがベル・クラネルだ。だからこそフレイヤも振り向かせようと“お熱”であり、こうして対面したならばテンションが上がることとなっている。

 

 

 ともあれ、ウラノス陣営が必要としていたアイテムをレンタルすることには成功した。再び御礼を述べるベル・クラネルは、そのまま世事の類も口にする。

 

 

「おやすみなさい、フレイヤ様。今夜も良い夢を見ましょう!」

「そ、そう?えへへ。じゃ、じゃぁお姉さんが、良い夢を見させてあげ」

「見させないぞ!?」

 

 

 比喩表現を抜きにして数少ない常識神、ヘスティア。色々と問題になって色々とヤベーことになる未来を直感で察知し、礼の言葉を述べるとベルの手を引いて出口へと駆けてゆく。

 眉がハの字になって目じりに雫を浮かべ、幸せなひと時が終わってしまったことを悲しむ美の女神。口を挟むとヤベー事になる点を理解しているオッタルは不動の無言を決め込んでおり、内心では「早く終われ」と催促している。

 

 

 一方のヘスティアとベルの姿を首だけ向けて眺めるタカヒロは、何か思う所があるようだ。表情一つ変えず、思ったことを口にする。

 

 

「……あまり、教育には宜しくない様だ」

「そないな問題やないわ……」

 

 

 妄想に浸っているのか、悲しみから一転して両手を頬に当ててクネクネしているフレイヤと、論点がズレている装備キチ。ともあれ、役者と装備はここに揃うこととなった。

 

 

「さてと、あとは場のセッティングやな。タカヒロはん、“そっち”も頼むで」

「任せれよう、自分の仕事だ」

 

 

 既に二人の中である程度は話がついているらしく、据わった表情のタカヒロは僅かながらも戦闘時の気配を見せている。勿論、関係者を除いては一切において知らされていない作戦だ。

 相変わらず特に気にも留めない様相で去っていくタカヒロの背中を見届けて溜息を吐くロキだが、ともかく準備は完了だ。リヴェリアが“共に居てくれる”のだから大丈夫だろうと、息を深く吸い込んで空を見上げる。

 

 

「あ。せや、ヘフたん等にも注意するよう言うとかんとな。あとは、ドチビの子等と……」

 

 

 ロキ曰く可能性の一つとなるが、前回、7年前に起こった大抗争の際には鍛冶を担うファミリアも率先して狙われたとのことだ。さっそく影に居たロキ・ファミリアの斥候を呼び出して、伝令として向かわせている。

 とはいえ“戦争”ならば、相手の鉾と盾を奪うのは当然と言えるだろう。こちらも相手の逃走経路を順々に潰していることもあり、狙いと目的は異なれど、やっていることは同様だ。

 

 

 区切りの時は、今日から三日後。ロキが密かにディオニュソスを呼び出している最中に起こり得る事態に備え、準備は万全と呼べる内容にて進められた。


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