その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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248話 星の加護

 

 

「な、ななななななな何を見ているのですか貴方は――――!!!!」

 

 

――――やはり、そうくるか。

 

 彼女の性格ならばと“返し”を予測していたタカヒロながらもドンピシャであり、呆れて溜息しか生まれない。だからこそ目を逸らして必要以上は見ないようにしていたのだが、そんな正論という理屈は通じる気配の欠片もない。

 上と下を手で隠して背を向ける彼女だが、それはそれで色気ある姿勢だとは全く気づいていないのだろう。良くも悪くも男を知らない、天然な彼女が成せる技の1つである。

 

 とはいっても、青年としても目のやり場に困るわけだ。インベントリを漁ると、ベルと一緒にオラリオで購入したワイシャツが出てきたために、素っ裸よりはマシだろうと応急処置がてら渡すこととなる。

 しかし、鬼に金棒。自然な流れで裸ワイシャツをやらせてしまったことを意識したタカヒロは、己の額に手を当てて溜息を零しながら帰路へと就く。

 

 コスプレとなってしまっていることに気づいたアルテミスは、羞恥心から耳まで真っ赤に染めて目を見開きワナワナと震えながら歩行中。体格や背丈の差もあってブカブカなこともあり、その手の趣味嗜好を持つ者に突き刺さる光景だ。

 ちゃんとついて来ているかと先を歩くタカヒロが振り返ろうとすると、声高に拒否する声を発している。実のところ青年はその声で確認を取っているのだが、彼女からすれば恥ずかしい事この上ない。

 

 

「裸よりは、マシだろう」

「言わないで!!」

 

 

 後ろからギャーギャー喚く女神を連れながら、タカヒロはエルソスの遺跡をあとにする。いつかオラリオでも似たようなことがあったなと思い返し、誰にも見られない口元が僅かに緩んだ。

 道中に蔓延っていたモンスターも消えており、気絶した地点で二人を待っていたヘスティアは、やってくる姿を見て笑みを浮かべて駆け出した。

 

 待ち望んだ、“二人”の帰還。事情を知った時はアルテミスとの別れを覚悟した彼女ながらも、こうして己の下へと戻ってきたという事は、いつも胃痛をくれる眷属が“やってくれた”のだと確信した。

 しかし、そんな喜びや嬉しさの様相も数秒だけ。まさかの格好をしたアルテミスを視界に捉えると笑顔が消え去り、驚愕の表情を浮かべている。

 

 

「あ、アルテミスが裸Yシャツでタカヒロ君を誘惑しているだと!?」

「誘惑などしていません!!怒りますよヘスティア!!」

「それは怒りと言わないのか」

「違いますっ!!」

 

 

 どちらかといえば羞恥なので、怒りではないだろう。もっともアルテミスからすればそんなことは関係なく、「貴方が着せたのでしょう!!」とプンプン顔で猛抗議。言い終わると、プイッと顔を背けている。

 

 

「何をやっているんだいタカヒロ君、君にはリヴェリア君という相手がいるじゃないか!?」

 

 

 その一言が出たタイミング。ズキリと、アルテミスは己の胸に痛覚が浮かんだ気がした。

 羞恥や反発の心も影を潜め、代わって現れるのはよく分からない感情。己の心を支えるように右手を胸の前で握りしめ、ヘスティアと言い合う青年の背中を目で追ってしまう。

 

 

「何を言い出すかと思えば失敬な、浮つく心など欠片も無い。ヘスティアこそ彼女の服を用意しろ、不埒(ふらち)な男共が寄ってくるぞ」

「げっ、ヘルメスもいるしそれはマズイぜ……二人とも、ちょっと待っててくれ!」

 

 

 実は昨夜において男冒険者共が水浴びのシーンを覗こうと企んでいたために、ヘスティアとしてはアルテミスが被害者になってしまわないかと気が気ではない。

 なんせ、相手にはあの神ヘルメスが居るのだ。一体どこでどんなトラップを仕掛けているかヘスティアでは予想することができず、相手が動く前に対策を講じるしか防衛手段がありはしない。

 

 色んな意味で必死になって走り出すヘスティアの背中を見送るタカヒロは、盾を仕舞い腕を組んで近くの木に寄りかかった。二体のガーディアンは変わらず周囲警戒を続けており、急襲に対する備えも万全である。

 

 そんな彼の姿に向けられる、女神の瞳。翡翠の輝きは僅かな雫を纏ったかのようで、夜だというのに先ほど以上に月明かりに対する輝きを見せている。

 凛とした様相は影を潜め、先の事実を受け入れている。そして、万が一を願って確かめずには居られない。

 

 

「……そうか。君には既に、隣に並ぶ者が居るのだな」

「……ああ。自分程度の男に良くしてくれている、掛け替えのない存在だ」

 

 

 神だからこそわかる、先ほどまでのやりとりに嘘偽りが全く含まれていないという事実。相手の言葉の真偽を知る術などなければなと、アルテミスにとって、今日ほど神が持ち得る優位性を恨んだことはないだろう。

 

 男に気づかれぬよう、僅かに瞳を向けてみる。答え合わせは、口に出さずとも終了した。

 世界の滅亡を、そして女神の裸体を前にしても崩れなかった重鎮の様相が、その者の名前が出るだけで僅かながらも緩むのだ。僅かに柔らかい語尾もまたそれを強調しており、彼女は痛い程に分かってしまう。

 

 やがて簡易的な衣服をもって全力疾走してきたヘスティアが到着し、アルテミスの着替えが終わると3人は拠点へと足を向ける。ソコソコの頻度で青年に対して視線を向けるアルテミスに気づいたヘスティアは、非常に複雑な心境だ。

 気まずい空気が漂うも、やがて旅路は終わることとなる。天の矢が消えたというのに己にかかる恩恵が残ったままだったため、何かしら察するところがあったのだろう。拠点に到着した一行に対し、アルテミスの眷属たちが一斉に飛び出した。

 

 

「アルテミス様!!」

「よくぞ、よくぞご無事で……!!」

「みんな……」

 

 

 それはもう、文字通りのモミクチャと言える様相。涙を流して喜ぶ眷属たちに囲まれ、アルテミスもまた目じりに雫を浮かべて危険に巻き込んでしまったことを謝罪している。

 もう二度と生まれることは無いだろうと全員が覚悟した、望む者が傍に居るという当たり前の幸せ。一度手から零れ落ちかけたからこそ、感じる大切さは一入(ひとしお)だ。

 

 そんな光景を作った青年は、少し離れたところにある大きな岩の上部に腰かけて休憩中。少し肌寒く感じる夜風は鎧の隙間を流れ、少し火照っていた身体を冷やしている。

 もちろんだが、アルテミスの身体について、ではない。先払いの格好で貰っていた槍の鑑賞を今か今かと待ちわびており、邪魔されない適切なタイミングを探っているからこその興奮だ。

 

 

 暫くは周囲の騒がしさが消えないだろうと観念すると、ベルがやってきて、人ひとり挟んだ横に腰かけた。最初に声を掛けたのはタカヒロであり、背後にある林の微かな騒めきと拠点の騒ぎが適度な音量で混じり合い、二人の会話を外に漏らさない適度なノイズとなっている。

 

 

「拠点は大丈夫だったか、ベル君」

「はい、少しモンスターと戦った程度です。師匠もお疲れ様です。はは……相手の神様、倒しちゃったんですね」

「ああ。少し実験的なところもあったが、神アルテミスも無事で何よりだ」

 

 

 流石に驚いた様相を見せるベル・クラネルだが、そこの“ぶっ壊れ”が引き起こす怪現象など今に始まったことではない。黒竜の時もそうだったが、常識の一切合切は全くもって通じないのだ。

 此度の戦闘で発生した地揺れや炸裂音も拠点に届いていたが、その間僅か2分足らず。感触を確かめるようにして手のひらに目を向けるタカヒロは、ベルからすればそれだけで絵になるというものだ。

 

 

「僕が言うのも間違ってると思いますけれど、よく立ち向かおうと思いましたね……」

 

 

 そりゃもちろん槍の為……という本心は口に出せないために、どうしたものかと少し口をつぐんでしまう。そのために、“青年からすれば大したことではない過去”を、少しだけ口に出すことにした。

 

 

「慣れている、といった言い回しが最適かな。地上を滅ぼそうとする神々は、何度も倒したことがある」

「え、神様を……?」

 

 

 残念ながらベルの知る神とは、ヘスティアやロキと言ったように、あくまで基準は“一般人”程度のもの。よもや、権能振りまく全力の神々を相手に真正面から倒してきたなどとは思っていない。

 

 

「どんな神様で、何名と戦ったんですか?」

「そうだな……」

 

 

 そんな質問に対し、タカヒロは“ログボリアン”や“コルヴァーク”などのいくつかの名前を出している。各々が何かしらの原初の神であるのだが、オラリオには居らず地上にも降りてきていないため、ベルからすれば「ふーん」程度の内容であった。

 それよりも驚愕となったのは、口に出された“数”である。曰く、「神々とは無限の存在だから、まったくもって問題はない」との前置きを口にしたうえで、強い奴で数えると軽く4桁。相手の強さを限定しなければ6桁を超えているらしい討伐回数を耳にして、流石の少年も「何やってんのこの人」という引いた様相を隠しきれていない。

 

 

 しかし。だからこそ、此度の危機は回避することができたのだ。

 

 

 己が立ち向かったところで、恐らくは数秒程度の足止めができれば万々歳。僅かに対峙した程度ながらも感じ取ることができた相手の力は、それ程までに強大だった。

 雲の上を歩く身近な存在が残した、僅かにも見えない足跡を追いかける。直接的な戦闘こそ見ていないものの力の差を改めて感じ、己もそれ程の力を身に付けたいと焦がれる心が奮い立たされるのは仕方のない事だろう。

 

 

 そして、もう一方。己の主神を助けてくれた人物が雲の上を歩く存在であることを、アルテミスの眷属達は言われずとも感じ取っている。

 がしかし、数名は「これがオラリオの冒険者……!」と勘違いしてしまっているのはご愛敬。オラリオに対する熱い風評被害が発生している点については、いつかアルテミスから訂正が行われる事だろう。

 

 

「タカヒロさん!」

 

 

 血相を変えたアスフィが駆け寄ってきたのは、そのタイミングであった。大きな声は一言で騒ぎを鎮め、全員の目線が彼女へと向いている。

 

 報告された内容を纏めると、オラリオにて闇派閥と冒険者との間で大規模な戦闘が目前となっている。“数日もすれば”、地上と地下の両方で戦闘が開始されていることだろうとの内容だ。

 目前となった、歴史の上では最終決戦。神々が直接的に戦わずとも、衝突を回避する事は出来そうにもない。

 

 なお、アルヴの森付近より出陣した三名の魔導士パーティーについてはオラリオに到着しており、リヴェリア以外は、フェルズの絶句と共に密入国を果たしている。オラリオ市街地で合流し、ひとまずは“挨拶”がてら黄昏の館へと赴いた為に、現在進行形でロキの胃に大ダメージを与えているのは語るまでもないだろう。

 そんな悲惨な状況については、入れ違いとなっている為にヘスティアの耳に届かない。一方で、決戦の局面に、ヘスティア・ファミリアのジョーカー二名が呼ばれるのは必然であった。

 

 

 なお、ディオニュソスとかいう神の思惑を阻止する事と同等な程に、倒した際の“ドロップアイテム”に意識が向けられているのは当然だ。今しがたアンタレスを倒した際には無かったものであるために、期待値が上昇しているというワケとなっている。

 理由はどうあれ、ヘスティア・ファミリアは、ただちにオラリオへと戻らなければならないだろう。神が描いたシナリオすらも捻じ曲げる男は、ここにきてようやくながらも、戦闘への参加を決定した。

 

 ヘルメスの手配によって、移動ルートも完璧だ。ガネーシャの手配によって中継地点に乗り換えの翼竜を手配しており、休憩なしとなるが3日でオラリオへと戻ることが可能とのことらしい。なお、使うかどうかとなれば話は別である。

 ともあれ帰路に就く者は、タカヒロとヘスティア、そしてベル。その他は第二便で戻るらしく、ひとまず三名は、それぞれの翼竜に跨ろうと翼竜の横に立ち並んだ。

 

 

「待って!」

 

 

 向けられた背中に、命を救われた女神が叫ぶ。落ち着いた動作で振り返ったタカヒロの前には、女神の名に恥じぬ様相と動きで近づくアルテミスの姿があった。

 何が起こるのかと、周囲の者もまた固唾を飲んで光景を見守っている。青年の前で止まったアルテミスは、フード越しに相手の目を見据え、凛とした言葉を発したのであった。

 

 

「夜空で最も輝く星、“月”の神の名の下に、決戦の地に赴く貴方に星々の加護を授けます」

 

 

 アルテミスが発したのは神の力(アルカナム)ではなく、神威(カムイ)と呼ばれる神の波動。助けてもらった謝礼もさることながら、再び世界を背負った彼に対する激励と言っても良いだろう。

 後ろで見守るヘスティアも彼女の気持ちは汲んでおり、「まぁアルテミスなら」と否定的な意見は持っていない。まさしく祈りを捧げる女神のような態勢となったアルテミスから発せられた淡い光が、タカヒロの身体を包んでいた。

 

 アルテミス曰く、今タカヒロが持っている実力からすると単なる気持ち程度のモノとのことだ。彼女自身も気持ちを込めただけで、具体的にどうこうできるようなレベルの加護ではない。

 もしそうなると、それこそ彼女の身を捧げて神の力(アルカナム)を使わなければ成し得ない。そんな事をして天界に強制送還されてしまう結末は誰も望んでいない一方、己の気持ちを示さずにはいられなかったための神威(カムイ)というわけだ。

 

 念のために何か変わったのかなと確認するタカヒロだが、ステータス、スキルにおいて変化はなし。ヘスティアから恩恵を貰った時のように属性ポイントやスキルポイントが増えるなど、そんなこともないようだ。

 星々の加護とのことだったので期待していたのだが、そうそう美味しい話はないだろう。もっとも単なる気持ち程度のものだったとしても、決戦に赴く身としては嬉しいものがあるというものだ。

 

 

 

 

 

「……なにっ?」

 

 

 しかし、それは灯台下暗し。本当に予想外の所に“変動”、具体的には未振り分けのポイントがあった際に表示される印がついている。

 「まさか」と思いつつ恐る恐る“取得している星座”を確認すると、そこには確かな変化がある。そしてタカヒロは、未だかつてリヴェリアしか見たことのない、普段が仏頂面過ぎる故に傍から見ると怖い程の笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 かつてタカヒロは、ケアンとコルヴァンの地において封印されていた、星々に祈りを捧げる場所“祈祷の祠”の全てを解放していた。その数は総数で58ヶ所ながらも、使用できる“祈祷ポイント”の上限は55という数値に制限されている。

 こればかりは装備を更新する事が決まった際も解消されることはなく、如何なる方法を用いようとも変わらない。理想の構成を選ぼうとするならば1ポイントだけ足りないという悩ましい状況は、変わることなく生じていた。

 

 

 

 しかし――――

 

 

 

 

 ――――利用可能ポイント:3.

 ――――解除したポイント:58/58.

 

 

 

 

「……月の女神が授けし加護、ありがたく受け取った(サイコーかよ!!!!)

 

 

 

 

「……アルテミス、ちょっといいかい」

「えっ?」

 

 

 

 何故だろうか。月の女神が誇るマブダチの、顔色と胃色が悪いのは。




>>裸Yシャツのアルテミス
せっかくワイシャツ着てる人間っぽい何かが居るので、出来心でつい……

そして加速する“ぶっ壊れ”。ある意味でオラリオの神々も“ぶっ壊れ”。君らちょっとケアンに出張してこない?


■GDにおいて、DLCを導入し全難易度をクリアした時の祈祷ポイント上限は55個です。一方で、開放可能ヶ所は本文中の通り58か所。
 実は星座の変更でとんでもないことが起こっており、この増えた3ポイントのうち2ポイントを使うことで既存星座の一つを“金床”に変更でき、加えて“ヴィール”を構成する星の1つの加護が取得可能になるため、簡単に言いますと「防御力-2%、DPS+20%(スキル発動時)」となっております。GD最強のぶっ壊れと言われた“実装当初の物理報復WL”すらも話にならないぐらいの火力ですね()

 本当はGDにおける祠の判定は各難易度で独立しているので、全てを与えると55⇒157(Ver1.1.9)となるのですが、流石にGDの世界観的にもヤリスギなのと、本作乗っ取られモドキはアルティメット環境から引っ越してきたので、アルティメット環境のみの最高数値である58としました。
 なお、本作はVer1.1.5.4で固定しており58箇所ですが、現在はアルティメット環境の祠を全て開放すると59箇所のようですね(違っていたらすみません)。
 蛇足ですが、150ポイントあったとしても星座の恩恵を全て取得することは出来ないほど、星座の恩恵は多岐に及びます。


 ともあれ。


 おうエニュオ、最低でも原初級の神々の4-5匹は用意せんと負けるぞ?
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